異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

文字の大きさ
上 下
9 / 194
黒猫と共に迷い込む

否が応でも視線が集まる

しおりを挟む
今日の成果は角ウサギ3匹に薬草20本。
薬草集めサボっているわけではないですよ。見つかりにくくなってきているだけですよ。
同じ場所で取り過ぎたかな?明日からはクロと相談してちょっと新しい所を発掘してみようかな?
そんなことを考えつつ、いつものようにギルドへ帰ってくる。
今日はいつもの買い取り嬢ではなく別の人だ。お休みかしら?
角ウサギをカウンターに置くと、何故かがっかりしているような顔。

「今日はこれだけですか?」

「これだけですけど?」

「鳥とか猪とかは…」

「いや、そうしょっちゅう出会うものでもないんで」

何故か溜息を吐きながらも、査定を始める。
と、その辺りにいた冒険者のヒソヒソ声が少し聞こえて来た。

「なんか、今日の獲物は地味だな」

「普通だな。まあ、それでも角ウサギ3匹ってのも凄いっちゃ凄いけど」

何を期待されてるんだ私は。

「本当に喉元だけなんですね。綺麗なものです」

今日の買い取り嬢さんが感心したような声を出す。

「拝見いたしました。では、角ウサギ1匹銀貨2枚、薬草20本で銅貨2枚になりますが、宜しいでしょうか?」

「はい。お願いします」

銀貨6枚、銅貨2枚をもらう。
色々と向けられる視線を感じながら、ギルドを出る。
目立ちたくないのになぁ。目立ってる気がする…。
今日は宿屋のことも考えてゆっくり帰って来たので、もうお部屋に戻っても叱られないだろうと、宿屋へ直行。
ウララちゃんに笑顔で迎えられる。

「夕飯食べる頃に一声おかけ下さい。父がもの凄い頑張っていて、一番美味しい時に食べさせたいと申しておりますので」

「うわあ~、それは楽しみだなぁ。少しゆっくりして、早めに頂いちゃおうかな」

「先に体を拭きますか? そうしたら、後は食べてすぐに寝られますよ」

「・・・。そ、そうしようかな」

昨日は満足してそのまま寝ちゃったから、朝にちょっと湯を貰ったのよね。
食べる前に体を清めておけば、後は食べて寝るだけ。太りそうだな。
少しゴロゴロして(体力のない現代人は歩くだけでも疲れる)、お湯を貰って、空が暮れ始める頃に下へと降りて声をかけた。
最後の仕上げをするからしばらく待ってなと言われ、大人しく席に座って待つ。
今日の仕事を終えた冒険者パーティらしき人達も何組か宿に入ってきて、何かしら注文する。
食堂が一気にざわついてきた。
膝で丸まるクロの背を撫でながら、なんとなく緩んだ空気を味わっていると、良い匂いが漂い始めた。

「な、なんだ? この匂い…」

「う、美味そうだな…」

みんなその匂いに気付き、なんだなんだとざわつき始める。
やべ、これってあれの匂いだよね…。
昨日よりも香が強いというか、良い匂いなんだけど…。
クロも目を開け、テーブルの上に乗ってスタンバイ。
これが漫画なら涎でも垂らしてるんだろうけど…。

猫が涎を垂らすのは病気のサインです。病院へ連れて行きましょうね。

調理場の方から、ウララちゃんのお母さんが、料理を持ってこちらへとやって来た。
ウララちゃん似の美人で、この場合ウララちゃんがお母さん似というのか?、胸もウララちゃんと同じく迫力がある。
この世界ボインちゃんばかりなのかー!と思ってたけど、冒険者の人達を観察して思った。
ああ、人それぞれだよね…。

お母さんが料理を私の目の前に置いた。
クロの前にも、クロ用にその料理が置かれる。
周りのお客さん達の視線も料理に集まる。
・・・食べにくいんだが。

「虹彩雉の香草蒸しです。どうぞ召し上がれ」

昨日は焼きで、今日は蒸しですか。いいっすね!
お肉は不思議なもので、やはり虹色に輝いている。
しかし、そこは昨日の今日である。まったく美味しそうにしか見えない。
クロはすでに食べ始めており、昨日と同じくがっついている。皿まで食べそうな勢いですが。

「いただきま~す」

周りの視線は痛いが、お父さんが頑張って作ってくれたのだもの、美味しく頂かなけりゃ失礼です。
ナイフで小さく切って、口へ運ぶ。
意識が飛んだ。

「は!」

ほんの数秒だとは思うが、目を開けると口の中にすでにお肉はなく、消化器官へと運ばれていた。

「しまった、きちんと味わう前に…」

必死に意識を保とうとするが、口に入れる度に美味しすぎて昇天してしまう。
まわりがザワザワしていて、「噂の猫連れの…」「噂の虹彩雉の…」という言葉も聞こえたけど、それどころではなかった。

「ぬう…、またしても…、もう終わってしまっただと…!」

いつの間に平らげたのか、気付けば皿の上はすでに綺麗になっていた。
クロのお皿も綺麗に舐められている。よほど美味しかったんだね。
私も満腹感に包まれていたけど、もう少し味を堪能していたかったと、なんとなく物足りなさを感じながらも、食事を終えたのだった。
ごちそうさまを伝えると、やっぱり調理場からお父さんが出て来て、

「本当に、虹彩雉の調理を任せてくれて、ありがとうございます! 料理人として、これ以上の喜びはない!」

「そこら辺はよく分からないけど、とても美味しかったです。昨日のステーキも美味しかったけど、今日のは香りも良いし、ステーキよりも味が深くて、本当に美味しかったです。ありがとうございます」

と礼を言ったら、小さくガッツポーズしていた。
虹彩雉ってそんなに憧れの食材なのか。
視線が集まるのを感じながら、部屋へと早々戻る。

「こ、虹彩雉が、なんであんなに高く買い取ってもらえたか…、よく分かった気がするよ…」

「うむ。満足であるの」

お腹もいっぱい、幸せな気分で布団に入る。
今夜はクロも一緒に、夢の世界へと潜って行ったのだった。





















幸せな気分で目覚めると、顔の横でクロが毛繕いをしていた。

「起きたかの。八重子」

「クロ…。おはよ」

「今日は休みたいと言うのではないかの?」

「お、クロさんには分かってしまうのだね」

昨日会ったガタイさんも休みを取ってたし、買い取り嬢の人も定期休みなのか分からんけど休んでたし。
休みたくなるというもの。
この世界に来てから色々頑張ってるし(主にクロが、な気もしないでもないが)、ここらでちょっと体を休めても良いのではないかと思う。
慣れない森の中を歩くのも、結構大変だしね。

「懐に余裕もあるし、八重子の好きにするが良い」

クロもそう言ってくれたし、んじゃ、偶にはうだうだ過ごしますか、と意見が纏まった。

「ところで八重子」

「なぁにぃ?」

「元の世界に戻る方法などは探さぬのか?」

「あるのかな~? てか、クロ戻れないって言ってなかった?」

「空間の亀裂からは戻れる可能性は低いとは言ったが、戻れないとは言ってないぞ」

「戻れるの?!」

思わず身を起こす。

「可能性は、0に近いくらいだがの」

「それって、戻れないってことじゃん」

再び布団に潜る。

「八重子も気付いているとは思うが、この世界には我が輩達の他にも異世界からの来訪者がいるようだし、その者達が何か方法を見つけていてもおかしくはないのではないかの?」

「・・・。なるほど。この国何故か大豆製品の名前の街が多いし、そんな人達が戻る方法を見つけようとしてた可
能性はあるわけね」

「魔法があるということは、異界へ渡る術もあるかもしれぬぞ」

「そうだね。探してみよっか!」

目下の目標が決まった!

「で、どうやって?」

「まずは迷い人についての噂集めだの。文献などもあればそれも読めるに越したことはないの」

「やはり文字か!」

んでも、ちょっと分かりかけては来てるんだよね。

「ん~、紙とペンを買ってきて、なんとなくあいうえお表みたいなの作ってみようかな~?」

「それはいいの。分かり易いのができたら、ギルドにその情報を売ってみても良いのではないか?」

「え、こんなの売れるの?」

「知識は金になるのだぞ」

それもそうか。
日本人ならまず始めにあいうえおから覚え始める。英語ならABC。まずは一文字を読めるようにならなければ、単語さえも覚えられないものね。
昔々に作られた「いろはにほへと」は、画期的な発明だったとも言われているようだし。
分かったものだけでも書き出してみようと言うことになり、早速と出かける支度を始める。
朝食は?だって?
私がどれだけゴロゴロしていたと思ってるんだ。きっとすでに朝食の時間は終わってしまっているよ!
ちょっとお金は勿体ないけど、虹彩雉があったおかげで、今日の宿賃は少し割り引いてもらってるし、いいでしょ。
支度が終わる前に、部屋の扉が叩かれた。

「ヤエコさん? 起きてますか?」

ウララちゃんの声だ。おっと、心配させてしまったかな?

「はいは~い。起きてますよ~」

扉を開けて、元気なことを伝えると、一瞬ほっとしたような顔をしたウララちゃんが、すぐに難しい顔になる。

「あの、表にヤエコさんを訪ねてきた方がいらっしゃって…。その、お断りします?」

「へ? あたしに? 訪ねて来たって、まさか…」

「はい…。この街のただ今の代理領主の、アブーラ様の使いの方とおっしゃっていて…」

脂肪の塊から使いがやって来たらしい。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

安全第一異世界生活

笑田
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 異世界で出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて 婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の冒険生活目指します!!

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。 今年で33歳の社畜でございます 俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう 汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。 すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。 そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな

処理中です...