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第一章 エルフの少女

74話 「コリーン山攻防戦」その3

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コリーン山へ進軍している魔族軍350名・・・
未開の地での進軍に苦戦して到着予定から大幅に遅れた進軍になっていた。

「クッソ・・・歩き辛いぜ」腰までぬかるむ湿地帯に手間取る魔族達。

「ゴブリン共もよくこんな所に街を作ろうなんて考えたモンだ」

「お前馬鹿か?逃げ出したんだから簡単に俺らが来れない所に作るに決まってんじゃねえか」

「何だと?!テメェ!」

「うるさい!黙って行軍せんか!お前ら!」

隊長の一喝で静かになったが魔族の兵士達は連日、大自然の洗礼を受け大分イライラしている。

「ゴブリン共め・・・多少は虐殺しても問題はあるまい」
本国からは「ゴブリンは資源なので殺害無用」との命令を受けてはいるのだが腹いせにゴブリンを嬲るつもりの隊長・・・さてそう上手く行くかな?

この魔族軍の到着の遅れはゴブリン軍の迎撃準備に時間を与える事になる。

「釣り野伏せり・・・ですか?!」
目がキラキラしてるドンゴ、すっかりグリフォンロードのエリカが立てる作戦に感化されてしまい、エリカ信奉者になってしまった。

《はい、90名の部隊を3つに分けて一つの部隊は敵と正面で対峙してすぐに偽装退却します。
おそらく魔族軍はこちらを甘く見てますから追ってきます。
そこを伏兵している二つの部隊が左右より急襲して逃げた部隊も転身します。
こうなれば魔族軍は三方向からの包囲攻撃を受ける事になります》

「なるほど・・・しかし敵が追って来なかった場合は?」
ガストンが「釣り野伏せり」の弱点を指摘する。

《その場合は時計回りに三部隊を移動させます。
完全な包囲殲滅にはなりませんが敵は次々と新手の部隊と交戦しなければならず疲弊していきます》

「また怖い戦法ですな・・・敵が同じ事をして来たらどうします?」
やられた戦法をやり返すのは良くある話しだ。

《その場合は一旦引きます。
これは奇襲戦法なので引かれて全体像がバレると、ただのばらけた陣形に変わります。そこに正規の突撃します。
こちらも同じ事をされる可能性が高いですので敵が引いたらこちらも引く事を徹底して下さい》

「分かりましたぞエリカ殿、その戦法を取り入れましょうぞ!」

《でも多分成功しますよ。
話しを聞く限りでも魔族軍は私達を格下と思ってる様子ですから》

「雪崩れ発動のタイミングは?」

《一番最初です。
倒せないにしろ敵は頭に血が昇り易くなり冷静さを失いますから》

「釣り野伏せりが成功し易くなる訳ですな!」

《釣り野伏せりの前に落石と弓矢での攻撃です。
出来る限り敵の数を減らして陣形を崩しておきたいです》

「エリカ殿、我々の出番はいつになりそうですかな?」
援軍の為に到着したオーガ部隊の隊長が質問して来る。

《皆さんの出番は「釣り野伏せり」の後のトドメの一撃の時です。
ここまで来たら魔族軍に陣形を立て直す時間はありません、
思う存分に殲滅して下さい、この時に龍騎士隊イリスも同時に突撃します》

「いつもの機動力を活かした遊撃戦はやらないのですか?」

《今回は邪魔になるのでやりません。
無駄に警戒させてしまいます、魔族軍にはこちらを馬鹿にしてもらわないといけませんからね》

サクサクと質問に答えるエリカ、既に彼女には戦闘の全体像が見えているのだろう。

こうしてゴブリン軍の準備が着々と進む中ようやく魔族軍がコリーン山の麓に到着した。

「よし!20名は周囲の偵察へ、他は警戒しつつ休息とする」
それなりに優秀な指揮官なのだろう、先ずは偵察と休息を優先する。

偵察が帰って来るまでの間、食事を取る魔族兵士。

「不味い・・・」魔族と言え元は人間、味覚は人間と一緒だ。
保存食の缶パン擬きと干し肉では味気ない。

「早くゴブリン共に飯を作らせてやりたいぜ」

ゴブリン飯を懐かしむ兵士、食いたきゃ金払えって話しなのだが侵略国家に産まれたせいでその手の発想が出来ないのだ。

3時間ほど休憩していたら偵察に向かった者も続々と戻って来た。

「ホブゴブリンの200名ほどの一団が山の7合目付近に陣を構えています」

「ホブゴブリンか・・・奴等はいらん。欲しいのは普通のゴブリンだ」

強靭な肉体を持つホブゴブリンを奴隷化するのは大変なのだ。
肉体労働には適しているが反乱のリスクを考えると奴隷化するには普通のゴブリンの方が良い。

「して、施設や装備は?」

「遠目での確認で正確ではありませんが・・・急ごしらえの柵に剣と槍、慌てたのか農具を持った者も多かったです」

「そうか、楽勝だな。
今まで受けた苦労のお返しをしてやろうじゃないか」

呼ばれもせんのに勝手に来て、今までの苦労もクソも無いのだが魔族軍は後顧の憂いを断つべく山に陣取るホブゴブリンを殲滅する事に決めた。

「して?使えそうな道は?」

「敵陣へ向かう道は3つあり見通しも良くどの道にも問題はありません」

「では部隊を3班に分けて進軍し包囲殲滅と行こう」

こうしてエリカの作戦通り魔族軍は罠のど真ん中へ突撃しようとしている。

見通しの良いなんの問題も無い道・・・当然イリス達が整備してやったのだ。
敵が見通せると言う事はこちらも見通せると言う基本的な軍略を忘れていた指揮官。

敵方に優秀な軍師が居ると知らない魔族軍。
ここにコリーン山、野城戦が始まった。
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