異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

リンちゃん人の姿に

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目を開ける。

「起きたか、八重子」

毎度お馴染み、可愛い黒猫の顔が覗き混んでくる。
はああああああ・・・、分かっちゃいるけど、毎度可愛いなあああああ・・・。
頭をなでこなでこ。

「うむ」

なんて言いながら、気持ちよさそうな顔をする。あああその表情も可愛いいいいい。

「アルジ!」

聞き慣れない声が反対側から聞こえた。
そちらに顔を向けると、

「アルジ! 起キタ!」

そう言って、にっこり笑う美少女。
誰だ。
いやまて、この展開に、なんだかどこかで見たようなその美少女の顔。
緑の髪に緑の瞳。これで背中に薄い羽を生やしたら…。

「まさか、リンちゃん?!」
「アルジ! ヤパリ分カテクレタ!」

エセ中国人みたいな喋り方で、抱きついてくる美少女、ならぬリンちゃん。
いやいや、ちょっと待て、いつの間に?!

「おはようなのじゃ、主殿」
「おはようクレナイ。ていうか、なんでリンちゃんが?!」
「毎夜、人化の術を練習しておったらしいぞ。昨夜とうとう成功したのじゃ」
「練習してた?! マジかい!」

抱きついていたリンちゃんを優しく引っぺがす。
満面の笑み。
美少女の満面の笑みですよ。なんかそういう趣味がなくてもドキドキしてしまいますよ。

「アルジとオ話シタクて、練習シタヨ!」

喋り方がちょっとおかしいけど、美少女らしいこの可愛い声。
そういう趣味がなくても、ちょっとクラクラしちゃいますよ。

「秘密裏に練習して、八重子を驚かせたかったらしいの」

クロが横から解説。
なるほど、そういうことですか。

「リンちゃん凄いね~。頑張ったんだ」
「ウン! 私、頑張タヨ!」

やべえ、可愛い。
年頃としては、私より4、5歳下って感じかな?妹の奈々子よりちょい下?
なんだか新たに妹が出来た気分ですよ。
ついつい頭をなでこなでこ。
うわ、髪さらっさら。ほっぺもついでに触ってみたらプニップニ。
あかん、これずっと触りたくなっちゃう奴だ。

「アルジの手、温カイ…」

そんなうっとりした顔したら、なんかもっと触りたくなっちゃいますよう。

「そろそろ朝食を摂りに行かぬとまずいのでは?」

良いタイミングでクロからストップ入りました。
この時ばかりは、ありがとうです。










食堂へ降りて行くと、男の人達がこちらに視線を集めていた。
まあ、なんとなく理由は分かるけどね。
私の両隣には、可憐な美少女と、妖艶な美女。否が応でも男達の視線を集めるでしょう。
構わずに無視して席に着く。

「リンちゃんも食事するの?」
「食べられぬ事はないと思うのじゃが、どうする?」
「・・・。食ベテみようカナ?」

とりあえず3人前注文。残ったらクレナイが処分する。
クロには私のご飯をちょっとあげるつもりだけど、どうやら密かに鼠などを食べている模様。ご飯をあげるべきだろうか…。
というか、クレナイは追加注文するでしょう。
待ってる時間はガールズトーク。と言うほどでもない、年齢の話に。

「私は18歳。ピチピチの花の乙女です」
「妾は55歳になるかのう。じゃが、人の年に換算すると、主殿とほぼ変わらぬぞ」
「年…?」

リンちゃんは首を傾げている。

「妖精族というものは、時間という感覚がほぼないのじゃ。過ごした年月と言われても、ぴんと来ぬであろう。こやつらにかかれば、昨日のことも10日前のことも、等しく過去であり、未来という思想はほぼ持ち得ない。ただ、人化の術はその者の年をそのまま反映するからのう。この姿からして、リンはまだ産まれて間もないのかもしれぬのう」
「へ~、人化の術って、年は操れないんだ」
「うむ。若者であれば若い人型に、年を取れば、年寄りの人型となる」
「・・・?」

リンちゃん話について来れなさそうです。
そんなこんなで料理が運ばれてくる。

「では、いただきましょうか。リンちゃん、無理して食べないで良いからね」
「ハイ」

良いお返事。ええ子や。
元々食事が必要ない上に、時折花の蜜を吸うだけという食生活?なのだ。人の姿になったからと言って、いきなりそんなに食べられるとは思わない。
私達が食べ始めるのを見て、リンちゃんもそれを真似るように、ナイフとフォークを持ってみる。
見よう見まねで、サラダにフォークをツッコミ、かろうじて救えた・・・一枚の葉に齧り付くリンちゃん。

「!」

目が見開かれた。
シャクシャク音を鳴らして口の中にその葉を迎え入れる。
モグモグして、ゴクンして、リンちゃんの顔が輝く。

「アルジ! コレが美味シイてコトネ!」

リンちゃん嬉しそうです。

「そうよ。美味しいでしょ」
「美味シイ! 美味シイよ!」

その後も美味しそうにサラダを食べ尽くしたリンちゃん。
お肉も一口行ってみたけど、お肉は口に合わないようでした。
残りはクレナイが嬉しそうに食べて、

「サラダも頼む?」
「いや、妾は肉だけで大丈夫じゃ」

クレナイの野菜嫌い説浮上。
いや、元々肉食か。

「やあ、君達。君達も冒険者?」

皆でモシャモシャ食べていた所、顔もそこそこ悪くない男の人が声を掛けてきた。

「まあ、冒険者ですけど…」

私は、ね。

「僕もなんだよ。この街には従魔バトルがあると聞いて立ち寄ったんだけどね」

と、進めてもいないのに側の椅子を引き寄せてテーブルに加わってくる。
うわ、何こいつ。キモ。

「まさか、こんな綺麗どころを拝めるとは思わなかったよ。どうかな? 俺達のパーティーに入らない?」

いきなりっすね。
男の視線を辿ると、少し離れた所に2人の男。顔はまあまあ悪くない。
こちらの視線に気付いたのか、手を振ってくる。
あ、だめだ。鳥肌が立つ。
ナンパなんて苦手なんだけど、というか人生初なんだけど…。
うん。よく見たら、男の人の視線はクレナイかリンちゃんばかり見ているね。

どうせ私は平凡な顔だよ!

「結構です。入る気はありません」

とっととここから離れろと言う気迫を込めたんだけど、どうやら伝わらなかったようで、ニヤニヤとクレナイを見ながら居座り続ける。

「そちらのお嬢さんは嫌みたいだけど、こちらのお姉さんはいかが?」

視線がいやらしい。キモイ。キモイよ!早く何処かに行ってくれ!

「妾を仲間にと? それは目の付け所が違うのう」

食べていた手を止め、男に向き合うクレナイ。
妖艶な笑みは女の私でも見惚れてしまうほどに綺麗だ。

「だが、妾は好みにうるさいぞ? 其方らは妾の好みに合うかのう?」

そう言うと、クレナイの雰囲気が一変した。
例えるなら、今までお花が咲き乱れて蝶が飛んでいるような暢気な春の日差しの中にいたのに、一瞬のうちにブリザ-ド吹き荒れる極寒の地にテレポートしたような。
悪寒というか、恐怖心というか、クレナイの側にいるだけで寿命が縮んでしまいそうになる。

これがドラゴンの威圧なんだろうか。

リンちゃんも固まっている。私と同じで動けないんだろうな。
クレナイの隣に座った男の人も同じように金縛りに合ったように固まっている。
これで動けたなら、凄いなと見直す所なんだけどね。

「なんじゃ? この程度で萎縮してしまっておるのか? ひよっこめが。出直してくるのじゃな」

クレナイが威圧を解いた。
途端に、深呼吸してしまう。どうやら無意識に呼吸を止めていたらしい。

「おお、主。すまなんだ。久しぶりで制御が上手く出来なかったようじゃ」

クレナイが慌てたように謝ってきた。
いへいへ、大丈夫れす。ちょっと固まってたらけれす。

「あああ、主?」

やっと動けるようになった男の人が、こちらを震える指で指さしてくる。
失礼な。人を指さしちゃいかんと教わらなかったのか。

「そうです。私はこの子達の主です」

どうだとばかりに言ってやると、男が目を剥いた。

「ききき、君が、こここ、この方のご主人様だったのか…。ははは。その、で、出直してきます!」

クレナイがジロリと睨むと、男の人が尻に火がついたと言う表現ピッタリに跳んで逃げた。
その様子がおかしくて、ちょっと笑ってしまう。

「アルジ、アノ人、凄イ跳ンダヨ」

リンちゃんもおかしかったのか、クスクス笑っている。
いいね。美少女の笑顔。

「青二才めが。妾に声を掛けるなど、100年早いわ」

100年経ったら大概の人は死んでると思うけど。いや、比喩ね。比喩。
食事を再開する。
なんとなく周りの視線がさっきとは違う感じになっていたけど、気にしないでおく。

「しかし、クロ殿はさすがじゃのう」
「クロが?」
「うむ。妾の威圧を受けておいて、平気の平左で座っておるとは」

そういえば、クロ、全く関係ありやせんとばかりに、顔を洗っている。
尻尾も太くなっていないから、ビビっていなかったのね。

猫の尻尾は、驚いた時や怒った時、威嚇する時などに太くなります。それが狸の尻尾みたいで可愛いと思うのは私だけだろうか。
だって、ブワッて太くなるんだよ?いつもの3倍くらいになるんだよ?
顔を埋めたくなるけど、太くなってる時は気が荒くなってる時だから、迂闊に触れないんだよね。あああ、猫のブワッとなった尻尾のアクセサリー出ないかしら?
でも狸の尻尾と間違われるか?

そんなことがあったけど、無事に食事を終える。
クレナイはしっかりお代わりしてました。
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