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第三章 女王イリスの誕生

13話 「論戦開始!」

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トレジャーハンター襲撃事件から半年が経過した。

自ら支配する大規模なダンジョンを手に入れ師匠のクレアからも魔王認定されてしまったグリフォンのエリカ。

調子に乗って大騒ぎするか、とことん魔王を嫌がって大騒ぎするか、いずれにせよ大騒ぎすると思われたが至って静かに龍騎士の宿舎の自分の部屋で考え事をする様になった。

今まで通りに訓練や参謀業務やロテール君とのデートや百合っぺ達との激闘を普通に行っているので単に忙しいのかも知れないが今までとは何かが違うと感じたイリスは心配して任務明けの晩にエリカの部屋の扉をノックする。

コンコン・・・

《ヘェ~イ、どうぞ~》

アホっぽいエリカの声が聞こえたので部屋の扉を開けてオズオズと顔を扉から半分だけ出して、
「エリカ~、ちょっといい・・・・・え?!何これ?!」
何か恋する乙女の様な可愛い仕草で部屋の中を見て仰天するイリス。

質素倹約、実質剛健の最低限の物しか置いてないはずのエリカの部屋に溢れ返っている大量の本と何かの資料・・・それらがほぼイリスの視点の高さまで積み上がっていた。

「んー?イリス~?どした?入んないの?」

「いや、エリカどこに居るのよ?」マジでエリカの姿が見えないイリス。

「あー・・・散らかっててごめんね~。今、色々と調べモノをしててさ~」
どこからか呑気なエリカの声が聞こえる。

エリカの部屋・・・と言うかラーデンブルク公国の一般的な部屋は日本で言う所の5LDKほどの広さがある。

しかもこれでも狭い方でイリスの部屋など12LDKと倍以上の広さだ。
これは単純にラーデンブルク公国の基準の宅地面積が他の国より広いからだ。

イリスより階級が高い(現在は准将)エリカには16LDKなどと言う「邸宅か?」と言わんばかりの部屋が当てがわれたが、
「そんな広い部屋、掃除すんのマジ大変だから要らん」
とエリカが拒否して一般の兵士と同じ部屋を使っている。

更に説明すると高位軍人=貴族階級の者が多く数名の使用人を連れて宿舎に入るからだ。

その広さいっぱいに本が積まれているのでエリカを探すのは困難になっている。
本の壁で作られた迷路である。

イリスは本の壁を伝って通路らしき道を進むとギリギリ寝床が確保されているスペースにエリカが寝っ転がって本を読んでいた。

「なによ?何の調べモノをしているのよ?」

イリスは寝っ転がってるエリカの隣にちょこんと座り何気なく手元にあった本をペラペラと捲る。

「西の大陸に住む魔物の基本分布図?」色々なジャンルの本があるが大半は魔物に関する資料と本の様だ。

「そうだよ~、私ってさ「魔王」になっちゃったでしょう?
だからもっと魔物に関する知識を勉強しないとダメだと思ってさ~」

「へえ?意外ねぇ、魔王って呼ばれるのエリカは凄く嫌がるかと思ったわ」
案外アッサリと魔王を受け入れているエリカに少し驚くイリス。

「そりゃ私だって魔王なんて嫌よ?王様ってガラじゃないからね」

「じゃあ何で?」

「ちょっとやりたい事が出来てさ~、理由が有って魔王エリカが「世界の魔物の統率」をしないとダメなんだよね~」

「はああああ?!「世界の魔物の統率」?!?!
何言ってんの?エリカ死んじゃうよ!!!!」

サラッととんでもない事を言い出したエリカ。
この世界が出来て以降、全ての魔物の支配をする事が出来た魔王は皆無だ。

なぜなら世界の皆んなの経験値、初心者冒険者の味方、ザコキャラ代表の紫虫でもその王様である紫虫王は、おそらくエクセル・グリフォン・ロードの魔王エリカより遥かに強い超激強キャラだからだ。

この世界は15%に過ぎない人族の支配領域から外れると各魔物種族の魔王が跋扈している魔法の世界なのだ。
その為に龍種が種族間の大きな戦にならない様に日夜監視していると言う訳だ。

この物語はそんなちっぽけな人族社会のお話なのだね
しかしエリカは、そんな各種族の王を撃破して従わせると言っているのだ。

その中にはあの「九頭竜王」も当然ながら含まれている。
そんな芸当は人間世界の世界征服より遥かに困難なのは明らかであろう。

「そりゃ当然、世界全ての魔王の掌握なんて無理だろうけど、私は魔物の軍団を結成して他の魔王を出来る限りは吸収してやるつもりよ」

「エリカ?ど・・・どうして急に?暴力魔王に目覚めちゃった?
ねっ?そんな事止めよう?危ないし死んじゃうし絶対に出来っこないよ?」

「それがそうでもないのよねぇ。
これは魔王バルドルとの共同戦線だから、クレア師匠やロテール陛下・・・私の彼じゃなくてグリプス王国の陛下の方ね?とも密約を結んで、三龍王様の承認も取っているわ」

「ええ?!」エリカ得意の与太話しじゃなく本気も本気の話しに衝撃を受けるイリス。

「先ず手始めに私と同族のグリフォンの掌握ね。
ただグリフォン達は最初から私に対して恭順する姿勢らしいから嬉しいわ」

現在、天龍保護下に有るグリフォン達への交渉は天舞龍リールがやってくれているらしい。
リール曰く、グリフォン達は300年ぶりに自分の王が誕生して喜んでいるとの事だ。

「ど・・・どれだけの規模の話しになっているの?龍騎士はどうするのエリカ?」
最早引き返す事が出来ないレベルで進んでいる大事にだんだんと泣きそうになっているイリス。

イリスの質問にエリカはイリスに飛び付いてイリスを抱き倒す。

「寂しいよ~イリス~離れたくないよ~。
100年・・・100年待っててねイリス、100年で決着を付けてイリスの所に龍騎士として帰ってくるから待っててね」

「うえ?!うえ・・・うえええええんんん・・・」
自分の予想通りに近い内に龍騎士隊イリスからエリカが居なくなると悟ったイリスが泣き始める。

「うえ・・・れったいに帰っふえっ!帰ってぎでねぇエリカぁあああ、ふぇえええんんん」

「よしよし、泣かないでイリス」抱きしめてイリスの髪を撫でるエリカ。
そしてそのまま抱き合って朝まで寝たイリスとエリカ。


そして2人は朝チュンを迎える・・・百合っぺ達は朝食のご飯を三杯もおかわりしたと言う。
当番制で2人の監視でもしてるのかな?


泣きながらエリカと抱き合って一晩寝て冷静になったイリス。
冷静になったイリスはエリカの行動に不審な点が多すぎる為に当然、エリカを正座させ自分も正座して膝を付き合わせての尋問を始めた。


「それで?エリカの本当の目的は何?隠し事をしないで答えなさい」

「え?えーとー?」勇者の事を話して良いか誰からも聞いて無かったエリカは言い淀む。

「か・く・し・ご・と・をしないで答えなさい」

「世界規模で異変が起こるらしいので皆んなで協力しましょうって話しです」
仕方なく当たり障り無い理由を言うエリカだが・・・

エリカの答えを聞いて両手でエリカの頬を掴んでジーとエリカの目を見つめるイリス。
エリカが隠し事をする時の目なんてお見通しのイリス。

「うん!やっぱりめっちゃ挙動不審だわ、怒らないから答えてエリカ」

イリスの目を見て、あ・・・コレもうダメだ、と観念したエリカはイリスの勇者としての因果の話しを始めた。

話しをするエリカの目をずーと見つめる続けるイリス。
グリフォン使いのイリスにグリフォンのエリカの調教などお手のものなのだ!

「よし!話しに嘘は無いわね、・・・・勇者の因果の話しなら私も知っています。
そして・・・「黙示録戦争」が近い事も知っています」

「ええーーーー?!何でーーーーー?!」

「あの・・・自分の事よ?知らないでは済みません。
私に勇者の適正が有ると知った時にガストンさんを尋問しています」

「ああー・・・そう言えばそうだったね~、ガストンさんも勇者だったね~。
ガストンさんの龍騎士歴が長いから完全に失念していました」
ガチで同僚のガストンが勇者だった事を忘れていたエリカ・・・マジかお前?

「エリカの話しから推察するにバルドルさんの狙いは「遅延戦術」をエリカを使って行おうとしています。
エリカ?バルドルさんの駒になっても良いの?」

「うん!バルドルさんにも同じ事を言われたけどイリスにだけ戦わせる事は出来ない!」

魔王バルドルの狙いは魔王エリカを旗頭に魔物の間で統一抗争を起こさせて世界全体の因果を分散させて人族達の因果の象徴「黙示録戦争」を遅らせて勇者達に有利な体制を整える事だ。

「はあああああ・・・・」イリスは過去一番のため息を吐いた。

「んー?イリス?私達に何も言わないでアンタ1人でさりげなく消える気だったね?」
突然エリカが反撃を開始する。

「ぎくううう?!?!」

何を隠そうエリカもエルフ調教の第一人者だ!ここで論戦の攻守は逆転した!

「ふぶう?!」エリカに頬を潰され変な声を出すイリス。

「今度は私から質問します」今度はエリカがイリスの頬を両手で掴んだのだ。





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