上 下
60 / 247
第一章 エルフの少女

60話 「豊穣の祝福」その1

しおりを挟む
金が手に入った事だし、とりあえずクレアが到着する間に「豊穣の祝福」の下準備を出来る事はやる事にしたイリス。

ブリックリンに金をプレートを3枚作って貰い余った金で水を入れる皿も2枚作って貰う。

そこに何やら特殊な筆で何かを書き込んで行くイリス。

白ちゃんが覗き込むが「企業秘密です」とイリスは笑いながら何を書いてるかは、教えてくれない。
出来上がった物を見ても何を書いたのか良く分からない。

「エルフの古代文字らしいです」
結局は教えてくれるイリス、「我が願いを聞き届け賜え」とか書いてますとネタバレする。

次は用意された小川の中洲で祭壇の基礎作りだ。

沢に落ちてる石を小さな身体でせっせと運ぶ、皆んなが手伝おうとしても「これは祭事を行う者の役目なんで」と笑って1人で運ぶ。

運ぶ時も大地に願いながら移動する儀式の一環なんだそうな。
この後、到着するハイエルフ達も全員同じ様に石を運ぶ、当然クレアも。

その石を八角形に隙間なく積み上げて行く、なるほど、この作業だけでも時間が掛かりそうだ。

「ふう、私の分はこんなモンかな?」
イリスは3日掛けて高さ30cm、5m×5mの土台を作った。
後は到着するハイエルフ達が引き継ぐのだ。

「結構大変な儀式だったのねぇ」
白ちゃんはハイエルフ達が並んでパーと魔法陣を展開してスパッと終わると思っていたのだが、地味な作業の連続に少し驚いている。

「本祭事になれば更に地味になりますよ」
シルフィーナに汗をゴシゴシされながら答えるイリス。

何でも小川の水を汲んで周囲に撒くのは全て人力で撒くそうだ。
「これは「お願い」ですからね、大地と一体化するのに派手さは必要ありません」

「地脈を操作とかしたらダメなの?」とブリックリンが提案して来る。
地龍は大地の力を使う事が出来るので「俺がやったらダメ?」と聞いて来たのだ。

「うーん・・・それだと毎年地龍が儀式をする必要があると思う。
それだと恒久的な効果が無いでしょ?
もし地龍が儀式をしてくれないと植生は元に戻っちゃう」

それから少し考えて、
「でもブリックリンが地脈の操作をしながら儀式を行うと効果が上がりそうだね。
お願い出来る?」

「任せて」

イリスは通常の儀式にアレンジを加えて見るつもりの様だ。
実際にやって見ないと結果は分からないがやる価値はありそうだ。

「水を撒く時に私の風で拡散幅を広げるのは?」
シルフィーナも何か手伝いをしたいのだろう。

「うん、それもやって見よう!」
効果が高まるならドンドン古い儀式も改良する気の革新者のイリスだった。

おおまかな準備は1週間ほどで終わり、残りの3週間は周辺地図の作成に勤しむ事になった、地味な作業が続いて肩が凝ってたイリスの気合いが凄い!

ゴブリンから仕入れた情報を元に気になるポイントを見て地図に落として行く。
ついでに外敵になりそうな魔物の討伐も行う。

東の大陸の魔物は強いと聞いていたので準備万端で挑む龍騎士隊イリス。
先ずは最初の滝がある場所だ。

しかしそこでとんでも無い大物と遭遇する事になる。

グオオオオオオオオオ!!!大地が揺れる雄叫びが龍騎士隊イリスを襲う!

九頭竜王。

いきなり滝の中から太古の昔よりこの世界に存在した竜王が現れたのだ!
本当にいきなり過ぎて逃げる事も出来ずにその場に全員固まる!

「うっそぉーー?!」

《きゃあああああ?!》

「「あっ・・・コレあかんヤツだ」」地龍のブリックリンですら動けずにビビる超大物だ。

「「しししし死んだふりをしましょう!」」いやもう遅いと思うよ?シルフィーナ。

「まさか、こんな所で九頭竜が寝ていたなんて・・・」
さすがの九頭竜王の前に勇者ガストンですら顔色が悪い。
九頭竜王は三龍王に匹敵する力を持つマジモンの竜王なのだ。

九頭竜王は雄叫びを上げた後は何もせず九つの頭でイリス達をジーと見ている。
何を考えてるのか全然分からない。

「私達!美味しく無いからね!」
いや他は知らんがイリスは美味しいと思う、コロコロした幼児エルフだからね。

ちなみに今のイリスはゴブリン料理の食い過ぎで過去最高に太ってしまった。
なのでダイエットで祭壇の石運びを黙々とやっていたのだ。

《今日もコロコロしてて可愛いですわーー!》

「やかましい!」

イリスとシルフェリアが毎朝こんなやり取りをするくらいに今のイリスはコロコロしている。単に成長期前の幼児太りなだけなのだが・・・

「グゥルルル?」「グオオオ?」「グウ?グオオオ?」
何やら九つの頭が相談を始めた?龍種と九頭竜王は全く違う存在なのでブリックリンも何を言っているのかは全然分からない。

それから何かが決まったのか九つの頭はコクコクと頷き合う。

「食べないでね?」コロコロエルフは九頭竜王に懇願して見る事にした。
すると一つの頭がイリスに近寄って来て、

「「ハイエルフよ、お主は何をしにここに来た?」」と質問して来た。
いきなり人族の言葉を話し始めた九頭竜王に内心めっちゃ驚くイリスだが、
相手は地龍王より古き絶対的な存在・・・まあ話せるよね?と思い。

「地図作りに来ました」と本当の事を言う。

「「ふむ、地図とな?何故に地図を作る?」」

「この辺りに鬼族が進出して来たので、そのお手伝いです」

「「ほうほう、そうか鬼族が・・・エルフと鬼族は仲が悪いのでなかったか?」」

「いえ、今まで特に種族として争った事はありません」

個人的に争った事があるかも知れないがイリスは知らん。
エルフと鬼族は基本的に同じ精霊種なので争う理由が無いのだ。

良くゴブリンがエルフを襲ってチョメチョメする話しは支配者階級の人間がでっち上げたデマだ。

庶民達がそう言う一般認識ならゴブリンを奴隷として扱っても異論を挟む者が少ないからだ。

特にオークは自分達の種族の誇りが高いのでそんな目的でエルフは襲わない。
個人的にそう言う事もあったかも知れない程度の話しを大袈裟に吹聴して来ただけなのだ。

「「ふむふむ、なるほど分かった。これからも仲良くな?」」
そう言うと九頭竜王はまた滝壺の中に入って行き姿が見えなくなった・・・


「ふわあああ・・・怖かったぁ・・・」ペタンと尻餅をつくイリス。

「私もさすがに勝てないと思いましたよ」
勇者ガストンも足の力が抜けて座り込んでしまう。

「「・・・・・・」」シルフィーナは有言実行、死んだふりをしていた。

「「本当に怖かったね・・・」」
ここまで力に差を感じた事が無かったブリックリンも脱力して伏せてしまう。

《でも、とても良い人・・・良い竜王さんなのですねぇ?》

「そうだねぇ・・・でも怖くて友達にはなれなさそう・・・」

何せ九頭竜王は身体も大きく見た目も怖いのだ。
世界の絶対者に初めて会った一同は「世界って広いぜ!」と思ったのだった。
しおりを挟む

処理中です...