異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

ねんね

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気がつくと、ドラゴンの姿は消えていた。
そして、魔獣の進行も収まっていた。
人々は歓声を上げる。
生き残ったことに。救われたことに。
そして人々は語る。
あのドラゴンの勇姿を。あのペガサスの神々しさを。
グリフォンは、ドラゴンとペガサスが派手すぎて、あまり人の目には映らなかったようである。







「あるじー!」

怪我人が運び込まれなくなり、暇になった私はクロとリンちゃんと共に、教会の隅っこで座っていた。
一応終わりだと判断されるまで、ここから動かないように言われていたので。
どんな重傷者がいても、リンちゃんがいればなんとかなると、皆安心しているようである。
私はリンちゃんが疲れていないかちょっと心配だったが、怪我人が来なくなったのでほっとしていた。
そんな中、教会に駆け込んでくる小さな人影。

「ハヤテ!」

クロがそっと膝の上からいなくなる。気を利かせてくれたのかしら。
腕の中に飛び込んでくる小さな男の子。ショタコンではないけど、可愛いと思えるぜ。

「あるじー。いっぱい、たおしたよー」
「そっかー。ありがとうね~、ハヤテ」
「へへへ~」

可愛い。幼児ってこんなに可愛いものなのか。
早く子供が欲しいって言ってた友人の気持ちが分かった気がする。
高校生でまだ早すぎるだろうとは思ってたけど。
彼女は弟が2人いて、とても可愛がっていたようだけど、子供は絶対女の子が良いと言い張っていた。
何故にそんなに子供が欲しいのと聞いたら、子供が好きだからと。
うん。友人よ。今その気持ちが分かったぞ。
ハヤテをナデナデしていると、シロガネとクレナイもやってきた。
親子か。

「主殿、殲滅は終わったのじゃ」

殲滅…。さすがクレナイ。

「主、無事に1人の死者も出すことなく、終わったである」

さすがシロガネ。皆を守ってくれたのだね。

「ご苦労様。頑張ったね」
「それほどでも…あるかのう」
「それほどでも…あるである」

照れる2人。
うん、なんかご褒美あげたくなるね。

「頑張ったご褒美に、何か欲しいものある?」
「「ご褒美?」」
「ごほうび?」

ハヤテが首を傾げる。

「ごほうびってなあに?」
「ご褒美っていうのはね、頑張った人に、欲しいものをあげることよ。ハヤテは何か欲しいものある?」
「あるじとねんね!」
「あらあら」

可愛いこと言うじゃないか~い。

「野宿で一緒に寝てるでしょう?」
「あるじとねんねしたい…」

そんなちょっと悲しそうな顔しないで~~~~。

「一緒のベッドで寝てみたいってこと?」
「ねんね!」

嬉しそうな顔が可愛い~~~。

「ハヤテ、其方はまだ変化が完璧ではない。もそっと完璧に出来るようになったらにせい。でなければ、主殿を其方の体で潰してしまうかもしれぬぞ。主殿を怪我させたくはないじゃろ?」

ハヤテがシュンとなる。

「ハヤテ、ハヤテの変化が完璧になって、クレナイからOKが出たら、一緒に寝よう?」

ハヤテの顔が輝く。

「うん! ねんねする!」

くあ~~~、可愛いなぁ~~~~。

「ねんねは今すぐ出来ないから、今欲しいものとかはある?」
「ん~? ナデナデ?」

ズキュウウウン!!

今、私の心臓が打たれた。

「そんなことなら、いっぱいいっぱいしてあげるようううう」
「きゃー!」

抱きしめて、ナデナデナデナデナデナデ。
あれ、私へのご褒美になってないか?まあいいか。ハヤテも嬉しそうだし。

気付いたらほっぺにちゅーしてました。可愛いって罪だわ…。
ていうか、幼児の肌って、美味しい…。
にゃんこにちゅーするのも美味しいけど、幼児も美味しいのね…。
おでこにもちゅーしてたら、クロさんの手が、私の腕に。
ああ、いい加減にしろということですね。はい。すいません。

ふと気付けば、周りの視線が…。
痛い、痛いです。
元気になった冒険者の人達はもうここから出て行ってるのですけど、動けない人とか、治療する人とか、まだ結構残ってるのです。
ていうか、その視線の半分以上、クレナイとシロガネに注がれてる。
ああ、美男美女だもんね。目を引いて当然か。

「あ、主、我も、ご褒美を頂いて良いのだろうか…」
「ああ、シロガネは何が欲しいの?」
「我は…、ブラッシングをして欲しいのである…」
「ああ…」

あれ、ちょっと大変なんだよね。

「分かった。今度してあげよう」
「誠であるか?!」

シロガネが嬉しそう。ま、偶には頑張ろう。

「クレナイは?」
「妾は…。よ、良いのであろうか? 従魔であるのに、ご褒美などと…」
「遠慮しないの。私が上げたいって言ってるんだから、良いのよ」
「で、では…。その…。妾は…。い、一度、食べてみたい物があるのじゃ!」
「ほう、食べたい物ですか」
「その、無理ならば良いのじゃ…。とても高い物であるらしいし…」
「高いの?」
「その、幻と言われておる、鳥がおっての…。確か、名を『虹彩雉』と言ったか…」

食べたことあるわ。私とクロだけ。

「で、出来たらで良いのじゃ。話しに聞いたことがあるだけで、食べたことあるという人間も少ないらしいし…。ああ、でもご褒美では高すぎるか!」

クレナイが悩んでいる。
確かに、あれは法外に高かったはず。
しかも、滅多に捕まえられないらしいし…。

「クレナイ、ちょっとその料理は滅多に出会えないから、高級料理で手を打って?」
「も、もちろんじゃ! そんな、贅沢は言わぬ!」

クレナイが顔を赤くしながら、何度も首を縦に振る。
ちょっとその表情が色っぽいと思ってしまったのは、私だけではないはずだ。
というか、モジモジしているクレナイを見て、何人かの男の人が鼻を押さえていたんだが…。





そんな話しをしていると、

「あんたの仲間かい?」

先程のちょっときつそうなお姉さんがやって来た。

「さっきはバタバタしてて、自己紹介もまだだったね。あたしはこの街の魔術師ギルドのギルドマスターやってる、ミューズってもんだ」

美の女神の名前がきたよ。
いや、綺麗な人ではあるけど、可憐と言う言葉からはかなり遠い人に見えるよ。
どちらかというと、戦女神って言われた方がしっくりくる。
出された手を握り返す。

「私は冒険者やってる八重子と申します。この子達は…、仲間です…」

従魔とも言えない。

「さっきは助かったよ。まさか、この子1人でみんな治しちまうとはね。あたしらのおまんま食い上げだよ」
「え、なんか、すいません?」
「あはは、いいのさ。死者が最小限で済んだのは、あんたのおかげだからね」

私達が来る前に、息を引き取った人も何人かいたらしい。
残念としか言い様がない。

「いや、その妖精、あたしが欲しいくらいだよ。いらなくなったらあたしの所に持って来ておくれよ。言い値で買い取るよ」
「売りません! うちの子は商品じゃありません! いらなくなることもありません!」
「あはは、だろうね。冗談だよ。さて、ここはもう落ち着いたから、あんたはもうここから離れても良いよ。ギルドに行って報告してきな。それと、暇が出来たら、あたしの所に遊びに寄っておくれ。その妖精、もうちょっと良く観察してみたいからね」
「手を出すのは禁止です」
「それは残念だ」

笑いながら、ミューズさんはまた、患者さん達の方へと向かった。
まだ色々やらなきゃならないこともあるのだろう。
私はもう何もできないから、お言葉に甘えてここから出て行くことにする。
荷物をシロガネに持ってもらい、クロを腕に抱いて、ハヤテと手を繋ぐ。

リン

リンちゃんも頭の上でスタンバイ。
出て行く私達に、

「ありがとうよ!」

患者さん達から声がかかった。
その声に振り向いて、軽く会釈して、私達は教会を出た。
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