魔法世界の解説者・完全版

ウッド

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外伝・「戦乙女の英雄」

13話 「悲しい帰還」

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「良いか?お主達の治療は完全では無い、全員、国元に帰っても3年は無理をするでない。
下手を打つと一発で死んでしまうぞ?儂はお主達を死なせる為に助けた訳ではないからな?」

「魔王バルドルよ、肝に命じて言い付けを守ります。受けたこの御恩は生涯忘れません」
魔王バルドルに命を救われた58名の勇者達は現ヴィグル帝国皇帝を筆頭にして命の恩人に深く頭を下げる。

彼らはこれからそれぞれの国に帰り皇帝、女王、王太子など人間社会の中枢の人物に戻るのだ。

今回の戦争で魔王バルドルや覚醒魔王マクシムが龍種に真っ向から対決してまで勇者達を助けた事はスペクター達にも衝撃だった様子で今後の強力な抑止力になる。

もっとも魔王バルドルは黙示録戦争などと、ふざけた世界の風習を今回の機会で潰すつもりだ。

「そもそもの話しで神々の代理戦争を人間がやる事自体がふざけておるのじゃ!
やるなら自分達で宇宙の果てにでも行き勝手にやれば良かろう!」

『ごめんなさーーーい?!』

バルドルに割とガチで叱られた女神ハルモニアは思わず謝ったとの事だ。
一応、女神ハルモニアは黙示録戦争には断固反対派なのだが連帯責任なので仕方ないね!

「バルドルは怒り過ぎなのよ!「シー・ケンタ君」をあげるから少し落ち着きなさい!」 

「いや・・・要らんって」

魔王バルドルの断固とした対決姿勢を緩和させようと、どうにか妥協案の模索の為に三龍の間をめっちゃ奔走させられた海湊龍クローディアだった。
結局は「直接的な戦闘行為以外の人道支援は認める」との結論が龍種全体から出たのだ。

「「バルドルは怒ると怖いんですから・・・もう」」
今回の妥協案を主導した海龍王アメリアも怒っている時のバルドルの頑固さにはもうグッタリだ。

つーか、魔王バルドルが魔法世界の主神をやった方が早くね?

「うむ!それは断固断る!」

『酷い?!』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして勇者達の各国への転移魔法での送還が始まってエルフ組の番が来ると、
「特に重体なのはイリスじゃ!本来ならお主はここに監禁したいくらいの重傷だと心得よ!
クレアやルナにも、きつく申し付けておくからな?家では絶対に安静にせよ」

「大丈夫だって!もう平気平気。バルドルさんは心配症だねぇ」

バルドルの注意を軽く流したイリスだが、結局はバルドルの言い付けを守らず無理をして重体化してしまい最終的には10年近くも魔王城の魔王の間に監禁されるのだ。

そしてピアツェンツア王国組の送還が始まる。

「スージーは、もう勇者として活動は出来ぬ、2人の子供と、これから産まれる孫を育てる事に専念せよ」
魔王バルドルによる事実上の引退勧告だった。

魔導回路どころか生命の核を半分近く損傷させてしまったスージー。
勇者どころか魔物の討伐すら厳しい状態だ。

「・・・分かりましたわ・・・色々とありがとうございました」
自分の武人としての命運が完全に尽きた事を悟ったスージーは頭を下げたまま大粒の涙を流した。

「次は・・・ヤニックよ・・・傷付いてる今のお主に凄く言い辛いんじゃが・・・」

「な・・・何でしょうか?」
まさか自分もダメなのか?と息を飲むヤニック。

「お主・・・学園とファニーは、どうするつもりなのじゃ?・・・これマジヤバくね?」

盛大に2年間も連絡もせずに完全放置状態なのだ・・・あれ?・・・もう終わってね?

「ああーーーーー?!?!すっかり忘れていましたーーーーーー?!?!」
哀れヤニック・・・戦いはまだまだ終わらないのだ!

「お前・・・休学届けも出してねえのかよ?」

「魔王城に来てからファニーの嬢ちゃんに手紙すら出してないのか?」
戦場ならいざ知らず魔王城はモロに文明地域になるので速達で送れば3日後にはファニーの元へ手紙が届く。

転移陣ネットワークが確立された魔法世界は地球より物流システムが高水準なのだ。

無論、魔王城に居る勇者達はそれぞれ国元と連絡を取り合っている。
ヴィグル帝国皇帝などは手紙を使った国政の執務を開始しているくらいなのだ。
地球でのオンラインシステムの様な物だね。

戦いが終わった途端にアホになる弟弟子にイノセントもクルーゼも呆れ果てた様子だ。

「・・・どちらも出してません・・・」
はい!終わったーーーーーー!!!ヤニック終~了~。
まあ、一応休学届けのほうは国王が学園に出してはいるがな。

ファニーの方は・・・・知らん。

「スージーよ・・・お主の娘の事じゃ、何とかしてやれんのか?」

「え?自分の恋愛の事は自分でやらないといけませんわ?」超ド正論のスージー。

ヤニックを擁護すると「今回もイリスが悪い」のだ。
じっと寝てられないイリスが全身怪我まみれの重体のクセにチョコチョコと動くモノだからヤニックが四六時中監視していて他の事に頭が回らなかったのだ。

「大至急ヴィアールの方へ送った方が良いのか?」

「いえ、あの子の性格から王都に居ると思いますわ。
絶対に旦那様と喧嘩していますから」

正確に娘の動きを予想するスージー。
そして予想通りに、なかなか口を割らないヴィアール辺境伯スティーブンと大喧嘩して王都に自分で部屋を借りて住んでいるファニー。

こうしてドキドキの本国帰還になったヤニック。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふう・・・」

王立学園卒業してからすぐに王宮の内務省の事務方と勤務しているファニー。
行方不明になっている母や婚約者に師匠を思い、思わずため息を吐く。
結局、誰も今回の件の説明をしてくれなかった。

勤務を終えてトボトボと帰宅する。
現在のファニーの家は勤務先の王城の西側裏門から徒歩1分の好条件物件なのだ。

王家からは「王太子の婚約者であるのは変わる事はないので王宮に部屋を用意する」と言ってくれているが、そこは自立しているファニーなので最初は王城から離れた王都の住宅街に部屋を借りてしまう。

何故、貴族街でないのか?それは「家賃が高いから」である。

しかし部屋を借りた途端に当たり前の様にミリアリアとフローラが押し掛けて来た。

「私はファニー様の専属侍女ですから!」

「私はファニー様の専属護衛ですから!」

「だからってここに全員住むのはいくら何でも狭いですわー!」

寝る場所が有れば良いと考えて庶民向けの12畳の1DK的な部屋を借りたのに伯爵家の貴族令嬢が侍女を連れて2人も押し掛けて来るモノだからギッチギチのミッチミチになった。

その日は侍女も含めて5人全員で床に布団を敷いて横並びになって寝た。
貴族令嬢なので大人数で寝る経験をした事ない修学旅行的な体験にミリアリアとフローラはキャッキャっと大喜びだった。

ファニーは魔物討伐時には毎回集団で寝るので「狭い!」としか思わない。

なので仕方なく今は8LDKの一軒家(屋敷)を借りている。
家賃はそれぞれの伯爵家が折半して出してくれるとの事でファニーの負担が無くなってしまう。

そしてこの一連の流れは勿論、両伯爵家の策謀である。
こうしてしまえばファニーも大きな屋敷を借りるしかなくなるからだ。

この屋敷のオーナーは、実はトゥーロン伯爵家で両サイドの屋敷をアンデュール伯爵家が借り上げて護衛を配置している。

「これでは王宮にお部屋を用意して頂くより数倍のお金が掛かっておりますわー?!」
そして全ての資金を出しているのは当然ながら王家である。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


そんな中で朝6時の早朝に勇者一同の転移が完了してピアツェンツア王城に帰還した。

「父上?!」

勇者一同を出迎えたのは国王だった。

「うむ、皆の者よ生きて帰って来てくれて何より・・・だった・・・」
これが現国王の最後の言葉になった。

勇者達の帰還を見届けた国王はヤニックに安心した笑顔で笑い掛けてそのまま倒れ昏睡状態になったのだ。

この出迎えが人生最後の仕事だと気力だけで立っていた父の事を知り、ヤニックは父に縋りついて大泣きする。

そしてカイル・フォン・ピアツェンツア3世は昏睡状態のまま1時間後に亡くなった。
享年51歳、早すぎる崩御であった。

10年以上も癌と戦いながら気力だけで激動の時代の大国の舵を取り続けた紛れもなく不世出の英傑だった。

この日の午後には国王の崩御が全国民に対して発表された。
王宮も国王の死に際しての万全の準備を既に終えていたのだ。

次代の王はヤニック・・・では無く、カイル尊王の2歳歳下の弟の大公爵、エヴァリスト・フォン・ピアツェンツア6世が大公府の創立を宣言する事になった。

分かり易く言うと代理国王だね。そして国政は現状を維持したとも言える。

2年間も行方不明だった王太子を国王にします・・・では国が混乱するだけなのでカイル尊王が生前に決めていた事なのだ。

次の日にはエヴァリスト大公を喪主とした盛大な葬儀が執り行われる事になった。
早過ぎる葬儀は「カイル尊王が没したが王家は不動なり」と国の内外に示す為であった。

余りにも急な葬儀なので外賓招待は一切無し、これもカイル尊王の意向だ。
代わりに墓前への花の献花は来れる日ならいつでも歓迎するとの事だ。

この悲しみ中でヤニックとファニーがカイル尊王の亡骸の前で2年ぶりの再会を果たした。

「ヤニック殿下・・・」
王立学園に入学してからの7年間、カイル尊王から娘同然に可愛がられたファニーもかなりのショックを受けている。

ボロボロと大粒の涙を流しながらヤニックの前に立つと・・・

「ファニー・・・ただいま・・・」
ヤニックも涙を流しながらファニーに微笑み掛ける。
色々と話す事はたくさん有るのだが2人共全てが飛んでしまっている。

2人の若き日の物語はクライマックスを迎えるのだ。



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