魔法世界の解説者・完全版

ウッド

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片腕の王女編

7話 「龍都へGO!」

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アスティ公爵の手引きで魔族の国内潜入が判明してからの地龍達の動きはとにかく早かった。

ブスーと不満顔で孤児院にある自分の部屋で不貞寝していた捕獲対象と思われるシーナをエレンが華麗に掻っ攫い、1時間後には地龍達の拠点である地下都市の最深部の地龍王の宮殿の一画にある部屋に二人はいた。

そして明日は急遽、地龍王クライルスハイムとの謁見が決まった。

シーナは地龍王クラスハイムが自分の「仮親」だと知ってはいるが自分の本当の親はファニーだけと思ってる、だから余り乗り気では無い。

娘に完全に忘れられている父親のピアツェンツア国王は泣いていいと思う。

「「まだ拗ねてるの?」」と白龍姿のエレンはシーナの頭を自分の鼻先でスリスリする。

エレンは地龍の本国内なので人の姿では無く本来の白龍の姿だ。

地龍の中でも希少な白龍で身長は10m程とかなり小柄な体格だが、鱗に日の光が当たると銀色にキラキラと光るとても美しい龍だ。

正確に説明すると地龍の白龍は「白銀の龍」でプラチナを司る龍だ。
当然「金」を司る「金龍」も居るのだが、この世界には派遣されていない。

本当の「白龍」とは、もっと意味合いが違う別の存在なのだが、この黒龍と白龍についてはいずれ詳しく話す機会がある事と思う。

シーナはエレンの龍化した姿が大好きで、去年自分の正体が地龍だと明かした後はシーナが拗ねると毎回エレンは龍化してシーナを「いい子いい子」と慰めている。

エレンは最初、自分が地龍だと明かしたらシーナがショックを受けるかも?と心配していたのだが・・・

「カッコいい・・・カッコいい!!エレンちゃん!」・・・と、
シーナは地龍の姿のエレンに一目惚れして、エレンの心配は杞憂に終わった。

以来、エレンは龍の姿でシーナの機嫌をコントロールしている。
そして今日も効果は絶大だ、シーナは拗ねながらもエレンの方をソワソワして見ている。
拗ねているシーナだが今はとってもエレンに抱っこして欲しいのだ。

「うー・・・こっちだとお友達はエレンちゃんしかいないもん」

「「んー?なら、気分転換に市街の見学に行く?」」

シーナの考えている事などお見通しのエレンはヒョイとシーナを抱っこしながら散歩に誘うと、「んー、行く」とシーナも嬉しそうにエレンに首に抱きつく。
この辺りの行動は実に子供らしい姿だ。

まっ!ここで拗ねて居ても仕方ないね、とシーナとエレンは市街の見学に行く事にした。

地龍達の拠点の地下都市、地龍達は「本国」と呼ぶので都市に名前らしい名前は無い。
なので仮に「龍都」としておこう。

元はユグドラシルの霊樹の根元付近にあった大きな洞窟に地龍王クライルスハイムが自分の寝ぐらを作ったのが始まりらしい。

これには理由があってユグドラシルが作った「異界門」がこの洞窟にあったからだ。

そこからドンドンと移民が来るので、地龍王クライルスハイムは移民達と移住に際しての契約を結んでいた。
なので異世界から来る者はいきなり問答無用で地龍王クライルスハイムと対面する事になる。

大規模な天変地異が起きて故郷を追われた、とある異世界からのエルフ達が移住して来た時の事・・・

「「ほう?今回の移民はエルフか・・・お主の名は何と言うのだ?」」

「はい!くれあともうします!うけいれてくださりありがとうございます!
よろしくおねがいします!おおきいりゅうさま!」
金髪で碧眼の幼いハイエルフの幼女はハキハキと地龍王に名を名乗った。

「「うむ、エルフ族は森を豊かにするからな。
エルフ族を歓迎しよう、よろしく頼むぞクレアよ」」

「はい!」

大方の者は地龍王クライルスハイムの覇気に怖気付くのだが、後のエルフの女王になるクレアは全く怯える様子も無く地龍王クライルスハイムと対面したのだ。

ちなみに魔王バルドルは移民では無く、この世界での産まれなので地龍王クライルスハイムと初めて対面したのは結構大人になってからだ。
当時は魔王マクシムの部下だったので存在感は無かった。

しかし地龍王もこの快活で明朗なハイエルフの幼女がまさかの問題児だったとはこの時は思ってなかった。

それから8000年ほど経った頃に・・・

「ふう・・・イリスが全然、妾の言う事を聞いてくれなくて・・・
イリスの問題行動を改めさせるにはどうしたら良いのでしょうか?」

「「いや・・・お主よりは多少はマシではないか?」」

「がああああんんんん?!?!」

新たに生まれたしまったエルフの超新星問題児、弟子のイリスの事で地龍王に相談しに来たクレアだったが地龍王曰く「オメーの方が酷かったぞ?」との事。

イリスが起こした数々の問題行動の内の「天空城へのミサイル攻撃」の直接的な原因を作ったのがクレアの趣味の研究せいだった。

一応はクレアの保護者とも言える地龍王クライルスハイムは最近、この件で初めて「天空城」に赴き天龍王アメデに直接謝罪しに行ったばかりだったので地龍王的には「だからオメーが言うな」状態なのだ。

そして地龍王は幼馴染の天龍王に笑われた・・・

この世界のエルフは何と言うか・・・異常なレベルで研究熱心と言うか・・・
ぶっちゃけると「マッドサイエンティスト」がめっちゃ多いのだ。

過去には偶然の産物だったが「魔法起爆式核爆弾」を作って地上に投下してしまったハイエルフ女が居て、怒髪天の龍種達が総出で出張って来て逮捕しばき回された事件もある。

「次やったらお前・・・マジで無期懲役な?」と、マジで龍種に脅されてやっとこのハイエルフの女は大人しくなったのだが・・・

そのハイエルフの女が誰とは大きな声で言わんが、やっぱり問題児イリスだった・・・
要するに森の中で自然に寄り添い大人しく暮らす物静かなエルフは少ないと思ってくれて良い。

そしてイリスが特別ヤバいと言う訳でもない。

その「核攻撃」の実行犯は別にいてイリスは指揮官として責任を取らされた形なのだが、
初手の一手を打ったのはイリスだったので文句が言えなかったのだ。

更に言うとイリスの相棒のグリフォンの女もかなりヤバかったのだ。

彼女のやらかしにイリスが巻き添え食う事も多く、イリスが持っている悪評の内の半分は彼女がやらかした事だ。

イリスも自分の悪評に関しては無頓着だったので、そのまま「イリスがやった!」と言う事になっている。

イリスとグリフォンの女のお話しが気になる人は、「小説家になろう」と「アルファポリス」に投稿している「龍騎士イリス」を読んで見よう!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かなり長いお話ですけどね。


宣伝はこの辺りにして話しを戻そう。


そんな感じに問題児がこの世界にドンドン集結して来て「あっ!こりゃいかーん」と天界から続々と応援に来た地龍達が王に習いこの洞窟に住み着いて来た。

そして「住みたければ地龍らしく自分の家は自分で作れ」との地龍王クライルスハイムの仰せで集まった地龍たち各自でこの洞窟内に好き勝手に棲家を作り始めた。

それから15000年以上が経過した今、いつの間にか超巨大な都市を形成してしまったのだ。
「継続は力なり」とは良く言ったモノだ。

そして現在は約75000人の地龍が住み、地龍にとって最大の拠点であり、総司令部にもなっている。

この龍都には人間や他の種族はほとんどいない。
その理由は単純で地龍はほぼ食事をしないので龍都には食品関係もほぼ無いので生活が出来ないからだ。

ここに訪れる他の種族は食料持参、もしくは自力調達が鉄則なので訪問者は中々長期滞在が出来ない。

ごく少数だが周辺の森で採取や狩猟をしながら龍都に居着いている亜人や人間の変わり者は居る。

なので別段この龍都は他の種族の絶対立ち入り禁止だとか聖域だとかと言う訳でもない。
住みたければ勝手に住めば?とのスタンスだ。

一例を挙げると真魔族領の調査を終えたエルフの国のラーデンブルク公国のエルフの学者の一団などは調査の為に龍都に居着いてからもう800年近くなる。

つーか、もういい加減、君たち国に帰ったら?国で皆んなが心配してるぞ?

立ち並ぶ建物は個々の地龍が勝手に作っているので本当に色々と様々な形状をしている。
造形に関して強い凝り性が有る地龍が作る物なので人間から見ると巨大な宮殿の集合体に見えるだろう。

そして何でも自分で材料を調達して必要な物を作ってしまい、尚且つ食事もしない地龍達の都なので「店」と言う物も無い。

しかしなぜか公園だけは多い。
龍都周辺が自然で溢れているのに公園もへったくれも無いモノなのだが500箇所以上の公園があるらしい。

店が無いので当然通貨も存在しないのだが金銀宝石収集は龍種の本能なので各家には人間社会から見ると凄まじい価値の鉱物資産がある。

エレンも地龍なので自分が「白銀の龍」のクセに「金」の採取に余念がなく、日本円換算で30億円を超える価値の金を保有していたりする。
たまにそれを狙って来る無謀な盗人もいるのだが結果は、まぁ、お察しだ。

そんな龍都の大通りをテフテフ歩く2人。

「おー?おー?すごーい、すご~い~」
シーナはエレンの首に乗りながら龍都市街を見学しながら間抜けな感嘆の声を上げる。
シーナが今まで見た事もない立派過ぎる巨大な建物が大通りに面して十数キロに渡り並んでるいるのだ。

もし地球の日本人が現行技術と重機をフルに使い同じ人員10000人規模でこの街を作るとなっても楽に300年は楽に掛かるだろうと思われるヤベェ規模なのだ。

そんな規模の巨大都市を地龍達は単なる趣味の領域で作ってしまうのだから恐ろしい・・・

龍都の全てをガチで隅々まで全て見学するとなると2ヶ月以上は絶対に掛かる飽きのこない観光都市でもある。

エルフの学者達が「コイツは歴史価値が凄えぜ!ヒャッハー!」状態になるのも仕方ないだろう。
今頃は一軒一軒念入りに研究している事だろう。

後の世に「龍都見聞録」が出版されて1000万部突破のミリオンセラーになるのだが、ここでは関係の無い話しなので省略しよう。


「「あっ、そう言えばさシーナ?」」

「なぁに?」

「「シーナは私のお母さんとお父さんに会って見たい?この近くが実家なんだけど少し行って見る?」」

「会いたい!行く!」即答するシーナ。

スカンディッチ伯爵領のエレンが住む宿屋の夫婦は、地龍に協力している人間なのでエレンの本当の両親ではない。
シーナの護衛と教育の為にとスカンディッチ伯爵に雇われたSランクの冒険者なのだ。

「それにしても・・・皆んな居ないね?」

シーナの指摘通りに龍都の大通りを歩く地龍は余り見かけない。
市街の見学を始めてから1時間経つが5人しか地龍を見かけていないのだ。

ちなみに、この物語での龍種の数え方は「人」に統一してます。
人間に化けると「体?」なの?「人?」なの?と使い分けが面倒臭いので(ワハハハハ)

「「そうねぇ、大通りに来てもやる事が無いからね」」
確かに買い物をする事が無い地龍がわざわざ外を出歩く理由は無い。

仮に出掛けても街中で知り合いと出会う可能性はめっちゃ低いので、皆んな必然的に引きこもりになるのだ。

そして暇つぶしに地下へ地下へと自分の棲家の拡張をしているのだ。

「地上にもうスペースが無いなら地下が有るじゃない?」の精神だ。
その行為にも特別な意味は無い、単なる地龍独自の本能による趣味なのだ。

一説には龍都の地下には龍都の面積を遥かに超える更なる地下大都市が有るのでは?と言われているが、地龍王クライルスハイムでも完全に地龍達が作る各家庭の全容を把握出来ていない。

「「それに大半の者は私の様に任務で世界各地に出掛けていて、ここの建物の持ち主の大体は不在だしね。
常に大勢の地龍が居るのは、入管管理局がある建物周辺と闘技場だけね」」

「にゅーかんかんりきょく?って何?それに闘技場??」

「「闘技場は日頃のストレス発散と求愛の為ね、入管管理局は説明が凄く難しいわ」」

入管管理局って何?の説明を始めると凄く長い特殊な事情の話しが有るので後日詳しく語ろう。
闘技場についても別の話しが有るので正直お待ち下さい。

そして2人は「エレンの実家」に到着した。

「ふわ~???大きいねぇ~、キラキラしてる~」
エレンの実家も御多分に洩れずヤベェくらいに立派だった、と言うか普通に「銀色の宮殿」だった。

いや・・・銀色ではなくモロに外壁は全て「純銀」で作られている。
使われている純銀を日本での時価に換算すると・・・とにかくドエライ金額だろう。

しかしこれでも龍都の中では「ごく一般な住宅」との事。
エレンの両親は仕事が忙しく龍都にほとんど居ないので増築が思う様に出来ていないからとの事だ。

「「さっき「念話」で確認したら、お母さんは、ここに居るわね。
お父さんは残念だけど出張で今は家にはいないわ、ごめんなさいねシーナ」」

「んーん、大丈夫」
エレン父の不在は残念だがエレン母に会えるのは楽しみなシーナだった。

エレンは鍵を魔法で解除して正面入り口の門扉を開ける。
「この扉は人間には開けられないの?」と聞くシーナ。
開けた門扉が高さ20mは有ろうかと言う大きさで人間に開けれるとは到底思えなかったからだ。

「「いいえ?ほら?」」
エレンの視線を辿ると開けた門扉の下には人間用の普通の大きさの扉が付いていた。

「「だってここで人間の姿に戻ったら私は裸になるでしょ?」」

「あっ、そうだね」すごく納得したシーナだった。

一応は龍種が人化した際に衣服も自然に装置される便利魔道具が有るのだが、龍化する事が少ないエレンはその便利魔道具を持っていないのだ。
つまり人化すれば素っ裸になる。

龍種の羞恥概念は人間とほぼ同じなので外で素っ裸になるのは普通に恥ずかしいのだ。

「「お母さん?ただいま~」」

建物内に入ると中も正しく「宮殿」で、床は全面大理石貼りで壁には白銀を主体とした豪華絢爛な装飾が施されている廊下に並ぶは一見するだけでも20以上の大きな扉が並んでいる。
そしてどの扉にも人間用の小さな扉も備え付けられている。

「おー?中も凄いね~」

「「うーん・・・お母さんから返事が無いわねぇ、さっきは答えたのに・・・
仕方ない・・・お母さんを捜索しないと・・・」」

外から確認しただけでも建物は5階建て、並ぶ扉から考えると100部屋以上の中から母親を見つけ出さないといけないので確かに「捜索」だろう。

「念話で呼び掛けて見たら?」

「「さっきから呼び掛けてるんだけど全然反応ないから多分寝ているのよねぇ」」

「そっか・・・なら探検だね!」

こうしてエレンの実家の探検が始まる、シーナ的にはワクテカなのだ。
とりあえず1番手前の扉を開けて中を覗いて見ると・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・え?これ、森??」

「「いや・・・一応は「室内菜園?」のつもりだと思う・・・」

空間魔法で拡張された部屋の中は森だった・・・誇張では無く「リアル森」が広がる。

「「な・・・なんて無駄な事を・・・」」
森なんて龍都から出れば幾らでも見れるだろ?と思ったエレン。
この辺りはエレンは普通の人間の感覚なのだ。

「早速行って見よう!」

「「はいはい」」

一気にハイテンションになったシーナに促されて室内?探検を始めた2人。



そして1時間が経過して・・・




「「完全に迷子です・・・まさかこんなに広いなんて・・・どうなってるの?」」
森の中を彷徨いたまたま有った小さな平原の真ん中で呆然として佇むシーナとエレン。

その2人の横には「川」が流れていて魚も水面を跳ねている・・・

「・・・・・・マッピングする?」

「「そうね・・・」」

マッピングが必要な実家とは一体・・・
そして部屋のマッピングを終えてようやく入って来た扉にたどり着いたのは、更に2時間後だった。

「楽しかったね!エレンちゃん!」
エレンは疲れたが、プチ探検のおかげでシーナのご機嫌が良くなったので結果オーライなのだ。

1番目の扉を出て2番目の扉を少し開けて中をチラ見するエレン。

そして「パタン」とゆっくりと扉を閉めて、
「「うん!ここは普通の部屋だね!全っ然面白くないわ!次行きましょう!」」
何故かズンズンと3番目の部屋へ向かうエレン。

「????」

エレンはシーナには言えなかった・・・
まさか部屋の中に「山」が有ったなんて・・・とても言えない。
だって絶対に「山を探検しよう!」とシーナに言われるんですもの。

《ごめんなさいシーナ・・・私も疲れているのよ・・・》
心の中でシーナに詫びるエレンだった。
ここに来てエレンは実家に来てしまった事を大分後悔し始めている。

ちなみに何でこんなに凄いヤバい部屋を作れるかと言うとエレンの父親は「地龍王クライルスハイムの実弟」なのだ。

兄のクライルスハイムに負けず劣らずの莫大な魔力を保有しているのが性格は全く似ていなくハッキリ言ってかなりの変人だ。

そんな男が作った建物なので何が飛び出すのか分かったモノではない。
一般の地龍はさすがに森などは作れないのだ。

エレンは3番目の扉を恐る恐る少し開けて・・・閉めた?
そしてため息を一つ吐いて、
「「お父さん・・・本当に何を考えてるの?」」と項垂れた・・・

「どうしたのエレンちゃん?」

「「ん?何でも無いよ!ここも普通の部屋だったよ」」
この部屋でエレンが見たのは「大きな湖」だったのだ。
ご丁寧に魔石を使って「擬似太陽」まで作って湖面がキラキラしていた・・・

エレンはココにシーナを連れて来るのは明日の地龍王クライルスハイムとの謁見が終わってからにしようと思った。
だって!どうせなら思い切り自分だって遊びたいじゃん!水着持って来てないし。
それに一応は仕事中なので。

「「ふう・・・実は・・・私ってここの全部の部屋を回った事が無いのよねぇ」」

「自分の家なのに?!」

「「この建物は正確には「別荘」なのよ。
私が産まれ育った本当の家は南の大陸のラーデンブルク公国にあるのよね。
そこは普通の家だったから、まさかココがこんなになってると思わなかったのよ」」

「そうなの?」

10年前にお母さんからシーナの面倒を見て欲しいって言われてね。
南の大陸から直接スカンディッチの宿屋へ行ったから、ここには2、3回しか来た事がないのよね」」

「そうなんだ!アタシの所に来てくれてありがとうエレンちゃん」
わざわざ自分の為に中央大陸まで来てくれていた事が嬉しくてエレンの首にギュウと抱きつくシーナ。

2人でイチャイチャしていると右向こう5番目の扉の人間用の扉がおもむろに開いてエレンより少し年下くらいの見た目の髪の長い銀髪の少女が出て来た。

「エレン、おかえり~」
寝起きなのか少女はめちゃくちゃ眠そうだ・・・と言うかパジャマも肌けており完全に寝ぼけている銀髪少女。

「「ただいま、お母さん、ごめんなさいね急に押し掛けて来て。
もう・・・髪がボサボサじゃないの・・・ほらほらパジャマもちゃんとして!」」

「うーん・・・忙しくて60日ぶりの睡眠だったからね~・・・
少し無理して仕事をやり過ぎました」

地龍はその気になれば100日くらいなら不眠で活動出来るのだ!
・・・しかしその反動で100日ほど寝てしまうのだが。
結局のところはプラマイ0だね!

そしてどうやらこの銀髪の少女がエレンの母「リリー」らしい。
なんか・・・エレンのミニチュア版の様な女性で、とても子持ちには見えない。

なんなら「エレンの妹」と言われても納得出来るほどに若いと言うより幼く見える。

「エレンちゃんのお母さん、はじめましてシーナです」
エレンの背中に居たシーナがリリーぬペコリと頭を下げると・・・

「はい、はじめましてエレンの母のリリーです」
リリーもペコリと頭を下げる。

・・・・・・・・・・そして頭を下げたまま動かなくなったリリー??

「「お母さん?起きて下さい」」

「はっ?!いかん寝てた?!
それでは早速シーナの顔をアタシに良く見せて下さい」

リリーは寝ぼけながらエレンに向かって「ん!」と両手を伸ばして「アタシにシーナをくれい!」と催促する。

どうやら凄くマイペースな女性の様だ。

「「え?・・・シーナ?お母さんの所に行っても良いかな?」」

一体母が何をするのか全く分からずシーナを渡して良いものか?と悩むエレンはシーナ本人に聞いて見る。

「いいよ~」

シーナが承諾したので両手でシーナを掴んでリリーに差し出すエレン。

そのシーナを両手で受け取ったリリーは、一回シーナをギュウと抱きしめてから頬を両手で掴んでシーナの顔をジッと見つめる。

「ふわあああ??」
リリーはエレンに全体的な雰囲気は似ているが、至近距離で見ると眉毛がキリッとして顔立ちで「美少年」と言った感じなのだ。

美少年?に見つめられて照れるシーナ・・・顔がドンドン赤くなる。

「「あっ・・・シーナって「美少年」が好きなんだ・・・」」

エレンが知る限り、シーナが異性?を意識したのはこれが初めてなのだ。
普通の女の子らしい反応に少し嬉しくなるエレン。
しかし・・・その相手が女性で、しかも自分の母親なので複雑な心境のエレン。

「うーん・・・アタシでも詳しくシーナの「魂」の判定は出来ないわね・・・」
どうやらシーナの「魂」を霊視していた様子のリリーは首を傾げる。

「「お母さん、判定とは?」」

「そうねぇ・・・シーナには強烈な加護と言うか・・・
防御膜の様なモノが魂を包んでいて正確な「魂の色」が見えないわ。
・・・・・・・・・・・・・口にキスして舌を入れても良いかしら?」

「ふえ?!ふえええええええーーーーー?!?!?!」

「「お母さん?!ダメに決まってますよ!」」

いきなりリリーの「キスして舌入れっぞー!」宣言に驚くシーナとエレン。
その前のかなり重要なセリフが、このインパクトのせいで無かった事になってしまった。

「いえね?目では見えないから、シーナの「魂の味」を確かめて見たくて?
体液の味を調べるのが1番なのよ?」

「あああああ味ぃいいいい?!」
自分の「味」を友人の母親に調べられる・・・確かにこれは恥ずかしい!

「「10歳の女の子に変な事を言わないで下さい!!」」
自分の母親の変態発言に思わずシャーーー!!と怒り出すエレン。

しかし、リリーは割と真面目に「魂」の検査の為にこんな事を言っているのだ。

「あわわわわわわ????」

「ほれ?行くぞー」と言わんばかりにシーナに顔を近付けるリリー。

「このままではシーナの貞操が危ない!母に奪われる!」
そう思ったエレンはボウン!と人化してリリーからシーナを奪還してギュウと抱きしめる!

「ふわわわわわ?!?!エレンちゃん!裸ーー!!胸がーー?!」
全裸のエレンの豊満な胸にギュウギュウと顔を押し付けられて更に混乱するシーナ。

いや・・・お風呂はいつもエレンと入っているので、普段ならエレンの裸なんて別にも気にならないのだが、シチュエーション的に、なんかこう・・・

とにかくメッチャ恥ずかしいのだ!

「キス魔」に「露出狂」・・・特殊性癖の変態母娘に翻弄されられるシーナ。

「あっ・・・シーナ、それ良いなぁ・・・巨乳パフパフって夢だよねぇ~」
羨ましそうにエレンの胸をジーと凝視しているリリー。

「お母さんは何を言っとるんですかぁ!」完全にシャーーー!!状態の露出狂エレン。

「だって・・・」そう言ってリリーは超悲しそうに自分の胸をモミモミする。
うん・・・確かにリリーの「ソレ」は少々小ぶりだね。

「お・・・お母さん・・・その事を気にしていたんだ・・・うう・・・
なんか、ごめんなさい・・・」
立派なブツを持ってるエレンは「持たざる者」には謝る事しか出来ないのだ。

「こんなアタシでごめんなさいねエレン・・・母
の胸は大きい方が良かったよね?エレンはアタシと違って良いお母さんになれるわ」

「子供は母の乳の大きさなんて誰も気にしてませんからーーー!!」

「そう?アタシは母の乳の事を気にしていたわよ?」

「それはお母さんだけです!
良いですか?!母に大事なのは、「暖かさ」と「優しさ」です!
お母さんは暖かったし、優しかったので余計な事は気にしないで大丈夫です!」

「なんだい?よせやいエレン、照れるじゃねぇか」

エレン母娘のアホな乳会話に何だか妙に冷静になるシーナだったのだ。

しかしリリーは節々にシーナに関して相当重要な事を言っていたのたが、話しに関係が無い他のインパクトが大き過ぎて全てが無かった事になってしまったのだ。

そして完全に寝ぼけていたリリーもこの時の事について見事に忘れた・・・

しかしリリーは、一体シーナの何を調べていたのか?

それは誰にも分からない。

だって本人が忘れてしまったのだから・・・

「ああ・・・もうダメ・・・母は寝ている最中に無理矢理起きて来たから・・・
こめんね2人共・・・母はもう寝ます・・・クゥ・・・」

「お母さん!寝るならベッドで寝て下さい!ここで寝ないでー!」

こうしてエレンは慌てて、器用に立ちながら寝てしまった母リリーをベッドまで運んで寝かしつけたのだった。

もちろん全裸のままで・・・

一応補足をしておくと、完全に目が覚めてるリリーはとても優秀な検察官でビシッ!としています。

今回はたまたま眠た過ぎてアホだっただけですね。
ここの所の60連勤の60日徹夜でかなり疲れていたのだ。

普段はほとんど見せない母のアホ行動になんかドッと疲れたエレン。

シーナをエントランスに置いてある長ソファーに横並びになって座らせて話しをする事にした。

そしてエレンは残念ながらもう服を着ている(いや当たり前だろ!)

「凄く楽しいお母さんだね!」

「恥ずかしい・・・」

予想以上に楽しい龍都見学になって機嫌が治ったシーナは「明日お父さんとの謁見って何すれば良いの?」とエレンに聞いて来た。

「んー?・・・特にシーナがやる事は何も無いわねぇ・・・
私達には人間の様な儀礼とかは無いからね、「初めまして」って挨拶すれば良いよ」
そう言ってエレンはシーナの頭を撫でる。

「んー分かった」
エレンにぎゅっと抱きつき甘え始めるシーナ。

龍都見学とプチ探検の疲れが出て来て、やはり明日の謁見の不安からなのかシーナはエレンにくっついて離れない。

少し困った笑顔でシーナの髪を撫で続けるエレン。

それでも少し地龍王クライルスハイムとの謁見に前向きになったシーナにホッとするエレン。

エレンは儀礼は無いと言ったが地龍達にも多少は儀礼はある。
まぁ、常識的に考えて失礼な事をしなければ良いだけだが。

それからシーナは少し考えて今まで疑問に思っていた事をエレンに聞いて見る事にした。

心なしかシーナの雰囲気が大人に変わった気がしたエレン。

「あたしは詳しくないけど魔族って今は天龍と戦ってるんだよね?
なんで今になって魔族が地龍の領域にちょっかいをかけて来ているの?」

何か納得出来ないと言った感じの表情のシーナが尋ねる。
その質問に対してエレンは、魔族に関する情報をシーナに話す事にする。

もうシーナは自分で考えて判断出来ると思ったからだ。

「魔族は1000年前の昔から龍種全部の敵だよ」

「敵・・・なんで?」

「ユグドラシルから龍種のみに世界の覇権を譲られたのが不満で、ユグドラシルの没後から1000年以上も戦ってるらしいよ」

「っ?!」エレンの言葉に何故だかショックを受けた様子のシーナ。

「生まれて200年しか経ってない私にはピンと来ないけどね」
と前置きした上でエレンが知っている情報をシーナに話し始めたエレン。

曰く、ユグドラシルの没後すぐに世界大戦があった。
その大戦時に龍種の中から龍王から離反する者が相次いだとの事。

その手引きをしたのが魔族であり、その力を利用したのがゴルド王国だと言うのだ。
以来、龍種は魔族とゴルド王国寄りの人間を「監視対象」とした。

監視対象となった理由は、その離反した龍種の力と魔族の魔法技術が合わさり、他の龍種を「使役」出来る外法を編み出したからだ。

奴らは産まれて間もない龍種や進化間近と竜周囲を狙って攫い「洗脳」して戦力とする事で龍王達や他の敵対勢力と戦っている。

魔族達がシーナを地龍として認識しているか定かでは無いが、警戒するに越した事はないとの理由から地龍王クライルスハイムの支配下の龍都入りが決まった。

「そう・・・なんだ・・・」話しを聞いて凄く寂しそうな表情になるシーナ。

「怖がらなくても大丈夫だよ、ここには強い「龍戦士」もたくさん居るからね」
そう言ってシーナの髪を優しく撫でるエレン。

魔族は攻撃力の点で龍種には全く及ばない。
なので精神体への支配攻撃や同じ思想を持つ人間達や亜人と結託して攻撃して来る。

人間や亜人との結託と言っても精神を支配して感情を持たない人形にして雑兵として利用するのだが。

なので真っ当な人間や亜人の国家は魔族を敵と見なして龍種の庇護を欲しがるのだ。

更にもう一つ魔族の厄介な所は変装と隠蔽魔法がとても上手く人間社会にも深く浸透している事だ。

単体で龍種とやり合える人間は「勇者」くらいなモノだが、これが完全武装をした軍団ともなると龍種でも不覚を取る事がある。

例えば、「魔導榴弾砲」での一斉掃射攻撃などは龍種でもかなりの脅威になる。

「いつまで龍都に居なきゃいけないのかな?」

ピアツェンツェア王国に魔族の尖兵が入り込んでるのはピアツェンツア王城にいる天龍達からの情報で明らかになっている。

その魔族への協力者の選定も既に済んでいるのだが、
今回はどうも魔族にしては珍しく自分達の兵力も表面に投入して本腰で来てる様子なのでとりあえず泳がせて様子を見ている段階だ。

「・・・おかーさんとラーナ大丈夫かな?」母と妹を思い凄く心配そうなシーナ。
そしてやっぱり父親のピアツェンツア国王の事は忘れている。

「あの2人には天龍の龍戦士が張り付いてるから大丈夫よ」

「そうなの?龍戦士はエレンちゃんより強いの?」

「うっ・・・正直・・・格が違い過ぎますねぇ・・・勿論向こうの方が強いって意味でね」

「え?!そんなに強いの?!」シーナ的にはエレンが最強!!と思っていたので驚く。

「私は「まだ」戦士じゃないからね」今の所エレンは一般人・・・一般龍だ。

一般龍ってなんだ?と言われても困るのだが「龍戦士」とは龍種の中から特に優れた者の中から選抜され厳しい鍛練と試練を乗り越えた者だけがなれる。

正確な数は分からないが、おそらくは龍種全体の2%ぐらいだろう。

大半の龍戦士は本国や重要拠点の防衛の任務に就いているのだが各龍王の采配で人間の国とかにも派遣されている。
その任務の中で天龍と地龍と海龍が遭遇すればどうなるか?

結論から言うとどうもならない。

「天龍と地龍と海龍は三つ巴になって争っている」との与太話しが人間の中では通説となっているのだが天龍と地龍と海龍が組織的に争った事実は無いのだ。

と言うか忙しくて喧嘩している場合でも無くお互いに戦士達を融通し合って激務を凌いでいる状況なのだ。

おそらくその三つ巴の話しは魔族の奸計だろう。
そして海龍も天龍も地龍も積極的にデマを否定して回ってる訳では無く逆に奸計を利用してる。
敵の奸計を利用しての反計ってやつだ。

ここで出て来た、もう一派の「海龍」なのだが彼等に関しては生活圏が違い過ぎてて良く解らない。

この星の陸と海の比率は大体5対5くらいなので、海龍は世界の半分を実行支配しているのだが、人間達の中では目撃情報が極端に少ないのだ。

「うーんんんん明日の準備も有るし・・・そろそろ帰ろうか?」
背もたれを使ってグイーと伸びをするエレン。

「んー・・・・・・・・・・そだね!」

ソファーの背もたれ越しに伸びをしたと同時に、ブルン!と揺れるエレンのブツを凝視しているシーナ・・・

実は「乳」に強いこだわりが一番有るのはシーナだったりする。
後にこの「乳」へのこだわりで一騒動が起こる。

明日は地龍王様との謁見の日だ。
シーナがその夜に10歳の子供とは思えない表情で深く考え込んでいたのを気付く事が無かったエレン。
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