異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

従魔紋を消す方法は?

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「似たような魔法とか術とかで、それの解除の仕方とか。自動で解除出来るアイテムとか、知らない?」
「知らんな。断じて知らん」

ダメだこりゃ。
あぐらかいて腕組んでしらんぷりん。

「なんだ。ドラゴンて長い時を生きる賢者だと思ってたけど、結構無知なんだね」
「なんだと?! 我が一族を侮辱するか?!」
「お主こそ、妾の主をどうする気じゃ?」
「いや、その…」

クレナイの一睨みで、振り上げた拳を下ろすに下ろせず困っている。

「ソウシ。名前を付けて上げたんだから、見返りを頂戴!」
「結構ずうずうしいなお前!」

いや、それくらい要求しても良いよね?

「名は勝手にお前が付けたのだろうが。私は知らん」

ぷいと横を向いてしまう。
う~む。頑固だな。

「お主、同胞と思い手加減してやったが、する必要はなかったかのう?」

右手に持った扇子を、パン、パンと一定のリズムで左手に打ち付ける。
顔とか、気配とか、その音とか、クレナイさん迫力ありすぎです。
ソウシがまた顔を青くする。

「何か知らない? 手かがりになりそうな事でも良いんだけど。ソウシが知らないなら、別な人…、じゃなくてドラゴンとか知らないかな?」

ソウシがソワソワとしだす。
お、何か掴んだかも?

「わ、私は知らないが、長老様なら何かご存じかもしれん…」

ちょっぴり小さめの声でそう言った。

「ほお、長老様か。いるんだ。ドラゴンにも」
「当たり前だ! 長老様は珍しいホワイトドラゴンであり、なおかつ万年も生きるという古竜であるぞ!」

万年?!すげ!
ホワイトドラゴンと聞いて、青い瞳を思い出したのは私だけだろうか。

「その長老様に会って話を聞いたりとか出来ないかなぁ?」
「人間ごときが! 長老様に会おうなどと身の程を知れ!」
「其方、よくよく口がうるさいのう…」

クレナイがまた睨み付けると、しゅんとなった。

「ソウシ、聞いて。いずれだけど、クレナイの生まれ故郷、は何処か分からないけど、竜の里があるなら、そこを訪ねてみたいと思ってるんだよ。クレナイの為にも」

ソウシが不思議そうな顔をしてこちらを見上げた。

「何故だ? 従魔の為とは、どういうことだ?」
「そういうことですが。何か?」
「いや、従魔にすると、人間は道具の如く使うのだろ? 何故この姫君の為になどと言う?」
「? 私はこの子達を道具として見てないですよ? 私は皆に幸せになって欲しいだけ。クレナイは特にお年頃だからお婿さんが欲しいって言ってるし。お婿さんを選ぶなら同族から選んだ方が良いでしょう?」

黒猫とかペガサスに擦り寄るのは、彼らが可哀相なので止《や》めたげてね。
毎度涙目になってるのよ。特にシロガネが。
なんてったって、捕食者と被捕食者だものね。
ソウシが変な顔をしてこちらを見てくる。
なんか、やっぱり私はこの世界の人と常識がずれてるよね。毎度怪訝そうな顔をされるもの。

「ふむ。お前がこちらの姫君を粗雑に扱っていないことは分かった。それと、この呪いを解呪する方法がないことも納得してやる。まあ、あまり気乗りはしないが、長老様にも解呪の方法がないか聞いてみてやろう」
「本当?! ありがとうソウシ!」
「お前の為ではない。姫君の為だ」
「うん。それでいいよ」

目を逸らしたままだけど、協力はしてくれるみたいだ。良かった良かった。

「ふふ。ソウシ殿。ご助力感謝するぞ」
「貴女の為ですよ。姫君」
「妾はクレナイじゃ。クレナイと呼ぶことを許そう」
「クレナイ様。不躾ながら、申し上げたいことが」
「なんじゃ?」

「一目見た時から、その美しさに心奪われました。どうか、私の妻になっていただけませんか?!」

おお!告白タイム!

「いやじゃ」

そこ即答?!

ソウシが今度は白くなってるよ。

「妾よりも弱い男など認めぬ。其方は妾よりもずうううううっと弱い。鍛錬してから出直して来よ」
「い、いや、先程のは、貴女を傷つけないためにですね…」
「言い訳無用! 出直して来よ!!」

三度《みたび》クレナイに睨まれて、ソウシがしょぼんとなりました。

「ま、まあ、ほら、出直しておいでってことは、希望がなくなったわけではない(と思う)よ…」
「そ、そうか? そう思うか? 人間」
「妾の主を変な呼び方するでない! ヤエコ様と呼べ!」
「様はやめて!!」

どこのお偉いさんだよ!

「や、ヤエコ、殿…」
「それでいいです」

何か言いかけたクレナイを制して、殿呼びで許可する。
頼むから変な呼び方はやめてくれい。

ソウシの耳元に口を近づけ、こそこそと耳打ちする。

「ソウシさん。解除の方法見つける協力してくれるなら、それとなくクレナイに貴女のこと話しますけど」
「な、何?! い、いや、そんな、人間ごときに協力を頼むなど…」
「解除の方法を探してくれたら、クレナイの貴女に対する評価もうなぎ登りになるんじゃないかと思われるんですがね。そして従魔紋を解除すればクレナイも晴れて自由の身。そうしてもう一度結婚を申し込めば…」

しばし、ソウシは頭の中で計算しているようだった。

「ふ。よし、ヤエコ殿。協力しようではないか」
「ふ。契約成立ですね」

ガシッと握手を交わした。

「主殿? 其奴と何を話しておるのじゃ?」
「うん。ソウシが快く協力してくれることを承諾してくれてね」
「私も人間ごときなどと言わず、心を大きく持とうと思いましてな」

顔を合わせ、わははと笑い合う。
ちょっとクレナイが訝しげな顔をしていたが、深くは突っ込んでは来なかった。
腕の中でクロが溜息を吐いた気がした。













話合いが終わると、ソウシはドラゴンの姿に戻って、帰っていった。
早速長老様にお伺いを立ててみる、と言っていた。惚れた弱みだな。
クレナイと並ぶと美男美女のカップルでとてもお似合いだったから、私はくっついてもいいと思うんだけどな。同じドラゴンでもあるし。

あとはクレナイ次第です。

ソウシが帰った後、おずおずとハリムさんとカリムさんが近づいて来た。
人化しているとはいえ、ドラゴンが2体いる状況に、生きた心地がしなかったと。

「ヤエコさん、よくもまあ、ドラゴン相手にあそこまでお気楽に話しが出来ましたね」
「え? ああ、まあ、クレナイを見てるせいか、なんとなく危ない気もしなくて…」

皆もいるし、なんとなく安心してました。
え?警戒心が薄すぎやしないかいって?
いいのさ。私にはクロもシロガネもハヤテもリンちゃんもクレナイもいるのだから。
ドラゴン同士が争う姿を見ても、どこか怪獣映画を見ているような感覚でした。
うん、これ、シロガネが結界張ってくれてなかったら、今頃生きてませんね。

遅くなったけど夕飯の準備です。と言っても今日は携帯食料で済ますことに。
さすがに用意している時間はなかった。
ハヤテに今日は自分の分だけ狩っといでと送り出した。
焚き火を囲んで皆で携帯食料を囓り出す。
何故かクレナイも。

「クレナイも狩って来たら?」

と問いかけたら、

「実を言うと、人の味に慣れてしまってのう。今更生肉を食うのは味気ないのじゃ」

う~ん。従魔紋解除して平気だろうか?
私が頭を悩ませていると、

「ヤエコさん。従魔を手放すつもりなのですか?」

ハリムさんが聞いてきた。

「いえ、手放すというか、自由に戻すというか。従魔紋を消してあげたいだけですよ」
「従魔紋を消してしまったら、逃げてしまうではないですか」
「別に、それでもいいですけど」

皆がちょっと悲しそうにこちらを見ている。リンちゃんも髪を引っ張ってるよ。どうした?

「こんな希少な従魔を野に放してしまう気ですか?」
「まあ、そういうことになりますね」

従魔紋を消すと言うことは、ただの魔獣に戻るということだな。

「そんな、勿体ない! いらないのなら私がもらい受けたいくらいです! それに競売に掛ければどれほどの値が付くか!」

おおう、皮算用してくれてますね。そういうことをしたくないんだけどなぁ。

「私のせ…故郷のとあるまん…本に、こんな言葉が載ってたんです。
 鳥は飛んでこそ鳥。
 犬は走ってこそ犬。
 猫は自由だからこそ猫。
 私はあるがままの生き物の姿が好きなんです。だから、彼らを自由にしてやりたい。何かに縛り付けられるのは、人間だって嫌でしょう?」
「しかし、これらは魔獣ですぞ。ペガサスはともかく、ドラゴンやグリフォンは野に放したら、人に危害を加えるようになりますぞ」

頭を擦り寄せてきたハヤテの頭を撫でつつ、

「う~ん、そうかもしれませんけど、私が聞いた話だと、グリフォンは縄張りに近づかなければこちらに手を出してくることもないし、ドラゴンが積極的に人を襲ったという話しも聞いたことないんですよね」

グリフォンの縄張りに入ったら、襲われても仕方ないと思うし、ドラゴンも同じだ。
この世界で共存していく為には、何かしらルールを守る必要はあるだろう。
そして、だいたいそのルールを積極的に破るのは、いつも人の方なのだ。

「た、確かに…。グリフォンは縄張りから滅多に出ることはないし…。ドラゴンは…、はて、街や人を襲ったと言う話しは、私も聞いたことがありませんね」

ハリムさんが首を傾げている。
ドラゴンは地上最強種。それこそドラゴンが動けば、簡単に1つの大陸を壊滅させることも容易ではないかと思う。
それをしないのは、ドラゴンに知恵があり、自分たちも命の環の中の1つであると知っているからだろう。破壊に走った所で、生物を死滅させたら自分たちも滅びる事を分かっているのだろう。
分かっていないのは人間くらいだ。

「人は襲うと面倒じゃからの。下手に手を出すと、数で押し寄せてくることもある。じゃからドラゴンも滅多に人に手を出そうとは思わぬのじゃろう」

クレナイから注釈が入りました。
まあ、そうだよね。
害獣認定すると、これでもかというくらいに攻撃しまくるのが人間です。確かに相手にすると面倒かも。

「しかし、それほどの従魔を手放すのは、惜しくはありませんか?」
「惜しいというか、いざ別れるとなったら寂しくなるとは思いますけど、皆が幸せになってくれるなら、惜しくありません。それに、まだ当分は先のことになりそうですし、私にはこの子がいますから」

膝のクロを撫でる。

「その猫は、従魔ではないので?」
「ただの飼い猫です。ずっと一緒なんです」
「よく懐いておりますね」
「もちろんです!」

ナデナデナデ。
クロは私の子です!一生面倒見ると誓った子です!絶対に手放しません!

「クウ~」

ハヤテが甘えてくる。

「はいはい。ハヤテ」
「クウ」

気持ちよさそう。

「主殿。妾、気が済むまで主殿と共におるぞ」

クレナイがひっついてきた。胸が当たるよ。

「我も、いるのだがな」

背中をシロガネがつんつん鼻で突いてくる。
髪の毛が引っ張られてるのは、リンちゃんも主張しているのだろうか。

「うんうん。忘れてないよ」

皆大事ですよ。
ハリムさんとカリムさんがこちらを見てほっこり笑っている。

「その光景を見ていると、譲ってくれとも言えませんね」
「譲りませんけどね」

皆で笑い合う。

そして、クレナイそろそろ食べるの止めようか。ストックがなくなっちゃうよ。













「そういえば、どうしてソウシは今頃になってクレナイを助けに来たんだろ?」

寝る前にクレナイに疑問をぶつけてみる。

「そうじゃのう。近頃妾の気配をダダ漏れにしておったせいかのう?」

常時気配をダダ漏れにしていると、周辺から生き物の気配が消えてしまうらしいので、通常は気配を押さえているとのこと。
そうか、この護衛の仕事をする為に、クレナイ気配ダダ漏れにしてたんだっけ。
それでクレナイの事がバレたのだろう。

「また他にもドラゴンが来るとかないよね?」
「さすがにないと思いたいのう」

焚き火の側で眠るハリムさんとカリムさん。ようやっと落ち着いて眠りに就けたらしい。

「主殿も寝るがよい。妾達が見張りをしておるからの」
「うん。でももうちょっと頑張るよ」

シロガネが結界を張り、私のベッドの横でスタンバっている。
ハヤテは私の横で寛いでいる。
クレナイが気配ダダ漏れにしているおかげか、魔獣も近くにはいなさそうとのこと。

「八重子、あのソウシと名付けたドラゴンが来た時、お主全然怖がっておらなかったの」

ハリムさん達が眠ったので、クロも喋りだした。

「う~ん、現実味がなかったというか、青い鱗が綺麗だな~とか呆けてたというか、驚きすぎて感覚が麻痺していたというか、クレナイで見てたからちょっと慣れてたというか…」
「つまり、ニブチンだったということか」
「クロさん、私、クロさん可愛い病の発作が出て来たようです」

逃げ腰になったクロをガッシリ捕まえ、モフモフチュッチュナデナデハフハフの刑に処す。

ありますよね?猫を飼ってるなら、時折自分の愛猫が可愛くて可愛くて仕方がなくて、抱きしめてチュッチュして撫でまくって頬ずりしまくって隙があればお腹をもふることをしたくなるという、愛猫可愛くて仕方ない病の発作が!

一通り済ませてクロを放すと、少し距離を開けて座り、グルーミングを始めた。
私の愛を舐め取るようです。

「主殿とクロ殿は、熱いのう…」

何故顔を赤くしてるのでしょう、クレナイさん。
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