異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

文字の大きさ
上 下
42 / 194
黒猫と共に迷い込む

それぞれの証言

しおりを挟む
証言1
私は先頭の荷馬車に乗っていました。
緩やかなカーブを抜けていくと、その先に男達が立っているのが見えました。
男達の服装はみすぼらしい物。
嫌な予感がしました。

護衛を頼んでいた冒険者達も気付いて後ろへ合図を送りました。
男達から大分距離を取って、馬車を止めました。
冒険者のリーダーのクィドという青年が、道を塞ぐように立っている男達へ話しかけました。
男達は盗賊の決まり文句、「金目の物は全て置いてけ」と言いました。
今荷馬車に乗っている商品を全て取られてはたまりません。
ここは雇った冒険者達を信じて、見守るしかありません。

盗賊達は4人、先頭の荷馬車に乗っていた冒険者は3人。なんとかなりそうな気がしました。

「後ろからも来てるよ!」

そんな声が聞こえてきました。やはり挟み撃ちにするようです。
剣士のクィドが切り込んでいき、僧侶の女性も体術が使えるのか、1人を相手にし始めました。弓士の男性がその2人の援護に入ります。

これなら大丈夫だろうと安堵した所に、森の中から矢が飛んできて、僧侶の女性に掠めました。
それに気を取られた女性が盗賊に倒されそうになり、それを助けようとした剣士が、それまで相手にしていた盗賊達から手痛い一撃をくらい、形勢が悪くなっていきました。
弓士の男性がフォローに入ろうとするも、森の中からの矢がそれを邪魔します。
私は荷台から震えながらそれを見ていました。
ダメかもしれない。そう思った時。

馬のいななきが聞こえ、突如、盗賊達が何かに押されたかのように地面に転がりました。
そこに現われたのが、あの美しいペガサスです。
ペガサスが翼を羽ばたかせると、森の中で何かが落ちる音がしました。
きっと木の上に上っていた射手を風の魔法で落としたのでしょう。

そしてペガサスは風を纏ったまま、盗賊達に向かって走って行きました。
馬に蹴られたらたまりません。盗賊達も必死に逃げようとしますが、馬の足に敵うはずもなく、盗賊達は文字通り蹴散らされていきました。
森の中も走り抜け、1人の盗賊を咥えて出て来ました。
盗賊達が気を失うと、もう一度いななき、そのまま後ろの荷馬車へと戻って行ってしまいました。
きっとあの女性の主の元へ戻ったのでしょう。

しかし、さすが伝説の聖獣と呼ばれるペガサスです。
あの美しさ、気高さ、走る姿の神々しさ。それを目に出来て私は何と果報者なのでしょうか。







証言2
私は一番後ろの荷馬車に乗っていました。
前から盗賊が出たとの合図が来て、前の馬車に続いて馬車を止めました。
なんとかやり過ごせたらいいなと考えていたら、

「後ろからも来てるよ!」

この荷馬車に乗っていた女性の冒険者が声を張り上げました。
体格のいい戦士の男が前に立ち、魔術師の女性がその後ろに立ちました。
盗賊は3人のようです。

これならなんとかなるのではないかと、荷馬車の影から見ておりますと、戦いが始まりました。
戦士の男が突っ込んでいき、盗賊2人を相手にします。
1人は後ろに控えて、杖を振り上げています。どうやら魔術師があちらにもいたようです。
冒険者の女性も杖を翳し、魔力を練り、ファイヤーボールを打ち出しました。
あちらはウォーターボールを打ち出し、相殺されました。

そのまま何度か打ち合っていると、相殺しきれなかった炎の欠片が、運悪く戦士の方に当たってしまったのです。
その隙を突いて戦士は倒され、魔術師の女性も術が間に合わず男達に押さえ込まれそうになったその時、

「クアー!」

甲高い鳥の声が聞こえたかと思うと、幾つものファイヤーボールが飛んできて、辺りが爆炎に包まれました。
何事かと見上げると、そこにはあのグリフォン。なんと勇壮な姿でしょう。
怯んだ盗賊達を、上空からその鋭い爪や牙で何度も攻撃し、盗賊達を行動不能にしてしまいました。
盗賊達が動かなくなると、誇らしそうに前の馬車に戻って行ってしまいました。
さすがは獰猛と恐れられるグリフォンです。味方になるとこんなに心強いことはないでしょう。









証言3
私は真ん中の荷馬車に乗っておりました。
前の馬車から盗賊が出たとの合図を受け、前の馬車に続いて静かに馬車を止めました。
少しすると剣戟の音が聞こえ始め、

「後ろからも来てるよ!」

と後方から声が飛んできました。
どうやら挟み撃ちにされたようです。
でも今回雇った冒険者さん方は、頼りになりそうな方達だったので、私は大丈夫ではなかろうかと思っていました。

ちょっと不安なのは、私の馬車に付いている冒険者さん。
立派な従魔を3頭も連れた、本人はひ弱そうな女性の冒険者さんです。
ペガサスが前に駆けて行くのが見え、後ろにも少し遅れてグリフォンが来たことが分かりました。
前と後ろの助勢にでも行ったのかと思いました。

その時です。

横の森の中から、3人の盗賊達が飛び出して来ました。

「ひいっ!」

女性の小さな悲鳴が聞こえました。
やはり頼りにならなそうだと落胆し、ここでもうダメかもしれないと思いました。
女性が小さなナイフを一生懸命構えています。あんなナイフでどう立ち向かうというのでしょう。

ところが、

「うああああ?!」

盗賊達がツタに足を取られ、逆さまの宙づりになっているではありませんか。
女性を見ると、女性も呆気にとられていました。
その頭の上から緑の優しい光を放つ者が降りて行きます。
どうやら、あの妖精がやってくれたようです。
女性はへたり込んでしまいましたけれど。

少しすると、盗賊達も諦めたのか、気が抜けたように大人しくなりました。
その後、妖精がツタで盗賊達を縛ってくれました。なんと便利な力なのでしょう。
攻守に優れ、しかも妖精は癒やしの力に特に秀でていると聞きます。しかもあの可愛らしさ。
従魔にするなら是非とも妖精を従魔にしたいものです。











証言4
俺達はいつも通り獲物を見つけた。
ペガサスがいるとの情報も入ったが、どうせまやかしか張りぼてか。
何処かの街でペガサスを従魔にした冒険者が出たとか聞いたが、あれにはグリフォンも一緒だと聞いている。
見ればグリフォンはいない。つまり偽物だ。

手はず通りに配置し、奴らが来たら一網打尽。前後から襲い、油断した所を横手から襲う。
この手法で今まで上手くやって来た。
ちょっと厄介そうなのは先頭の荷馬車の剣士風の男か。それは俺が相手しよう。
準備が整い、やつらがやって来た。

話し合いなどで済むわけもなく、すぐに剣と剣を合わせ始める。
なかなか手強かった相手も、一瞬の隙を突いて態勢を崩した。あとはなし崩しだ。

そう思った時。

馬のいななきが聞こえ、俺達は風に押され、地面に転がされた。
何かと思って見上げると、そこには翼の生えた白い馬。

まさか、ペガサス、本物なのか?

疑問に思ったその目の端に、空を飛んでくる茶色い影を捕らえた。
あれは、グリフォン…。
俺達は手を出してはいけない相手に手を出してしまったことに気付いた。

慌てて撤退しようとしたが、馬が風を纏いながら駆けてくる。
馬に蹴られたらたまったものじゃないが、そこに風の力が加わると、それこそ死んでしまうかもしれない。
全力で逃げるも、すぐに追いつかれてしまい、何度も馬に轢かれた。

何度轢かれたか、気がつくと、俺は暗闇に立っていた。
そこには馬も馬車も部下達もいなくなっており、1人でポツンとそこに立っていた。
前も後ろも右も左も全て闇。
自分の体は何故かハッキリ見えるが、それ以外は何も見えなかった。

いつの間にそんな所に来たのか覚えておらず、とにかく何かないかと歩き始めた。
しかし、行けども行けども壁も果てもなく、同じ闇が広がるばかり。
前がダメなら横にでもと歩いて行くが、やはり端は見つからない。

そればかりか、いつからか、背後から何かが迫ってくるような、恐怖を感じ始めていた。
振り向いても何も見えない。音がするわけでもない。
だが、何故だろう、そこに何かいる感じがする。
歩きが早歩きになり、小走りになり、ついには走り始める。

ところがそれはどんどん迫ってきており、追いつかれそうになる。
必死に走り続けた。
足を止めたらそれに掴まってしまう。
恐怖で何度も足がもつれ、転んでしまうこともあった。すぐさま起き上がり、また走り出す。
疲れて、喉が渇いて、休みたくても、後ろからそれが迫ってくる。
訳が分からない恐怖に苛まされ、足を止めることも出来ない。
どこまでも広がる闇。どこまでも広がる空間。どこまでも追ってくる何か。

気が狂いそうになり、声を上げて走った。
助けてと叫んでも誰もいない。誰も答えない。
走り疲れ、とうとう動けなくなる。それでも這って進んだ。
それが追ってくる。止まったら追いつかれる。
その恐怖故に。

どれくらいそれから逃げ回っていたのだろう。
時間の感覚も分からなくなり、何処へ向かっているかも分からない。
ただ恐怖に駆られ、前へ進んでいる。
と、ふと気付くと、前方に、金に光る何かが見えた。
丸い満月の、中を満月より少し小さな黒丸がくり抜いているような、金の環のようなもの。
それが2つ。

目だ。

直感でそう思った。
誰かがこちらを見ている。
金の瞳が細められ、声が聞こえてきた。

「また同じような事をすれば、今度は永遠にここから出られないと思え」

その言葉を聞いた瞬間、俺は光のある場所へと戻ってきていた。

「ん? なんだ? 答える気になったのか?」

目の前に座る衛兵らしき人物が、こちらを睨み付けてきた。
ああ、人がいる。光がある。なんて素晴らしい…。

「ほら、早く答えろ!」

当たり前の光景に、涙が出て来た。
あそこから出られた。俺は助かったんだ…。
おいおいと泣き始めた俺に、衛兵が呆気に取られていた。

「おい、お前、何言ってんだ…」

訝しげに尋ねてくる衛兵に、俺は全てをぶちまけた。
あんな所にまた放り込まれるくらいなら、農奴だろうが鉱山奴隷だろうが、まだましだ!
心を入れ替えてまっとうに生きよう。一生奴隷の身分から逃れられないとしても。

あそこよりはまし!

俺は、初めて生きていることに感謝したのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...