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黒猫と共に迷い込む
猫耳亭
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「八重子、ちょっと試してみたいことがある」
「うん? 何?」
「もそっと難しい本を開いてみてくれ」
クロさんからリクエストがありました。
ちょっと移動して、難しそうな本を手に取ってみる。
ぱらりと中を開いてみるが、何が書かれているのかさっぱり分からない。
「ふむ。できるかの? 八重子、ちょっと頭の中に映像が流れるかもしれぬぞ」
「ほえ?」
すぐに、何か映像が流れ始めた。紙芝居のように場面が転換していく。
「おお? これは何かの物語っぽい」
「ふむ。まだまだ難しいかの」
「何これ? 何これ?」
「我が輩が集めた情報だの。文字を映像にして捉えたものだの。まだまだ足りぬの」
「そんな裏技があったの?!」
「我が輩は文字に触れることがなかったからの。文字を意味として捉えることはできぬ。
なんとか色々な人間の頭の中から知識を取りだして映像にしているのだが、細かい描写は難しいの」
「こんなことできるなら、もう文字を覚えなくても…!」
「細かい描写はできぬと言っとるだろうが。引っかけのような文章があったとしても、そこを映像化できるかは分からぬよ」
「むうう」
「迷い人関連の書物を探すには役に立つだろうが、契約書などの書類には役に立たぬだろう。勉強は続けることだの」
「うへい。う~、言語チート能力欲しい…」
「会話できるだけましであろうが」
そうなんですけどね。
時間の限り色んな本をパラパラと捲ってみたけど、迷い人関連の本は見つからなかった。
まあ一部しか見てないし、また見に来よう。
日も傾いてきたし、そろそろ夕飯じゃと、図書館を出た。
夜の闇に包まれ、八重子の健やかな寝息が規則正しく聞こえ始めた頃。
むくりと黒い影が動き、昨日と同じように窓の外へと消えていった。
目を開ける。
朝の光が差し込んできている。
左の脇にある温かな柔らかい塊。
黒い毛並みを優しく撫でると、クロが少し顔を動かし、ゴロゴロと言い始めた。
おおお、甘えた病が発症しましたね!
そのまま優しく撫で続ける。
しばらくゴロゴロ言っていたが、だんだん小さくなり、おっと、聞こえなくなった。
「ぬう。起きておったのか八重子」
「おはよう。クロ。今日も可愛いね」
「当然のことだの」
もそりと起き出すクロを、ガバリと抱きしめる。
あああ!この感触が!抱き心地が!柔らかさが!毛があああああ!!
「朝から鬱陶しい奴だの…」
クロの嫌そうな呟きがまたごちそうさまです。
「おはようございます」
「おはようございます」
いつものようにギルドにやって来て、いつものようにエリーさんの所へ。
ふと思ったんだが、私もしかして、来るの遅いのかな?
毎度あまり混んでないのはそういうものかと思ってたんだけど、他の冒険者の人達ってもっと朝早いのかしら?
だから毎度仕事がない…?いやいや、考えすぎだよ。きっと。
朝食も行くと大体の人が終わる頃だなんて、気にしすぎだよきっと。
「おっと、先に単語帳お返しします」
「あら、もう良いんですか?」
「なんとか全部写し終えたんで、これからはそれを見ながら勉強します」
「写し終えた? 石版か木版でも買って書いたのですか?」
「いえ、紙に、ですけど」
石版や木版もあったのか。紙しか見てなかったよ。
「・・・・・・」
「何か変ですか?」
「いえ、勉強法としては間違ってないんですけど…。ヤエコさん、以前何か誰かから勉強を教えてもらってました?」
「はあ、まあ、少し」
義務教育を9年とプラス3年ほど。
「だからですか。納得しました。いきなり紙に書くなんて経験のある方でないとできませんものね。高いし間違えると大変だし」
うん。高かった。そうか、普通は紙を買わないのか。でも石版とか木版だと嵩張りそうだし重そうだし…。まあいいか。
「ええと、それで、今日は何かできそうなのありますか?」
「ああそうそう、ヤエコさん、ピンチヒッターで一週間ほど給仕の仕事をやりませんか?」
給仕?ウェイトレス?冒険者ってそんなのもやるのか。本当に何でも屋派遣会社だな。
「給仕のお一人が足を捻挫してしまって、しばらくお店に立てないそうなのです。
仕事斡旋所の方に人の募集をかけたのですけど、急には集まらないらしくて。
とにかく誰でも良いからとギルドの方にも回ってきたんですよ。
できれば女の子がいいとのことで、大概の女性冒険者はパーティを組まれてしまって、一人だけ抜けるというのも難しいですから、ヤエコさんが丁度良いと思いまして」
「冒険者って何でもするんですね」
「仕事斡旋所の方はやはり長期的で安定的な仕事を希望する方が多いですからね。
短期的な仕事だと、冒険者の方に振ってくることもあるんですよ。いかがですか?」
「うん。面白そうだし、やります」
「かしこまりました。では受付致します。こちらは1日で1依頼となりますので、7日働いて頂けますと、7依頼完了になります。そうなると、ヤエコさん、ランクアップになりますね」
「おお! ランクアップですか。できる仕事広がるんですか?」
「基本は…、Gと然程変わりません。討伐系ができないとなると…。ほとんど変わりません」
また薬草集めかね!
報酬は1日銀貨8枚。
およそ時給1000円の仕事かな?
お店の名前は〈猫耳亭〉。良い名前じゃないか。
仕事は昼から夜までらしい。うん。お食事時間ですね。
教えられた所へ行ってみると、周りと然程変わらない大きさの建物。入り口に看板が掛かっている。〈猫耳亭〉と書いてあるのだろう。
扉を開けて入ってみる。
テーブルの上に椅子が逆さまに乗せられている。掃除でもしているのだろうか。
「すいません。まだ開店してないんですけど」
厨房らしき所から、女の子が出て来た。
濃紺の髪に少しきつめだが深い青い瞳。美人と言うより可愛い感じ。
着ている物は・・・メイド服に見えるんだけど・・・。
「えと、ギルドから紹介されて来たんですけど。給仕の短期の仕事って」
「ああ! お手伝いの方ですね! 良かった! もう諦めようかと思ってました!」
嬉しそうに手を叩くと、側に寄ってきて私の手を掴む。
「こちらへどうぞ。従業員、といっても私と料理人2人と、あと怪我で動けなくなった1人しかいないんですけど。紹介しますね!」
慌ただしく厨房の方へ引き摺られて行く。
厨房には二人の男性がいた。
一人は40歳くらいの茶色い髪に素敵な顎髭のおじさま。もう一人はそれを若くした感じの青年。親子か?
「私はキシュリー。ここの看板娘です。おじさんの方がマッド。若い方がデューダ。この二人が料理担当してます」
「誰が看板娘だ。自分で言うか」
「可愛いからいいんです」
青年と女の子、デューダとキシュリーが睨み合う。なんかいつものじゃれ合いっぽい感じで微笑ましい。
「私は八重子です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。人手がないから今日は店を開くのを諦めようかと思ってた所なんだ。来てくれてありがとう」
マッドさんが手を出してきたので握り返す。大きな手だ。
「君、噂の猫を連れた冒険者? なんかぴったりの人が来たね」
デューダが笑いかけて来た。
「どんな噂かは知りませんけど、多分そうです。あの、お仕事中、クロはお店にいない方がいいですか?」
近くにいないと翻訳機能が心許ないんだが。
でも飲食店だと大概猫や犬はダメだよね。
「大丈夫よ。ここにも看板猫のチャーがいるから」
「看板猫?」
看板猫ってことは、猫がいるのか?!どんな子だ?!
「案内するわ。こっち来て」
キシュリーがお店の方へと歩き出す。
その後ろから付いていくと、カウンターの隅の方にある籠をキシュリーが指さした。
「お店が開く頃になると、チャーがあそこで丸くなるはずだから。今はお散歩にでも行ってるんじゃないかしら」
自由な猫がおりました。
どうやら常連さんなどに可愛がられているらしい。
チャーちゃんとクロを会わせてみないと仲良くできるかは分からないけど、クロ用の籠も用意してくれました。ありがたや。
クロにはそこに入ってもらって具合を確かめてもらって、私は仕事の説明を受ける。
注文を受けるのはできないから、主にやる仕事は配膳と空いた皿の片付け。
昼時と夜が混むとのこと。
夜は酔っ払いが増えるけど、この店はそこまで失礼な客はあまりいないからと苦笑い。
少しはいるのか?
制服だと渡された衣装は、キシュリーと同じメイドさんのような服。黒が基調の白いエプロンが付いたもの。う~ん、コスプレみたいだ。
そして、もう一つ付属品が。
頭に付けるカチューシャ。ただし、三角のもふっとした飾り付き。
誰だ?!猫耳なんて文化を持ち込んだのは?!
「うん? 何?」
「もそっと難しい本を開いてみてくれ」
クロさんからリクエストがありました。
ちょっと移動して、難しそうな本を手に取ってみる。
ぱらりと中を開いてみるが、何が書かれているのかさっぱり分からない。
「ふむ。できるかの? 八重子、ちょっと頭の中に映像が流れるかもしれぬぞ」
「ほえ?」
すぐに、何か映像が流れ始めた。紙芝居のように場面が転換していく。
「おお? これは何かの物語っぽい」
「ふむ。まだまだ難しいかの」
「何これ? 何これ?」
「我が輩が集めた情報だの。文字を映像にして捉えたものだの。まだまだ足りぬの」
「そんな裏技があったの?!」
「我が輩は文字に触れることがなかったからの。文字を意味として捉えることはできぬ。
なんとか色々な人間の頭の中から知識を取りだして映像にしているのだが、細かい描写は難しいの」
「こんなことできるなら、もう文字を覚えなくても…!」
「細かい描写はできぬと言っとるだろうが。引っかけのような文章があったとしても、そこを映像化できるかは分からぬよ」
「むうう」
「迷い人関連の書物を探すには役に立つだろうが、契約書などの書類には役に立たぬだろう。勉強は続けることだの」
「うへい。う~、言語チート能力欲しい…」
「会話できるだけましであろうが」
そうなんですけどね。
時間の限り色んな本をパラパラと捲ってみたけど、迷い人関連の本は見つからなかった。
まあ一部しか見てないし、また見に来よう。
日も傾いてきたし、そろそろ夕飯じゃと、図書館を出た。
夜の闇に包まれ、八重子の健やかな寝息が規則正しく聞こえ始めた頃。
むくりと黒い影が動き、昨日と同じように窓の外へと消えていった。
目を開ける。
朝の光が差し込んできている。
左の脇にある温かな柔らかい塊。
黒い毛並みを優しく撫でると、クロが少し顔を動かし、ゴロゴロと言い始めた。
おおお、甘えた病が発症しましたね!
そのまま優しく撫で続ける。
しばらくゴロゴロ言っていたが、だんだん小さくなり、おっと、聞こえなくなった。
「ぬう。起きておったのか八重子」
「おはよう。クロ。今日も可愛いね」
「当然のことだの」
もそりと起き出すクロを、ガバリと抱きしめる。
あああ!この感触が!抱き心地が!柔らかさが!毛があああああ!!
「朝から鬱陶しい奴だの…」
クロの嫌そうな呟きがまたごちそうさまです。
「おはようございます」
「おはようございます」
いつものようにギルドにやって来て、いつものようにエリーさんの所へ。
ふと思ったんだが、私もしかして、来るの遅いのかな?
毎度あまり混んでないのはそういうものかと思ってたんだけど、他の冒険者の人達ってもっと朝早いのかしら?
だから毎度仕事がない…?いやいや、考えすぎだよ。きっと。
朝食も行くと大体の人が終わる頃だなんて、気にしすぎだよきっと。
「おっと、先に単語帳お返しします」
「あら、もう良いんですか?」
「なんとか全部写し終えたんで、これからはそれを見ながら勉強します」
「写し終えた? 石版か木版でも買って書いたのですか?」
「いえ、紙に、ですけど」
石版や木版もあったのか。紙しか見てなかったよ。
「・・・・・・」
「何か変ですか?」
「いえ、勉強法としては間違ってないんですけど…。ヤエコさん、以前何か誰かから勉強を教えてもらってました?」
「はあ、まあ、少し」
義務教育を9年とプラス3年ほど。
「だからですか。納得しました。いきなり紙に書くなんて経験のある方でないとできませんものね。高いし間違えると大変だし」
うん。高かった。そうか、普通は紙を買わないのか。でも石版とか木版だと嵩張りそうだし重そうだし…。まあいいか。
「ええと、それで、今日は何かできそうなのありますか?」
「ああそうそう、ヤエコさん、ピンチヒッターで一週間ほど給仕の仕事をやりませんか?」
給仕?ウェイトレス?冒険者ってそんなのもやるのか。本当に何でも屋派遣会社だな。
「給仕のお一人が足を捻挫してしまって、しばらくお店に立てないそうなのです。
仕事斡旋所の方に人の募集をかけたのですけど、急には集まらないらしくて。
とにかく誰でも良いからとギルドの方にも回ってきたんですよ。
できれば女の子がいいとのことで、大概の女性冒険者はパーティを組まれてしまって、一人だけ抜けるというのも難しいですから、ヤエコさんが丁度良いと思いまして」
「冒険者って何でもするんですね」
「仕事斡旋所の方はやはり長期的で安定的な仕事を希望する方が多いですからね。
短期的な仕事だと、冒険者の方に振ってくることもあるんですよ。いかがですか?」
「うん。面白そうだし、やります」
「かしこまりました。では受付致します。こちらは1日で1依頼となりますので、7日働いて頂けますと、7依頼完了になります。そうなると、ヤエコさん、ランクアップになりますね」
「おお! ランクアップですか。できる仕事広がるんですか?」
「基本は…、Gと然程変わりません。討伐系ができないとなると…。ほとんど変わりません」
また薬草集めかね!
報酬は1日銀貨8枚。
およそ時給1000円の仕事かな?
お店の名前は〈猫耳亭〉。良い名前じゃないか。
仕事は昼から夜までらしい。うん。お食事時間ですね。
教えられた所へ行ってみると、周りと然程変わらない大きさの建物。入り口に看板が掛かっている。〈猫耳亭〉と書いてあるのだろう。
扉を開けて入ってみる。
テーブルの上に椅子が逆さまに乗せられている。掃除でもしているのだろうか。
「すいません。まだ開店してないんですけど」
厨房らしき所から、女の子が出て来た。
濃紺の髪に少しきつめだが深い青い瞳。美人と言うより可愛い感じ。
着ている物は・・・メイド服に見えるんだけど・・・。
「えと、ギルドから紹介されて来たんですけど。給仕の短期の仕事って」
「ああ! お手伝いの方ですね! 良かった! もう諦めようかと思ってました!」
嬉しそうに手を叩くと、側に寄ってきて私の手を掴む。
「こちらへどうぞ。従業員、といっても私と料理人2人と、あと怪我で動けなくなった1人しかいないんですけど。紹介しますね!」
慌ただしく厨房の方へ引き摺られて行く。
厨房には二人の男性がいた。
一人は40歳くらいの茶色い髪に素敵な顎髭のおじさま。もう一人はそれを若くした感じの青年。親子か?
「私はキシュリー。ここの看板娘です。おじさんの方がマッド。若い方がデューダ。この二人が料理担当してます」
「誰が看板娘だ。自分で言うか」
「可愛いからいいんです」
青年と女の子、デューダとキシュリーが睨み合う。なんかいつものじゃれ合いっぽい感じで微笑ましい。
「私は八重子です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。人手がないから今日は店を開くのを諦めようかと思ってた所なんだ。来てくれてありがとう」
マッドさんが手を出してきたので握り返す。大きな手だ。
「君、噂の猫を連れた冒険者? なんかぴったりの人が来たね」
デューダが笑いかけて来た。
「どんな噂かは知りませんけど、多分そうです。あの、お仕事中、クロはお店にいない方がいいですか?」
近くにいないと翻訳機能が心許ないんだが。
でも飲食店だと大概猫や犬はダメだよね。
「大丈夫よ。ここにも看板猫のチャーがいるから」
「看板猫?」
看板猫ってことは、猫がいるのか?!どんな子だ?!
「案内するわ。こっち来て」
キシュリーがお店の方へと歩き出す。
その後ろから付いていくと、カウンターの隅の方にある籠をキシュリーが指さした。
「お店が開く頃になると、チャーがあそこで丸くなるはずだから。今はお散歩にでも行ってるんじゃないかしら」
自由な猫がおりました。
どうやら常連さんなどに可愛がられているらしい。
チャーちゃんとクロを会わせてみないと仲良くできるかは分からないけど、クロ用の籠も用意してくれました。ありがたや。
クロにはそこに入ってもらって具合を確かめてもらって、私は仕事の説明を受ける。
注文を受けるのはできないから、主にやる仕事は配膳と空いた皿の片付け。
昼時と夜が混むとのこと。
夜は酔っ払いが増えるけど、この店はそこまで失礼な客はあまりいないからと苦笑い。
少しはいるのか?
制服だと渡された衣装は、キシュリーと同じメイドさんのような服。黒が基調の白いエプロンが付いたもの。う~ん、コスプレみたいだ。
そして、もう一つ付属品が。
頭に付けるカチューシャ。ただし、三角のもふっとした飾り付き。
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