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黒猫と共に迷い込む
一日目
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外岡(とのおか) 八重子。18歳。
163㎝、体重およそ50㎏(正確な数値は言えない)。
肩より少し長い、黒いストレートの髪に、黒い瞳。
どっからどうみても日本人。
美女とも醜女とも言えない、普通の容姿。それなりに需要のある容姿だとは思う。
体型も普通。出っ張りすぎも引っ込み過ぎもない。もう少し腰回りは細くても良いかしら?と悩み中。
この度高校を無事に卒業し、春から大学生となるところで、神隠しに遭い、異世界に迷い込む。愛猫、クロと共に。
「起きろ、八重子」
「うむ~。あと1時間~」
「長いわ!」
ぺし、と頬に置かれた感触に、意識が急速に目覚めていく。
この感触は、肉球!
滅多にない目覚めのご褒美!
思わず目をかっと開いてしまう。
「起きたか。ほれ、さっさと依頼を見に行かんと、いい仕事なくなってしまうぞ」
顔の横から覗いてくる可愛い黒猫の顔。
ああ、可愛い…。
「何故目を閉じる」
「肉球よ再び…」
「そんなに欲しいか?」
頬に突き刺さる爪の感触。
「起きます起きます!」
「次は瞼だ」
「やめてー!」
瞼は頬より痛いのよ。
朝食を頂いて、今晩の宿も確保して、お金さえ払えば長期で借り受ける事もできるらしい。
今は手持ちがないから1泊ずつ。
寝る前に実家の事も考えたりした。
お父さんとお母さんと、生意気だけど可愛い妹と。
心配してるかな…。
などと考えて、眠れなくなる…なんてこともなく、いつの間にやらぐっすり。
「悩みがないのはいいことだの」
「今私の頭の中覗いたの?」
「お主は顔を見れば大体分かる」
「そんなに可愛い顔してたかしら?」
「冗談が言えれば大丈夫だの」
「爪切りとブラッシング用の櫛探そうね」
「我が輩爪切りより爪研ぎの方がいいの」
「暑さ対策で背中の毛でも刈ろうか」
「ここはそんなに暑くないがの」
爪切りは元より、クロはブラッシングも好きじゃない。
ブラッシング気持ちいいと思うんだけどな。好きな子もいるみたいだし。
なんでだろう?
アホな事を言い合いながら(傍目には独り言を呟く怪しい人に見えたかもしれない)、ギルドの扉を開く。
「おはようございます」
昨日のお姉さんが挨拶してくれた。
「おはようございます。あの、私でも受けられる依頼って何かありますか?」
「そうですね」
お姉さんが手元の資料をなにやら漁っていたが、
「こんな所でしょうか」
所謂薬草摘みの依頼書だった。
「この薬草10本で1束。5束で銅貨5枚です」
「え…、50本採取で銅貨5枚?」
「あら、計算早いですね。何か訓練でもされてました?」
「いえいえ、ちょっと計算が得意なだけです」
「そうですか。文字が書ければ事務方の仕事もあったんですけどね…」
くそう、文字か!
「ある時は掃除なんかの依頼もあるのですけど、そういう簡単な物は早めに出ていってしまったりするので、今の
所これくらいしか残ってませんね」
来るの遅かったか!
仕方がないのでその依頼を受ける事に。
常時依頼なので、特に手続きも必要なく、採ってきただけお金をもらえるそうな。
てか、50本で銅貨5枚…。宿賃は銀貨3枚…。
単純計算で薬草300本採らないと、宿賃も稼げないぞ?
すごすごとギルドを後にする。
一応薬草が生えてそうな場所は教えてもらったけど、しょっちゅう冒険者が行ってるから、取り尽くされているかもしれないと。
なんてこったい。
「八重子、縄とナイフを買っていけ。あと、肩掛け鞄なんかもあると便利かもしれんぞ」
腕の中からクロが囁く。
「なんで縄? ナイフは護身用だって分かるけど。鞄は薬草用か。確かにいるかも」
リュックには服も入ってるから結構パンパンだ。
ペットボトルは昨日飲みきって、今朝こっそりとお水を入れてきてる。
ここに来て重宝。
ついでにお昼用のサンドイッチも貰った。銅貨5枚。地味に痛い。
「念のため買っていけ。役に立つかもしれんしの」
よく分からないけど、クロの言う事だ。間違いないと思う。思いたい。
雑貨屋に寄って、縄と鞄を見繕う。
荷物が増えるの嫌だけど、薬草いっぱい採ってこなきゃだしね。
ついでにナイフもあったので購入。武器屋に行かなきゃならんかと思ってたので幸い。
「やばい…。もうお金ない…」
ほぼすっからかんになりました。
明日からの宿をどうしよう。
「我が輩に任せておけ」
クロが何やら自信満々。
何を考えてるんだろう?
街を出て、少し離れた森の中へと入っていく。
草の丈高いし、ちょっと薄暗いし、心細い。
「薬草って確か…、クローバーの形の葉っぱで…」
草の丈が高くて分からないよ!どうやって探せと!
獣道っぽいところを恐る恐る進んで行くが、薬草っぽい植物は影も形も見えない。
「街に近い所は、あらかた取り尽くされてるかもしれんの」
クロが腕の中で言う。そうかもしれない。
「じゃあもっと奥に行くしかない?」
「あまり奥に行くと獣が出るだろうの」
「え~ん、ダメじゃん。あ~ん、明日からどうしようううう」
「落ち着け八重子。ひとまず少し開けた所へ行くのだ」
よく分からないけど、クロが言うのだから何かあるのかもしれないと、怖々歩を進めていく。
どれくらい歩いたか。時計がないからよく分からないけど(スマホはどうせ使えないので電源切ってある)、大分歩いた感じがする。
突然開けた所に出た。
少し丘になっていて、陽の光がよく当たっている。
「ピクニックには最適かも」
「ピクニックであったらな」
めげそう。
と、ひらりと腕の中からクロが飛び降りる。
「この辺りで薬草を探していろ。我が輩は少し出かけてくる」
「ええ! 何処行くの?!」
「遠くには行かん。大丈夫、何かあってもすぐに駆けつけられる所にはいるからの」
そう言って草むらの中に姿を消した。
「え! クロ?! クロさん?!」
突然一人にされて呆然唖然。
風が吹き、草むらがザワザワと揺れる。
めっさ怖い!!
なんとなく、注文の多い料理店を思い出す。
あれはススキの原だったかしら?
怖いけど、生活のためだ!
ぐっと堪え、足元の草を掻き分け、それらしき草を探す。
クロが大丈夫と言ったのだ。信じるしかない。
というか、この世界に来てクロしか信じられる物がない。
クロがいて本当に良かった。
いなかったら今頃、領主とやらに捕まって、あんなこととか、そんなこととかされてたかもしれないし。どんなことやら。
一人じゃないと思える事が、どんなに安心できる事か。
何かあってもクロがいる。
今までも助けてくれたし、大丈夫だ。
自分を励ましながら探す事しばし。
「あ、これ?」
クローバーの形の葉の草が、高い草の影でにょっきり生えていた。
「あ、あったー!」
喜び勇んで草をむしろうとして、手を止める。
「そうそう、根から採らなきゃいけないんだっけ」
新鮮さを保つため、植物などはなるべく根から採取しておいでと、お姉さんに言われたのだ。
と言って、掘る物もなし。
ちょっと考え、腰に差していたナイフを取り出し、えいやっと地面に突き立てる。
思ったより固くなく、薬草の周りの地面をナイフで切り取り、土ごと掘り出す。
軽く土を払い、鞄へ。
やったー!一つゲットだぜ!
一つ見つけると不思議な事に、何故かよく見つかるようになるもので、しばらく時間を忘れて採取しまくった。
お昼を少し過ぎた頃。
「クロ帰って来ないなぁ」
朝別れたきり、クロが帰って来ない。
ちょっと不安になってくる。
先に食べちゃえとサンドイッチを口にしたけど、なんだか味気ない。
一つだけ摘まんで、あとはいいやと包み直した。
クロが帰って来てから食べよう。
もう少し探そうかなと腰を上げた時だった。
右手の木の根元から、白いウサギのようなものがフラリと姿を現した。
角が生えてる。
これは、ガタイさん達の話題にも出て来た、角ウサギという奴では?!
咄嗟にナイフを握りしめる。
いつ襲われてもできるだけ反撃できるように。
できれば気付かずにどこか行って下さいと心の中で念じるが、何故かフラフラとこちらに寄ってくる。
これ、まずくないっすか?!
クロは?!クロはどうしちゃったんだよう!
その後ろから、新たに2匹?2羽?の角ウサギが現われる。
万事休すかもしれない!
ああ、お父さんお母さんごめんなさい。こんな若い身空で死にゆく私を許して下さい…。
などと心の中で唱えていた時。
「すまん。遅くなったの」
聞き慣れたクロの声。
角ウサギ達の後ろから、クロが現われた。
「く、クロォォォォ」
力が抜けて、座り込んでしまったよ。
お漏らしまではしなかったけど、ギリギリだったかもしれない。
「なかなか此奴ら素早くての。て、大丈夫か? 八重子」
「とてつもなく怖かったので、お腹モフモフしたいです」
「大丈夫だの」
「大丈夫じゃないですううう。とりあえず」
両手を広げる。
渋い顔をしながら、クロが腕の中に入ってきてくれた。
「うふふふふう~。クロ~」
「すまんすまん。待たせすぎたの」
お腹はさすがにこんな場所ではまずいので、背中に顔を押しつけモフる。
「ああもう、ずっとこうやってたい」
「いい加減放せ」
足蹴りを頂きました。
「さて、八重子。こいつら、刺せ」
え? 今なんと?
「ナイフで喉をカッ切れ。そして血抜きしてギルドに持って帰るぞ」
ノドヲカッキレ?コノナイフデ?
固まる私。
「何をしておる。これからこの世界で生きていくならば、生殺与奪も覚えなければいかんぞ。
これは所謂訓練だ。命を奪うことを知るためのな」
震える私。
生殺与奪?
命を奪う?
いや、分かってる。これは必要な行為なのだと。
こうやって命を貰わないと、生きていけないのだと言う事を。
私がいた世界のように、ただその日を生きて、食事ができる世界ではないのだ。
きちんと頂かなくてはならない。
この問題は先に延ばしても、必ず後から付いてくる。
私はナイフを握りしめる。
そして、ゆっくりと角ウサギ達に近づく。
ぼーっとしている角ウサギ達は、抵抗するそぶりもない。
きっとクロの催眠術か何かで、抵抗する意思も奪われているのだろう。
いいんだろうかと、疑問が頭を掠める。
でも、多分この子達が正気に戻ったら、きっと私の手には負えない。
覚悟を決める。
ナイフを持ち、力を込める。
せめて楽に。
「八重子、狙うならばここだ。ここに太い血管がある」
クロの指し示した場所に、思い切りナイフを突き入れた。
1人殺せば2人目も同じ。
なんて言葉を聞いた事あるけど、何度やっても肉に刃が刺さる感触はいただけない。
ただ、1回目よりは3回目の方が、慣れた感じはあった。
何事も慣れか。
命を奪う事に慣れたくはないが、これからもこういうことはあるのだし、受け入れるしかない。
首の太い血管を切ったのだ。あとは縄で縛って近くの木に、逆さまに吊るしておいた。
本当なら水で冷やしてとかもしたいらしいけど、この近くに水場はなさそうだ。
さすがに解体まではできないので、血抜きした角ウサギ達を持ってそのまま帰る事に。
「あまり長居すると血の臭いで他の獣がやってくるかもしれんでの」
なんて聞かされたら速効帰るでしょ!
薬草は、なんとか切りの良い30本採取できた。
「銅貨3枚…」
「大丈夫だ。角ウサギも常時依頼であるらしいからの。状態も良いし、少し高値で買い取ってくれるかもしれん」
角ウサギ達を持っていて、さすがに腕に抱っこできないので、クロが足元を付いてくる。
「え? 本当? いつの間にそんな情報を…」
「受付の女の頭を覗いた」
「エッチ」
「どうしてそうなる」
わやわや言い合いながら、街までの道を急いだ。
買い取りカウンターへ行くと、びっくりされた。
「こんな…こんな綺麗な角ウサギ…、初めてです」
なにせ傷が喉元だけだからね。
角ウサギはその肉は食用、毛皮も需要があり、角も使うとかナントカで、状態もいいとのことで、通常なら銀貨1枚の所を、銀貨2枚で買い取ってくれた。
薬草も30本で銅貨3枚。合計で銀貨6枚に銅貨3枚。
思わずガッツポーズ。
「どうやって獲ったんですか? この角ウサギ」
いつもの受付のお姉さんが、少し呆然とした感じで話しかけて来た。
「企業秘密です」
にっこり答える。
事前に、クロにも聞かれても秘密にしておけと固く言われている。
言える事でもないしね。
冒険者には、それこそ秘密が多いとのことで、お姉さんもそれ以上聞いては来なかった。
あまりがっつきすぎてもマナー違反になってしまうらしいので。
少し早かったけど、ギルドを出て、そのまま宿に戻った。
また単語帳を眺めたりしながら、やっぱりまったりと過ごしたのであった。
163㎝、体重およそ50㎏(正確な数値は言えない)。
肩より少し長い、黒いストレートの髪に、黒い瞳。
どっからどうみても日本人。
美女とも醜女とも言えない、普通の容姿。それなりに需要のある容姿だとは思う。
体型も普通。出っ張りすぎも引っ込み過ぎもない。もう少し腰回りは細くても良いかしら?と悩み中。
この度高校を無事に卒業し、春から大学生となるところで、神隠しに遭い、異世界に迷い込む。愛猫、クロと共に。
「起きろ、八重子」
「うむ~。あと1時間~」
「長いわ!」
ぺし、と頬に置かれた感触に、意識が急速に目覚めていく。
この感触は、肉球!
滅多にない目覚めのご褒美!
思わず目をかっと開いてしまう。
「起きたか。ほれ、さっさと依頼を見に行かんと、いい仕事なくなってしまうぞ」
顔の横から覗いてくる可愛い黒猫の顔。
ああ、可愛い…。
「何故目を閉じる」
「肉球よ再び…」
「そんなに欲しいか?」
頬に突き刺さる爪の感触。
「起きます起きます!」
「次は瞼だ」
「やめてー!」
瞼は頬より痛いのよ。
朝食を頂いて、今晩の宿も確保して、お金さえ払えば長期で借り受ける事もできるらしい。
今は手持ちがないから1泊ずつ。
寝る前に実家の事も考えたりした。
お父さんとお母さんと、生意気だけど可愛い妹と。
心配してるかな…。
などと考えて、眠れなくなる…なんてこともなく、いつの間にやらぐっすり。
「悩みがないのはいいことだの」
「今私の頭の中覗いたの?」
「お主は顔を見れば大体分かる」
「そんなに可愛い顔してたかしら?」
「冗談が言えれば大丈夫だの」
「爪切りとブラッシング用の櫛探そうね」
「我が輩爪切りより爪研ぎの方がいいの」
「暑さ対策で背中の毛でも刈ろうか」
「ここはそんなに暑くないがの」
爪切りは元より、クロはブラッシングも好きじゃない。
ブラッシング気持ちいいと思うんだけどな。好きな子もいるみたいだし。
なんでだろう?
アホな事を言い合いながら(傍目には独り言を呟く怪しい人に見えたかもしれない)、ギルドの扉を開く。
「おはようございます」
昨日のお姉さんが挨拶してくれた。
「おはようございます。あの、私でも受けられる依頼って何かありますか?」
「そうですね」
お姉さんが手元の資料をなにやら漁っていたが、
「こんな所でしょうか」
所謂薬草摘みの依頼書だった。
「この薬草10本で1束。5束で銅貨5枚です」
「え…、50本採取で銅貨5枚?」
「あら、計算早いですね。何か訓練でもされてました?」
「いえいえ、ちょっと計算が得意なだけです」
「そうですか。文字が書ければ事務方の仕事もあったんですけどね…」
くそう、文字か!
「ある時は掃除なんかの依頼もあるのですけど、そういう簡単な物は早めに出ていってしまったりするので、今の
所これくらいしか残ってませんね」
来るの遅かったか!
仕方がないのでその依頼を受ける事に。
常時依頼なので、特に手続きも必要なく、採ってきただけお金をもらえるそうな。
てか、50本で銅貨5枚…。宿賃は銀貨3枚…。
単純計算で薬草300本採らないと、宿賃も稼げないぞ?
すごすごとギルドを後にする。
一応薬草が生えてそうな場所は教えてもらったけど、しょっちゅう冒険者が行ってるから、取り尽くされているかもしれないと。
なんてこったい。
「八重子、縄とナイフを買っていけ。あと、肩掛け鞄なんかもあると便利かもしれんぞ」
腕の中からクロが囁く。
「なんで縄? ナイフは護身用だって分かるけど。鞄は薬草用か。確かにいるかも」
リュックには服も入ってるから結構パンパンだ。
ペットボトルは昨日飲みきって、今朝こっそりとお水を入れてきてる。
ここに来て重宝。
ついでにお昼用のサンドイッチも貰った。銅貨5枚。地味に痛い。
「念のため買っていけ。役に立つかもしれんしの」
よく分からないけど、クロの言う事だ。間違いないと思う。思いたい。
雑貨屋に寄って、縄と鞄を見繕う。
荷物が増えるの嫌だけど、薬草いっぱい採ってこなきゃだしね。
ついでにナイフもあったので購入。武器屋に行かなきゃならんかと思ってたので幸い。
「やばい…。もうお金ない…」
ほぼすっからかんになりました。
明日からの宿をどうしよう。
「我が輩に任せておけ」
クロが何やら自信満々。
何を考えてるんだろう?
街を出て、少し離れた森の中へと入っていく。
草の丈高いし、ちょっと薄暗いし、心細い。
「薬草って確か…、クローバーの形の葉っぱで…」
草の丈が高くて分からないよ!どうやって探せと!
獣道っぽいところを恐る恐る進んで行くが、薬草っぽい植物は影も形も見えない。
「街に近い所は、あらかた取り尽くされてるかもしれんの」
クロが腕の中で言う。そうかもしれない。
「じゃあもっと奥に行くしかない?」
「あまり奥に行くと獣が出るだろうの」
「え~ん、ダメじゃん。あ~ん、明日からどうしようううう」
「落ち着け八重子。ひとまず少し開けた所へ行くのだ」
よく分からないけど、クロが言うのだから何かあるのかもしれないと、怖々歩を進めていく。
どれくらい歩いたか。時計がないからよく分からないけど(スマホはどうせ使えないので電源切ってある)、大分歩いた感じがする。
突然開けた所に出た。
少し丘になっていて、陽の光がよく当たっている。
「ピクニックには最適かも」
「ピクニックであったらな」
めげそう。
と、ひらりと腕の中からクロが飛び降りる。
「この辺りで薬草を探していろ。我が輩は少し出かけてくる」
「ええ! 何処行くの?!」
「遠くには行かん。大丈夫、何かあってもすぐに駆けつけられる所にはいるからの」
そう言って草むらの中に姿を消した。
「え! クロ?! クロさん?!」
突然一人にされて呆然唖然。
風が吹き、草むらがザワザワと揺れる。
めっさ怖い!!
なんとなく、注文の多い料理店を思い出す。
あれはススキの原だったかしら?
怖いけど、生活のためだ!
ぐっと堪え、足元の草を掻き分け、それらしき草を探す。
クロが大丈夫と言ったのだ。信じるしかない。
というか、この世界に来てクロしか信じられる物がない。
クロがいて本当に良かった。
いなかったら今頃、領主とやらに捕まって、あんなこととか、そんなこととかされてたかもしれないし。どんなことやら。
一人じゃないと思える事が、どんなに安心できる事か。
何かあってもクロがいる。
今までも助けてくれたし、大丈夫だ。
自分を励ましながら探す事しばし。
「あ、これ?」
クローバーの形の葉の草が、高い草の影でにょっきり生えていた。
「あ、あったー!」
喜び勇んで草をむしろうとして、手を止める。
「そうそう、根から採らなきゃいけないんだっけ」
新鮮さを保つため、植物などはなるべく根から採取しておいでと、お姉さんに言われたのだ。
と言って、掘る物もなし。
ちょっと考え、腰に差していたナイフを取り出し、えいやっと地面に突き立てる。
思ったより固くなく、薬草の周りの地面をナイフで切り取り、土ごと掘り出す。
軽く土を払い、鞄へ。
やったー!一つゲットだぜ!
一つ見つけると不思議な事に、何故かよく見つかるようになるもので、しばらく時間を忘れて採取しまくった。
お昼を少し過ぎた頃。
「クロ帰って来ないなぁ」
朝別れたきり、クロが帰って来ない。
ちょっと不安になってくる。
先に食べちゃえとサンドイッチを口にしたけど、なんだか味気ない。
一つだけ摘まんで、あとはいいやと包み直した。
クロが帰って来てから食べよう。
もう少し探そうかなと腰を上げた時だった。
右手の木の根元から、白いウサギのようなものがフラリと姿を現した。
角が生えてる。
これは、ガタイさん達の話題にも出て来た、角ウサギという奴では?!
咄嗟にナイフを握りしめる。
いつ襲われてもできるだけ反撃できるように。
できれば気付かずにどこか行って下さいと心の中で念じるが、何故かフラフラとこちらに寄ってくる。
これ、まずくないっすか?!
クロは?!クロはどうしちゃったんだよう!
その後ろから、新たに2匹?2羽?の角ウサギが現われる。
万事休すかもしれない!
ああ、お父さんお母さんごめんなさい。こんな若い身空で死にゆく私を許して下さい…。
などと心の中で唱えていた時。
「すまん。遅くなったの」
聞き慣れたクロの声。
角ウサギ達の後ろから、クロが現われた。
「く、クロォォォォ」
力が抜けて、座り込んでしまったよ。
お漏らしまではしなかったけど、ギリギリだったかもしれない。
「なかなか此奴ら素早くての。て、大丈夫か? 八重子」
「とてつもなく怖かったので、お腹モフモフしたいです」
「大丈夫だの」
「大丈夫じゃないですううう。とりあえず」
両手を広げる。
渋い顔をしながら、クロが腕の中に入ってきてくれた。
「うふふふふう~。クロ~」
「すまんすまん。待たせすぎたの」
お腹はさすがにこんな場所ではまずいので、背中に顔を押しつけモフる。
「ああもう、ずっとこうやってたい」
「いい加減放せ」
足蹴りを頂きました。
「さて、八重子。こいつら、刺せ」
え? 今なんと?
「ナイフで喉をカッ切れ。そして血抜きしてギルドに持って帰るぞ」
ノドヲカッキレ?コノナイフデ?
固まる私。
「何をしておる。これからこの世界で生きていくならば、生殺与奪も覚えなければいかんぞ。
これは所謂訓練だ。命を奪うことを知るためのな」
震える私。
生殺与奪?
命を奪う?
いや、分かってる。これは必要な行為なのだと。
こうやって命を貰わないと、生きていけないのだと言う事を。
私がいた世界のように、ただその日を生きて、食事ができる世界ではないのだ。
きちんと頂かなくてはならない。
この問題は先に延ばしても、必ず後から付いてくる。
私はナイフを握りしめる。
そして、ゆっくりと角ウサギ達に近づく。
ぼーっとしている角ウサギ達は、抵抗するそぶりもない。
きっとクロの催眠術か何かで、抵抗する意思も奪われているのだろう。
いいんだろうかと、疑問が頭を掠める。
でも、多分この子達が正気に戻ったら、きっと私の手には負えない。
覚悟を決める。
ナイフを持ち、力を込める。
せめて楽に。
「八重子、狙うならばここだ。ここに太い血管がある」
クロの指し示した場所に、思い切りナイフを突き入れた。
1人殺せば2人目も同じ。
なんて言葉を聞いた事あるけど、何度やっても肉に刃が刺さる感触はいただけない。
ただ、1回目よりは3回目の方が、慣れた感じはあった。
何事も慣れか。
命を奪う事に慣れたくはないが、これからもこういうことはあるのだし、受け入れるしかない。
首の太い血管を切ったのだ。あとは縄で縛って近くの木に、逆さまに吊るしておいた。
本当なら水で冷やしてとかもしたいらしいけど、この近くに水場はなさそうだ。
さすがに解体まではできないので、血抜きした角ウサギ達を持ってそのまま帰る事に。
「あまり長居すると血の臭いで他の獣がやってくるかもしれんでの」
なんて聞かされたら速効帰るでしょ!
薬草は、なんとか切りの良い30本採取できた。
「銅貨3枚…」
「大丈夫だ。角ウサギも常時依頼であるらしいからの。状態も良いし、少し高値で買い取ってくれるかもしれん」
角ウサギ達を持っていて、さすがに腕に抱っこできないので、クロが足元を付いてくる。
「え? 本当? いつの間にそんな情報を…」
「受付の女の頭を覗いた」
「エッチ」
「どうしてそうなる」
わやわや言い合いながら、街までの道を急いだ。
買い取りカウンターへ行くと、びっくりされた。
「こんな…こんな綺麗な角ウサギ…、初めてです」
なにせ傷が喉元だけだからね。
角ウサギはその肉は食用、毛皮も需要があり、角も使うとかナントカで、状態もいいとのことで、通常なら銀貨1枚の所を、銀貨2枚で買い取ってくれた。
薬草も30本で銅貨3枚。合計で銀貨6枚に銅貨3枚。
思わずガッツポーズ。
「どうやって獲ったんですか? この角ウサギ」
いつもの受付のお姉さんが、少し呆然とした感じで話しかけて来た。
「企業秘密です」
にっこり答える。
事前に、クロにも聞かれても秘密にしておけと固く言われている。
言える事でもないしね。
冒険者には、それこそ秘密が多いとのことで、お姉さんもそれ以上聞いては来なかった。
あまりがっつきすぎてもマナー違反になってしまうらしいので。
少し早かったけど、ギルドを出て、そのまま宿に戻った。
また単語帳を眺めたりしながら、やっぱりまったりと過ごしたのであった。
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皆さま本当にありがとうございます!
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これからも日々勉強していきたいと思います
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毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
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