異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

ドラゴンが従魔になりました

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倒れたドラゴンの側に寄ると、男も櫓の上から降りて駆け寄ってきた。

「おい! 起きろ! この愚図! まだ負けてない!!」

と言いながらドラゴンに蹴りを入れる。
ところがドラゴンの鱗が硬かったのか、足を押さえている。バカだ。

「ウェヌル、もう勝負はついた」

後ろからそう声が聞こえ、振り返ると先程受付にいたおじさん。屈強そうな男の人と、ひょろっとした男の人を連れている。

「うるさい! まだ勝負はついてねぇ! ペガサスが倒れてねぇだろう!」

うちの子を勝手に倒さないでください。

「ドラゴンが倒れ、意識を失っている。戦闘の続行は不可能。こちらのヤエコさんの勝ちだ」
「うるせぇ! 俺は認めねぇぞ!」
「やはりこうなるか。押さえろ」

ターレンさんの一言で、屈強そうな男の人がウェヌルと呼ばれた男を押さえ込む。

「ちくしょう! 離せ!」

後ろから羽交い締めされ、ジタバタ暴れている。

「さてウェヌル。約束だ。お前が持っている従魔を1頭差し出すのだ」
「待て、違う! 違うんだ!」
「何が違うと言うんだね? こうして誓約書まで書いておいて」

と懐からあの紙を取り出した。いつの間に持ってたんだターレンさん。

「違う! 騙されたんだ! その女が卑怯な手を使ったんだ!!」

卑怯、あれを卑怯と呼ぶのかしら?
ちゃんと始めに、私が連れている子達全員を参加させること、道具を使って良いことを確認しているのだが。全部クロの受け売りだけど。
まあ、まさか香辛料入りの玉を投げることになるとは思わなかったけど。

「じゃなきゃあ、俺のドラゴンが倒されるわけがねぇ!」
「見苦しいぞ。私も見ていたが、不正が行われたような事はなかった。彼らは彼らの持つ技量で精一杯戦ったのだ。その結果がこれだ。いい加減負けを認めろ」
「ちきしょう!!」

まだわーわーと騒いでいたが、それを無視し、ターレンさんがこちらに振り向く。

「約束通り、ドラゴンを貴女の従魔にしよう。契約できる従魔師も連れてきた」

ひょろっとした男の人が前に出る。
ドラゴンの胸の辺りに行くと、おいでおいでと手招きされた。

「やめろ! 止めてくれ! 俺のドラゴンだ!」

ウェヌルがぎゃいぎゃい騒いでいるけど気にしない。
側に行くと、瓶を取り出す。

「髪の毛でいいから、この中に入れて貰えるかな」
「はいはい」

シロガネ達の時もこうだったよね。
1本抜いて、瓶の中へ。不思議とすぐに消えていく。
また訳の変わらない呪文を唱え、手の甲に、今度は書くのではなく、なぞる感じだった。
ドラゴンの胸の辺りにも、同じ紋様を描いていく。
そして呪文が唱え終わり、手の甲とドラゴンの胸が光った。

「これで、貴女の従魔になった」
「ありがとうございます」

って、今更思ったけど、ドラゴンなんて手に入れてどうしろとおおお?
表情には出さずに、内心焦りまくり。
なんでクロは受けろなんて言ったんだろう。

「さっそくだけど、ドラゴン早めに起こして連れてってくれないかな?」

ひょろっとした男の人が言った。
人力ではドラゴンは動かせないためと。そりゃそうですね。
ウェヌルは屈強そうな男の人に引き摺られながら、去って行った。
ターレンさんは何やら私がすることを見学するつもりらしい。

「んじゃ、シロガネとリンちゃん、お願いね」
「了解だぞ主」

リン!

2頭がお尻の方と頭の方で別れる。
リンちゃんも水の魔法が少し使えるらしい。
リンちゃんがお尻の方を洗浄、シロガネが目の周りの洗浄。
終わったらリンちゃんが回復させる。

「いやぁ、素晴らしいですね。どうやったらそんなに従順に従魔を操れるのです?」

ターレンさんが聞いてきた。ひょろっとした男の人も耳を傾けているようだ。

「えと? 操ってなんかないですよ?」
「いや、しかし、従魔達、素直に言うことを聞いているではないですか」
「私はお願いしてるだけですよ? 言うことを聞かせているわけではないです」
「ええ?」
「はい?」

なんか認識が違うなぁ。

「従魔にお願いしたって、素直に言うことなど聞かないでしょう?」
「嫌がることはやらせません。出来ることだけお願いするんです」
「はあ?」
「はい?」

認識がずれてるなぁ。

「従魔ですよ? 付き従わせるものでしょう?」
「私は従わせるつもりないですから」
「ええ?」
「ええ」

私にとってはみんな大事な仲間だもの。従わせてるつもりはないですよ。

「従魔ですよ?」
「従魔ですよ」

うん、認識がずれてるね。

「私は従魔だからと言って、物のように扱う気はありません。大事な仲間として扱います」
「従魔ですよ?」
「従魔ですから」

だからなんじゃい。
だって、こんなに可愛い妖精とか、グリフォンとか、大きくて抜けてるように見えるけどちょっと頼りになるペガサスとか、みんな可愛いし、それにみんな私を助けてくれるし。
ていうか、助けられてばかりな気がするけど。
「ありがとう」と言うことはあっても、「やれ」と命令する気にはなれないけどなぁ。
ターレンさんが考え込んでいる。
うん、これを機に、従魔の扱いの改善が図れたら良いね。

そんな感じで話している間に、リンちゃんの治療も終わったようだ。
ドラゴンが目を覚まし、こちらに頭を向けてきた。

「あ、ども。新しく主になった八重子です。とりあえず、邪魔になるそうだから、ここから移動したいのだけど、体は大丈夫?」

ドラゴンがマジマジとこちらを見つめてきた。
爬虫類も結構好きなんだけど、やっぱりドラゴンに見つめられるのはちょっと背筋が凍るわね。

「グウ…」

押し殺したような声を上げ、ドラゴンが体を起こした。どうやら大丈夫なようだ。
聞いた所によると、ドラゴンを収容できる宿などないので、いつもこのコロシアムの専用の待機所に押し込められていたらしい。
どこか違う所に預けたいけど、さすがに大きすぎるので場所がない。
仕方がないので、またその待機所にいてもらうことにする。
その話を聞いていたのか、ドラゴンがずしんずしんと歩き始めた。
一歩がでかいよ。
ターレンさん達にお礼を言って、ドラゴン専用の待機所へと向かった。
だから一歩がでかいって。










ドラゴンが大人しく待機所に入っていく。
石で囲まれ、鉄格子があって、暗くて少し寒い。
つまり、あまり良い環境じゃないね。
腰を下ろすというか、丸くなると言うか、ドラゴンが大人しく部屋の真ん中で丸くなった。

「う~ん、こんなところでごめんね。どこか良い所ないかな~?」

街中で無理なら、外で待機させるとか?
それだと騒ぎになるかな?

「其方が新しい主か」

ドラゴンが聞いてきた。低い重低音が響く。

「うん。そう。八重子っていうの。よろしくね」
「前のボンクラよりも遙かにましな者が主になったものじゃの。よろしゅう」

ドラゴンが軽く頭を下げた。
おお、なんか賢そうだ。いや、ドラゴンだから賢いのか?

「それで、主殿。其方、かなり従魔に好かれておるようじゃが」
「あはは、動物には好かれやすい方だとは思ってるけど」
「動物…」

あれ、動物と魔獣って違うか?

「ドラゴン殿、我はシロガネ。主の1の従魔である。こちらのグリフォンがハヤテ、妖精がリンという名を主から頂いておる」

1の従魔と聞いて、リンちゃんが頭の上で抗議しているみたいだ。ハヤテは多分意味を理解していない。

「我らは主によって救われた。故に、主のために今働けることに誇りを持っている」

あらやだ。あんなにつっけんどんだったシロガネが、こんな風に言ってくれるなんて。
ちょっと顔が熱くなっちゃうよ。

「ほう、ペガサス殿がそこまで言うとは、余程主に惚れ込んでいるのであるのう。これは僥倖。良い主に出会えるのは誠嬉しいことであるぞ」

ドラゴンが嬉しそうに目を細めた。
うん、やっぱ爬虫類も好きだわ。それも正面から見た顔が好き。なんか可愛いよね。

「いや~、過大評価な気もしないけど」

照れるわ。

「この場所であるならば、気にせずとも良い。慣れておる」

気を使っているのか、本当に慣れてるのか、でもこんな場所嫌だよね。

「爬虫類、ドラゴンが爬虫類に分類されるのかちょっと分からないけど、爬虫類って変温動物でしょ? 寒いと動きが鈍ったりしない?」
「へん…? まあ、多少はの」

ああ、この世界に変温動物という知識はないのか。

「シロガネみたいに人に化けられるとか、大きさを変えられるとかなら、宿に連れて行けたのにね」
「人に化ける? ペガサス殿、人化の術が使えるのかえ?」
「もちろんである。このように」

ほわんとシロガネが淡く光、人の姿になった。

「ほお…、人前で人化の術を使うか…。本当に信頼されているのだのう」

ドラゴンが目を見開いた。
あ、そーなの?信頼されてるんだ、私。嬉しくなっちゃうね。

「ならば、よいな」

そう言うと、ドラゴンの体も淡く光を放った。
え?
まさか、人化の術ですか?
光が収まると、緩くうねる腰まで伸びる赤い髪、燃えるような赤い瞳、そして、ボインな胸にくびれた腰にぷりんとしたお尻…。

「女―――!? ていうか、服――――――――!!!」

なんでこういう時って、お約束のように服着てないんだーーー!!!

「おお、そうじゃった。久方ぶりなので忘れておったわ」

うっかりと言うばかりに体を見る。腕を開くな開くな。
体が光ると、着物のような服が現われる。

「め、女《メス》だったのか…」

おやクロも驚いている。気付いてなかったのか。

「め、女《メス》だったのか…」

シロガネも驚いている。

ハヤテとリンちゃんは首を傾げている。リンちゃん肩に乗ってます。この二人はあまり性別気にしないだろうね。

「これで良かろう?」

赤いドラゴンだった女性が、立ち上がり、どこからか取り出した扇子で口元を隠した。
綺麗で色気のある女性が、檻の中で立っていた。
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