その男、凶暴により

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五章~架かる橋にて~

邂逅

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「おいおい、嫌に早くねぇか?いよいよ待ちきれなくなってきたか?ヒャハハハハッ!」
つり上がった眼の黒髪で、長髪ストレートの男の下卑た笑い声が、橋の下で響き渡った。

震えた声で、小刻みに震える人、独り。
「今日は私が一人で戦う。」

「ほぉ。理由は?」橋の上、低い声が降り注いでくる。
「言うわけがないじゃない。」背中に隠し持った鞭を取り出し、空中で何度か音を出す。

「いやいや、かなうと思ってるのか?2人でも勝てないのに1人で来て。なぁ、巳ちゃん?でも残念だなぁ…お前の目の前で歯を食いしばって痛みに耐えてる卯を見るのが好きなんだけどなぁ…可哀想な男の子だよなぁ?」

アヒャヒャヒャ、という声の中、一粒の涙を流す巳。

「笑いすぎだ、来たぞ。」
「あん?」

鎌鼬の様に、一陣の突風が高笑いしていた男の胴体をすり抜ける寸前!

ガチャッ!

「あぶねぇ、あぶねぇ。そいつで俺の胴体叩こうとしたのか、てめぇ?」刀と胴体の間にジャラジャラとしたチェーンの様なものが挟まっている。
「ネズミ!?」

すぐさま後退し、巳の横に並ぶネズミ。
「水臭いよ、巳ねぇ。」
「ネズミ、なんで…」

「あれで誤魔化せると思ってたなら大したもんだよ。」橋の上、15m程の高さから呆れた声が降ってきた。

「龍!?」
「全く…全部聞いたよ。コイツから。」

項垂れるように、腕を組んでいる龍と豊の横に卯が立っていた。
「悪い、巳…」
「なんで、言うのよ!卯!?」

叫ぶ巳の横で諭す様に語りかけるネズミ。
「俺達が無理やり聞いたんだよ。人間、溜め込むとロクな事がないもんね。でも、とりあえず今は巳ねぇの気持ちとかは聞かないよ。全部終わってからね?」

3年合わない内に、随分大人びたネズミの横顔を見ながら、鞭を握り直す。
「大人になっちゃって…じゃあ、一気に終わらせるよ!覚悟しな、狐ヶ崎!」



「さてと、あっちはこれで大丈夫そうだな。」
「龍さん。」龍の横で豊が口を開く。
「どうした?」
「橋の上の相手は俺に任せてください。お二人は奥をお願いします。」

木で出来た橋の上では所々、床の板が外れ、気を抜くと橋の下まで真っ逆さまに落ちてしまいそうな恐さがある。
その橋の中央辺りに、年はネズミと同じ位の、ボサボサの髪が目元まで隠れて、グレーのベストから赤い半袖Tシャツが見えていた。
その男を見つめ、視線を豊に戻し、静かに頷く龍。

「豊さん、あいつが蜂谷です。俺と同じく蹴り技が主体で、特に死角からの蹴りに気を付けてください。」
「ありがとう。さぁ、2人とも俺の背中を使って下さい。」
「よしっ、行くぞ!」
豊を先頭に橋を駆け抜け、蜂谷の前方2mまで来た時に、豊が両手を伸ばした。
その後ろから、豊の背中と肩を踏み台にし、蜂谷の上を通り抜ける2人。

しかし。

蜂谷が豊の頭よりも高く跳躍し、右足を高く上げ2人を迎撃しようとする。

そうはさせじと、残った蜂谷の左足を左手で伸ばして掴んで引っ張り、右腕で相手の太ももを『かちあげ』の要領で強くぶつける豊。

そして、足を掴まれた瞬間。蜂谷は高く上げた右足をかかと落としよろしく豊の背中、心臓の裏めがけて振り下ろした。
「ぐっ!」という声を出したが、動きは止めず、そのまま木の板に相手を叩き付ける豊。

「「っっっっ!」」

少しの間があり、2人は立ち上がりお互い距離を取った。

豊より一回り小さい160cm前後の少年らしき人物が無表情で口を開く。
「バカじゃないの?お互い、下まで落ちてたかもしれないんだけど?」思っていたより幼げな声を聞いて、ネズミと同い年位か?と思う豊。

「その場合はしょうがない。俺は、自慢じゃないがネズミさん、龍さんに逢ってから、負けしか知らなくてな。」
「で?」
「引き分けなら格好が付くじゃねぇか。」
ニヤリと笑う豊を見て、無表情のまま蜂谷が呆れた声を出す。
「もう一度言うよ、バカじゃない?死ぬ高さなんだけど。」
「そのくらいの覚悟がないと、隣に歩けないのさ。あの人達と。」



「子供達は!?」
「あそこだ!龍さん!」
橋から十数m程離れた所にある鉄格子、その中に子供達が捕らわれていた。
「卯兄ちゃん!」
「龍兄ちゃんもいる!」

走りながら大声を上げる。
「待ってろ!すぐに助ける!」

「まぁ、待て待て。どいつもこいつも焦りすぎなんだよ。まだ、ルール説明も終わってないのに、始めるんじゃねぇよ。しかも、初顔合わせの人もいるんだからよ。とりあえず、この子達は定位置に移動させてもらう。」
そう、声が聞こえると鉄格子の横、豊位の背丈の男が鉄格子に手をかけた。
髪はコーンロウ、黒のロングTシャツなのに服の上からでも筋肉質なのが見て取れる。

「何をする!?」
「だから移動だって、話を聞かねぇやつだな。」
龍の叫びをあしらいながら、まるで椅子を動かすかのように軽々と子供達毎、鉄格子を持ち上げる。

「よいしょ、っと。この辺かな?」
木の橋の横、崖から少し離して鉄格子を置いた。

その怪力に呆気に取られてる2人に男が口を開く。
「そろそろルールの説明しても良いか?」
「その前に。」
「ん?」
「獅子神、だったな?お前の役割はなんだ?聞くところによると、この鉄格子の横からほぼ動かないらしいが、たまにはこの二人の加勢をすると聞いている。どうにも行動に違和感がある。俺達を倒すのが目的じゃないのか?」

ふむ、と腕組みをして悩む獅子神。
「面と向かって言われるとはな…まぁ、その辺も考えながら戦えば良いんじゃないか?俺から何かが返ってくると思わない方が良い。」
そう言うと、大きく息を吸い込んだ。

『それでは、これよりルールを説明する!橋の上に一人、橋の下にも一人!彼等は放っておくと、お前達の家にいる子供を襲いに行く!お前らは橋のこちらの鉄格子の中にいる子供達を救出すれば勝ちだ!鍵は俺が持っている。制限時間は1時間!時間が過ぎれば、子供1人の命、もしくはお前らの内、誰かの骨を一本折らせてもらう!』


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