魔法世界の解説者・完全版

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隻腕の龍戦士編

9話 「ゴルド王国の終焉」

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ブザンソン要塞包囲に足止めを受けたガエル侯爵が率いていた軍団とは別の戦線の軍団は順調にゴルド王国の王都包囲網を完成させていた。

「そちらが占領した領を全て返還すれば停戦に応じようではないか」

「・・・話しにもならんな。
無条件降伏か攻め滅ばされるか好きな方を選ぶが良いぞ」

「・・・ふん!後悔なさるなよ?」

《お前がなーー》と、思わず言いそうに皇帝だが寸前でニヤリと笑った。
戦時中で常に仏頂面なのだが基本的に普段はめっちゃ明るい性格の皇帝なのだ。

こんな感じに劣勢のゴルド王国からは停戦交渉の使者が来たが自分達の現状を全く把握出来ていない尊大な交渉内容だったのでヴィグル帝国の皇帝は交渉を一蹴し戦闘は予定通りに続行されていた。

そんな中でブザンソン地方に龍戦士襲来の報が入り皇帝と側近達には緊急が走ったが、直ぐにガエル侯爵より「問題無し」の伝令が届き一同は胸を撫で下ろしたが、ガエル侯爵からの密書を読んだ皇帝の胃痛は悪化した・・・しっかりと養生して下さい。

ガエル侯爵の軍団はブザンソン丘陵地帯より王都方面に転身をしたのだが王都への攻撃開始時間にはとても間に合わないので後方での遊撃軍となった。

後方の遊撃軍とはゴルド王国の各辺境地方よりやって来る王都救援の為の軍団を抑える役割なのだが今まで散々に中央から蔑ろにしていた辺境地域から果たして王家救援に来る奇特な軍など本当に有るのかは甚だ疑問で実質的には予備戦力に戻ったと言っても良い。

「これより王都周辺の城塞、要塞、補給用の砦の攻略を行う」
皇帝から攻撃命令が下り展開中のヴィグル帝国各軍団が王都周辺の防衛線に一斉攻撃が始まった。

しかし開戦直後から無理矢理に周辺の村から、かき集められた老人兵や農民兵が一斉に投降してヴィグル軍がそれを受け入れ、数で優っていたはずのゴルド王国の門閥貴族が率いていた総勢15万の軍団は次々と各個撃破されて行き、全面崩壊を起こして敗走し防衛戦線はあっという間に瓦解した。

僅か8日間でヴィグル帝国軍が目標としていた軍事施設は全て陥落する。

ゴルド王国軍の敗残兵達は東西南北の辺境地域へと逃亡してヴィグル帝国も追撃しなかった。
要するに見逃された形だ。

その事に対して恩義を感じたのか辺境地域も一斉にヴィグル帝国へ投降して、結局王都に退却出来た兵士は開戦時の20分の1の6000名と言う、ちょっと信じられない結末を迎えた。

まぁ、真っ先に指揮官がトンズラしたのだから一般兵はやってられなかったのだろう。
如何にゴルド王国の内部が腐敗し不健全だったのかが解る戦いだった。
投降した辺境地域の者達は如何に中央が腐っているかヴィグル皇帝に訴え出たと言う。

その時に王城で悠々と夜会などを催していた愚か者共もこの時になってようやく自分達が如何に危険な状況かを理解した。

ゴルド王国の王侯、門閥貴族達は慌ててヴィグル帝国に再度停戦の使者を出したが「お前達に残された道は無条件降伏か討ち死にしかないと前に伝えているはずだが?好きな方を選べ」とヴィグル帝国皇帝に再度一蹴された。

それに加えてゴルド王国北部地方では魔族軍によるゴルド王国領地の切り取りが順調に進んで行った。

北部全域が魔族領になった瞬間に魔族はヴィグル帝国と不戦条約を締結する。
切り取った領土を外交で保全すると言う未だかつて無かった慎重な魔族の戦略に衝撃を受けたゴルド王国の国王だった。

ゴルド国王は北部地方をくれてやる代わりに魔族に再度援軍を要請するつもりで領地の切り取りを黙認していたのだと言う・・・マジでアホの子なのかな?

「うううう~!!!!!朕が打てる手が次々に潰されていく!」
余りの身勝手な屈辱に、元々イカれていたゴルド国王の精神に更なる狂気を孕み出す。
この絶対窮地の局面でゴルド国王の味方に対する大粛清の始まりである。

もうその頃になるとゴルド国王の海岸線の都市は次々とピアツェンツェア艦隊が攻略戦を行い、西の大陸の東方沿岸部全ての町や村はピアツェンツア王国に降伏済みだ。
王侯、門閥貴族達は国外逃亡も既に出来ない状況に追い込まれていたのだ。

「ヤニック兄貴!なんか凄い勢いで占領してますけど・・・占領した地域はウチに返してくれるんすよね?!」

「えー?どうしょっかなぁ~?たくさんの地域を占領したからな~」
ドサクサ紛れに火事場泥棒をしまくるピアツェンツア国王。

「兄貴~」涙目のヴィグル皇帝。
美味しい所を全部、兄貴分も持っていかれそうなヴィグル皇帝なのだ。

「ヤニックちゃん!後輩を虐めんじゃないの!返して上げなさい!」

「師匠~・・・この人を何とかして下さいよ~」

「ヤニックちゃん!!!!」

ラーデンブルク公国のイリス公爵を仲裁者として交えた領土保全の為の3者会談で後輩勇者を散々揶揄ったピアツェンツア国王のヤニックだが、後日ちゃんと占領地域はヴィグル帝国に返還される。

癖の強い弟子達に苦労するイリスであった・・・イリスって、普段はちゃんとラーデンブルク公爵の仕事してたんだ????

「失礼ね!!!」

ただ中央大陸と西の大陸の通商航行権はちゃっかりと貰ったヤニックだった。



こうしていよいよゴルド王国は王都周辺にのみ領土がある状態になった。

とは言ってもその王都周辺の領土の民ですらヴィグル帝国を歓迎してゴルド王国王家になど協力するつもりは毛頭無いのだが。

こうなるとヴィグル帝国軍の戦略としては王都を包囲しての兵糧攻めか、全軍突撃での一気に王都へ強襲か、の2択なのだがヴィグル皇帝は迷わずに包囲戦を選択。

王都周辺を12万5千の軍で包囲して要所に砦を築き橋を抑え街道を完全に封鎖して、王都から降伏して来る者の保護を行った。

「免死」・・・今、降伏して来る者の命は奪わないとヴィグル帝国皇帝の名の元に宣言したのだ。

そしてその宣言は完全に守られた。

死地の中に生を見つけた王都の民は一斉にヴィグル帝国に縋った。
平民を人とも思わないゴルド王国を完全に捨てたのだ。

「おのれぇ!賎民共がぁああ!殺せ!殺せぇえええ!!」
その事に激怒した狂気のゴルド国王は兵に逃げる民の討伐を命じた。

しかしその命令が行使される事はほとんど無かった。

毎日数百人単位で王都から逃走する平民達を抑える事が出来ないゴルド王国軍。
それもそのはずで平民の逃走を武力で抑えるはずの兵士達が住人を守りながらヴィグル帝国に降伏してしまうのだから。

瞬く間に王城と王都から平民達と一般兵士が消えて行った・・・

王都に残った労働力は拘束されて逃げる事が出来ない奴隷達が1200名程。
しかしその貴重な労働力ですらゴルド国王の憂さ晴らしの為だけに拷問の末に無惨に殺されてしまう。

1ヶ月後には王都と王城には王侯、門閥貴族とその縁者のみが14500名強のみが残った。

ゴルド王国の規模でこの王侯、門閥貴族達の人数の多さは異常なのだ。
国の規模がおおよそゴルド王国の3倍のピアツェンツェア王国でも他国に嫁いだ女性と従者の全てを合わせても王侯・門閥貴族と縁者の総人数は10000名に遠く及ばない。
遠縁の地方領主とその家族を合わせて、ようやく10000人に届くかどうかの話しだ。

いかにゴルド王国が王侯、門閥貴族の搾取の国だったのかが良く解る。

この頃から高位門閥貴族達の投降も目立って来たが、自分達では身支度ひとつ出来ない連中、服は薄汚れて悪臭を放ち髪はボサボサでまともに食事も作れなかったのだろう、頬は痩けてガリガリに痩せて細っていた。

投降して来た貴族の話しだと王城内部では狂乱した国王が奴隷達を殺し尽くして今度は門閥貴族達にも粛清と言う名の暴力を繰り返しており、かなりの死者も出てる始末

国王の粛清を恐れた者達同士での虚偽の密告も横行しており、疑心暗鬼になった門閥貴族同士による暗殺すらある始末。

それを恐れた者達は王城から無駄に広くなった王都へ逃げたが今の王都は平民が1人も居ないゴーストタウンだ。

それに絶望して自殺する者も相次いでるらしい。

この様な状況だと今王都へ総攻撃を掛ければ間違いなく勝てるがヴィグル皇帝は、まだまだ動かなかった。

ここに至っては1人の犠牲もこんな連中の為に出したくなかったからだ。
包囲したままゴルド王家が勝手に瓦解するのを待った方が良いと考えた。

それと同時に包囲していた兵力も徐々に本国へ帰還させており、更に2ヶ月後には包囲戦力は5万人まで減らして戦乱で荒れた各地域の戦後復興を開始した。

それから3ヶ月後には投降してくる貴族も居なくなり、王城や王都から連日聞こえて来ていた悲鳴や怒鳴り声も聞こえ無くなった。

「さて・・・そろそろか」ここでヴィグル皇帝は始めて王都に直接斥候を放った。

帰って来た斥候の話しでは、外から見る限りに王都に人影は無く王城も物音一つせずに静まり返っているとの事。
全ての城門や通用口は無造作に開いており侵入は容易い事との事だった。

「突入の準備をせよ」

万全の準備を整える為に毎日斥候を放ち情報収集を行って総攻撃は二週間後で突入する兵力は3万人での王都攻略戦が決定した。


「全軍突入せよ」

総攻撃の当日、攻略軍は王都の東門と南門から突入した。
とは言っても、ゆっくりとした騎馬兵での突入だった。

「これは・・・酷い有様ですなぁ・・・」
ヴィグル皇帝と共に突入したガエル侯爵が顔を顰める。

街は酷く荒廃しており悪臭が都を覆い大通りに半分白骨化した死体があちこちに散乱してる状況だ。

最早、人が住める状態じゃない、捨てられた廃墟の方が遥かにマシに思える死の都だ。

この世に現出した地獄だった。

それでも町を探索するとチラホラと生存者が発見され始める。
行軍途中、衰弱してる貴族だったと思われる男か女なのかも分からない姿のゾンビの様な人間の数人が助けを求めて建物から来たのでヴィグル皇帝は慈悲で保護をする。

捜索の結果、王都内で生存していた人数は60名ほどだった。

王都に転がる5000体を超える遺体のほとんどの死因が餓死だったのだが、驚く事に食糧品店の倉庫からは、まだまだ食べられる保存食が大量に見つかった、それも王都全域でだ。

概算で2万名が半年間は賄える量だ、なぜこんな事になったのか?
それは数100年後の歴史学者の間でも未だに議論が尽きない。

「おそらく自分で食べ物を用意する概念が無かったから?」との説が有力だが本当にそんな事があり得るのだろうか?

ヴィグル帝国の攻略軍が王都内の探索中も王城からは何一つの動きは無かった。
あの国王ならばヴィグル皇帝の姿を見て怒り狂って襲いかかって来て良いはずだが・・・
この時にヴィグル帝国皇帝はゴルド国王の死を確信したと言う。

回収した食糧は毒混入の恐れがあるので焼却後に地中へ埋める事が決定した。

さていよいよ王城への突入だ。城門は解放されており見張りなどもいないが・・・
念の為に皇帝は再度斥候を飛ばす、皇帝はここに来て一兵たりとも無駄死にをさせるつもりはない。

「周囲に敵兵の姿無し」との斥候の報告で場内への突入が開始された。

王城は王都より更に酷い有様だった・・・
あちこちの壁に血と思われる黒いシミが染み付いており、そこらかしこに手足を切断された者達の白骨死体の山だ。

酷い悪臭が立ち込めて蝿が分厚いカーテンの様に飛びかっている。
疫病の恐れがあるので城内に入る者全員にマスクの着用が命令された。

故意的にと思われる廊下に白骨死体がオブジェの様に飾られた異常な光景の中をヴィグル皇帝が近衛兵と共に進む。
この目で確認せねばならん事がある以上は怯んでる場合では無い。

探索の結果1番酷かったのが大舞台ホールだ。
上段の観客席のバルコニーからは首を括られた死体がカーテンの様に、ざっと見て300体ほど吊るされていた。
その下には首が無い死体が4、50体ほど散乱していた、おそらくはゴルド国王の仕業だろう。

服装から吊されたのは残された奴隷達と判明したが何かおかしい。
おそらく王を止める為に進言した者達もここで纏めて惨殺されたのであろう。

こんな状況では生存者は絶望的かと見られていたが乳母に守られて隠し部屋に逃れていた幼い伯爵令嬢と友人の男爵令嬢の3人が生存していてすぐにヴィグル軍に保護された。

今まで必死に子供達を守っていたのだろう・・・
子供達が無事に保護されたのを見て、緊張の糸が切れたのか乳母はそのまま静かに息を引き取った。

子供達は少し衰弱していたが、乳母の決死の努力で凄惨な場面には遭遇してなかったのか精神的に問題が無かったのが唯一の救いだった。

「こんな環境でも忠臣とは居るものなのですな・・・」
毛布を掛けられる乳母の亡き骸を見てやり切れない気持ちになるガエル侯爵。

そうしていよいよ王の間に踏み込んだヴィグル帝国の皇帝が見た物は・・・

王座に座り身体に8本の槍を突き立てられたゴルド王の死体だった。
死後3週間ほど経過したモノと思われる。
王ほ死体とその周辺には激しく戦った後があり300名以上の貴族達の死体が折り重なっていた。

結果王城内から発見された遺体は1400名以上、人物の特定が出来ない程に遺体が破損しており誰が誰の遺体か判定不能だったのが大半だった。

王都と王城での推定死者数は7200名、最早遺体の運び出しも埋葬も不可能で、王城王都の復興も不可能との判断によりここを彼等の墓標とし大量に見つかった金銀財宝もろとも鎮魂の意味を含めて焼却する事となった。

神官の霊視で凄まじい怨念が宝物から感じられて触るのも危険との事。

王城と王都に残されていた軍事用の油や火薬など可燃物が隅々まで撒かれて総員退避を確認後に点火される。

ドオオオーーーーーーンンン!!ゴオオオオオオオオオオオ!!!
轟音と共にゴルド王国の王都と王城は凄まじい炎に包まれ10日間燃え続ける・・・

そして全ては灰となり消えた・・・文字通りのゴルド王国の完全なる滅亡だった。

焼失後は魔法で整地され更地になった王都跡地には鎮魂の石碑が建てられて禁足地とされた。

その後、怨霊が眠る地として人々に恐れられ敬遠され以降500年に渡り、その跡地に人が足を踏み入れる事は無かった。

ゴルド王国の滅亡より500年後。
王都跡地に踏み込んだ歴史学者の話しでは足を踏み入れた瞬間に天気雨がパラパラと降ったらしい。

ここで死んだ者達が500年忘れ去られていた事に・・・そうして500年を経て自分達を思い出してくれた事に・・・色々な思いの悲しみの涙だったのだろうか?

これにてヴィグル帝国とゴルド王国の1000年に渡る戦いはヴィグル帝国の完全な勝利で幕を下ろした。
勝利したヴィグル帝国にも得る物が少なく失った物の方が多い悲しい戦争であった。
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