異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

め!

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「シロガネ、クレナイ、ハヤテ」
「なんであろう?」
「なんじゃ?」
「なあに?」

く、小首を傾げてこちらを見てくるハヤテ、可愛い…。いやしかし、今は心を鬼にして…。

「ハヤテはともかく、2人共、やらかした心当たりはないの?」

人気のない所で、3人に向かって、腕を組んで睨み付ける。
クロには降りてもらってます。
側に積んであった箱の上に乗ってグルーミングしてる。

「やらかした?」
「なんぞしたかの?」
「???」
「前の街のコロシアムで、お世話になったあの人に、人化出来ることは出来るだけ隠した方が良いって言われたでしょ!」

いかん。名前忘れた。人の顔と名前覚えるの苦手なんだよね。

「うむ。そうであるな」
「そうじゃのう。じゃから触れてはおらぬぞ」
「???」
「思いっきりバレバレだったでしょうが!!!」
「え?」
「え?」
「?」

分かってなーーーい!

シロガネが穴を作って、そこに皆でホイホイ魔獣を突っ込んでいった。
思ったよりもかなり早く作業は済んだと言われたけれども、

「い、いやあ…。ほ、ホント…。助かったよ…」

どもりながら引け腰になりながら感謝されても、微妙だよ。
皆シロガネとクレナイの正体にほぼ気付いていたようだったしね。
ペガサスの背から飛び降りた女性→直後にドラゴンが現われる=女性がドラゴンの化身?
ハテナマークだったところが、ペガサスの背から飛び降りた女性→直後にドラゴンが現われる+その女性は怪力だった=ドラゴン(確実)になっちゃったろうね。

シロガネに関しては、ヒソヒソと「あの人の声って、あのペガサスの…」とか囁いてる人達がいたからね。
そして怪力の子供。
バレッバレでしょう!!

「シロガネ!」
「は、はい!」
「100年以上生きてるくせに、人間の常識も知らないの!」
「そ、その…、我は人の社会で生きては来なかった故に…」
「クレナイ!」
「は、はい!」
「50年以上人と一緒に暮らしてきて、人の常識も習わなかったの?!」
「そ、その…、人化を覚えたのはごく最近のことじゃったから…」
「いい大人が! 言い訳しない!!」
「「はい!!」」
「それと、ハヤテ」
「あい…」

う、ウルウルしてる…。怖いのね。でも、ちゃんと叱る時は叱らないといけません。

特にペットと同居する時は、ダメな時はダメと、ちゃんと強く言わなければなりません。お互い気持ちよく暮らす為にも。
猫は怒っても、「何言っちゃってるの?」と知らん顔するかもしれないけど、それをしたら怒ると分かれば、滅多にやらなくなる。やる時はあります。人の気を引く時など。
犬はしっかり分からせないと、余程賢い子でなければ、繰り返す。叱り方が甘いと、学習しない。犬は特に叱る時はしっかり叱らないとつけ上がるものだと聞いてます。
犬は飼ったことないから知らない。

「ハヤテ、今回は、私もちゃんと言わなかったから悪いけど。いい? これからは、何かする時は、その前にきちんと私の許可を取ってからにするのよ? それで、ダメと言ったら、絶対にしないこと。約束、守れる?」
「あい。やくそく、まもゆ。だから、うらないで?」

ズギュウウウウウンン!
ウルウルした目で、怯えたようにこちらを見上げてくる。
思わずガバリと抱きしめる。

「売ったりなんかしないよおおおおお! こんな可愛い子ををおをををを!!」

頬ずりずりずり。

「ハヤテ、あるじがいい。あるじじゃないといやぁ」

くおおおおー!抱きついてくるハヤテが可愛いいいいいいいいいいいいい!!!

「絶対に手放したりなんかしないよううう! ハヤテはあたしの子よおおおお!!」
「あるじぃ」

しばしハヤテと抱き合い、泣き合う。
グスグス言っていたハヤテが落ち着いて来たのを見計らい、体を離す。
ていうか、私も鼻水がぐしゅぐしゅだ。

「ハヤテ、ハヤテが人化できるって分かったら、悪い人がハヤテの事攫いに来ちゃうかもしれないからね? だから、皆にはしーしなきゃいけないのよ」
「しー?」
「そう、しー」

人差し指を口の前に立て、しーとすると、ハヤテも真似をする。うん。可愛い。

「誰にも言っちゃいけないの。私とハヤテの秘密」
「ひみちゅ!」

可愛い。
それから、指切りげんまんして、約束した。

「針千本とは…。恐ろしい歌じゃのう…」
「そ、そのような契約をするのであるか…」

違うからね。

「大人2人も、ちゃんと反省してよ」
「もちろんじゃ。これからは気をつけるのじゃ」
「うも。我ももう少し人の社会を勉強するである」

ま、今回は初めてだってこともあるし、これくらいにしましょう。

「で、ご褒美だけど、今回のことでプラマイゼロ、なのでご褒美はお預けです」
「な、なんじゃと?!」
「ま、誠であるか?!」
「高級肉料理は…?」
「なしです」
「ブラッシングも?」
「なしです」

2人ががっくりと肩を落とした。
当然でしょう。

「その主も結構うっかりさんだのにの」
「クロさん?」

横からクロが口を挟んで来ましたよ。

「そうであろう。草むしりの時のことを忘れたか?」
「・・・・・・」

4人くらいで一日かかるという仕事を、調子に乗って1人で半日くらいで終わらせちゃったんだっけ。

「だ、誰でも失敗はあるということで…」

クロさん、格好がつかないじゃないか!

また何かいい仕事をしたら、ご褒美を上げると約束しました。
ていうか、シロガネのブラッシングは普通にしてあげなきゃなぁ。
宿屋に行ったら、リンちゃんにもご褒美聞きましょう。妖精の姿のままだと、リンちゃんとお喋りできないのが残念です。










ギルドに、終了報告をしに行く。
中に入ると、そこそこ人が戻っていた。やっと事態が収拾したと連絡が行き届き始めたのだろう。
先程のフワリとした感じのお姉さんの受付へ。

「終了報告しに来ました~」
「はい」

そう言って顔を上げたお姉さん、こちらを見て、何故か固まる。

「ああ、えと…、先程の、従魔師の…」
「はい。そうです」

お姉さんが後ろにチラリと視線を走らせる。

「えと…、ドラゴン、でしたっけ?」
「ええ、まあ…」

あまりおおっぴらには言いたくないんだけど。
どうやら、やっとドラゴンについての話しがここまで回ってきたらしい。

「虚偽記載じゃなかったんだ…」

とかお姉さんが呟いている。やはり信じられなかったか。
てか、ギルドのカードに虚偽なんて書けないでしょうが。
終了の手続きをしてもらって、そのままギルドを出た。
毎度お馴染み、視線が痛かったけど。

もう良い時間だったので、そのまま宿屋へ直行。
皆人化したまま(リンちゃん以外)夕飯一緒に頂くことに。
クレナイはいつも通り、肉料理を3人前。
シロガネは肉は食べられないからと、野菜盛り合わせ。
ハヤテは初めての人間食、テーブルやスプーンや皿に興味津々。クレナイと同じく肉料理を注文し、しっかり一人前をペロリと平らげた。さすがはグリフォン。
皆の食事を観察しつつ、私もしっかり頂きました。
半分ほど埋まった食堂の視線が、ほぼこのテーブルに集まっていたのは、言うまでもない。
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