上 下
147 / 247
第二章 シルフェリアとの別れとイリスの覚悟

外伝!「黒龍ラザフォードとマッドサイエンティスト」その13

しおりを挟む
忙しく御前コンサートの準備を進めていたら時間はあっという間に過ぎ去り公演の前日の夜になった。

そして最後のミーティングが始まったのだが・・・

「うう!メチャクチャ緊張して来た・・・」

「ラザフォード?!漏れてます!やばい魔力が漏れてます!」

緊張状態のラザフォードから黒龍の魔力が漏れて来て顔が青ざめるドミニク。

「魔力?」他の一般的なスタッフは良く分かって無い様子だ。
すると銀髪少女がラザフォードの首にペンダントを掛ける。

「あれ?魔力の放出が収まりましたね?」

するとあら不思議、スッと黒龍の魔力が収まる。
「お守りっす、あげるっす」と軽く銀髪少女が言うがこのペンダント、地龍王クライルスハイムのお手製の魔力制御用の魔道具で特Sクラスの魔法アイテムだ。

「わぁ綺麗・・・」
ラザフォードも女の子、美しい宝石がはめ込まれたペンダントを見て気分も大分落ち着いて来た様子だ。

ちなみに宝石は、でっけえ最高品質のベニトアイトでこの世界でもかなり稀少な宝石だ。
カットはポピュラーなラウンドブリリアントカットだが技量が凄すぎる。

地龍王クライルスハイム曰く「カットの精度が込める魔法陣の精度に直結する」との事だ。

真魔族も宝石を好んで良く使うし作成するが、この領域の宝石ともなると国宝レベルになる。
すみません儂にもソレをお一つ頂けませんか?ダメですか、そうですか。

ドミニクも人類高位の実力者の1人、ペンダントの付加価値を正確に読み取り更に顔が青ざめるが、そこは敏腕マネージャー、明日のコンサートの流れの説明を始める。

「先ずは国王クレマン・ヴィアール陛下の開幕の挨拶・・・あれぇ?宰相が代行?」
さっき役人さんから渡されたプログラムが書かれた紙を見て首を傾げるドミニク。

「ああ、国王さん喉に急病が発症して声が出ないらしいっすね」
シレっと嘘を言う銀髪少女、実はさっき役人さんと国王をガッチガチに縛り上げて国王席に転がして来たのだ。

当日は忙しいので先乗りで面倒くさい仕事を済ませたのだった。

国王はこれから御前コンサートが始まるまでの18時間、放置プレイ確定である。
国王にとっては至福の時間だね!やったね!

「喉に急病って国王さん大丈夫なんですか?
謁見の時も心臓発作で危篤とか言ってましたけど・・・もしかしたらお身体が弱い?」
素で国王の体調を心配する心優しいラザフォード。

「ああ、3日もあれば完治するらしいので大丈夫っすよ」

今後もラザフォードと国王が顔を合わせる可能性がある時は、「盲腸炎っす」「肝臓癌っす」「足が腐って切断したので義足の調整中っす」とか超適当な理由を付けられてラザフォードに合う事を阻まれ続ける国王だった。

約10年間ピアツェンツア王国王都に滞在するのだが「ヤベェレベルで身体が弱い国王」
ラザフォードは国王の事をそう認識するのだった。

別に国王が居ようが居まいがコンサートには問題ないので曲の順番とかミーティングは順調に進む。

前世のコンサートと決定的に違うのは「音響設備が一切無い」事だ。
声が小さいと聞こえない、声が大きいと濁声になる、オペラの舞台と一緒だね。
ラザフォードのこれまでの特訓で培われた発声能力が試される。

ちなみに今回の御前コンサートはラザフォードの単独ライブでは無い。
さすがにラザフォード1人だけ特別扱いは不味いので「天龍教」の教会合唱団や旅の吟遊詩人とかも大勢参加する。

ラザフォードの出番は後半部門の最初に決まった。
何でこのタイミングかと言うと観客が一番多くなる時間帯と予想されたからだ。

開演から1時間ほど経過して観客の熱も最高潮の頃合だろう。

それからミーティングが終わり皆んなが寝静まったらラザフォードは恒例になっている、ある山の山頂に行き発生練習を行う。

どこにでもある普通の山なのだが何故か落ち着くラザフォードお気に入りの山だ。

「It was thought that about 200 zelkova trees would be needed, but Erika said, ``Let's turn it once after all!'', so extra materials were needed, and in the end, 350 zelkova trees were borrowed. Needless to say, Iris and the others are furious at Tenmairyu Reel.

The reason why Iris didn't get caught up in the pursuit from the Heavenly Dragon Reel was because Iris had the special skill of "hidden".

Then comes the fateful final day of work.」

アカペラで楽しそうに歌うラザフォード。
しかし歌詞が・・・いやもう何も言わないでおこう存分に歌うが良い。

「相変わらず良い歌声じゃのぅ」

「あ!叔父様!」

この山がラザフォードのお気に入りの理由の一つ、お目当て一つの渋カッコいい叔父様が近くの山小屋から出て来た。
山小屋と言うには大きな建物なので館と表現するのが正解か。

「どれ、今夜も聴かせて貰おうかのぅ」

「喜んで!是非聴いて下さい!」

この叔父様、いつもラザフォードの邪魔をしないで黙って歌を聴いてくれるので観客としては最高なのだ。

そして彼に仄かな恋心を抱いているラザフォード。
さすが叔父様好きなラザフォード、結構大胆積極的に好き好きアピールをするのだ。

察しの良い人には、お分かりであろうが、この叔父様は地琰龍ノイミュンスターである。

本当にたまたま偶然に知り合ったのだがラザフォードが一目惚れしたのだ。
以来こうして押し掛けて歌で誘っているのだ。
そして明らかに珍妙な歌詞だが指摘もせず聴き入ってくれるノイミュンスターは優しい。

しかし残念ながらノイミュンスターには、ある事情があってラザフォードの恋は実る事が無いのだが一晩の逢瀬を楽しむラザフォード。

ある事情と言うのはノイミュンスターに限らず古代龍は種族の縛りが強く多種族と子を作る事が出来ないからなのだが。

まぁ、ノイミュンスターもまんざらでもなさそうなので良いんじゃね?

こうしてラザフォードはノイミュンスター養分を充分に充電する事が出来て気合い充分に御前コンサートに挑む事が出来るのであった





しおりを挟む

処理中です...