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第二章 シルフェリアとの別れとイリスの覚悟

55話 「グリプス王国」その2

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「えっ?!我が国ってそんなに強いのですか?!
・・・ずっと我が国は専守防衛の方針で他所の国の事は知りませんでした」

「そうでしょうね・・・第二防壁の後ろは当然「塹壕網」ですよね?」

「はっ・・・はい、エリカ将軍は本当に凄いですね、見る事も無く解るとは・・・」

「いえ・・・この防衛網を作った人達が凄いのですよ」

防衛網・・・これの真髄はぶっちゃけると「いかに敵に嫌がらせをするか」これが基本だ。

苦労してヘスコ防壁をよじ登り乗り越えても次は塹壕網の迷路が来る。

多分「破城槌」とかの古代兵器はヘスコ防壁には通用しない。
なぜならシルト素材なので表面を叩いた所で衝撃が分散されてしまうからだ。
一カ所を崩すまでメッチャ時間が掛かる。
なので力任せに垂直の防壁をよじ登るしか手が無いのだ。

その無防備な所を櫓からチマチマと弓で射落とされるのだ。
櫓の兵士もヤバくなる前に塹壕網に逃げれば良い。

過去にここに攻めて来た敵兵は全員こう思っただろう、
「ああーー!もう嫌だー!お家に帰りたい!」と・・・

そして塹壕網の迷路に入った辺りで体力は尽きてヘロヘロになった事だろう。

グリプス王国軍は塹壕にも少数の槍兵を配置して塹壕の陰から槍でチマチマと刺す。
こうすれば敵兵は精神的に擦り減り、警戒しながら前進するしか無い。
派手さは無いが実に効率良く少数で敵兵を倒せる配置なのだ。

その槍兵もヤバくなったら塹壕網を走って逃げれば良いだけで損害もかなり少なかった事だろう。

そして侵攻軍はグリプス王国軍にほとんどダメージを負わせる事も無くフラフラしている所でを
リバリ元気な守備兵が守る本命の最終防壁のお出迎えだ。
もうこの時点で負け確定だろう。

「これ・・・何なんですの?」初めて見る塹壕網に眉を顰めるシルフィーナ

「そう言う感想だよねー」

「これの意味が良く分からないですね」
ロイにもこの迷路の様な筋堀にどんな効果が有るか分からない様子だ。

「交渉が終わったら演習させて貰おうね」
これは実際に体験しないと分からないので言葉で説明し難いのだ。

何と言うか、塹壕網はイリスダンジョンのアトラクションの巨大迷路に鬱蒼と草木が生えてる様な光景だ、草木や石塀を使い意図的に非常に視界を悪くしているのだ。
パッと見は荒廃した遺跡の様に見える。

平時では最終防壁に向かい一直線に木製の桟橋が掛けられているので通行は容易いが、敵が来たらヘスコ防壁で敵を食い止めつつ桟橋を撤去しながら最終防壁へと後退するのだろう。

これを考案した人間はエリカ以上のゲーム脳の持ち主だった事が伺える。
つまり嫌がらせの天才だ。

「これ空爆でもしないと力技での突破は無理だねー」
エリカも呆れた様に塹壕網を眺めて勉強している。

塹壕網を抜けるといよいよ問題の小麦畑が見えて来る。
まだ種蒔き前で何も無い平地だが、かなりの広さだ。向こう端が見えない。
これの半分以上が赤カビ被害を受けると言うのだから深刻だ

「エリカ?貴女の素晴らしい知恵と知識で何とかなりませんか?」

「シルフィーナちゃん?本当に買い被り過ぎよ?
だから私の知識は他の人が考えた事を学校とかで勉強しただけだからね?
でもうーん?赤カビかぁ・・・・何かないかな?えーと?
そう言えば盆栽・・・盆栽栽培で石灰硫黄合剤をじいちゃんが使っていたかな?」

「石灰硫黄合剤??ですか?石灰も硫黄も我が国では豊富にあります」

「配合は知らないけど石灰と硫黄を混ぜて水で薄く薄めると赤カビ用の農薬になるのね、目に入らない限り毒性は低いはず」
アルカリ性が赤カビを胞子状態で除去するのだね。

「確か原液を50倍に薄めるだったかな?それを噴霧状態で撒くのよ、種植え前にね。
そうすれば結構、赤カビ対策になるはずなんだけど最適な配合率が分からないの」

うむ、これは調べても儂にも分からんかった。どうやら企業秘密らしい。
まぁ普通に女子大生をやっていて石灰硫黄合剤の配合率なんて知らんわな。

「でも素晴らしいヒントになります!早速、薬剤師に頼んで作って貰います!」

「きゃー?!待って待って!撒き過ぎもダメよ!先ずは試験よ!
小さな試験畑を作って色々な配合を試すのよ!先ずは50対50で作って100倍に薄めたモノを種蒔き前に撒いてね?
そこから年々で配合を変えて濃度も高めて1番良い配合を見つけないとダメよ」

「じっ・・・時間が掛かるモノなのですね?」

「そうねぇ、開発にはとにかく時間が掛かるモノなのです。
とりあえず今年は試験畑以外には安全を考えて50対50の石灰硫黄合剤を200倍に薄めて全体的に撒いて見て、それでも多少の効果があるから」

このエリカの提案で今年のグリプス王国の小麦の赤カビ発生率は半分程度に抑えられてエリカは農耕の女神様と讃えられる事になる。

「女神エリカ様!万歳ーーー!!」ウオオオオオオオオーーー!!!

「いやあーーー?!?!だから私が考えた訳じゃ無いってーーー?!」
ここに女神エリカ爆誕!!くれるなら貰っとけば良いんじゃね?

とは言えこれは来年の話しだ。話しを元に戻そう。

小麦畑を抜けると・・・長い!最後の防壁まで直接距離で5kmもあった。

「この辺りまで攻め込まれた事は300年間一度もありませんね」
つまり今までも塹壕網で全ての敵を全滅させて来たと言う事だ。

「あれ作った人・・・・・・・・恐ろしい子!!」とりあえずネタに走るエリカ。

最後の防壁は平均の高さが25mを超えるかなりの高さと強度を誇る立派な物だった。
50m間隔に設置された跳ね出しの射櫓に投石口、城壁各所に突き落とし口が無数に空いている。

突き落とし口とは城壁の裏側から複数人で「えいやあ!」と鉄の棒を飛び出させて、よじ登る兵士の顔や腹や胸を突き叩き落とすモノだ。
力が入らない体勢で完全に無抵抗で攻撃を受けるので攻城側からは「死の穴」と呼ばれる。

「凄いですねぇ」素直に感心するエリカ、気分は古城の観光客だ。

「ここをよじ登るのだけは勘弁したいですねえ、命が幾つあっても足りません」

「300年損害を受ける事も無く、毎年少しずつ増設と改築を繰り返して行く内にこんな城壁になってしまいました」

堅牢な三重の城門を越えるといよいよ首都の市街地に入る。
グリプス王国・・・グリプス城塞王国の市街地とはどんな物なのか?
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