異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

ガッデム!皆無!

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その後興奮したお爺さんに事情を聞かれ、これまでのことを簡単に話、「是非研究に協力を…」と言われたけどそれは丁寧に辞退させて頂いて(シロガネとハヤテが嫌そうな顔をしていたので)、やっとこ家の中に入れてもらった。

「いや、伝説とも言われるペガサスや、超希少な妖精を見れるとは。お嬢ちゃんに感謝せねばならんのう」

一番最初に会った時の頑固爺はどこへやら。嬉しそうに笑うお爺さんが目の前に。
人間てここまで変わるんだねえ。
思ったよりも片付いている家の中(床が見えているということで)、一番物が溢れている部屋へと案内される。
研究室か?

「グリフォンは珍しくないんですか?」
「グリフォンも珍しくはあるが、ワシも一度お目にかかったことはあるのう。あの時は岩陰に隠れて、必死に見つからないようにして逃げたんじゃったのう」

なんか遠い昔の話っぽい。やばい、年寄りの昔話は長いと相場が決まっている。

「それよりも、魔法の方なんですけども」
「おお、そうじゃそうじゃ。お嬢ちゃんにはしっかりワシが教えてやろう」

ギルドマスターの紹介状いらなかったか?
まずは自分の中にある魔力を感じなければならない、ということで。
今お爺さんと手を合わせている。
よくある、お爺さんの魔力を私の中に流して、魔力を感じられるようにするというアレである。

「どうじゃ?」
「なんかあったかい感じはしますけど」
「結構流してるんじゃがのう」
「う~ん」

全く分からん!

「もしかしたら、才能が皆無…」
「え? なんですって?」
「い、いや、なんでもないぞ」

お爺さんが慌てたように手を振る。
なんか才能が皆無って聞こえた気がするんだが…。
その後もいろいろ試してみたが、

「その、な。魔法が使えない人も結構いるのでな…」
「でも皆簡単な魔法くらいは使えるのでは?」
「まあ、そうなんじゃがの」

くそ!やはりそうだったか!
ここまで使えないというか魔力を感じない人も珍しいとか。
つまりは才能が全くない。
ガッデム。
一番楽しみにしていた魔法が使えないなんて…。かなりショック。

「その、な、今までにやったことを日々コツコツ鍛錬すれば、片鱗くらいは見えるかもしれんでのう…」

慰められました。










大分時間が経っていたので、お暇することに。
お礼に料理でもなんて、出来ないよ?私に料理のスキルを期待してはいけない。

「気が向いた時にでもまた来ても良いぞ」
「それはペガサス目当てで?」
「出来ればワシの研究の手伝いを…」
「しません」

そんな恐ろしい事にうちのシロガネは貸し出せません。何をすることやら。
庭で遊んでいた2頭も、私が出てくるとすぐに寄ってきた。

「ペガサス…、グリフォン…」

名残惜しそうに見送ってくれました。
敷地の外にちょっと人だかりが出来てたけど、お爺さんが蹴散らしてくれました。
というか近づいただけで人が逃げてくって…。普段何してんのよ?



目立つ2頭を引き連れて、トボトボ宿へと帰る。

リィン…

リンちゃんも心配してくれてるらしい。

「ありがとうリンちゃん。しかし、私の希望はズタズタですよ。せっかく異世界に来たってのに、定番の魔法を全く使えないとか。どちくしょう」
「全く感じられんとは。笑うしかないの」
「クロさん、高い高いしてあげよう。たかいたか~い!」
「やめい!」

高い高いするとお手々とあんよがパーッとなって可愛いのよね。
でも猫は高い高いが嫌いです。高い所が好きと言っても、それは自分の足で行ける所までです。木の上などで降りられなくなって鳴いている子は、勢いなのか間違えたのか、自分の許容範囲を超えてしまった子です。できたら助けて上げて下さい。

そして、高い高いをする場合、間違えても放り投げたり手を放したりしてはいけません。
爪を全開で出した猫が降ってくることになります。最悪顔の上に。
クロが肩にしがみついてくる。
爪がちょっと痛いけど、このフィット感堪りません。

「八つ当たりもほどほどにするのだ」
「クロが可愛くて…」
「今の行動に可愛がる様子はなかったがの」

可愛い子ほどいじりたくなるというやつです。

「あ、主、魔法なら我が使えるのであるから、心配はないぞ」

そういうことじゃないのよ。自分で使うからいいのよ。

「クウ?」
「ハヤテも慰めてくれるの? ありがとうね~」

頭を撫でようとして、ハヤテがビクリとなる。
おっと、怖かったかな?
開いた手を軽く閉じ、鼻の前に…って鳥の鼻ってどこ?!
恐がるにゃんこだったら軽く手を閉じて鼻の前に差し出せば、それで匂いを嗅いでくれるのだけど…。鳥の場合はどうしたらいいのだ?

分からないので、嘴のちょっと上に手をそ~っと近づけ、そのままゆっくり頭へ。
ちょっとずつちょっとずつ、ナデナデナデ。
くうう…、この羽毛の感触…。クロのお腹並に気持ち良いんですけど!!
あ、ちょっと気持ちよさそうにしてる。よし、この隙にいっぱいナデナデしちゃろう。
ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ・・・

「八重子、日が暮れるぞ?」

足が止まってました。

「あ、主、我の鬣も撫でても良いのだぞ?」
「固そう」
「主?!」

シロガネ、撫でて欲しいの?
そういえば、馬ってブラッシング好きなんだっけ?馬用のブラシってあるのかしら?
そーだ。ウララちゃんに聞いてみよう。

「シロガネ、ブラッシングして欲しい?」
「ま、まあ、主ならば、許してやっても良いぞ」
「じゃあいいか」
「いや! 主ならば我に触れても良いと…! だから…!」

必死です。

「ブラシがあればね。ウララちゃんにそこら辺も聞いてみよう」

ちょっとがっくりとなったシロガネ。
シロガネも実は意外に構ってちゃんなのか?










宿に着いて、2頭を厩舎に入れる。
明日は出かけるから良く休んでねと声を掛け、宿の中へ。
丁度ウララちゃんがおりました。というか、そろそろ夕飯の時間。
少し忙しそうだったけれど、料理を運んで来た所に声を掛ける。

「ウララちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんですか?」
「え~と、うちのペガサスにね、ブラッシングしてあげたいと思うんだけど、馬用のブラシとかってあるのかしら?」
「ペガサスの…、ブラッシング…?!」

目がかっと開いたよ。ちょっと怖いよ。

「ももちろん、あありますよ。ブブブラッシングされるんですね。今までにされたことは?」
「ないよ~」
「では! 私がまず始めに手ほどきをお教え致しましょうか?!」

近い、近いよウララちゃん。

「そ、そうだね…。教えてもらおうかな?」
「かしこまりました! 私が最高のブラッシングをお教え致しますね!」

ウララちゃん、すんごい嬉しそう。
シロガネ、私じゃないけど、嫌がらないかしら?説得すれば大丈夫かな?
明日の朝一で教えてもらうことになりました。
その後ウララちゃん、お仕事張り切ってました。そんなに嬉しい?











朝起きて、いつも通りクロと一コントやらかして、リンちゃんを頭に乗っけて朝食へ。

「ヤエコさん、食べ終わったら少し待ってて下さいね!」

ウララちゃんが朝からルンルンでした。
厩舎の所で待っていると、ウララちゃんが走ってやって来ました。手にはブラシ持ってます。すでにスタンバイ状態か。
嬉しそうなウララちゃんを連れて、シロガネの所へ。

「おはよう2人とも」
「おはよう主」
「クア」
「お、おはようございます!」

ウララちゃんもビックリしながら挨拶。

「ん? 宿の娘か。その娘を引き連れてどうしたのだ主」
「それがね、シロガネに相談なんだけど」

かくかくしかじか。

「ぬう。主以外の者が我に触れるのか…」
「ウララちゃんの技を覚えたら私がいっぱいやってあげるから」
「ぬう…。まあ、主の頼みだからな」

渋々って感じだったけど、了承してくれました。

「ペ、ペガサス様! し、失礼致します!」

なんだかやたら畏まって、ウララちゃんがシロガネの体に触れて、ブラシをあてがう。

「うむ。主の頼みだ。触れることを許そう」
「あ、ありがとうございます!」

嬉しそうにブラッシングを始めるウララちゃん。
なるほどなるほど。基本は猫のブラッシングと変わらないか?

「さすがはペガサス様です。なんと美しい毛並みなのでしょう」
「ふむ。娘、もう少し上だな」
「こちらでしょうか?」
「うむ。よかろう」

気持ちよさそうではないかシロガネ。
これからも時々ウララちゃんに頼もう。ウララちゃんも嬉しそうだし。ウララちゃんのモフ欲も、これで少しは発散されるのでは無かろうか?







ウララちゃんが満足するまでブラッシングは続き、私は暇なので隣のハヤテの頭を撫でたりしていた。
ハヤテも大分私に慣れてきたようで、そろ~と手を伸ばすと、頭を突き出してきた。
かわゆい奴め。
ブラッシングが終わると、うん、なんだか毛並みが良くなった気がする。気がするだけだけど。

「またお願いしても良いかな?」
「もちろんです!」

ウララちゃんが嬉しそうに戻って行った。ルンルン的な感じが後ろ姿でも分かったよ。

「主はしてくれないのか?」
「頑張って練習するよ」
「ならば良かろう」

やっぱり構ってちゃん。
さてでは行こうかとなったら、クロから注意が入りました。

「八重子、何も用意もせんで行くつもりかの?」

そういえばそうだね。
まずは買い出しに行かないとね。
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