1 / 5
群青、左手
何もない部屋
しおりを挟む
今、私の目の前に扉がある。特に何の変哲もない、皆さんが所謂『扉』と言われるものをイメージしていただければ良いのである。
もちろん、扉自体の材質も木やスチール、アルミ等々、各々違えば、取っ手も円筒錠のものやレバーハンドル、サムラッチ。果ては病院のケアハンドルをイメージする方もいらっしゃるかもしれない。
しかし、私の目の前の扉を説明したくても出来ない理由があるのである。
まるで、とある猫型ロボットが出してくる扉の様なのだ。いや、形状の話ではなく状況の話だ。
今、私は扉の目の前にいる。それは間違いない。
何故か、急に扉が現れた様に感じたのだ。
そもそも、私は何故、扉の前にいるのであろうか?歩いて来たのか、室内なのか、自分の家なのか。まさか、現実世界にどこからでも扉が現れるなど奇妙な話はあるまい。
もちろん、扉の前であたふたするくらいなら周りを見て現状を理解するのが宜しいであろう事は私にだって分かっている。なのに、どうしてか周りが見えないのである。
右や左を向けない訳でも首を回せない訳でもない。辺り一面が真っ暗なのだ、なのに扉だけは認識出来る。しかし、扉の形状は説明出来ない。こんな馬鹿な話があろうか?
しかし、こんな不気味な場所からはどうしても逃げたい所なのだけれど、何故かこの扉を開けたい私がいるのである。
不安、未知、恐怖、不可思議…ごちゃ混ぜの感情を持ちつつ扉を開け、中に入る。
中もやはり、真っ暗である。まるで宇宙空間に放り出されたように全てが無であるように、なんの認識も出来ない。
いや、一つだけ。たった一つだが認識出来るものがある。目の前、およそ3m程先にベッドがある。
ベッドは良く病院で見るような白いシーツがかかっており、頭側と足側にはお約束のようにスチールの格子がついている。
そして…そして、白いシーツの上に何故か左手があった。正確には肩から先の左手、左腕である。
また、先ほどの扉と同じように肩より先に付いてるであろう体が認識出来ない。
文章にすると途轍もなく恐ろしい現状なのだが、何故だか私はその左手から目が離せない。
いや、はっきり言おう。懐かしさすら感じる『それ』を私は触りたいのである。
手招きをしてる訳でもない、むしろピクリとも微動だにしないそれが何故か私を呼んでる気がして、一歩一歩夢遊病者の様に近付いていく。
手を差しのべれば届く距離まで近付き、恐る恐る自身の右手を近付ける。
良く冬場にドアノブに触ると静電気が起こるだろうが、それと似てる気がする。バチッと衝撃は来ないだろうが触れた瞬間、何かが起こる。そんな予感がする。
左手の人差し指に触れる。
その瞬間の気持ちをなんと言えば良いのだろう。夏のお盆休みに電車を乗り継ぎ、実家に帰り冷蔵庫にある花柄の麦茶ポットの中身をグラスに入れて、畳の上で胡座をかき、何とはなしに窓越しの入道雲を見るような…嬉しい、照れる、むず痒い、リラックス出来るような。
恐らくこれが郷愁というのだろう。
あぁそうだ、私はこの手を知っている。
そう思った瞬間、この左手を強く握る。壊れないように、それでももう二度と離さないと決意すべく、この手を強く握る。
と、同時に。
言い様のない不安にかられてしまう。
何故、私はこの手をこんなにも大事に思っているのだろう。そもそも、この手は誰の手なのだろう?
頭の中に無数の人の顔が浮かぶ。その中の誰にも当てはまらない。親類、友達、仕事の関係の人すらも。
それでも、この左手の持ち主をとても大事に思っている私がいるのである。
ないまぜになった気持ちが頭の中で膨らみ、何故だかわからないけれど、もう、それでも良いかと思いながら、この左手を握りながらゆっくりとベッドに腰掛け、瞼を閉じた。
もちろん、扉自体の材質も木やスチール、アルミ等々、各々違えば、取っ手も円筒錠のものやレバーハンドル、サムラッチ。果ては病院のケアハンドルをイメージする方もいらっしゃるかもしれない。
しかし、私の目の前の扉を説明したくても出来ない理由があるのである。
まるで、とある猫型ロボットが出してくる扉の様なのだ。いや、形状の話ではなく状況の話だ。
今、私は扉の目の前にいる。それは間違いない。
何故か、急に扉が現れた様に感じたのだ。
そもそも、私は何故、扉の前にいるのであろうか?歩いて来たのか、室内なのか、自分の家なのか。まさか、現実世界にどこからでも扉が現れるなど奇妙な話はあるまい。
もちろん、扉の前であたふたするくらいなら周りを見て現状を理解するのが宜しいであろう事は私にだって分かっている。なのに、どうしてか周りが見えないのである。
右や左を向けない訳でも首を回せない訳でもない。辺り一面が真っ暗なのだ、なのに扉だけは認識出来る。しかし、扉の形状は説明出来ない。こんな馬鹿な話があろうか?
しかし、こんな不気味な場所からはどうしても逃げたい所なのだけれど、何故かこの扉を開けたい私がいるのである。
不安、未知、恐怖、不可思議…ごちゃ混ぜの感情を持ちつつ扉を開け、中に入る。
中もやはり、真っ暗である。まるで宇宙空間に放り出されたように全てが無であるように、なんの認識も出来ない。
いや、一つだけ。たった一つだが認識出来るものがある。目の前、およそ3m程先にベッドがある。
ベッドは良く病院で見るような白いシーツがかかっており、頭側と足側にはお約束のようにスチールの格子がついている。
そして…そして、白いシーツの上に何故か左手があった。正確には肩から先の左手、左腕である。
また、先ほどの扉と同じように肩より先に付いてるであろう体が認識出来ない。
文章にすると途轍もなく恐ろしい現状なのだが、何故だか私はその左手から目が離せない。
いや、はっきり言おう。懐かしさすら感じる『それ』を私は触りたいのである。
手招きをしてる訳でもない、むしろピクリとも微動だにしないそれが何故か私を呼んでる気がして、一歩一歩夢遊病者の様に近付いていく。
手を差しのべれば届く距離まで近付き、恐る恐る自身の右手を近付ける。
良く冬場にドアノブに触ると静電気が起こるだろうが、それと似てる気がする。バチッと衝撃は来ないだろうが触れた瞬間、何かが起こる。そんな予感がする。
左手の人差し指に触れる。
その瞬間の気持ちをなんと言えば良いのだろう。夏のお盆休みに電車を乗り継ぎ、実家に帰り冷蔵庫にある花柄の麦茶ポットの中身をグラスに入れて、畳の上で胡座をかき、何とはなしに窓越しの入道雲を見るような…嬉しい、照れる、むず痒い、リラックス出来るような。
恐らくこれが郷愁というのだろう。
あぁそうだ、私はこの手を知っている。
そう思った瞬間、この左手を強く握る。壊れないように、それでももう二度と離さないと決意すべく、この手を強く握る。
と、同時に。
言い様のない不安にかられてしまう。
何故、私はこの手をこんなにも大事に思っているのだろう。そもそも、この手は誰の手なのだろう?
頭の中に無数の人の顔が浮かぶ。その中の誰にも当てはまらない。親類、友達、仕事の関係の人すらも。
それでも、この左手の持ち主をとても大事に思っている私がいるのである。
ないまぜになった気持ちが頭の中で膨らみ、何故だかわからないけれど、もう、それでも良いかと思いながら、この左手を握りながらゆっくりとベッドに腰掛け、瞼を閉じた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
プログラムされた夏
凪司工房
SF
アンドロイドAI学習施設に勤務する若き研究者の夏川大輝は、最新の女性型アンドロイドに「夏を教えてほしい」という依頼を受ける。
漠然としたものの学習は難しく、試行錯誤するが彼女は夏を理解してはくれない。
そこで彼は一計を案じる。
夏を理解した彼女を依頼人へと返し、うまくいっているように見えた。
だが数日後、依頼主が怒鳴り込んでくるのだった。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
鋼月の軌跡
チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル!
未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる