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第一章 エルフの少女

40話 「不祥事の後始末」

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天龍に逮捕されたイリスとブリックリンは取り調べ室へ連行された。
イリスにとってはこれで2回目の入室だ。

「よ・・・幼児なのに前科2犯・・・」出されたカツ丼を見てまた呟くイリス。
この世界は累積加罪なので通算前科6犯だがな。

憮然とした表情で腕を組んでる取り調べ官は、今日たまたま天空城で仕事をしていた天舞龍リールだ。

「リール様の知り合いっすよね?相手が地龍なんでお願いしまっす!」
外交問題に発展しそうで担当の者が逃げてしまったので、クッソ忙しい時に駆り出された。

「それで?何でこんな事をしたの?」今回はさすがに怒っているリールさん。

別に隠す事もないので、ありのまま正直に全てを話すと、
「完全に保護者の監督不行き届き!すぐに地龍側に抗議の使者を!」
とリールさんが部下に指示を出す。

さすがに今回はやべぇと言う事ですぐに地龍王クライルスハイムが直接謝罪に来た。
運良く今日は不在だった天龍王アメデがいたらきっと大爆笑された事だろう。

「いっ居た堪れない・・・」完全にイリスとブリックリンは丸くなっていた。

今回の直接的な原因を作った地琰龍ノイミュンスターと共犯者のクレアまで天空城に来たのだからイリスとブリックリンは小さくなって無くなりそうだった。

《大丈夫!無くなってもイリスは可愛いです!》
シルフェリア!うるっさい!空気を読めダメ精霊!

「それで?あれ何なの?」腕を組んだ激オコのリールさんが問い詰めると、
「リールよ、あれは、「ろけっとぶうすたぁ」じゃ」とノイミュンスター。
「つまり飛行機用の補助装置じゃリールよ」とクレア。

要領を得ない回答をする2人に頭痛がするリール、そう言う事を言ってんじゃねえ!

「言い方を変えるわ、安全性を確認されてない物を子供に与えてどう言うつもりなのか?と聞いているのよ?」

「う・・・うむ、まさかノイミュンスターがアレをイリスに渡すとは妾も思わなんだからのう」珍しく歯切れが悪いクレア。

「我もまさか出力調整のボルトを閉め忘れたとは思って無くてのう」
そう言って出力弁のボルトを見せるノイミュンスター。

これには、あっちゃー、と言った顔で視線を逸らす地龍王クライルスハイム。

「はい!整備不良も追加ね!1番悪いのはノイミュンスターだね!」

「うむ・・・ここは素直に謝罪しよう、すまなんだ」

「とにかく!地龍とエルフ側には「飛行機」と言う魔道具の全ての詳細な図面の提出を要求するわ!そこから安全性を確認します。
それまで飛行禁止を通達します!よろしいですか?」

「はい」

「はい」

素直に返事をするノイミュンスターとクレア、世界の空を管理している天龍の飛行禁止の通達は絶対なのだ。
ここで逆らったら例え地龍とハイエルフとは言えマジでヤバいのだ。

「叔父様もよろしいですね?」

「うむ、すまなんだなリールよ」
クライルスハイムも謝罪した事で今回の事は帳消しになった。
無論イリスとブリックリンの逮捕も記録に残らない。

「お互いに忙しいのに変な問題を起こさない様に!では解散!!」
リールの号令で解散する偉い人達、確かに全員が忙しいのだ。

特にイリスは今すぐドライアドの森にいるウッドエルフの避難誘導しなければならないのにお前は何やってんの?!状態だね!

マジで時間が無いので説教もそこそこに、急いでドライアドの森へ向かうイリスとブリックリン、「ロケットブースター」は当然、天龍に没収された。

この因果は後にブリックリンの弟に巡る事になる。

「「今回はさすがに不味かったね・・・」」

「うん・・・私も気絶したかった・・・無駄に座った根性が憎い」

《私がディスられてる?!》

幸か不幸か天空城からの方がドライアドの森に近かったので案外早く到着する。
これだけドタバタして時間ロスが2時間程度だった。

普通に使えば「ろけっとぶうすたぁ」結構使えるんじゃね?
と全く反省してないイリスだった。

1号機は天龍に没収されてしまったので帰ってから早速2号機の製作に取り掛かるこちらも反省の色が無いノイミュンスターとクレア・・・

この弟子にこの師匠ありである。

ドライアドの森に到着すると無作法になるがシルヴァーナの家に直接向かう、
緊急事態なので今回は仕方無し。

シルヴァーナのログハウスに着陸すると数人のウッドエルフの女性が既に避難をしていた。

「ええ?!徹底抗戦?!」
ウッドエルフの女性に状況を聞くと、とんでも無い事態になっているのが判明した。

女性と子供はラーデンブルクに避難させるが男性はこの地に留まり徹底抗戦をすると言うのだ。

「はい・・・長老が「先祖代々の土地を簡単に捨てられない」と・・・
男達も賛同しております」

これには頭を抱えたイリス・・・
いや気持ちは分かるのだ!事実、イリスもユグドラシルの森を捨てる事に両手を上げて賛成している訳では無い。

幸いドライアドの森に手を出す事に人間は躊躇しているらしく今の所衝突は発生していない。

シルヴァーナも現地で迷いの結界を強化しているのだそうだ。

その話しを聞いて身勝手な人間達に怒りを覚えるイリス。
人間に対して今まで特に何も思って無かったイリスだが次第に人間に対して偏見と嫌悪感を持ち始める。

そしてこの後の出来事が決定打になってこの感情はなかなか払拭されなかったのだ。





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