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第二章 シルフェリアとの別れとイリスの覚悟

外伝!「黒龍ラザフォードとマッドサイエンティスト」その7

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ラザフォードは人化してコソコソと気配を消しながら再度街へと接近した。
別に何か悪い事をしている訳でも無いがもうドキドキだ。

だが変にオドオドしていると逆に怪しまれるので堂々とクレアから貰ったラーデンブルクの身分証明になるペンダントを正門を守る兵士に見せる。

「あれ??・・・ああ・・・いえ、通って頂いても大丈夫です」

「ありがとうございます」
ラザフォードは門番にニコニコ愛想笑いしながら正門を通過すると
首を傾げラザフォードの後ろ姿を見送る兵士。

「どしたぁ?美人のお尻を見たいのは分かるが任務に集中しろよ」
相棒の兵士が諌めて来るが・・・

「いや・・・あのラーデンブルクの子、さっきも門を通過しているんだよ。
いつ街の外に出たのかなぁ?て」

どうやって街を出たかと言うと「エイヤー!!」とジャンプ一番城壁を飛び超えました。

「闇取引してる商人じゃね?注文を受けて裏門から出て買付して戻って来たんだよ」

「ああ、なるほどね」

物騒な物言いだが、兵士が言うここでの闇取引は「グレーの取引」を指す。
酒や煙草の嗜好品を街に持ち込むと税金が掛かるので先ず店から注文を受けてから街道で待機している元売の馬車から買付を行い街の中へと持ち込む。

そうする事で経費削減を行なっているのだ。
要は税金逃れの取引なので世間の体裁は悪いが別に違法では無い。

この取引方法を違法とする国も有るが、余り厳しく取り締まると商人が逃げてしまうので見て見ぬふりをしている国の方が多い。

消費者の町人も安く酒や煙草を購入出来るので文句を言う者は少ない。
たまに正義感が強い者が商人達の税金逃れを問題視する時があるが周囲から「まあまあ彼らも商売だから」と宥められて終わる。

特に準戦時下と言える現在の中央大陸ではこの取引が主流になっている。
せっかく多額の税金を払ってもその国が滅亡してしまったら優遇を受ける事が出来ずに払い損になってしまうからだ。

中央大陸の各国は物資の物流を担う商人との駆け引きでかなり難しい舵取りが続いて行くのだ。

この様に街を出たり入ったりする者が頻繁にいて多いので当然ながらスパイの諜報活動も活発なのだ。

「・・・・・・・・・」

そんな中、街中を歩くラザフォードを付け狙う影・・・
ラザフォードが人目を避ける為に大通りから横道に入り人気が無くなった場所で、
「動くな・・・」
そう言われながら男に真正面から首元にギラリと光るナイフを当てられた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これは大変な事になった。
逃げて!スパイさん!超逃げてーーー!!
その子、黒龍ですよぉーーー!超絶激ヤバな龍種ですよーーーー!!

ナイフを突き付けられたラザフォードは、ニヤリと笑い、男に対して、
「うふふふ、もし協力してくれたら動かないでいて差し上げますよ」と言い放つ。

「なっ?何を訳分からない事を!お前!ラーデンブルクの商人だな!
黙ってついて来い!やって貰いたい事がある!」
どうやらスパイさんは、ラザフォードを使いパシリの間者として利用したいらしい。

正門を2度もほぼ素通り出来た事で目をつけられたのだ。
何かしらのブツを運び込ませるとか、利用価値は高そうだ。

ちなみにクレアがラザフォードに渡したペンダントは公国の「高級官僚」が持つ物と全く同じ物だったりする。

そんな感じに虚勢を張るスパイさんだが実の所は背中の汗が止まんねぇ~。

まともにラザフォードと目線を合わせた瞬間に自分の本能が、
「ああー!!ヤバイ!ヤバイ奴を相手にしてしまった!ヤバイヤバイヤバイヤバイ」と警鐘を鳴らしまくっているのだ。

しかしナイフを突き付けられてもこの余裕・・・
大人しそう見えて案外とラザフォードも肝が据わっているな・・・
黒龍となって精神も強くなったかも知れないな。

と思ったらこの子、黒龍になる前に正当防衛とは言えど思い切り真正面から黒龍王と戦って黒龍王を噛み殺していたじゃないですか!
ヤダー!この子ってばメッチャ怖いー!

そりゃ人間のスパイにナイフを突き付けられた程度でビビる訳ないわな。

「うふふふふふふふふふ~、どうします?」
どうやってスパイさんを大通りでのゲリラライブの為に利用してやろうか考えてるラザフォード。
その笑みは往年の黒龍王と同じ邪悪な笑みだった。

その笑みに完全に飲み込まれたスパイさんは、「降伏します」
カラーンとアッサリとナイフを捨ててラザフォードに無条件降伏したのでした。
「いや無理だって!死にたくねぇモン!」とスパイさんの心の声が聞こえる。

「あれ??・・・・・うーんと?あっじゃあ!これからはスパイさんは私の奴隷さんですね!」
マジで緊張感を解す為に軽い冗談のつもりで言ったラザフォードだが。

「はい、ご主人様、これからよろしくお願い致します。
これからは私の事は「下僕」でも「ミソッカス」とでも好きにお呼び下さい」
そう言ってラザフォードに土下座してしまったスパイさん?!

「ええええええーーー?!」

ラザフォードは意外な所で有能なマネージャーさんをゲットしてしまいましたとさ。
ちなみにこのスパイさんは物理的に凄え強いスーパーマネージャーさんになるのだ。




「へえ~、ドミニクさんは西の大陸の出身なるですか?」

そんな、人様を下僕だのミソッカスなどで呼べるかい!とラザフォードはスパイさんの名前を聞き出した、名前をドミニクと言う。

予想通り、ゴルド王国から雇われてピアツェンツェア王国へ放り込まれたらしい。

「実は・・・給料が未払いなんですよ・・・」

「それは・・・辛いですね」

そして何故かドミニクの身の上話を聞くラザフォード。
産まれてすぐに母親が亡くなり、父親は徴兵された後に行方不明・・・
かなり年上の兄と姉がドミニクを育ててくれたらしい。

こんな過去がある結構悲惨な苦労人だった・・・

「俺は早く兄と姉に仕送りをしたいのです。
でもゴルド王国は給料を払ってくれて無いのです」

そりゃあそんな状況で仕事中に遭遇した黒龍なんかと戦って命を捨てるなんて御免被りたいよな。
かなりの強者なのに随分とアッサリ降伏した理由が分かったのだった。
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