異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

文字の大きさ
上 下
60 / 194
黒猫と共に迷い込む

スタンピード

しおりを挟む
それからは順調に進んだ。
いや、一度、お馴染み盗賊さんが現われた。
あと1日程で街に着くと言う所の森のカーブの所で、道を塞ぐように3人の男達がニヤニヤとしながら立っていた。

「あれは…!」

ハリムさんが目を見張った。

「盗賊であるな」

シロガネも歩を緩めた。
前を塞いでいる。ということは、まあ、後ろ、横にも待機してるんだろうな。

「ふむ。妾に任せてくりゃれ」

馬車を止めさせると、クレナイが降りて前に出た。
ハヤテも降りてきて、後ろを警戒している。
馬よりも前にクレナイが出て、男達をギロリと睨みつけた。
途端に、男達が白目になり、泡を吹き、失禁して、痙攣を起こして、バタバタと倒れ込んだ。

「・・・・・・」

皆言葉もない。

「軽く威圧しただけなのじゃがな。骨のない奴らじゃ」

ドラゴンに威圧されたら誰もがブルッちゃうでしょう。
余波を受けたのか、ハリムさんとカリムさんの顔が青くなってるよ。

で、どうすんの、あれ。

街に連れて行けば報償金も貰えるんだろうけど。

「臭そう…」

ボソリと呟いてしまう。
いや、だって、濡れてますよ。股間が。
あんなのと一緒に歩いて行かなきゃならないの?

「しかし、ここに置いて行くわけには…」

この辺りには灰色狼がいるらしく、下手に置いといたら食べられてしまうかもしれないと。
別に良いんじゃないかなと思ってしまった。だってねえ。悪者だしねえ。

え?だめ?人道的にどうだって?

だってさ、この人達、さんざん人の持ち物強奪して、多分女性なんかは、陵辱して人買いに売り払ったりしてるんだよ?
被害に遭った人達の心情を思えば、狼に食わせてしまったほうが良いのではないかと思うけど。
まあ、色々白状させなきゃいけないということで、縛り上げて連れて行こうという話しになりました。

まず、シロガネに水の玉を用意してもらい、それを全体にぶっかけてもらう。簡単に洗うのだ。風邪を引く?どうぞお引きになって下さい。
次にリンちゃんに縛り上げてもらって、いつもよりちょっと長めにしてもらう。
それを馬車の後方に巻き付け、馬車に合わせて走ってもらう。
その後ろからハヤテが、足を止めると容赦なく突っついてくるという仕組み。

後ろや横で待機していた勢力は、クレナイの力の余波でも受けたのか、出てこなかった。
仲間を捨てたね。
泣き言を言う盗賊達を思い切り無視して、あまりにうるさい時にはクレナイにちょっと睨んでもらって、やっとこさコーヒーの街が見えてきた。
あれ、なんかいやに門の所に人が多いような…。












街に近づくと、門の衛兵さんらしき人が駆け寄ってきた。

「ここは危ない! 早く街の中へ!」

何かあったのかしら?

「どうされました?」

ハリムさんが衛兵さんに尋ねる。

「スタンピードが確認されたのです。この街にもあと数十分で辿り着くでしょう。今は街の門を固めている最中です」

スタンピード?それってば、魔物暴走ですか?!
とにかく急いで街の中へ。盗賊達も衛兵さんに預ける。報償金はまた後でだ。
挨拶もそこそこに、ギルドへと急ぐ。
途中でこっそり、シロガネとハヤテに人化してもらう。宿屋に預けてる暇がなさそうなので。
またギルドの前に置き去りにして、人にたかられたら嫌だからね。追い払うのも大変なのよ。
ギルドに着くと、思ったより閑散としていた。
皆スタンピードで出払っているのだろう。

「すいません。これ、依頼票です。あと、スタンピードについての依頼をここで聞けと言われてきたのですけど」

茶色い髪のフワリとした感じの、やはり巨乳美女の受付のお姉さんに尋ねる。

「あ、はい。冒険者の方ですか。スタンピードの依頼出ています。料金はほとんどありませんが、点数が少し多めに付きます」

まあしょうがないね。
それくらいの恩恵はないとね。
護衛の依頼を片付けてもらって、何処へ行けば良いのかと尋ねる。

「あなたは、ご職業は…、従魔師、ですか?」

従魔師と言って良いのか分からないけど、他に特にこれと言った職業もないので、従魔師にしておこう。

「そうです」
「ペガサス? グリフォン? 妖精? ドラゴン?」

私の冒険者証を見て、受付のお姉さんが首を傾げている。
まあ珍しい従魔ではあると思う。
私の頭の上を見て、冒険者証を見て、妖精は納得したようだ。ペガサスとグリフォンは、今人化して私の後ろに控えてます。とも言えない。

「ええと、妖精がいるということは、癒やしの魔法を使えるということでしょうか?」
「はい。使えます」

リンちゃんはそのスペシャリストです。

「では、西の教会へ行って頂けますか? そこは怪我人の収容所になっておりますので。あと、ペガサス?とかは、前に出られますか?」

戦えるかなという意味だろうな。

「はい。大丈夫です」

後ろを見ると、クレナイ達がうんうんと頷いている。やる気満々のようです。

「では、その従魔達は西の門へ回して頂けますか? その後はそこにいる責任者に指示をもらってください」

ドラゴンは信じてないのかな?
ドラゴンが門の所に行ったら大騒ぎにならないかい?
とりあえず時間もないので、道を聞いて西の教会とやらに急ぐ。

「八重子、お主は教会でリンと共に怪我人の手当をしていろ。魔物達のことはハヤテ達に任せろ」

腕の中からクロが声を掛けてきた。

「確かに。主殿はリンとクロ殿と共に教会で待っておれ。妾達が食い止めようぞ」
「うむ。我らがいれば大丈夫であるぞ」
「だいじょうぶなのー」

クレナイとシロガネに手を繋がれたハヤテも声を上げる。
というか、この光景、親子にしか見えないんだが。似てない親子だね。

「分かった。皆、気をつけてね。特にハヤテ、無理しちゃダメだよ」

まだ子供だから、引き際が分からないんじゃないかと思う。

「うん。むりしないー」

あどけない笑顔が可愛い…。
頭をナデナデナデ。
おっと、時間がない。
人目のない所へ行き、人化を解く。クレナイはまだ人化したまま。シロガネの背に乗って、街の外に出てから元の姿に戻ると。うん、ここで大きくなったら家屋を破壊してしまうものね。

「気をつけてね!」
「吉報をまっておれ」

声を掛けると、クレナイがシロガネの背に乗って手を振り、3人?は西の門に向かって飛んで行った。
私は教会だ。
シロガネに預けていた荷物を背負い、ヨタヨタと歩き出す。
大分荷物が多くなってきたな…。

「仕方がないの」

お、ちょっと軽くなりましたよ。
クロがちょっと力を貸してくれているようです。ありがたや。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...