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片腕の王女編
17話 「シーナ、冒険者になる」
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「お胸」騒動から2年経ちシーナは14歳になった。
特に別段何が変わった訳でも無いが人間社会の見聞を広げる為にスカンディッチ伯爵領に拠点を移して連日より実戦を意識した戦闘訓練に明け暮れていた。
今日の訓練は多対戦闘訓練だ、魔法無しに純粋に武術のみで戦う。
相手はエレンが正面で右がマッテオで左がオーバンで後ろは人化したガイエスブルクだ、敵に完全に囲まれた状況での脱出を想定した訓練だ。
連日の訓練でシーナが人間離れした強さを持っている事を思い知っているのでマッテオもオーバンもガイエスブルクも真剣な表情だ。
男としては14歳の女の子には負けられないのだ。
「始め!」シーナの号令と共に後ろのガイエスブルクが木剣で上段で斬り掛かる!
カアーン!
シーナは左に少し移動しながら木斧でガイエスブルクの木剣を受けて右に居るマッテオの手に中段の蹴りを繰り出す、剣を落とさせる為だ。
ガシッ!マッテオはその蹴りを少し手の位置を上げて柄で受ける。
シーナが自分の得物に選んだ主武器は中型の戦斧だ。
理由としては回転運動が自分に一番適していると感じたので薙ぎ払い専用の戦斧を選択した訳だ。
ガイエスブルクはすぐにシーナの右に移動して流された木剣を今度は下段から中段に振り払うと同時に左のオーバンが左からの中段の払いでシーナの円形の動きを封じ様とする。
シーナは木斧をクルリと回してガイエスブルクの木剣を受けながら更にガイエスブルクの右に回りオーバンの木剣をかわす!ガイエスブルクの背中を肘でトンと押して体制を崩させて今度は正面のマッテオに回転しながら木斧を上段で払う。
カアーン!
マッテオの木剣とシーナの木斧がぶつかりマッテオは一歩前に出て鍔迫り合いに持ち込もうとする!
それをシーナが嫌い体を低く回転させて逃げようとした時・・・
「あっ!!」ズテーン!
エレンの長棍がシーナの足元にスッと出されてシーナは足をかけられてダイブする様に転倒してしまう。
「うう・・・上手く行かない」転ばされたシーナがピョンとすぐに立ち上がる。
「この状態から抜け出すなんて出来るなら修行の必要ない達人だよ。
囲まれた時のヤバさを実感して貰う訓練だからね。
本当の戦いの時はそもそも囲まれない様に立ち回らないとね」
長棍を手の上でクルクルと回しながらエレンが笑顔で言う。
「皆んなから圧が凄かった・・・うう!もう一回」
地龍らしく負けず嫌いなシーナは再戦を要求して、「分かった了解、行くよ!」エレンが承諾する。
カアーンカーンカーン・・・木がぶつかる乾いた音が鳴り響く。
その後3時間訓練は続いたが結局一回も囲みの突破が出来無かったシーナ。
今まではエレンとの一対一での修行だったので順調に技術を伸ばしていたが、
鍛冶屋の居候達がシーナ修行に参加する様になり複数人の戦いの訓練にランクアップした瞬間に躓いたシーナであった。
シーナは癖で正面の1人に集中し過ぎなのだ。
ちなみにこの囲みの修行方法はノイミュンスターからの指示である。
「より実戦的な訓練に移行しても良かろう」と。
「シーナは素直過ぎるんだよ一対一なら個人の技量で押し通せるけど複数人だと技量より立ち回りの方が重要になるんだ」
そんなシーナの悪い点をガイエスブルクがダメ出しをする。
「むー・・…ガイエスブルクはどうやって立ち回りを覚えたの?」
「そりゃ前は毎日、飯を食う為に魔物狩をやってたからな。
立ち回りが悪いと獲物に逃げられて飯抜きになるから覚えるしかなかったな」
「魔物狩・・・」
「そうですね、シーナ様は敵からの攻撃を綺麗に受けようと構える癖がお有りなので必ず動きが一回止まりますので次が動きが読み易いですね」
オーバンは剣使いだが元情報部の特務隊だけあって暗器も含め全ての武器に精通している。
「シーナ殿は斧使い特有の円運動が要です。それは良い事なのですが円の動きは読まれます、やはり立ち回りが大切です」
マッテオは元軍人だ、騎士と違い複数人同士の戦いの訓練がメインだったので一日の長がある。
全員のダメ出しか見事に重なり、
「ぬう、立ち回り・・・・」立ち回りについて真剣に考え込むシーナ。
「こればっかりは修練を積み鍛え続けるしか無いからな。
今はまだしょうがないんじゃないか?」
10歳くらいの少年の姿のガイエスブルクだが実年齢は150歳を越えている。
修行の為に兄ブリックリンの元を離れて西の大陸に渡り実戦経験を積んでいたのだが魔族に不覚を取り操られてしまっていた訳だ。
ちなみに魔族に捕まっていた話しはブリックリンには秘密になっている。
「ほぼ100%、アイツ「黒龍王」になって西の大陸を焦土にするからね!
魔族に洗脳されていた事はアイツには絶対に秘密!良いね!」と天舞龍リールから釘を刺されている。
「あ・・・兄はそんな事しないと・・・」
「いや!やるね!」
「そうじゃのう・・・焦土で済めば良いが」
天舞龍リールと地琰龍ノイミュンスターの見解は一致しているのでやるのだろう。
魔族は「黒龍王の弟」と言うとんでもない自爆爆弾を抱えていたのだ。
「ガイエスブルクのお兄さんってとんでもない悪人なのね?」
話しを聞きブリックリンと言う地龍に嫌悪感を抱くエレン。
実はエレンもブリックリンとは結構深い関係性に有るのだが、エレンの両親がエレンにブリックリンの事を話すのを忘れている。
この時のエレンは、自分がそのブリックリンと結婚して彼の子供を産む未来が来るとは思ってもいない。
話しを戻そう。
「立ち回りの経験を積みたいなら冒険者になったらどうだ?」
何かを思いついた様にガイエスブルクが冒険者加入をシーナに提案する。
冒険者になれば実戦経験が積めるからだ。
「なるほど、冒険者か・・・どうやってなるの?」シーナは乗り気な感じだ。
「ん?冒険者ギルドで登録すればすぐなれるぞ」
ガイエスブルクはペンダント式の冒険者のプレートを見せる、銅製でランクはCランクだ、一応ガイエスブルクは未成年者扱いなのでCランクが上限だ。
未成年者に無謀な仕事をさせない為の措置で例外は認められていない。
「ガイエスブルクいつの間に?!スカンディッチに冒険者ギルドなんてあったけ?」
好きな男の子について知らない事が有ったのがショックなシーナ。
「いや・・・向こうの大通りにあんじゃねえか、ゆっくり歩いても10分だ」
ガイエスブルクは兄のブリックリンから進化後は直ぐに冒険者登録をしろと教えられていたので言う事を聞いて進化後直ぐに登録して冒険者になっていたのだ。
もう冒険者生活も2年目で魔物退治で結構功績値を稼いでおりCランクに昇格している。
なんと?!知らなかった?!と言う感じのシーナをジト目で見るガイエスブルクだった。
興味が無い物にはとことん興味が無いシーナなのだ。
「うーん?じゃあ・・・とりあえず冒険者登録をしに行くかな?エレンちゃんは?」
「私も大分前に登録済みだよ。
冒険者になると移動する時とか色々と便利だから、冒険者になるかならないは別にして申請だけはしといた方が良いわ」
エレンも冒険者のプレート付きネックレスを胸元から取り出して笑う、銅製でランクはガイエスブルクと同じCランクだ。
「ほえー?って事はマッテオやオーバンも?」
「はい」オーバンは金製で真ん中にルビーが付いたプレート付きネックレスをシーナ達に見せる、ランクは脅威のSランクだ!
Sランクになると冒険者基準で「勇者」に該当するのだ。
「諜報活動する時に便利なので頑張ってしまいました」と笑うが実際に凄いのだ。
「すげえな、実物見るの初めてだよ俺・・・マッテオは?」
ガイエスブルクはオーバンのSランクの階級証をマジマジと興味深そうに眺めながらマッテオに質問をする。
「私は軍人だったので指揮系統の問題から冒険者登録は出来ませんでした。
ですがこの契機に私も登録しましょう」
現在のマッテオは「内務省所属」に配置変になっているので冒険者登録しても問題はないのだ。
「じゃあ一緒に冒険者ギルドに行こうマッテオ」
「そうですね、同行させて頂きます」
「なら案内するわよ」うそう言うとエレンが歩き出した。
「俺も顔を出すかな?」ガイエスブルクは単に暇つぶしだろう。
「私も名前の更新しないといけないので・・・」
オーバンは大事な登録内容の変更を忘れていて「しまった!」と言った感じだ。
一応彼の現在の立場は「天龍の捕虜」扱いなのだ。
こうしてゾロゾロと全員で冒険者ギルドに向かう事になった。
ちなみに軍人が冒険者登録が出来ない理由は、大規模討伐などで冒険者を兼任していた兵士が実入りが多い冒険者側で参加する事が続出したりして指揮命令系統が混乱した事があったからだ。
別に軍部の嫌がらせと言う訳では無い。
こうして冒険者ギルド来た一行、ゾロゾロとワイワイと喋りながら10分大通りを歩いただけだが無事に到着。
冒険者ギルドの建物は5階建ての結構立派で大きい建物だった。
「お前こんなでかい建物を今まで知らなかったのかよ?」
シーナは14年間この街で暮らしていて毎日冒険者ギルドの前を通って天龍教教会に通っていたはずなのだが?
「なんかあるなー?くらいにしか・・・」
「じゃあ入りますよ?」オーバンが建物に入って行くので付いて行くシーナ。
中に入れば酒を飲んでるガラが悪い冒険者が!
とはならず一階の大ホールに長椅子が並び受け付け窓口が8カ所、仕事の案内の掲示板が中央部に5カ所ありそこに書き物台がある市役所の市民窓口的な感じだった。
「ここでお酒とか飲まないの?」
余りの役所感に不思議そうにキョロキョロと辺りを見回すシーナ。
「なんで仕事に来て酒飲むんだ?」
シーナが何を言ってるか分からず首を傾げるガイエスブルク。
「多分シーナは激戦区にある冒険者ギルドを想像してると思う」
前に幼いシーナに冒険者の話しの本を読んで上げた事が有るエレン。
「ああ・・・なるほど、確かに激戦区に行けば食堂と受け付けが一緒になってる所もあるが大抵の冒険者ギルドはこんな感じだ。
ここのギルドは食堂も酒場もあるが入り口は裏手にあって実質的に別の建物だ。
酔っ払いなんか事務業務の支障でしかないからな」
「なんだつまんないの」
本で読んで貰った「オラオラ系」のテンプレをやりたかったシーナ。
冒険者ギルドと聞き実は少しワクワクしていたのだ。
「お前、何やらかすつもりだったんだ?」
「何もしないよ?」
多分・・・乱闘?じゃね?
こう言う意外と結構好戦的な所が、「やはり地龍の気配が強い」とノイミュンスターに言われる所なのだろう。
その後、書類を作って窓口で申請して鉄製のFランクのプレート付きネックレスを貰ってシーナとマッテオは冒険者になった。
オーバンは二階に案内されて結構長い時間の変更と更新の手続きと終わらせた。
何をしていたかは直ぐに判明する。
「ん?シーナが何がしたいか知らんけど酒場の方の見学にいくか?」
「んーん?もう別にいい」
「?」
こうしてファンタジーのテンプレ「冒険者登録でならず者冒険者との一悶着」や「お前の力を試してやるぜ!」的な事は特に何も無く事務員が事務的な事を頑張って終わったのだった。
そんな事務的な冒険者登録を終えたシーナは仕事内容が書かれた実に事務的な掲示板を眺めていた。
「ほへー??色んな仕事があるねー」それでも好奇心旺盛なシーナは仕事内容が書かれた掲示板に興味津々だ。
「シーナはFランクだから受注出来る仕事は少ないけどね」
エレンもそれぞれのランクの仕事内容を確認している。
一応エレンもBランク昇格が掛かった冒険者なのだ。
Fランクの仕事は簡単な採取とD、Eランク者の戦闘以外のサポート業務やポーター(運送)などの仕事で討伐系の仕事には参加出来ない。
大体のFランク冒険者はポーター(運送)の仕事をする為の資格が目的で登録しており冒険者として本格的に活動している者は少ない。
「むーこれじゃ実戦経験なんて積めないじゃん」
これは低ランク冒険者の生命保護観点での決まりなので仕方ない。
むしろ今のシーナの様な事を考える者たちを抑制するのが目的だったりする。
「とりあえずオーバンと一緒に仕事するしかないな。
俺はしばらくはオーバンと組むよ?シーナはどうする?」
ガイエスブルクの今後の方針はオーバンと組むと決まっていた様子だ。
「そうなの?」
「ニームのお姉さんからオーバンの監視のお願いもされてるからな」
「ああ、そっかなるほど」
ガイエスブルクの話しをシーナは少し真面目に考える。
Sランクのオーバンと一緒なら何かとやり易いはずだからだ。
「オーバンはこれからどうするの?」
とりあえず当の本人オーバンの考えを聞かないとどうにもならない。
「私はスカンディッチ伯爵領から遠くに出る事は出来ませんので地龍王様の山で特殊素材の採取と魔物の間引きが主な仕事になりますね」
何はともあれEランクに上がらない事には話しにならない。
オーバンの仕事の手伝いをするしかないと分かったシーナは、
「じゃあ、あたしもオーバンと一緒に行動するよ」とシーナは方針を決める。
「では私も同行します、シーナ殿と同じFランクですからね」
マッテオもオーバンと一緒に行動するつもりらしい。
「えー!じゃあ私も行くよ?さすがにボッチは嫌よ、寂しいじゃない」
結局はいつも通りのメンバーでいつも通りの行動をする事になった。
それからギルドにパーティ申請をして、チーム名は「幻夢」とオーバンが決めた。
これはオーバンが申請した新しい冒険者名でもある。
魔族から身を隠しているのに目立つのでは?と思うかもしれないが「幻」の名前を冠する冒険者が多いので逆に目立たないのだそうだ。
「そうですね・・・とりあえずココの実採取から始めます」
1番経験が多いオーバンがリーダーとなり初仕事の内容を説明してくれる。
「ココの実って?」
「地龍王の山」の頂上付近にある鎮痛剤に使う木の実の事ね。
Aランクからしか受けられない特別クエストだよ」
何せ地龍王の山に入るんだからねぇ、とエレンは笑う。
シーナも山の頂上付近には行った事がなかったので少し「ココの実採取」が楽しみになっていた。
するとチームリーダーのオーバンが更に仕事の注意内容の説明を続ける。
「採取場所で、とりあえず最も気をつけなければならないのは「地竜」です、
とは言え皆さんには襲ってこないので神経質にならなくてもいいですね」
「なんで?」
「いやお前・・・自分の同族と戦うつもりかよ?」
「あっそっか」
ガイエスブルクが呆れた目でシーナを見つめて、気まずいシーナはソッポを向く。
地竜とは地龍の幼生体の総称で100年ほど生きてから知性を身に付けて地龍に進化をする場合がある。
場合があると言うのは「進化しないケースも多い」からである。
エレンは地龍の両親から産まれたがガイエスブルクは地竜からの進化だ。
産まれや成長の過程は違うが本質はどちらも同じだ。
なので地竜は地龍を襲う事は無い、例え跳ねっ返りが襲ったとしても地龍にお尻ペンペンのお仕置きされるだけだ。
「なので気をつけるのは紫虫です、単体の強さはCランクですが集団で襲って来るので注意して下さい」
「オーガやゴブリンも居るんだよね、お城の襲撃にも来てた見たいだし」
「城に来ていたのは魔族に精神洗脳を受けた者達です。
本来の彼等は人間とは友好的です。
オーガとゴブリンの国とは我が国と国交もありますからね。
対魔族同盟の一員ですよ、オーガ軍とは毎年合同演習とかもやりますから」
マッテオがオーガとゴブリンの説明をする。
「ほえー??そうなんだ??」
「お前、これ結構常識的な話しだぞ?
山のゴブリンは山を管理してくれてるんだからな?喧嘩なんて売るなよ」
「う・・・売らないよ?!」
「どうだか」疑惑の眼差しのガイエスブルク
「本当だよ」
喧嘩売る気満々だったシーナは密かに反省するのだった。
そこである違和感に気がつく。
「それじゃこの国の敵って一体誰なの?」
「人間の敵は人間ですね、いつの時代でも」苦笑いのマッテオだった。
「今回は集団戦の訓練ですので隊形を決めて移動します。
先頭からマッテオ殿、シーナ殿、私、エレン殿、ガイエスブルク殿の順で、討伐のポイントをマッテオ殿とシーナ殿に稼がせたいので他はサポートでお願いします」
「Fランクは討伐禁止じゃない?」
エレンがギルド規定違反を指摘すると・・・
「そこはスカンディッチ伯爵領の冒険者ギルドですので」
「あー・・・なるほどね」
つまりある程度の不正は必要が有る場合ち限り握り潰しますという事だった。
さっきオーバンが二階に上がってから戻って来なかったのは今の点を交渉していたのだろう。
とりあえずシーナがスカンディッチの外で冒険者として活動する為には功績値を稼ぐ事が必要で手っ取り早くランクアップするには魔物との遭遇戦で討伐ポイントを稼ぐ事だ。
「遭遇戦」と言う所がポイントで、魔物が向こうから来た場合にはFランク冒険者でも撃退すればポイントはちゃんと加算されるのだ。
もっともそれを自分の能力も把握せず故意に実行した場合ほとんど待つのは死だ。
冒険者ギルドもそんな規定を守れない無謀な者まで保護はしない。
シーナとマッテオはAランク相当の実力を保有しているから実行出来る裏ワザだ。
「そう言えばエルフって見た事ないなぁ」ふとシーナが呟く。
「エルフの領域は南の大陸だからね、わざわざ船で大航海してくるエルフはいないね、冒険大好き人間は逆バージョンをしてる見たいだけど」
エレンは南の大陸の出身だ。
「人間が南の大陸に行くとエルフは嫌がらないの?」
「嫌がると言うより奇特な奴等だと呆れられる見たいだよ。
一応人間は歓迎はしてくれてるよエルフの国は文明国家だからね。
理不尽な排除はしないよ」
結構穴がある説明だが一応エレンの説明で大体あっている。
穴を補足すると「表向きには鎖国しているけど反ゴルド連盟の一角で裏ではガッツリと人間の国とも繋がっている」が正解だ。
「エルフの国は発展してるんだ?」
「してるよ、ピアツェンツェアよりも大きくて文化的だね、龍都の方がハイテクノロジーだけどね」
そして「エルフの国」と言う言葉にも語弊がある。
正確にいうと「亜人」達の国なのだ、現在の指導者のイリス公爵は正当な国民選挙で選ばれているのだが、エルフの有権者より他の亜人種の有権者の方に圧倒的な支持基盤を持っている変人なのだ。
ちなみにイリス公爵が自分で立候補した訳では無い。
知らん間に兎人族から候補者に推薦されていて、その事を投票日の当日に初めて知って気が付けば指導者にされていたのだ。
要するにハメられて何か知らんが国のトップに据えられていたのだ。
この話しはいずれ別の作品で詳しく書きます。
「エレンってエルフの国に行った事あるんだ?!」
「私は南の大陸産まれだよ、エルフの友達も沢山いるよ」
そうですねー、今もリアルタイムでエレンを見ている友達のエルフが居ますね。
「ほえーそうなんだ」
「ああ!!だからエレンのお姉さんは白龍なんだ」
納得した感じのガイエスブルク、南の大陸には白龍が多い、理由は気候や土壌が関係してるらしい。
自分の受け継いだ知識には無い知識の多さに世界は広いと思うシーナだった。
他種族の知識が乏しいのは地龍王があまり関心が無かったせいでもある。
考え込んでるシーナを見てエレンが、
「今度南の大陸に行こうか?」提案すると
「え?良いの?」と即ノリするシーナ。
「南の大陸は地龍達の集落も多いから多分許可が降りるし、私も里帰りして友達に会いたいからね」
南の大陸に住む地龍達・・・変な奴が多いですね?
「エレンお姉さん、俺も連れて行ってくれ」ガイエスブルクも乗り気な様だ。
「Okだよ、今度申請しておくよ」
地龍3人が盛り上がっているのを見て男2人は、
「流石に私は行けないな南の大陸は遠過ぎる」とマッテオに現在謹慎中のオーバンは、
「私もだな」と苦笑する男達だった。
そしてそのままの足でココの実採取の名目で山に実戦訓練とポイント稼ぎに「地龍王の山」に入った幻夢の一行。
早速お目当ての紫虫の襲撃を受けていた、襲撃をお目当てと言うのもどうかと思うが。
紫虫は紫色した「でかいカマキリ」と思ってくれて良い、体長は1m前後で固い甲殻を持ち両手の鎌の一撃は強力だ、動きは早くないが10匹程度の群れで攻撃して来る。
雑食で知識は乏しく30m越えの龍種ですらエサと思い攻撃してくる好戦的な魔物だ。
10日サイクルで200個ほどの卵を産卵するので定期討伐しないと無限湧きしてくる世界共通の害虫だ。
その為しばしば戦争にも利用され敵陣に紫虫を誘導して突撃させる戦法なども軍学校の教練の一つになっている。
討伐の方法はとにかく倒すしか無い、最後の1匹になっても突撃してくるほどの馬鹿だからだ。
「シーナ!右から2匹!マッテオ!左からも2匹!」
「「了解!!」」
前衛のシーナとマッテオが戦い、オーバンは周囲警戒、エレンが戦闘指揮、ガイエスブルクは魔法での支援と後方警戒が今回の隊形だ!
ガキーン!カーン!カーン!
紫虫の甲殻を叩く音が山に響く、マッテオはさすが元軍人だ最効率で紫虫を始末して行くがシーナはやはり無駄が多い。
「シーナ!1匹倒してから慌てて次に行かない!距離を取って!」
「はい!」
「エレンお姉さん!後方から新手が15匹だ!」
「了解!オーバンは前衛に!シーナとマッテオは後方に!」
「「「了解!」」」
徹底的にシーナとマッテオのみに戦わせる作戦だ残敵はオーバンに任せて数が多い後方へシーナとマッテオが走って行く!
ガン!カーン!キィーン!キン!カーン!
戦斧を自身を回転させながら振り回す「旋風撃」シーナが得意な技だ5匹の紫虫が吹き飛ぶ、動体視力と身体の柔軟性が必要な斧使いの基本技だ。
シーナはとにかく基本技を大事に鍛錬を続けている、地龍王の教えを忠実に守っていた、
「よし!今の立ち回りは良いよシーナ!」
初の実戦はシーナが12匹、マッテオが25匹、オーバンが5匹、ガイエスブルクが2匹、エレンが1匹のピッタリと紫虫を50匹撃破の結果だった。
「むー」
自分の想像よりかなり酷い結果にシーナは深く考え込んでいて周囲は放置している、1人での反省も重要だからだ。
「シーナの事みんなはどう見る?」エレンが幻夢のメンバーに質問する。
「力み過ぎです」
「力み過ぎと思います」
「ガチガチに力入れ過ぎだな」
「だよねー」
とにかく初の実戦でシーナはガチガチだった、マッテオのフォローが無ければ怪我をしていた事だろう。
シーナも自分で痛感しているので猛反省中だ、訓練と実戦の違いを甘く見過ぎていた。
自分の戦いに対する考え方を見直す大事な初戦になった。
「では、ココの実を採取して帰りましょう」
目的のココの実を採取して初日の仕事は終わった。
特に別段何が変わった訳でも無いが人間社会の見聞を広げる為にスカンディッチ伯爵領に拠点を移して連日より実戦を意識した戦闘訓練に明け暮れていた。
今日の訓練は多対戦闘訓練だ、魔法無しに純粋に武術のみで戦う。
相手はエレンが正面で右がマッテオで左がオーバンで後ろは人化したガイエスブルクだ、敵に完全に囲まれた状況での脱出を想定した訓練だ。
連日の訓練でシーナが人間離れした強さを持っている事を思い知っているのでマッテオもオーバンもガイエスブルクも真剣な表情だ。
男としては14歳の女の子には負けられないのだ。
「始め!」シーナの号令と共に後ろのガイエスブルクが木剣で上段で斬り掛かる!
カアーン!
シーナは左に少し移動しながら木斧でガイエスブルクの木剣を受けて右に居るマッテオの手に中段の蹴りを繰り出す、剣を落とさせる為だ。
ガシッ!マッテオはその蹴りを少し手の位置を上げて柄で受ける。
シーナが自分の得物に選んだ主武器は中型の戦斧だ。
理由としては回転運動が自分に一番適していると感じたので薙ぎ払い専用の戦斧を選択した訳だ。
ガイエスブルクはすぐにシーナの右に移動して流された木剣を今度は下段から中段に振り払うと同時に左のオーバンが左からの中段の払いでシーナの円形の動きを封じ様とする。
シーナは木斧をクルリと回してガイエスブルクの木剣を受けながら更にガイエスブルクの右に回りオーバンの木剣をかわす!ガイエスブルクの背中を肘でトンと押して体制を崩させて今度は正面のマッテオに回転しながら木斧を上段で払う。
カアーン!
マッテオの木剣とシーナの木斧がぶつかりマッテオは一歩前に出て鍔迫り合いに持ち込もうとする!
それをシーナが嫌い体を低く回転させて逃げようとした時・・・
「あっ!!」ズテーン!
エレンの長棍がシーナの足元にスッと出されてシーナは足をかけられてダイブする様に転倒してしまう。
「うう・・・上手く行かない」転ばされたシーナがピョンとすぐに立ち上がる。
「この状態から抜け出すなんて出来るなら修行の必要ない達人だよ。
囲まれた時のヤバさを実感して貰う訓練だからね。
本当の戦いの時はそもそも囲まれない様に立ち回らないとね」
長棍を手の上でクルクルと回しながらエレンが笑顔で言う。
「皆んなから圧が凄かった・・・うう!もう一回」
地龍らしく負けず嫌いなシーナは再戦を要求して、「分かった了解、行くよ!」エレンが承諾する。
カアーンカーンカーン・・・木がぶつかる乾いた音が鳴り響く。
その後3時間訓練は続いたが結局一回も囲みの突破が出来無かったシーナ。
今まではエレンとの一対一での修行だったので順調に技術を伸ばしていたが、
鍛冶屋の居候達がシーナ修行に参加する様になり複数人の戦いの訓練にランクアップした瞬間に躓いたシーナであった。
シーナは癖で正面の1人に集中し過ぎなのだ。
ちなみにこの囲みの修行方法はノイミュンスターからの指示である。
「より実戦的な訓練に移行しても良かろう」と。
「シーナは素直過ぎるんだよ一対一なら個人の技量で押し通せるけど複数人だと技量より立ち回りの方が重要になるんだ」
そんなシーナの悪い点をガイエスブルクがダメ出しをする。
「むー・・…ガイエスブルクはどうやって立ち回りを覚えたの?」
「そりゃ前は毎日、飯を食う為に魔物狩をやってたからな。
立ち回りが悪いと獲物に逃げられて飯抜きになるから覚えるしかなかったな」
「魔物狩・・・」
「そうですね、シーナ様は敵からの攻撃を綺麗に受けようと構える癖がお有りなので必ず動きが一回止まりますので次が動きが読み易いですね」
オーバンは剣使いだが元情報部の特務隊だけあって暗器も含め全ての武器に精通している。
「シーナ殿は斧使い特有の円運動が要です。それは良い事なのですが円の動きは読まれます、やはり立ち回りが大切です」
マッテオは元軍人だ、騎士と違い複数人同士の戦いの訓練がメインだったので一日の長がある。
全員のダメ出しか見事に重なり、
「ぬう、立ち回り・・・・」立ち回りについて真剣に考え込むシーナ。
「こればっかりは修練を積み鍛え続けるしか無いからな。
今はまだしょうがないんじゃないか?」
10歳くらいの少年の姿のガイエスブルクだが実年齢は150歳を越えている。
修行の為に兄ブリックリンの元を離れて西の大陸に渡り実戦経験を積んでいたのだが魔族に不覚を取り操られてしまっていた訳だ。
ちなみに魔族に捕まっていた話しはブリックリンには秘密になっている。
「ほぼ100%、アイツ「黒龍王」になって西の大陸を焦土にするからね!
魔族に洗脳されていた事はアイツには絶対に秘密!良いね!」と天舞龍リールから釘を刺されている。
「あ・・・兄はそんな事しないと・・・」
「いや!やるね!」
「そうじゃのう・・・焦土で済めば良いが」
天舞龍リールと地琰龍ノイミュンスターの見解は一致しているのでやるのだろう。
魔族は「黒龍王の弟」と言うとんでもない自爆爆弾を抱えていたのだ。
「ガイエスブルクのお兄さんってとんでもない悪人なのね?」
話しを聞きブリックリンと言う地龍に嫌悪感を抱くエレン。
実はエレンもブリックリンとは結構深い関係性に有るのだが、エレンの両親がエレンにブリックリンの事を話すのを忘れている。
この時のエレンは、自分がそのブリックリンと結婚して彼の子供を産む未来が来るとは思ってもいない。
話しを戻そう。
「立ち回りの経験を積みたいなら冒険者になったらどうだ?」
何かを思いついた様にガイエスブルクが冒険者加入をシーナに提案する。
冒険者になれば実戦経験が積めるからだ。
「なるほど、冒険者か・・・どうやってなるの?」シーナは乗り気な感じだ。
「ん?冒険者ギルドで登録すればすぐなれるぞ」
ガイエスブルクはペンダント式の冒険者のプレートを見せる、銅製でランクはCランクだ、一応ガイエスブルクは未成年者扱いなのでCランクが上限だ。
未成年者に無謀な仕事をさせない為の措置で例外は認められていない。
「ガイエスブルクいつの間に?!スカンディッチに冒険者ギルドなんてあったけ?」
好きな男の子について知らない事が有ったのがショックなシーナ。
「いや・・・向こうの大通りにあんじゃねえか、ゆっくり歩いても10分だ」
ガイエスブルクは兄のブリックリンから進化後は直ぐに冒険者登録をしろと教えられていたので言う事を聞いて進化後直ぐに登録して冒険者になっていたのだ。
もう冒険者生活も2年目で魔物退治で結構功績値を稼いでおりCランクに昇格している。
なんと?!知らなかった?!と言う感じのシーナをジト目で見るガイエスブルクだった。
興味が無い物にはとことん興味が無いシーナなのだ。
「うーん?じゃあ・・・とりあえず冒険者登録をしに行くかな?エレンちゃんは?」
「私も大分前に登録済みだよ。
冒険者になると移動する時とか色々と便利だから、冒険者になるかならないは別にして申請だけはしといた方が良いわ」
エレンも冒険者のプレート付きネックレスを胸元から取り出して笑う、銅製でランクはガイエスブルクと同じCランクだ。
「ほえー?って事はマッテオやオーバンも?」
「はい」オーバンは金製で真ん中にルビーが付いたプレート付きネックレスをシーナ達に見せる、ランクは脅威のSランクだ!
Sランクになると冒険者基準で「勇者」に該当するのだ。
「諜報活動する時に便利なので頑張ってしまいました」と笑うが実際に凄いのだ。
「すげえな、実物見るの初めてだよ俺・・・マッテオは?」
ガイエスブルクはオーバンのSランクの階級証をマジマジと興味深そうに眺めながらマッテオに質問をする。
「私は軍人だったので指揮系統の問題から冒険者登録は出来ませんでした。
ですがこの契機に私も登録しましょう」
現在のマッテオは「内務省所属」に配置変になっているので冒険者登録しても問題はないのだ。
「じゃあ一緒に冒険者ギルドに行こうマッテオ」
「そうですね、同行させて頂きます」
「なら案内するわよ」うそう言うとエレンが歩き出した。
「俺も顔を出すかな?」ガイエスブルクは単に暇つぶしだろう。
「私も名前の更新しないといけないので・・・」
オーバンは大事な登録内容の変更を忘れていて「しまった!」と言った感じだ。
一応彼の現在の立場は「天龍の捕虜」扱いなのだ。
こうしてゾロゾロと全員で冒険者ギルドに向かう事になった。
ちなみに軍人が冒険者登録が出来ない理由は、大規模討伐などで冒険者を兼任していた兵士が実入りが多い冒険者側で参加する事が続出したりして指揮命令系統が混乱した事があったからだ。
別に軍部の嫌がらせと言う訳では無い。
こうして冒険者ギルド来た一行、ゾロゾロとワイワイと喋りながら10分大通りを歩いただけだが無事に到着。
冒険者ギルドの建物は5階建ての結構立派で大きい建物だった。
「お前こんなでかい建物を今まで知らなかったのかよ?」
シーナは14年間この街で暮らしていて毎日冒険者ギルドの前を通って天龍教教会に通っていたはずなのだが?
「なんかあるなー?くらいにしか・・・」
「じゃあ入りますよ?」オーバンが建物に入って行くので付いて行くシーナ。
中に入れば酒を飲んでるガラが悪い冒険者が!
とはならず一階の大ホールに長椅子が並び受け付け窓口が8カ所、仕事の案内の掲示板が中央部に5カ所ありそこに書き物台がある市役所の市民窓口的な感じだった。
「ここでお酒とか飲まないの?」
余りの役所感に不思議そうにキョロキョロと辺りを見回すシーナ。
「なんで仕事に来て酒飲むんだ?」
シーナが何を言ってるか分からず首を傾げるガイエスブルク。
「多分シーナは激戦区にある冒険者ギルドを想像してると思う」
前に幼いシーナに冒険者の話しの本を読んで上げた事が有るエレン。
「ああ・・・なるほど、確かに激戦区に行けば食堂と受け付けが一緒になってる所もあるが大抵の冒険者ギルドはこんな感じだ。
ここのギルドは食堂も酒場もあるが入り口は裏手にあって実質的に別の建物だ。
酔っ払いなんか事務業務の支障でしかないからな」
「なんだつまんないの」
本で読んで貰った「オラオラ系」のテンプレをやりたかったシーナ。
冒険者ギルドと聞き実は少しワクワクしていたのだ。
「お前、何やらかすつもりだったんだ?」
「何もしないよ?」
多分・・・乱闘?じゃね?
こう言う意外と結構好戦的な所が、「やはり地龍の気配が強い」とノイミュンスターに言われる所なのだろう。
その後、書類を作って窓口で申請して鉄製のFランクのプレート付きネックレスを貰ってシーナとマッテオは冒険者になった。
オーバンは二階に案内されて結構長い時間の変更と更新の手続きと終わらせた。
何をしていたかは直ぐに判明する。
「ん?シーナが何がしたいか知らんけど酒場の方の見学にいくか?」
「んーん?もう別にいい」
「?」
こうしてファンタジーのテンプレ「冒険者登録でならず者冒険者との一悶着」や「お前の力を試してやるぜ!」的な事は特に何も無く事務員が事務的な事を頑張って終わったのだった。
そんな事務的な冒険者登録を終えたシーナは仕事内容が書かれた実に事務的な掲示板を眺めていた。
「ほへー??色んな仕事があるねー」それでも好奇心旺盛なシーナは仕事内容が書かれた掲示板に興味津々だ。
「シーナはFランクだから受注出来る仕事は少ないけどね」
エレンもそれぞれのランクの仕事内容を確認している。
一応エレンもBランク昇格が掛かった冒険者なのだ。
Fランクの仕事は簡単な採取とD、Eランク者の戦闘以外のサポート業務やポーター(運送)などの仕事で討伐系の仕事には参加出来ない。
大体のFランク冒険者はポーター(運送)の仕事をする為の資格が目的で登録しており冒険者として本格的に活動している者は少ない。
「むーこれじゃ実戦経験なんて積めないじゃん」
これは低ランク冒険者の生命保護観点での決まりなので仕方ない。
むしろ今のシーナの様な事を考える者たちを抑制するのが目的だったりする。
「とりあえずオーバンと一緒に仕事するしかないな。
俺はしばらくはオーバンと組むよ?シーナはどうする?」
ガイエスブルクの今後の方針はオーバンと組むと決まっていた様子だ。
「そうなの?」
「ニームのお姉さんからオーバンの監視のお願いもされてるからな」
「ああ、そっかなるほど」
ガイエスブルクの話しをシーナは少し真面目に考える。
Sランクのオーバンと一緒なら何かとやり易いはずだからだ。
「オーバンはこれからどうするの?」
とりあえず当の本人オーバンの考えを聞かないとどうにもならない。
「私はスカンディッチ伯爵領から遠くに出る事は出来ませんので地龍王様の山で特殊素材の採取と魔物の間引きが主な仕事になりますね」
何はともあれEランクに上がらない事には話しにならない。
オーバンの仕事の手伝いをするしかないと分かったシーナは、
「じゃあ、あたしもオーバンと一緒に行動するよ」とシーナは方針を決める。
「では私も同行します、シーナ殿と同じFランクですからね」
マッテオもオーバンと一緒に行動するつもりらしい。
「えー!じゃあ私も行くよ?さすがにボッチは嫌よ、寂しいじゃない」
結局はいつも通りのメンバーでいつも通りの行動をする事になった。
それからギルドにパーティ申請をして、チーム名は「幻夢」とオーバンが決めた。
これはオーバンが申請した新しい冒険者名でもある。
魔族から身を隠しているのに目立つのでは?と思うかもしれないが「幻」の名前を冠する冒険者が多いので逆に目立たないのだそうだ。
「そうですね・・・とりあえずココの実採取から始めます」
1番経験が多いオーバンがリーダーとなり初仕事の内容を説明してくれる。
「ココの実って?」
「地龍王の山」の頂上付近にある鎮痛剤に使う木の実の事ね。
Aランクからしか受けられない特別クエストだよ」
何せ地龍王の山に入るんだからねぇ、とエレンは笑う。
シーナも山の頂上付近には行った事がなかったので少し「ココの実採取」が楽しみになっていた。
するとチームリーダーのオーバンが更に仕事の注意内容の説明を続ける。
「採取場所で、とりあえず最も気をつけなければならないのは「地竜」です、
とは言え皆さんには襲ってこないので神経質にならなくてもいいですね」
「なんで?」
「いやお前・・・自分の同族と戦うつもりかよ?」
「あっそっか」
ガイエスブルクが呆れた目でシーナを見つめて、気まずいシーナはソッポを向く。
地竜とは地龍の幼生体の総称で100年ほど生きてから知性を身に付けて地龍に進化をする場合がある。
場合があると言うのは「進化しないケースも多い」からである。
エレンは地龍の両親から産まれたがガイエスブルクは地竜からの進化だ。
産まれや成長の過程は違うが本質はどちらも同じだ。
なので地竜は地龍を襲う事は無い、例え跳ねっ返りが襲ったとしても地龍にお尻ペンペンのお仕置きされるだけだ。
「なので気をつけるのは紫虫です、単体の強さはCランクですが集団で襲って来るので注意して下さい」
「オーガやゴブリンも居るんだよね、お城の襲撃にも来てた見たいだし」
「城に来ていたのは魔族に精神洗脳を受けた者達です。
本来の彼等は人間とは友好的です。
オーガとゴブリンの国とは我が国と国交もありますからね。
対魔族同盟の一員ですよ、オーガ軍とは毎年合同演習とかもやりますから」
マッテオがオーガとゴブリンの説明をする。
「ほえー??そうなんだ??」
「お前、これ結構常識的な話しだぞ?
山のゴブリンは山を管理してくれてるんだからな?喧嘩なんて売るなよ」
「う・・・売らないよ?!」
「どうだか」疑惑の眼差しのガイエスブルク
「本当だよ」
喧嘩売る気満々だったシーナは密かに反省するのだった。
そこである違和感に気がつく。
「それじゃこの国の敵って一体誰なの?」
「人間の敵は人間ですね、いつの時代でも」苦笑いのマッテオだった。
「今回は集団戦の訓練ですので隊形を決めて移動します。
先頭からマッテオ殿、シーナ殿、私、エレン殿、ガイエスブルク殿の順で、討伐のポイントをマッテオ殿とシーナ殿に稼がせたいので他はサポートでお願いします」
「Fランクは討伐禁止じゃない?」
エレンがギルド規定違反を指摘すると・・・
「そこはスカンディッチ伯爵領の冒険者ギルドですので」
「あー・・・なるほどね」
つまりある程度の不正は必要が有る場合ち限り握り潰しますという事だった。
さっきオーバンが二階に上がってから戻って来なかったのは今の点を交渉していたのだろう。
とりあえずシーナがスカンディッチの外で冒険者として活動する為には功績値を稼ぐ事が必要で手っ取り早くランクアップするには魔物との遭遇戦で討伐ポイントを稼ぐ事だ。
「遭遇戦」と言う所がポイントで、魔物が向こうから来た場合にはFランク冒険者でも撃退すればポイントはちゃんと加算されるのだ。
もっともそれを自分の能力も把握せず故意に実行した場合ほとんど待つのは死だ。
冒険者ギルドもそんな規定を守れない無謀な者まで保護はしない。
シーナとマッテオはAランク相当の実力を保有しているから実行出来る裏ワザだ。
「そう言えばエルフって見た事ないなぁ」ふとシーナが呟く。
「エルフの領域は南の大陸だからね、わざわざ船で大航海してくるエルフはいないね、冒険大好き人間は逆バージョンをしてる見たいだけど」
エレンは南の大陸の出身だ。
「人間が南の大陸に行くとエルフは嫌がらないの?」
「嫌がると言うより奇特な奴等だと呆れられる見たいだよ。
一応人間は歓迎はしてくれてるよエルフの国は文明国家だからね。
理不尽な排除はしないよ」
結構穴がある説明だが一応エレンの説明で大体あっている。
穴を補足すると「表向きには鎖国しているけど反ゴルド連盟の一角で裏ではガッツリと人間の国とも繋がっている」が正解だ。
「エルフの国は発展してるんだ?」
「してるよ、ピアツェンツェアよりも大きくて文化的だね、龍都の方がハイテクノロジーだけどね」
そして「エルフの国」と言う言葉にも語弊がある。
正確にいうと「亜人」達の国なのだ、現在の指導者のイリス公爵は正当な国民選挙で選ばれているのだが、エルフの有権者より他の亜人種の有権者の方に圧倒的な支持基盤を持っている変人なのだ。
ちなみにイリス公爵が自分で立候補した訳では無い。
知らん間に兎人族から候補者に推薦されていて、その事を投票日の当日に初めて知って気が付けば指導者にされていたのだ。
要するにハメられて何か知らんが国のトップに据えられていたのだ。
この話しはいずれ別の作品で詳しく書きます。
「エレンってエルフの国に行った事あるんだ?!」
「私は南の大陸産まれだよ、エルフの友達も沢山いるよ」
そうですねー、今もリアルタイムでエレンを見ている友達のエルフが居ますね。
「ほえーそうなんだ」
「ああ!!だからエレンのお姉さんは白龍なんだ」
納得した感じのガイエスブルク、南の大陸には白龍が多い、理由は気候や土壌が関係してるらしい。
自分の受け継いだ知識には無い知識の多さに世界は広いと思うシーナだった。
他種族の知識が乏しいのは地龍王があまり関心が無かったせいでもある。
考え込んでるシーナを見てエレンが、
「今度南の大陸に行こうか?」提案すると
「え?良いの?」と即ノリするシーナ。
「南の大陸は地龍達の集落も多いから多分許可が降りるし、私も里帰りして友達に会いたいからね」
南の大陸に住む地龍達・・・変な奴が多いですね?
「エレンお姉さん、俺も連れて行ってくれ」ガイエスブルクも乗り気な様だ。
「Okだよ、今度申請しておくよ」
地龍3人が盛り上がっているのを見て男2人は、
「流石に私は行けないな南の大陸は遠過ぎる」とマッテオに現在謹慎中のオーバンは、
「私もだな」と苦笑する男達だった。
そしてそのままの足でココの実採取の名目で山に実戦訓練とポイント稼ぎに「地龍王の山」に入った幻夢の一行。
早速お目当ての紫虫の襲撃を受けていた、襲撃をお目当てと言うのもどうかと思うが。
紫虫は紫色した「でかいカマキリ」と思ってくれて良い、体長は1m前後で固い甲殻を持ち両手の鎌の一撃は強力だ、動きは早くないが10匹程度の群れで攻撃して来る。
雑食で知識は乏しく30m越えの龍種ですらエサと思い攻撃してくる好戦的な魔物だ。
10日サイクルで200個ほどの卵を産卵するので定期討伐しないと無限湧きしてくる世界共通の害虫だ。
その為しばしば戦争にも利用され敵陣に紫虫を誘導して突撃させる戦法なども軍学校の教練の一つになっている。
討伐の方法はとにかく倒すしか無い、最後の1匹になっても突撃してくるほどの馬鹿だからだ。
「シーナ!右から2匹!マッテオ!左からも2匹!」
「「了解!!」」
前衛のシーナとマッテオが戦い、オーバンは周囲警戒、エレンが戦闘指揮、ガイエスブルクは魔法での支援と後方警戒が今回の隊形だ!
ガキーン!カーン!カーン!
紫虫の甲殻を叩く音が山に響く、マッテオはさすが元軍人だ最効率で紫虫を始末して行くがシーナはやはり無駄が多い。
「シーナ!1匹倒してから慌てて次に行かない!距離を取って!」
「はい!」
「エレンお姉さん!後方から新手が15匹だ!」
「了解!オーバンは前衛に!シーナとマッテオは後方に!」
「「「了解!」」」
徹底的にシーナとマッテオのみに戦わせる作戦だ残敵はオーバンに任せて数が多い後方へシーナとマッテオが走って行く!
ガン!カーン!キィーン!キン!カーン!
戦斧を自身を回転させながら振り回す「旋風撃」シーナが得意な技だ5匹の紫虫が吹き飛ぶ、動体視力と身体の柔軟性が必要な斧使いの基本技だ。
シーナはとにかく基本技を大事に鍛錬を続けている、地龍王の教えを忠実に守っていた、
「よし!今の立ち回りは良いよシーナ!」
初の実戦はシーナが12匹、マッテオが25匹、オーバンが5匹、ガイエスブルクが2匹、エレンが1匹のピッタリと紫虫を50匹撃破の結果だった。
「むー」
自分の想像よりかなり酷い結果にシーナは深く考え込んでいて周囲は放置している、1人での反省も重要だからだ。
「シーナの事みんなはどう見る?」エレンが幻夢のメンバーに質問する。
「力み過ぎです」
「力み過ぎと思います」
「ガチガチに力入れ過ぎだな」
「だよねー」
とにかく初の実戦でシーナはガチガチだった、マッテオのフォローが無ければ怪我をしていた事だろう。
シーナも自分で痛感しているので猛反省中だ、訓練と実戦の違いを甘く見過ぎていた。
自分の戦いに対する考え方を見直す大事な初戦になった。
「では、ココの実を採取して帰りましょう」
目的のココの実を採取して初日の仕事は終わった。
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