異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

わわわわ私

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眼を覚ますと、首元に何やらひんやりとしたものが。
見たいのだけど、首を動かすわけにもいかず、顔だけ動かすにも顎が当たってしまうかもしれない。
なんとか視線だけを動かすと、ギリギリ緑色の仄かな光が見えた。
こ、これは…、妖精さん?
寝ている間に何があったのだろう?
動くに動けず視線だけを彷徨わせていると、気付いたのか起きたのか、首元からひんやり感がなくなった。
緑色のものが慌てたように鳥籠へと入って行った。

「妖精さん?」

入り口の所から、座敷童のように顔をちょっと出し、妖精がこちらを見てくる。
おおおお…、妖精さんが顔を覗かせてくれてるぞ。
嬉しくて涙がチョチョ切れそうになる。じ~ん…。

「ぬ、起きたか八重子」

定位置の左脇から、可愛い黒い顔が覗いた。

「く、クロ…。妖精さんが…」
「うむ。少し慣れたようだの」
「うあああああ、嬉しいにゃあ」

怯えて丸くなっていた子猫が、顔を見せて手の臭いを嗅いでくれたくらいに嬉しい。

「んふんふ。首元にいたぁ」
「気持ち悪いぞ八重子」

デレデレしてたらクロからツッコミ。酷くない?
上体を起こし、

「おはよう、妖精さん」

と語りかけると、

リィン…

と鈴が鳴るような音がした。

「お? 今の? お? 妖精さんの言葉?」
「のようだの」

つまり、おはようと返してくれた?
やべ、嬉し過ぎっす…。
嬉しさのあまり、口元を押さえながら小さく身悶え。
クロの冷たい視線にも萌え。
妖精さんがちょっと入り口から体を出し、こちらの様子を見ている。
おおお、興味津々ですね!
急いては事をし損じる、急いではダメです。
何気なさを装い(バレバレかもしれないけど)朝の身支度。
朝食摂ったらまずはタライ風呂です。近頃遅かったので朝風呂にしてましたので。

「朝ご飯食べてくるね」

そう言って部屋を出ようとすると、

リィン

おや、籠から出て来てくれましたよ。
フラフラと宙を飛んでいる。なんとなく何か迷っているよう。

「お主のしたいようにすればよい」

クロが腕の中からなにやらアドバイス。
いつの間に仲良くなったの?
おずおずと近づいて来る。うん、これ近寄ってみたいけど怖いなぁって感じだね。
なんとなく反射的に手を伸ばしてしまう。
猫さんへの挨拶は、まずは自分の手の匂いを嗅いでもらうことから始めるので、つい。
伸ばされた手にビクッとなり、またちょっと距離が離れる。
あ、手はやばかったかな?怖かったかな?
どどどどうしたらいいのかしらと、伸ばした腕を引っ込めることも出来ず、オロオロしていると、妖精さんが恐る恐る近づいて来る。

私は棒だ!そこら辺に生えてる木だ!

トンボじゃないって。
とにかく動かないようにじっとしていると、指先にちょん、と触れる感触。
見れば、指先に手を乗せ、こちらを怖々見つめている妖精さん。

わわわわ私はぼぼぼ棒だだだだだ。

可愛すぎて頭がパニックだよ。
するとフワリと飛んで、私の頭の上にちょこんと乗っかる感触。
おっふ。可愛いけどそこじゃ姿見れません。

「そこで大丈夫? これから人がちょっと多い所に行くけど?」

語りかけたけど、動く様子はない。

「まあ、いざとなったら、我が輩がどうにかしよう」

クロ様から有り難いお言葉を頂き、なんとかなるかと、部屋を出て下へと降りていった。
いつもの通り、食堂は大分人が引けた後のようで。
やっぱり起きるの遅いのかしら?
空いている席に座ると、ウララちゃんが私に気付いてくれた。

「おはようございますヤエコさん…。!!!」

ウララちゃんの顔が赤く染まる。
興奮からか?怒ってるわけじゃないよね。

「や、や、や、ヤエコさん…、そ、そ、そ、その、頭の子は…」
「やっと少し慣れてくれたようでね。でもまだお触りは禁止よ」
「ううう…。だ、大丈夫です。その辺りはしっかりと…」

苦しそうですが。
可哀相なのでクロをちょっぴり貸し出しました。
クロ、そんな嫌そうな顔しないで。
クロでちょっぴりモフ欲を満足させたのか、妖精さんをチラチラ見ながらも、テキパキ仕事をこなしていく。さすが看板娘。ここは看板娘1人です。
他のお客さんとかにもいろいろ言われそうだなと思ったけど、どうやらクロが気を利かせてくれたようで、他の人には妖精さんは見えないようになっているようだった。
クロさん万能。
お食事終えて、タライを借りて、部屋で簡単に湯浴み。
ここでクロのチート技を実は使わせてもらってます。
足元のお湯を宙に浮かべ、簡易シャワー。しかも周りに飛び散らない。
マジクロさん万能。
タライを返した後は、頼んであったお昼をもらって(今日から賄い飯がない。残念)、厩舎へ。

「おはよう、ペガサスさん、グリフォンさん」

朝の挨拶。

「ん? ほう、妖精を手懐けたか」

ペガサス、第一声がそれ。おはようくらい返してよ。
グリフォンはそっぽ向いたままだ。まあ、ずっとこの中だったしね。

「窮屈だったでしょ。だから街の外まで文字通り羽を伸ばしに行こう。今日は仕事も休みにしたし」

こういう時冒険者は休みを適当に決められて楽だわ。まあ、金銭的に余裕があればの話だけどね。
柵を外して、2頭に出て来てもらう。
ペガサスはまあ元気そうな足音。
でもグリフォンは、足を引きずるような重い足音。
う~ん、元気ないなぁ。
外に出られるというのに、嬉しさが欠片も感じられないのだなんでだろう?
不思議に思いながらも、皆で連れ立ってギルドへ向かった。
ギルドに行ってから思った。

ペガサス達は目立つのだから、ギルドに先に行って、あとで迎えに来たら良かったのではないかと…。
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