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第三章 女王イリスの誕生

24話 「スペクターの軍議 その2」

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「それから1番厄介なのは情報戦略が異常な程に上手いです。
嘘と本当の事を絶妙に合わせて信憑性を増すやり方・・・魔王エリカとは本当に魔物なのでしょうか?
かなり高度な人間の教育を受けているとしか思えません」

エリカが今積極的に行っているプロパガンダ戦略は「魔族によるヴィグル帝国へ侵攻で発生する経済的な損失」についてだ。

いかに甚大な経済的な損失が出るのか?を各項目毎に細かく分析して知り合いの商人達を通して世界各地の商業ギルドを中心に大々的に拡散させている。

自分の金に絡む話しなので魔族と共闘しているはずのゴルド王国の商人達ですら魔族のヴィグル帝国への侵攻に対して否定的な立場になってしまっている。

「あー・・・アイツは元エルフの国の高級将校だからな・・・
エルフ達からそう言った教育も受けているんだろうな」

ロルヒト軍団長の疑問に答えるブレスト軍団長。
ブレスト軍団長はコリーン山の戦いでエリカと直接対決した事が有る。
その時からどこか異様なグリフォンのエリカを警戒していて彼女の詳細な情報を集めていたのだ。

「え?エルフの高級将校?・・・魔王エリカがですか?」
何でグリフォンがエルフの高級将校なんだ?と、意味が分からないロルヒト軍団長。

「私も最初は信じられなかったですが、こうなると信じざる得ないですな」

80年程の前には公式に出ていたブレスト軍団長からの報告書を「そんな馬鹿な」と一蹴してしまっていたエル軍団長だったが今はブレスト軍団長の話しを信じている。

「仕方ないな、出した俺でも半信半疑だったくらいだからな。
ただな・・・その後の調査の結果でエルフ達から教育を受けただけでは済ませられない得体の知れなさが奴にはあるんだよ。

多分奴は「異世界からの転生者」だぜ?しかもかなりの高度な文明世界から来たと俺は思っている」

長年エリカの情報に触れていたブレストはエリカの正体を的確に分析している。

「文明世界からの異世界転生者か・・・
そうか・・・色々と辻褄が合ってしまうな・・・
本当に厄介な奴が現れたモノだ・・・」

魔王エリカの正体が高い知識を持った異世界人だと知り魔王ディアブラーダは頭痛がしてこめかみを押さえている。

魔王ディアブラーダも対抗して様々なプロパガンダ戦略を撃ってはいるが常に魔王エリカに先手を取られて、まるで自分が24時間ずっと監視でもされているかの様な得体の知れない恐怖を感じていた。

単にエリカはネットで知った情報を元に大まかな展開を予測しているだけなのだが、インターネットそのものが異世界に於いても異常なほど高度なシステムだと言う事をエリカもあまり良く分かっていない。

「そうなるとこちらの調略も・・・」

「ほとんど奴には通用しないでしょうね・・・」

「で・・・あろうな」

アトランティス帝国とエリカが住んでいた時代の日本の文明レベルは日本の方が遥かに上だ。

その上、太平洋戦争で大敗してから朝鮮戦争による高度経済成長を経て大復活を遂げた日本人の不屈の知恵と知識は敗戦を経験した事が無いアトランティス人を凌駕している。

調略合戦では恐らく魔族はエリカには勝てないだろう。

何せ軍事マニア、世界史マニアだったエリカの頭の中には膨大な過去の地球の戦争の記録が幼少期の頃から叩き込まれているからだ。

一つの分野を突き詰めるオタクと言う生き物も末恐ろしいモノなのだ。
自分がやられたら嫌だなぁと思った事を先にやるだけで相手をドンドン追い詰めて行けるのだから。

「ふう・・・先ずは失った商人の信頼を取り戻す事が先決だ」
とても魔王とは思えない程に憔悴しているディアブラーダ。

「そこからですか・・・何年掛かるのでしょうか?」
思わず天を仰ぐロルヒロ軍団長。

「仕方あるまい・・・武器商人から新規での武器輸入が完全に止まっておるのだから。
特に足りんのが防寒着だ、兵士達の生命に直結する問題だから無視出来ん」

スペクターの居住地は街と言うより駐屯地、ぶっちゃけ軍事要塞なので何かを生産するとか考えられていない。
全て本国からの輸送か外からの輸入に頼っている。

本国からの輸送を行う為には「異界門」を使用するしかなく使用した際の魔力消費は莫大な物になる。
「異界門」は一回使用すれば魔力再装填に2年は掛かる魔力を馬鹿喰いするシロモノだ。

その為に「異界門」を作った大霊樹ユグドラシルが魔力枯渇(生命力枯渇)により滅びたくらいだ。
とても装備品の輸送に使える様な物ではない。

となると必然的に海外からの輸入に頼っていた訳なのだが魔王エリカに見事にしてやられた形になっている。
魔王ディアブラーダの頭痛の原因の一つだ。

現在は魔王エリカのプロパガンダ攻勢により各国の武器商人達は魔族に対する武器の輸出をストップしている状態なのだ。

え?武器商人なら逆に今がビックチャンスとばかりにドンドン武器を輸出しているのでは?と思われるだろうが武器商人が大々的に暗躍する時には必ず世界の武器価格を高騰させる事から始まる。

少しでも多く儲けたいからだ。

各国からの経済制裁待った無しの魔族が輸出入に困り価格が高騰している武器を購入せざるを得ない状況なのは確定している。
なので今すぐに慌てて魔族に武器を輸出する必要性は全くない。

しかもその禁輸の間「私共は世界を混乱させようとしている魔族と魔王エリカには武器提供は致しません!」と民衆に黒の商人のイメージを払拭するアピールもする出来る。

良い事尽くめである。

そして焦らして焦らして最高値まで高騰した時点で武器を裏からコッソリと魔族に・・・なのだ。

完全に武器商人に先手を撃たれてしまった魔族達。

対する魔王エリカ軍団は魔物なので武器防具の使用率は低い。
しかも魔王バルドルから武器の供給は絶え間なく行われて余剰過多くらいで武器商人に頼る必要は無い。

「するとヴィグル帝国侵攻計画は白紙に?」

「現状ではそうせざるを得ないだろうな・・・」
いよいよ頭痛が酷くなったのか顔が真っ青になる魔王ディアブラーダ。

「魔王様!大丈夫ですか?!」これには慌てるエル軍団長。

「大丈夫だ・・・しかし今日は体調が優れぬ・・・すまぬが軍議はお前達で進めてくれんか?」

「衛生兵!!魔王様を直ちに自室へとお連れしろ!」
ブレスト軍団長もただ事では無いと衛生兵を呼ぶ。

こうして退席した魔王ディアブラーダだが自室に着くなり倒れてしまう。
原因は「脳卒中」だった。
彼も超常の存在とは言え基本は人間なので病には勝てない。

命には別状は無かったが魔王ディアブラーダは絶対安静の病床に着いてしまった。



「参ったね・・・こりゃ」
何だかんだと言って精神的な支柱だった魔王が離脱してしまい動揺が隠せないブレスト軍団長。

「いっそ魔王エリカを暗殺するか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・そうだな。試して見る価値は有るな」

「なれば具体的な計画を練りましょう」

エル軍団長の提案をブレスト軍団長とロルヒロ軍団長が飲んで「魔王エリカ暗殺計画」を発動させた魔族(スペクター)達だったのだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



《さーてと、そろそろ魔族が私の暗殺に来る頃だよ皆んな!
準備万端で迎撃しましょう!!》

《キキーーーー!!!》《キキキキキキキーーーー!!!》《キィイイイ!!》

《エリカ様ヲ暗殺シヨウナンテ!!許セマセンワ!!》

自分が狙われる事を完全に予測している魔王エリカ。
エリカの激励に主を狙われている怒りで気合いが入りまくる魔王エリカ親衛隊のゴーストスパイダー君達と「アラクネーさん」!!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アラクネーさん?!?!?!
なぜアラクネーさんが魔王エリカの親衛隊に????
と思ったら、ゴーストスパイダーの親分がアラクネーさんだったのだ。


2年前・・・・


《魔王エリカ!!眷属ノ恨ミ晴ラサセテ頂キマス!!》

ビシィ!とエリカを指差すアラクネーさん。
自分の眷属のゴーストスパイダーをエリカに殺されたと勘違いしたスパイダークイーンのアラクネーさんがエリカに勝負を挑んだのだ。

ちなみにアラクネーさんの姿は普通に少女なのだ?・・・・なぜに?
後に判明するのだが、アラクネーさんは人の姿の方が断然強かったからだ。

《よろしくってよ!》勝負を挑まれた以上は受けて立つのが魔物だ。
冤罪なのだがアラクネーさんの挑戦を勢いで受けた魔王エリカ。

今日は何か悪役令嬢の気分だったのかメチャクチャ言葉使いが気色悪いエリカ。

《アラクネー様!どこからでも掛かっていらして!!》
バサァ!!と大きく翼を広げて「掛かって来いやぁあ!」状態のエリカ。
しかし今日のエリカは本当に何か気色悪いぜ!

「よっしゃああ!オメーラ!!どちらに賭けるが受け付けるぜ!」

ウオオオオオオオオーーー!!!
勝負の匂いをガメつく嗅ぎ出して早速トトカルチョを始めた真魔族の兵士達。

《ンナ?!イツノ間ニ?!?!》

コッソリと仇を討たんとエリカの巣穴に忍び込んだはずなのに既に魔王エリカ軍団の兵士数百名に取り囲まれているアラクネーさん。

ここに「魔王エリカ」VS「スパイダークイーン、アラクネー」の戦いが始まったのだ。
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