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墓標の雲
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エレベーターのチンという音と共に廊下に出て、ネクタイを外しながら手前から3つ目の部屋のドアを開ける。
靴を揃えずに脱ぎ捨てて、短い廊下を渡り、リビングに入り冷蔵庫の扉を開け、常備しているビールのプルタブを開ける。
そのままの状態で一口飲み、そのまま窓際のベッドまで歩き、サイドテーブルに缶ビールを置き、ネクタイとスーツのジャケットを地面に放り投げる。
ベッドに腰掛け2、3度手のひら全体で頬を軽く叩き、そのまま少し静止する。
ひっ、ひっ、ひっ。と息が漏れる
もう我慢の限界だった。
ベッドに大の字で倒れ込み、遂に「ははははは!」と漫画の様に笑ってしまう。
「巻き込んでごめんね、か。」先程の光景を思い出す。
葛城は確かに無類の女好きだった。そして、酒の席も好きで良く何人かの目当ての女を連れて飲みに行っており、そこに俺も呼ばれた。そこであの女に出会った。
向こうは葛城に惚れていたが、ある時相談に乗ると言って睡眠薬を飲ませて事に及んだ。
数年後に小さな子供がいることを告げられ、バレたかと思ったが、どうやら葛城の子だと思っており、生活が苦しいので酔い潰れた時を見計らってDNA鑑定をする為、手伝って欲しいらしい。
あの封筒の中を見た時の喜びよう、そこからのすり替えたサンプルが俺のモノだと伝え、睡眠薬を飲ませて事に及んだ時の説明を聞いた時の顔と言ったら。
挙げ句の果てに葛城の車に乗って伝えに行った。
だから、俺の車と思い俺を困らせようと…
ベッドに大になったままで窓の外を見やる。
地上からの光が反射して雲が綺麗に見える。
あの日、火葬場の雲が消えていくのを見て、人は何処にも誰も残らない事を知り、それをとても美しく思うと同時に儚く、そしてその虚しさにワクワクしてしまった。
破壊衝動と言っても良いかもしれない。
空を彩る雲、その美しさが雲散霧消する様がとてつもなく綺麗で、人の心にもそれを求めてしまった。
ベッドから起き上がり、窓を開けベランダに出てからしっかり空を見る。
葛城が独り言を始めたのは事実だ、恐らく盗撮でもされて自分が居ない時に部屋に入られてるのを気付いているのだろう。「バレてないと思ってるのか」だの「知ってるんだぞ」など、確かに少し病んでるのかもしれない。
確かに潮時かもしれないが、それももう終わる。
空に向けてた視線を地上に向ける。
明かりが半分程ついているマンションの窓、ほとんどの部屋の明かりが消えているのに2階の一室だけ、オレンジ色が灯っている一軒家、いつも通る坂道を街灯が照らしている。
この世界の光が全て消えると雲も見えなくなるらしいのを何かの本で読んだ事がある。
あの子には写し終えた原稿用紙をこちらで処分するように言っており、そのまま葛城の原稿用紙と交換してるから、指紋べったりの物的証拠が出来上がっている。おまけにあの子の家に家宅捜査が入れば、更に念のためもう一本作っておいた葛城家の合鍵が見つかるだろう。
それで、少なくとも不法侵入と著作権侵害にはなるだろう。
その時にあの子に俺が親だと伝えれば。
高校生の時に両親が亡くなって火葬場から煙が上るのを見た時に、まるで人の思いが最後に盛大に吐き出され俺達を圧倒してくるのかと思いきや、その内全て雲が流され青空しか残らないあの時の儚き美しさのように。
その瞬間が堪らなく待ち遠しい。
<了>
靴を揃えずに脱ぎ捨てて、短い廊下を渡り、リビングに入り冷蔵庫の扉を開け、常備しているビールのプルタブを開ける。
そのままの状態で一口飲み、そのまま窓際のベッドまで歩き、サイドテーブルに缶ビールを置き、ネクタイとスーツのジャケットを地面に放り投げる。
ベッドに腰掛け2、3度手のひら全体で頬を軽く叩き、そのまま少し静止する。
ひっ、ひっ、ひっ。と息が漏れる
もう我慢の限界だった。
ベッドに大の字で倒れ込み、遂に「ははははは!」と漫画の様に笑ってしまう。
「巻き込んでごめんね、か。」先程の光景を思い出す。
葛城は確かに無類の女好きだった。そして、酒の席も好きで良く何人かの目当ての女を連れて飲みに行っており、そこに俺も呼ばれた。そこであの女に出会った。
向こうは葛城に惚れていたが、ある時相談に乗ると言って睡眠薬を飲ませて事に及んだ。
数年後に小さな子供がいることを告げられ、バレたかと思ったが、どうやら葛城の子だと思っており、生活が苦しいので酔い潰れた時を見計らってDNA鑑定をする為、手伝って欲しいらしい。
あの封筒の中を見た時の喜びよう、そこからのすり替えたサンプルが俺のモノだと伝え、睡眠薬を飲ませて事に及んだ時の説明を聞いた時の顔と言ったら。
挙げ句の果てに葛城の車に乗って伝えに行った。
だから、俺の車と思い俺を困らせようと…
ベッドに大になったままで窓の外を見やる。
地上からの光が反射して雲が綺麗に見える。
あの日、火葬場の雲が消えていくのを見て、人は何処にも誰も残らない事を知り、それをとても美しく思うと同時に儚く、そしてその虚しさにワクワクしてしまった。
破壊衝動と言っても良いかもしれない。
空を彩る雲、その美しさが雲散霧消する様がとてつもなく綺麗で、人の心にもそれを求めてしまった。
ベッドから起き上がり、窓を開けベランダに出てからしっかり空を見る。
葛城が独り言を始めたのは事実だ、恐らく盗撮でもされて自分が居ない時に部屋に入られてるのを気付いているのだろう。「バレてないと思ってるのか」だの「知ってるんだぞ」など、確かに少し病んでるのかもしれない。
確かに潮時かもしれないが、それももう終わる。
空に向けてた視線を地上に向ける。
明かりが半分程ついているマンションの窓、ほとんどの部屋の明かりが消えているのに2階の一室だけ、オレンジ色が灯っている一軒家、いつも通る坂道を街灯が照らしている。
この世界の光が全て消えると雲も見えなくなるらしいのを何かの本で読んだ事がある。
あの子には写し終えた原稿用紙をこちらで処分するように言っており、そのまま葛城の原稿用紙と交換してるから、指紋べったりの物的証拠が出来上がっている。おまけにあの子の家に家宅捜査が入れば、更に念のためもう一本作っておいた葛城家の合鍵が見つかるだろう。
それで、少なくとも不法侵入と著作権侵害にはなるだろう。
その時にあの子に俺が親だと伝えれば。
高校生の時に両親が亡くなって火葬場から煙が上るのを見た時に、まるで人の思いが最後に盛大に吐き出され俺達を圧倒してくるのかと思いきや、その内全て雲が流され青空しか残らないあの時の儚き美しさのように。
その瞬間が堪らなく待ち遠しい。
<了>
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