異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

なでこなでこ

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「う~、よく寝た~!」
「気分はどうだ八重子」
「うん。すっきり!」

2日振りにすっきりと目覚める。

「てことで、クロ、抱っこさせなさい」
「何故そうなる」
「ずっと寝てたから、クロ成分が足りない」
「なんじゃそれは」
「クロォォォォォォォ!」
「イニャーーーーー!」

猫は逃げると素早い。しかし、部屋の中ならば人間に利があるってもんよ!
ガシッと捕まえ、お腹を上に、赤ちゃん抱っこで腕の中。はあ、可愛い…。
この態勢って猫の顔がよく見えるから好きなのよね。猫は不安そうな顔するけど。
可愛いお顔にスリスリスリ。頬ずりしまくる。
上に向けられ開けっ広げになっているお腹にも顔を突っ込む。
はあ、天国…。

「いい加減に下ろせ」

肉球で顔を押される。
なんのご褒美でしょう。
クロが嫌そうな顔になっていたので(最初からか)大人しく下に下ろしました。
もちろん、上からではなく、きちんと床近くまで下ろしてから腕を放す。これが正しい猫の下ろし方です。

「お腹空いた!」

リン!

リンちゃんも嬉しそうに飛んでいる。
早速朝ご飯を食べに行くことに。
クロが少し呆れてる顔してるけど、毎度の事ね。

「ヤエコさん、お体大丈夫ですか?」

食堂に降りると、ウララちゃんが笑顔で聞いてくる。

「うん。もう大丈夫! 朝ご飯よろしく!」
「はい」

くすりと笑いながら、ウララちゃんが厨房の方へ引っ込む。
席に座って食事が出てくるのを待ちながら、

(あれ? あたしいつウララちゃんに話したんだろ?)

思い返してみるも、話した覚えがない。

(半分寝ぼけながら言ったかしら?)

トイレに行ったり、シロガネ達に会いに行ったのも一応覚えてはいるが、何を話したのかまでははっきりとは覚えていない。眠くてそれどころでなかった。
考え込んでいたが、ウララちゃんが良い匂いを漂わせながら朝食を持って来ると、それもころっと忘れ、ご飯に取りかかった。
ご飯の方が大事です!









「ふあ~、食った食った」
「良く食べたの」
「コレの時は食欲も減退するからね~」

困ったものだ。

「シロガネとハヤテも2日も閉じこもりっぱなしだったから、退屈してたでしょうね~」
「どうかの。楽しんでいたかもしれんぞ」
「いやいや、動物が引きこもりなんて聞いたこともないよ」

人間は引きこもってるのが好きな人もいるけどね。
厩舎へと入って行く。

「おはよ~シロガネ…」

何故かシロガネが人の姿になっている。

「なんでその格好してるのよ。おかしな趣味の人に間違われるから馬…ペガサスの姿でいてよ」
「お、おはようである主。これは、その、事情があって…」

手を振ってなにやら言い訳。

「まったく、ハヤテが可哀相でしょ。おはよ~ハヤテ…」

ハヤテが入っている所を覗くと、ハヤテの姿はなく、何故か幼子が座っている…。
誰?

「あれ? ハヤテは? この子は?」
「あるじ~?」

首を傾げながら、その子が言葉を発した。
え?あるじ?

「え? あるじ? え?」
「あるじ~、はやてがんばった~」
「え? え? え?」
「その、主、それがハヤテであるのだ…」
「は? シロガネ?」
「その、ハヤテも、人化の術を覚えたいと言い出して…、まさか、こんなに早く習得してしまうとは思わなくて…」
「あるじ~」

その子がよっこらと立ち上がり、フラフラと歩き出す。今にもこけそうで…。

「あ、あぶ、あぶ、あぶな…!」

思わず駆け寄ると、良いタイミングでハヤテがよろめく。
咄嗟に抱き止める。

「は、ハヤテ?!」
「あるじ~」

子供ハヤテが腕の中でにこりと笑う。
は…!なんて天使…!
いえ、私はショタコンというわけではない!
でも、でも、この可愛さは…!
思わずきゅっと抱きしめて、頬ずり頬ずり。
あうう、なんて柔らかくてスベスベなほっぺ。

「くすぐった~い」

ハヤテがキャッキャッと笑う。
なんですかこの柔らかくて温かくて可愛らしい生き物は!

「あるじ、はやて、にんげんなった」

ちょっと誇らしげに話す子供ハヤテ。
その表情も可愛いです!
うう、今なら保母さんになる人の気持ちがよく分かるぜ。

「そっか~、凄いね~ハヤテ」

頭いい子いい子。

「えへ」

可愛い。

「あ…」
「ん? どした?」
「八重子、少し離れろ」

クロが後ろから服を引っ張るものだから、尻餅をついてしまった。
すると、ボフンと音がしたかは分からないが、ハヤテの姿があっという間に元のグリフォンの姿に戻る。

「クア!」
「まだ慣れていないので、そう長くは人の姿を保てぬのである」

シロガネがそう言った。
うん、ちょっと危なかった。頭ごつんこしてしまう所でした。

「そっか~。でもこっちの姿でもハヤテは可愛いものね~」

頭なでこなでこ。

「クア~」

ハヤテ嬉しそう。

「八重子、散歩に行く時間がなくなるぞ」

クロからストップがかかりました。ちょっとくらいいいじゃんね。





その時、八重子の頭の上からリンちゃんがいなくなったことに、八重子は気付いていなかった。

「え? リンも人化の術を覚えたい? 妖精に出来るのであろうか…」

またシロガネ教室が始まりそうであった。











「2人共、閉じこもりっぱなしだったから退屈だったでしょ。今日は森に散歩に行こう」
「主、体の方は良いのか?」
「完全に良いってわけじゃないけど、動けないわけじゃないし。下手すると動いてる方が楽だしね」

動いている方が気が紛れる。体が重いのがなくなるわけじゃないけど、他のことに気を取られている方が気持ち的に楽なのだ。

「まあ、ダメそうなら、我の背に乗っても構わないぞ」

シロガネがちょっと目を逸らしながら言った。
シロガネってちょっとツン?

「そうね。ダメそうならお願いするわ」

なんとなくシロガネが嬉しそうな気がするけど、馬の表情なんて私には分かりません。
いつもの通りに連れ立って、お馴染みの門を抜けていく。
ある意味顔を覚えられた私達(?)。あの助けてくれた衛兵さんが手を振ってくれる。
お馴染みの森の広場へと向かう。

「あ~、ここともお別れか~」

ここに最初に来た時はビビりまくってたものね。懐かしいなぁ。
再び自由時間にする。シロガネも羽を伸ばしてくると言って飛び立った。

「考えてみれば、あたし暇だわ」

シロガネとハヤテが空に行っちゃったら、私暇じゃないか。
寝っぱなしだったから、さすがに眠くもないし。

「まあいっか。薬草でも摘んでいこうかな」

久々薬草採りに精を出すことに。これも久々だわ~。
キョロキョロ探すと、おっと、見つかりましたよ。まだ採ってない奴いたのね~。
ナイフでもってざっくり土を掘って、抜いて土を払う。
おや、リンちゃんが頭の上から降りてきました。

リン?

不思議そうな顔をしている。

「へへへ、これは薬草を採ってるのよ。これを持ってギルドに行くと、少しだけどお金が貰えるの」

と手に持っている薬草を見せる。
じっと見ていたリンちゃんが、フワリと飛び立つ。
蜜でも飲みに行くのかな?

リンリン!

薬草を鞄にしまっていると、リンちゃんの声?音?
呼ばれている気がして、リンちゃんの元へと早足。

「どうしたのリンちゃん?」

リン!

リンちゃんが草を掴んでいる。見れば薬草ではないか。

「おお、リンちゃん凄い! 薬草を探せるんだね」

指で頭をいい子いい子。リンちゃん小さいからね。

リンリン!

「ほお、リンはどこにどんな植物が生えているか分かるのか。便利な能力だの」
「え! 凄くない?!」

リン?

凄いのよ。

その後、リンちゃんのアシストもあり、なんと短時間で薬草30本。なんと便利な能力。
食べられる草やキノコなども分かるとか。なんて有り難い能力。
これで私に料理スキルがあれば、野宿もへっちゃらなのに…。
ここに来てへっぽこ料理の腕に苦悩するとは…。もう少しお母さんの手伝いしておけば良かった。

シロガネがフワリと帰って来て、そこらの草を食べ始める。
どこまで飛んで来たのかと問えば、近くをグルグル回っていただけと。そうよね。従魔紋があるからそんなに遠くに行けないんだっけ。
はて、ハヤテはどこまで行ったんだろう?
そのままみんなでまったりする。いいね、この空気。

そんな時、

ドサッ!

空から何か降ってきました。

「クア!」

続いてハヤテが降りてきました。

「ハヤテちゃん?」
「クア!」

嬉しそうに駆け寄ってくるハヤテ。その向こうには、なんか、豚面の人間ぽいのがいるんだけど…。
駆け寄ってきて、じっと私の顔を見つめる。あ、これ、猫が獲物取って来た時の顔。



クロも半野良生活していた(時々脱走していた)ので、時折お土産を持って家に帰ってくることがあった。その時の、ドヤ顔。
しかし、その足元には、何かの死骸…。人間にとってはあまり嬉しくない。
でも、でも!そこは褒めねばなりません!
きちんと褒めて、頭ナデナデして、こっそり庭に埋めてました。ゴメンねと一言謝りながら。
猫が獲物を持って来るのは、母親が子猫に餌を与える為とか(うちのクロさんはオスだけから違うけど)、獲ったものを見せびらかしたいとか、いろいろ言われてるけど、真実は猫の中。決して叱ってはいけないというのが定説です。



なので、ハヤテも褒めまくります。

「お~、ハヤテ~。凄いね~。大きいの獲ってきたね~」

なでこなでこ。

「クア~」

嬉しそうなハヤテ。
でも、これどうしろと?
ぱっと見、これ、オークってやつじゃね?
見た感じ、完全に事切れてはいるみたい。良かった良かった。

「これって、ギルドで買い取ってくれるよね?」
「大丈夫だの。これの肉は美味いらしいの」
「やはり豚…」

帰ることにしました。
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