魔法世界の解説者・完全版

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片腕の王女編

5話 「ラーナ王女殿下と囚われるエルフの女王」

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魔王バルドルと「世界の言葉」が世界の問題の押し付け合いという実に不毛なバトルをしている時、件のラーナ王女は勉学に励んでいた。

「これで本日の講習は終わりです。ラーナ王女殿下」年嵩の男性教師が本を閉じる。

「ありがとうございました先生」
満面の笑顔で立ち上がってカーテシーをして教師に御礼をするラーナ王女。

ようやく授業が終わり、ホッと息を吐いて教室を出る。
そしてその後は離宮の私室で紅茶を飲みながら寛いでいる幼い王女。

王女の名はピアツェンツェア王国第一王女、ラーナ・フォン・ピアツェンツェア
シーナの双子の妹だ。

明るく優しく素直な性格で7歳とは思えない頭脳と話術を持ち、王妃ファニー譲りの将来は絶世の美女が約束された淡麗な容姿でピアツェンツェア王国の秘宝とも呼ばれている王女である。

「・・・お母様、お元気でしょうか?」

母親の王妃ファニーはスカンディッチ伯爵領に視察に赴いて現在は不在だ。
少々・・・いや相当な子煩悩の母親に育てられたラーナは少し寂しがり屋なのだ。

2週間の日程で母が帰るのは5日後、いつも可能な限り一緒に居てくれる母が2週間もいないとなると7歳の少女にはとても長く感じられる。

「ラーナ殿下、財務大臣クロッセート侯爵様と御子息のオルランド様が御機嫌伺いに参りました」ラーナ付きの女官カーラがラーナに来客を知らせる。

「・・・そうですか、通してください」

そう言うと小さく溜息を吐くラーナ。
とても7歳の子供とは思えない所作ではあるが実は彼女には重大な秘密があった。
それは生まれた時に既に天龍王アメデの加護を受けた愛し子なのだ。

正確には妹ラーナのお溢れを貰い、姉のシーナもアメデからの加護を受けたのだが、
その直後に地龍王からの力の継承と言う、加護を遥かに上回る前代未聞の力を得たのでシーナに残る天龍王の加護には地琰龍ノイミュンスターでも気がついていない。

天龍王の加護には知恵と知識も含まれているのでラーナの精神年齢はかなり高い、
幼い体に感情が引っ張られるが考えている事は完全に大人だ。

地龍王の知識の開放がまだのシーナより遥かに大人じみている。
更にラーナは前世の影響もかなり強く受けている、その話しはその内に詳しく語ろう。

話しを戻して、今回の訪問は鬼(王妃)のいぬ間に自分の子息をラーナに引き合わそうとの財務大臣の思惑だ。
ラーナはその事を理解して「はあ・・・面倒です」と思っている。

でも無視など出来ずに侍女を連れて応接間へ急ぐと1人の紳士と令息が応接間で待っていた。

紳士と令息はソファーより立ち上がると紳士、クロッセート侯爵は貴族の礼をしながら、
「これはラーナ王女殿下、御機嫌麗しく臣も喜ばしく思います」とラーナに挨拶をする。

「子息のオルランドです。ラーナ王女殿下にご挨拶申し上げます」
緊張しながらも綺麗な礼をするオルランド侯爵令息。

父の教えが良いのであろう、真っ直ぐな気質なのが分かる、ラーナの好感度が少し上がる。

「ようこそおいで下さいましたクロッセート閣下にオルランド様」
カーテシーをしながら、にこりと微笑むラーナ。

オルランド侯爵令息はラーナより2歳年上なのだが大人っぽいラーナに心臓が高鳴り顔を赤くする。

それをニコニコしながら見ているクロッセート侯爵。

このクロッセート侯爵・・・少々ウザ・・・暑苦・・・陽気な性格で趣味は人の縁結びと言う、隣のおばちゃんの様な気質の人物で王家への忠誠心も高くラーナの事を誰よりも評価してくれる忠臣だ。
今回も利権云々とかの話しではなく単に趣味の縁結びの一環だろう。

ラーナが会うのを断れない理由でもある。

なので精一杯の笑顔でオルランド侯爵子息と歓談を続けるラーナだが、やはり精神年齢が高いラーナでは7歳の男の子とは話しが合わない。
しかしそこは精神年齢が大人のラーナはどうにか繕うのだ。

1時間ほど両名との歓談は続き、ごっそり精神力を削られた頃にようやく歓談は終わった。

「これも仕事、そうですよこれも仕事です」と、7歳児にあるまじき言葉を放ちつつ自室に向かって歩くラーナ。

離宮へ向け内宮の廊下を3人の侍女を連れて廊下を歩いていると別の紳士と出会う、
「これはこれはラーナ王女殿下ではありませんか」

「うげっ!しまった!コイツ待ち伏せかよ!」王女にあるまじき暴言を頭の中で思うラーナ。
本来のラーナは少々・・・いやかなり口が悪いのだ。
もちろん絶対に口には出さないが、王妃ファニーが知ったら卒倒するだろう。

これも前世の影響のせいだ。

そしてラーナは先程のクロッセート侯爵とは違い最大級に警戒心を高めるのだ。

アスティ公爵・・・お母様を精神的に追い詰める敵・・・

そんな風にラーナはこの男を評価している。
狡猾で野心家、次期王位は我が家からと思っている佞臣。

コイツは自分より家格の低い、辺境伯爵家出身のお母様を見下して事あるごとにお母様の妨害をして来る嫌なヤツ・・・
無論、娘の自分の事も内心で思い切り見下して来る。

「さて今日は何を仕掛けて来るつもりかしら」と、心の中で思い作られた笑顔の中ラーナは公爵を観察する。

「実はですね・・・
とても言いづらい話しなのですがラーナ殿下は王家の忌み子の伝承はご存じでしょうか?」
白々しく声を潜めるアスティ公爵。

・・・なるほど・・・お母様不在を狙って遂にこの話しで来たかと笑顔のラーナは思う。

「いえ、いみごとはなんでしょうか?」いかにも意味すら知らないです風に装うラーナ

「これは失礼しました、まだ王女殿下には難しい言い回しでしたな!これは三代目の王様の時代の時のお話しです」

ラーナが言葉の意味を理解してないと知るや否や楽しそうに子供言葉を使いながら王家の「忌み子」の伝承の話しを始めるアスティ公爵。
時折りラーナを驚かそうと大きめ声も出す。

何とも演劇がかった説明の仕方に、大いに白けるラーナ王女殿下だった。
《コイツ・・・アホなのかよ・・・全部デマかせだって知ってるわよ》
そう思っているが勿論声には出さない、母が卒倒するので。

「とまぁこの様な事から王家の忌み子の伝承が始まったのですよ」
話しを終えて実に得意げなアスティ公爵。

別段ラーナ的には何回も聞いたプロパガンダ満載の伝承で、馬鹿馬鹿しい内容だと切り捨てている与太話なのだが・・・
公爵的には子供のラーナを騙せる策略の一つとして使えると思っているのだろう。

「まぁ!そんなおそろしい事が・・・」
・・・・馬鹿馬鹿しいと思ってはいるが・・・ここでアスティ公爵に警戒されるのも面倒なので仕方なく乗ってやるラーナ。

「・・・それで大きな声では言えないのですが・・・」
アスティ公爵はまた声を潜めた・・・いちいちと芝居がかった男なのだ。

やはり来たなとラーナは思った。

続くは話しは、生け贄になったが生存していた姉のシーナの事と今回の視察の目的が王妃ファニーとその忌み子シーナとの密会の為だとか言い出すのだろうな・・・

ラーナの予想は当たり、王妃ファニーがシーナの代わりにメイドの1人を地龍王に生け贄を捧げシーナを密かに近くの街に隠した、との悪意の改変が盛り沢山の酷い話しであった。

「お・・・お母様が・・・そんな事・・・」
涙目で酷いショックを受けた様に膝から崩れ落ちて見せるラーナ。

「おお・・・殿下おいたわしや・・・この臣はいつでも殿下のお力になりますぞ」
アスティ公爵が白々しくラーナの肩を両手で抱く。

「・・・ありがとうございますアスティ公爵閣下」
肩を抱かれ、あまりの気色悪さに思わず殴りたくなる衝動を抑えて、
肩を抱く公爵の袖をキュッと掴んで見る。

「是非とも今度はゆっくりとお話しを・・・」
してやったりと言わんばかりの顔にイラッとするラーナ。

《いやあコイツ!ホンットにムカつくわぁ!・・・いや、ビークール、ビークール》

「では臣はこれにて、失礼しますラーナ王女殿下」
そう言いながら上機嫌で去る公爵を半目で見送るラーナ。

アスティ公爵と従者が見えなくなり周囲に誰も居なくなると・・・

「いやー名演技だったよ、あざといねラーナ」
突然、今まで空気だった専属の侍女の3人の内の1人が不敬極まりない物言いをし出す。
そしてもう2人の侍女がクスクスと笑い始める。

彼女達は天朱龍ニーム、天龍レンヌ、天舞龍リールだ。
愛し子の護衛の為に天龍王アメデから派遣されて来た天龍の龍戦士である。

この事を知っているのは現時点では国王と王妃と宰相のみ、
地琰龍ノイミュンスターがファニーに語った王宮に潜伏している天龍達である。

「・・・・・・」ブッスーと頬を膨らませるラーナ。

「ほらほら♪そんなにプクプクしないの?ラーナ♪」
天朱龍ニームがラーナの膨れた頬を指でツンツンと突く。

大好きなお母様を悪者にされて貶されて「ブッスー」と頬を膨らませ年齢相応の怒りを見せるラーナだった。

「お母様の悪口を言った・・・」あのヤロウ!絶対に許さん!と心に誓うラーナであった。

「あ!そう言えばさ、ラーナってシーナの事どう思ってるの?」
天舞龍リールが思い出した様に質問して来ると、

「うーんそうですね・・・正直言って物凄くシーナお姉様に会いたいです。
可能なら今回の視察にも強引に参加しようとしたんですが
お父様に「まだ早い」と止められてしまいました」
肩を落として残念そうなラーナ王女。

「んん!?ラーナってシーナに産まれてから直ぐに引き離されて会った事ないよね?」
天龍レンヌが不思議そうにラーナに聞くと、

「うふふ、双子とは物理的な距離は意味ないのですよ♪シーナお姉様とはいつでも一緒なのですよ」
人差し指を立てて王妃ファニーとそっくりに笑うラーナ王女

「んんー?どう言う事?」天舞龍リールも不思議そうだ。

「そうですねぇ・・・お互いの思念体を飛ばし合えるので仮想空間でお互いの認識は出来る?
と言う表現が正しい・・・かは分かりませんが、
シーナお姉様は良く私に思念体を飛ばしてくれています」
そう言って本当の笑顔で微笑むラーナ。

「おおー、なるほど思念体かぁ・・・」
納得した様に見える天舞龍リールだが・・・何か違うと直感で感じている。

少し父である天龍王アメデと相談する必要がありそうだ。
何かがおかしい、何かを見落としていると、まだ全容は見えていない天舞龍リールだった。

ラーナ王女が「早くシーナお姉様に会いたいなぁ」と俯くその姿はただの7歳の女の子だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ほーお?・・・アスティ公爵とやらはラーナの敵になりそうじゃなぁ」

「何かムカつく奴だよね・・・・・・・・・・バルドルさん・・・処す?」

『処さなくても良いです!止めなさい!』

「冗談だって」

『2人が言うと冗談とは思えないんです!ビークールです!
もう・・・貴方達が変に暴走して手遅れになる前に天舞龍リールには全部チクリますからね・・・

・・・私は「世界の言葉」・・・天舞龍リールよ・・・答えなさい』

《はいはーい、ハルモニアちゃん、なぁに?》

『いきなり「真名」をバラさないで下さい!
はあ・・・もう良いです、そうです、皆んなのパシリ女神さんですよ~。
・・・お話しとは「ラーナ王女殿下」の事なんです・・・』

《お?タイムリーだねぇ。・・・てか魔王の「影見」で覗いていたんでしょ?
・・・魔王と言う事は・・・そこにイリスも居る?》

「やっほー、リールさぁん、お久しぶりです!イリスちゃんはここに居ますよ~」

『ホントに貴女達は・・・私がお話しする前に・・・』

《イリスが介入したって事は・・・やっぱりラーナは「エリカ」って事だね?
お父様がラーナの名付け親だもんねぇ、・・・良かったねイリス。
てか身体は大丈夫なの?クレアに怒られないの?》

「おお!さっすがリールさん!鋭い!
クレア師匠には見つからない様に工作しています」

「お・・・お主達・・・出番なしなのはさすがに「世界の言葉」が落ち込む・・・
少しくらいは「世界の言葉」に説明させてやってくれ・・・」

『・・・たまに優しいですよね?バルドルは・・・毎回その感じでお願いします』

《そうだね、冗談はこのくらいにして・・・ラーナの事は天龍に任せて貰いますからね?
イリスも魔王も介入不可です。
2人が介入したと確認したら双方に対して正式に抗議しますので、よろしくお願いします》

「ええ~?そんなぁ・・・」

「・・・なんでじゃ?」

《それは貴方達がラーナの件では「冷静さを欠く」からです。
説明する必要は無いよね?今も冷静さを欠いてる自覚は有るでしょう?
私達が一緒に居るのに感情任せに荒事をしようとしなかった?》

「う?!うむ・・・」

「はい・・・」

《これで良いかな?ハルモニアちゃん?》

『ありがとうございますーーー!!リールちゃん!大好きですーーー!』

「ぶーーーーーーぶーーーーー」

「つまらんのう・・・」

女神ハルモニアの天舞龍リールへのチクリが功を奏して、何とかギリギリ混乱は未然に防がれたのだった。

天舞龍リールとの念話が切れると魔王バルドルがゆっくりと切り出す。

「なぜ天舞龍リールに「ユグドラシル」の件を話さなかったのじゃ?」

『ユグドラシルの件を話すと今度は天舞龍リールが無理をするからです』

「??無理をする?どう言う事?」

『おそらくリールちゃんは自分の存在を賭けてユグドラシルを助けようとするでしょう・・・
命にも関わる問題なので2人共、絶対に内密にして下さい』

「うむ、そこは全て「世界の言葉」に任せよう、イリスも良いな?」

「そこは了解したよ、でも不介入には同意しませんよ?」

「そうじゃなぁ・・・天舞龍の命と聞いて儂も黙って見てる訳にはいかんな」

『私に今言えるのは「少し時間を下さい」としか・・・
その内、大質量の魔力が必要になります、その時に備えてイリスは回復専念です。
バルドル・・・イリスを「監禁」して下さい』

「よし!そこは儂も同意じゃ、「捕縛結界陣」」

「ええええーーーー?!」

突然、魔王の間に立体型捕縛結界の魔法陣が浮かび上がりイリスを完全に拘束した。

「騙したね!酷いや!うわ?!全然解除出来ない?!何で?!
・・・・・・・・・・・・ってこれ?ハイエルフの最上級捕縛結界ーーー?!?!」

「酷いや!では無いわ!馬鹿者!絶対安静なのに勝手に抜け出しおってからに!」

「もう・・・ダメですわよイリスちゃん?ちゃんと寝てないで抜け出すなんて」

そう言いながら魔王の玉座の後ろから2人のハイエルフが出て来た。

「クレア師匠ーーーー?!?!ルナさんーーーー?!」

『当然ながら「イリス脱走」の件は、すぐにクレアとルナにもチクってますよ?』

「ハルモニアちゃんーーー?!?!」

同族の捕縛結界なのでイリスに対抗手段は無い。
と言うかイリスの魔法技術は、この2人のハイエルフから教わったモノなのだ。

「うう・・・バルドルさん~」
もはや万事休す!!目をウルウルさせて自分に甘い魔王バルドルに助けを求めるイリス。

だがしかし彼女は「重体の身」なのだ。

「お主がそんなに身体をフルフルさせておるのに解除する訳がなかろう?」
バルドルがパチンと指を鳴らすと結界内にベッドなどの家具一式が現れた。

「えええーー?!ここに住むのーーー?!」

「バスやトイレやキッチンはその扉の奥じゃ。
向こうの扉には衣服や食材が入っておるから自由に使うが良いぞ?」

「そしてその扉の奥にはお主の好きな本などが保管されておる」

「なななな?なんて用意周到な??」

「イリスちゃんが脱走ばかりするから・・・事前にバルドルさんに頼んでおいたのよ?
わたくしが付きっきりで看病しますからね?」

「ルナさんの看病?!それはそれで凄く嬉しいんだけど~・・・」

「ピアツェンツア王国の問題については既に国王のヤニック殿から妾に直接支援要請が来ておる。
イリスには内緒でな。
妾がちゃんと対応するのでイリスは絶対安静じゃ」

「あう~?ヤニックちゃんまで・・・師匠の私を裏切ったの~?」

「違うわ!馬鹿者!皆、お主の心配をしておるのじゃ!」

「イリスよ、真面目な話しを言うとな?
お主の魔力回路が完全に回復するまでここから出すつもりはない。
なあに10年も安静にしておれば完全回復するじゃろうて。

つーか、儂は最初から徹頭徹尾、お主の参戦は「ダメ」だって言うとろうが・・・
情報を仕入れただけで良しとするが良い、もう諦めよ」

「本当に世話を掛けてしまったな魔王バルドルよ、ありがとうございます」
魔王バルドルに深々と頭を下げる2人のハイエルフ。

麗しきエルフの女王が10年間に渡り悪逆非道の魔王の手により魔王城に囚われる!
そして若き勇者達がそれを救ったのだった・・・
後世まで語られる事になった大人気の物語「麗しきエルフの女王」の真相はこんな感じだったのだ。

ちなみに物語内では麗しのエルフの女王を助けに来る「勇者」も今回の「イリス捕縛作戦」に全面的に協力していたりする。

今日に備えて万全な包囲態勢を敷いていたのだ。
そこにまんまと自分から飛び込んだ女王イリスであったのだ。

「ふふふふ、龍騎士イリスよ、まんまと罠に嵌りおったな」

「おのれ!この我とした事が・・・抜かったわーーー!!」
魔王に煽られて悔しさの余りにどっちが魔王か分からん暴言を吐いたイリスであった。

「イリスちゃん?めっ!」そしてルナに怒られた。
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