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1巻
1-2
しおりを挟む「なら、この酒に入ったアルコール量はどう説明する?」
「店側のミス、じゃないですか?」
「僕の知り合いに君たちと合コンしたって女の子がいるんだけど、そのとき妙な話を聞いたんだよねぇ」
総ちゃんが厳しく追及し、亮ちゃんが追加情報を投入する。相変わらず見事な連携プレーである。
こんなふうに問い詰められれば、たいていの人間はボロを出す。
「そんなこと知るかよ! それに、俺がやったなんて証拠もない……っていうか、あんたたちは誰だよ。いきなり乱入してきて、わけわかんないこと言い出してさ」
自分が疑われ始めたら真っ先に他人のミスだと言い逃れようとするのも、証拠云々を持ち出してくるのも、いかにも胡散臭い。
さっきまではなんともなかったのに、途端に彼が不審人物に思えてくる。
私でさえ気づくのだから、それがわからない総ちゃんではない。
「そうか。なら、君たちの持ち物を調べさせてもらおうか」
「な、なんでだよ!? あんたになんの権利があってそんなこと言い出すんだよ」
――それが、あるんだなあ……
一般人には与えられていないけれど、犯罪が疑われる場合に職務質問をする権利が、総ちゃんにはある。
「名乗るのが遅れた。俺は、そこの二人の保護者だ。ついでに――こういう者だ」
そう言いながら、総ちゃんが胸ポケットから取り出したのは警察手帳――
「け、警察……!?」
わかりやすく狼狽える彼に、総ちゃんはほんの少しだけ口角を上げた。
「さあ。うちの妹たちになにをしようとしてたのか、きっちり話してもらおうか?」
やっと笑ったと思ったら、なんてドス黒い笑み……
幼い頃に私を救ったヒーローは、正真正銘「正義の味方」になっていた。
結局彼らは所持品の確認を拒否して、逃げるようにその場から去って行った。警察手帳まで持ち出した総ちゃんだけど、被害がなかったことからあとを追うことはなく、合コンはそこでお開きとなった。
――っていうか、全員グルだったんかい!
その後、私と三佳ちゃんは、居酒屋近くのファミレスへと連行された。
優雅にコーヒーを飲む総ちゃんと、ニコニコしている亮ちゃん。私たちは俯いたまま、いろんな意味での反省会の真っ最中である。
「なんで……お兄が、ここにいるのよ? 地方での研修期間はまだ終わってないはずでしょう!?」
恨めしげに目の前の人物を睨み上げる三佳ちゃんは、さすがに兄妹だけあって勇気がある。
私たちが実家を脱出できた要因は、総ちゃんが先に実家を離れたからだ。
なんでもできるお隣のお兄ちゃんは、本当に優秀な人だった。中学高校と地元でも有名な進学校でトップの成績を収め、末は博士か大臣かとたいそう期待されていた。
しかし、いよいよ大学進学となったとき、総ちゃんが希望したのは、実家から通える地元の大学だった。
多分それって、妹と――ついでに私が心配だったからだよね?
どんだけ過保護なんだって話だけど、さすがに周囲が必死に説得したらしい。三佳ちゃんによると、高校の校長先生と学年主任が菓子折持参で夜な夜な訪ねてきたそうだ。
結局総ちゃんが折れる形で、日本でもトップクラスの都心の大学に渋々進学した。
――まったく乗り気じゃないくせに、楽勝で合格するってどうなのよ?
その後、総ちゃんが選んだのが警察官という職業だった。
子供の頃から正義感が強かったから、警察官になるのは納得できた。しかし、そこでも本人は、交番勤務のお巡りさんを希望したらしい。
――トップの大学を卒業した人が、迷わずノンキャリアを選択するってどうなのよ?
お巡りさんだって立派な仕事だけど、総ちゃんが選択するには障害が多かった。当然、ここでも周囲に説得され、紆余曲折を経て総ちゃんは警察庁へと入庁した。
本人が思い描いていた未来とは違っていたかもしれないが、順調に出世しているご様子だ。今年に入り、研修を兼ねて地方へ赴任していた。
だからこそ私たちは、二人で画策をして実家を出た。同じ職場を選んで、二人でルームシェアすることを条件に両親の承諾を得た。
総ちゃんには事後報告だったけれど、『二人で同じ職場を選んだことは褒めてやる』と一応認めてもらえた。亮ちゃんが通う大学の近くに就職したことも、幸いしたと思う。
だけど、いずれ総ちゃんは東京に戻ってくる。それまでに、やりたいことをして、こっちでの生活を整えてしまおうと思っていた。
なのに――
「研修期間はまだ終わってないけど、警視庁でちょうど欠員が出たから、兄さんが警視庁に出向になって東京へ呼び戻されたんだって。すごいよね」
総ちゃんに代わって、亮ちゃんが私たちの疑問に喜々として答える。
――くっ、この、エリート様が! 研修期間が短縮になるなんて、どんだけ優秀なのよ!?
ちらりと様子を見ただけなのに、眼鏡の下の涼しげな目とバッチリ視線が合ってしまった。
「誰かさんたちと違って、日頃の行いがいいだけだ」
――人の心を、読まないでほしい。
「亮次郎は、知ってて黙ってたのね?」
三佳ちゃんが亮ちゃんをジロリと睨む。
「だから、おあいこだって言ったでしょ?」
「そもそも、なんであんたが合コンのことを知ってるのよ!?」
「バイト先に来た三佳たちの会社の先輩から、偶然聞いちゃって」
偶然なんて白々しい。亮ちゃんは笑顔の爽やかな好青年だが、実は兄の忠実なスパイだ。
亮ちゃんは最近、私たちの会社近くのカフェでアルバイトを始めた。オシャレでリーズナブルと女子社員たちの人気が高く、ランチタイムや仕事終わりによく利用される憩いの場だったりする。
彼のことだから、よく調べた上であのカフェを選んだに違いない。だって、入社してすぐに七緒さんに連れられて行った頃にはいなかったのに、ある日突然働いていたんだから。
きっと、カフェで合コンの話を聞いて、三佳ちゃんの予定と擦り合わせたんだろう。
眼鏡のブリッジを指で押し上げた総ちゃんは、真っ直ぐに三佳ちゃんを見据えた。
「黙っていたということは、うしろめたさはあるんだな?」
カチリとコーヒーカップをソーサーに戻す音を聞き、緊張が走る。
「うう……っ、それは……」
ぐっと喉を詰まらせた三佳ちゃんは、そのまま黙り込んでしまった。
反論できるはずもない。三佳ちゃんや亮ちゃんの兄への服従心は、昨日今日仕込まれたものではない。
「総ちゃん、三佳ちゃんの気持ちもわかってあげて。私たちだってもう社会人なんだから、先輩に誘われたら無下には断れないよ」
切れ長の目がこちらに向けられても、怯んでばかりはいられない。
「正直に話しても絶対に反対したでしょう? でも、先輩の誘いを断る理由が保護者の反対なんて、それこそ社会人としてどうかってことになるじゃない」
三佳ちゃんが乗り気だったというのはこの際置いておく。そこを突っ込み出すと、話がまた長くなるからね。
とにかく、総ちゃんのほうが社会人としても先輩になるのだから、似たような経験はあるはずだ。
社会に出たからには、私たちも立派な大人だ。
ドヤ顔で正論をかざしてみたものの、総ちゃんに冷たく一瞥された。
「そういうことは、自分で自分の身を守れるようになった人間が言うことだ。俺たちがあの場に踏み込んでいなかったら、自分が今頃どうなっていたかわかっているのか?」
ジロリと睨まれ、形勢の不利を悟る。
――そうでした。助けられておいて、言えることではありませんでした。
「そ、そういえば……三佳ちゃんは平気だった? 変なもの飲まされてない?」
これはいかんと、慌てて話題をすり替えた。
「私は、自分で頼んだものしか飲んでないよ」
「三佳は初海と違って警戒心が強いからな」
――ううっ、さらりと言われた厭味が刺さる。
美人で、男の人からのアプローチに慣れている三佳ちゃんは、私よりも奔放なだけ自己防衛能力が高い。
「……総ちゃんはどうして、あの人たちが怪しいってすぐわかったの?」
思いきりトーンダウンした私に、総ちゃんは小さく笑った。
「そんなの、初海に言い寄ってたからに決まってる」
残りのコーヒーを飲み干して、ゆっくりとカップをソーサーに戻す。
眼鏡のブリッジを指で押し上げ、長い足を組み替える姿は、一瞬ここがファミレスなのを忘れるほど優雅だ。
年を重ねるごとに、総ちゃんはますますその魅力を増している。
――中身は、相変わらず過保護のままだけど。
「おまえの周りには、碌な男がいない」
ずいぶん失礼な物言いだが、総ちゃんが言い切るには根拠がある。
私は、昔からとにかく男運が悪い。
小学校の頃に連れ去られかけたのを皮切りに、不審者と呼ばれる類いと遭遇したことは数知れず。
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多分、目を惹くのは三佳ちゃんだけど、私のほうが「チョロそう」に見えるせいだろう。攻略が難しそうな山に挑戦する前に、すぐ近くにある低い山で小手調べするのと同じだ。
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三佳ちゃんや亮ちゃんから呼び出されると、総ちゃんはいち早く駆けつけ、あっという間に変質者を撃退してくれた。
ときには、悲鳴を聞きつけてどこからともなく現れたこともある。泣きながら家に帰ったときは、落ち着くまでずっとそばにいてくれた。
だから私も、結局は総ちゃんに頭が上がらない。
「とにかく初海は、もっと自分の男運の悪さを自覚しろ」
「はい……」
決定的な出来事のあとだから、反論の余地はございませんでした。
その後も延々と説教されて、帰宅する頃には私も三佳ちゃんも疲労困憊だった。
もうお風呂に浸かって早く寝たい。だけど、最後にまだ難関が残されていた。
「だから、どうして俺を部屋に入れられないんだ?」
「逆に、なんでお兄が入る必要があるの?」
「セキュリティのチェックとか、設備に不備がないか確認しないといかんだろう」
「そんなの、入居するときにちゃんとしたから! 設備の管理はお兄じゃなくて管理人さんの仕事だから!」
私たち二人は総ちゃんにアパートまで送り届けられたのだけど、そこから部屋に上がる上がらないの押し問答が、かれこれ三十分は続いている。
矢面に立っているのは三佳ちゃんだが、彼女が頑なに拒むのには理由がある。
そんなことをしたら、秘密がバレてしまうからだ。
私たちはルームシェアをしていることになっているが、実は真っ赤な嘘である。
三佳ちゃんのアイデアで、同じアパートの同じ階でも、実際には一部屋ずつ借りている。玄関も生活空間も別の、普通の一人暮らしだ。
ルームシェアと大差ないと思うなかれ。誰かと空間を分けるのと独占しているのとでは、気楽さがまるで違う。たとえ無二の親友でも、四六時中一緒なのは、やはりどこか息苦しい。特に私たちは職場も同じだから、プライベートくらいお互い自由にしたい。
家がその人にとっての城だとは、よく言ったものだ。
「初海ちゃんだって、急に来られたら困るよね!?」
「そ、そうだね……洗濯物とか、そのままになってるし」
「だよね!? それに、私たちの部屋は男子禁制! たとえ身内であっても認められません!」
……本当は違うけど。当初、女性専用のアパートを借りる案もあったけど、それは三佳ちゃんが断固として反対した。理由は――いつか彼氏ができたときのために他ならない。
「とにかく、今日は無理だから! もう遅いし、近所迷惑だからさっさと帰って!」
総ちゃんは納得いかない様子だったけど、この勝負は三佳ちゃんが押し切って勝利した。
「ああ……疲れた……」
エントランスで、去って行く車を見送りながら肩を落とした三佳ちゃんは、疲れ切っていた。
「お疲れ様。三佳ちゃん、ナイスファイトだったよ」
「今後の対策も立てなきゃだけど、今はもうそんな元気ないや……」
「そうだね。今日はゆっくりして、また考えよう」
お互いの苦労を労いながら、それぞれの部屋へと戻っていった。
アパートの裏手――部屋の灯りが確認できる場所に、一台の車が停まったことも知らず。
――ピンポーン。
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「おはよう、初海。誰かも確認せずにドアを開けるなんて、不用心だな」
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言いながら必死でドアを引っ張ったのだけれど、力で敵うはずもない。よくわからないドス黒い笑みを浮かべた総ちゃんは、ぐいいっとドアをこじ開ける。
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「わ、私まだ起きたばかりで、パジャマだし。部屋も、片付いてないから」
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「初海のパジャマ姿なんて見慣れてる。ああ、でも……言われてみれば久しぶりかな」
そう言って私を見つめる総ちゃんに――ゾクッとした。
――そもそも、総ちゃんはどうやってオートロックを突破した?
しかも、私の部屋も見事に当てている。
「心配しなくても、ここに三佳がいないことは知っている」
「へ――!?」
混乱した私の身体がよろめき、力なくその場にしゃがみ込んでしまう。
その隙に、バタンとドアが閉まる音が響いた。
「ほら、簡単に部屋に入れた。おまえには警戒心が足りないんだ」
私を正面から見下ろす総ちゃんの瞳には、見たことのない黒い炎が浮かんでいる。
総ちゃんに見られて背筋が凍ることは何度もあった。それは親に叱られる子供や、飼い主に咎められるペットのような心境だったのだけれど、なにかがいつもと違う。
「み、三佳ちゃんは……?」
「昨日のうちに亮次郎の部屋に引っ越していった。今日から、この部屋の隣には俺が住む」
「へ――!?」
「おまえは逃げられなくて残念だったな」
膝をついた総ちゃんが、しゃがみ込んで私と目線を合わせる。
そして妖艶な笑みを湛えながら、言った――
「言っただろう? おまえの周りには碌な男がいない――俺を筆頭にな」
第二話 ヘンタイが現れた!
週明けというのは憂鬱になるものだけど、今日ほど待ち遠しいと思ったことはない。
「三゛佳゛ぢゃあああん!」
「――おっふ!」
会社のロッカールームで着替え中の三佳ちゃんを見つけて、飛びついた。
これまで、毎朝一緒に通勤していた親友と、二日ぶりの再会である。
「ああ……初海ちゃん、おはよう」
上半身下着姿という状態でいきなり背後から抱きつかれた三佳ちゃんは、奇妙な声を出したあとで私の仕業であることを確認し、目を泳がせた。
「み、三佳ちゃん、なんで、なんで……!?」
「わかってる。わかってるから、落ち着いて」
――落ち着いてなんかいられるもんですか!
だけど、周囲の目もあるということで、ひとまず三佳ちゃんから引きはがされる。
「なんで? なんでいきなり、総ちゃんが引っ越してきたの!?」
「大変だったよね。でも、五体満足そうでなにより」
一定の距離を保った三佳ちゃんは、私の全身をジロジロとチェックする。
「見た目は変わらないのね」
意味不明な呟きをしながら、なんとなく生温かい目をしているのはなぜだろう?
「精神的には大ダメージだよ! 本当に大変だったんだからぁ……」
「まあ、その件について朝っぱらから話すのはなんだから、お昼休みにでもゆっくりと。ね?」
どうして朝から話しちゃいけないのかわからない。今すぐにでもぶちまけたいのに、焦らすなんてこの小悪魔め!
そりゃあ、始業前に終えられるほど短い話でもないけれど。
私の脳裏には、この二日間の悪夢のような出来事が次々と蘇る――
「本当にもう、大変だったんだから……」
待ちに待った昼休み。
社員食堂でランチをしながら、私は言いたくて仕方がなかった愚痴をひたすら三佳ちゃんにぶつけていた。
ちなみに、いつも利用しているカフェの利用は自粛した。あそこには総ちゃんの忠実なしもべがいるから、なにを報告されるかわからないからね。
過保護な総ちゃんから逃げるためにあれこれ画策してきたのだけれど、とっくの昔にバレていたらしい。三佳ちゃんは部屋を乗っ取られ、私の隣人は妹から兄にチェンジした。
「勝手に乗り込んできたくせに、引っ越しの手伝いまでさせたんだよ? 買い出しにも連れていかれて、近所の案内させられて、それから三佳ちゃんの部屋の掃除でしょ……ああ、三佳ちゃんの荷造りは私がしたからね。まったく、私は総ちゃんの小間使いじゃないんだから!」
この週末は録りためたドラマを一気見してのんびりしようと思っていたのに、寛ぐ暇もなかった。さすがに夜には帰っていったけど、食事が終わってもいつまでも総ちゃんが居座っているもんだから、自分の部屋なのにまったく落ち着けなかった。
この窮屈さを理解してくれるのは、私の他には三佳ちゃんしかいない。それなのに、この冷たい反応はなんだ。
箸を止めてポカンとしているだけである。
「えっと……それだけ?」
私がほしかったのはそんなリアクションじゃない。
「それだけって、三佳ちゃんなら私の気持ちをわかってくれるでしょう!?」
「うん、まあ、わかるけど。その、初海ちゃんは……食べ、られた?」
「食べる? そりゃあ、総ちゃんの手料理はこれでもかってほど食べさせられたけど」
総ちゃんは外食が好きではないらしく、食べたいものは作ってしまう人だ。腕前だって大したものである。
総ちゃんの手料理は好物だから、悲しいかな、すすめられると断れないんだなぁ……
「朝食は冷蔵庫にあったパンとチーズオムレツで、お昼はテイクアウトのお弁当だったけど、夜は総ちゃんお手製のロールキャベツ。翌朝は、ごはんとお味噌汁の和定食で――」
もちろんそれらは私の部屋のキッチンにて調理された。だからこそ、後片付けや翌朝の下ごしらえが終わるまで、ずっと総ちゃんは私の部屋にいたのだ。
「そういう意味じゃなくて……そうか。実力行使に出たから、いよいよと思ったんだけど」
「なんの話?」
「……なんでもない。私だって、夜中に襲撃されて大変だったんだから」
三佳ちゃんが連れ出されたのは、なんと飲み会の日の深夜だった。そろそろ寝ようとしていたところで突然インターホンが鳴り、カメラに映った訪問者が兄たちだとわかった三佳ちゃんは必死に抵抗した。
それでも引き下がらない二人に、続きは総ちゃんの車の中で話そうと部屋を出て……今日に至るのだそうだ。
どうりで、三佳ちゃんが部屋を出たのにも気がつかなかったわけだ。私のほうが、三佳ちゃんよりも先に就寝したのだろう。
「多分、帰ったふりをして外で張り込んでたのよ。車に乗ったときにはもう私たちが別々に暮らしてることはわかってるみたいだったから、部屋の灯りでもチェックしてたんじゃない?」
恐るべし、刑事の張り込み技術。それをまさか、実の妹の監視に活用するとは。
黙って一人暮らしをしていたことを咎められ、こっぴどくお説教された三佳ちゃんは、罰として亮ちゃんの部屋に住むことになってしまった。
亮ちゃんにとっても迷惑な話だが、私たちが合コンに参加するとわかっていながら引き止めなかったことへのペナルティ、だそうだ。
なんたる横暴とドン引きしたいところだが、総ちゃんに忠実な亮ちゃんはすんなりと受け入れてしまったので、三佳ちゃんも最終的に従わざるを得なかったらしい。
私だってバレたら即座に連れ戻されると思っていた。だけど、私たちにも仕事があり、アパートには契約だってある。それを考慮して今のところ猶予が与えられたみたいだけれど、今の生活を続けるための条件が小うるさい監視付き、ということだろう。
「初海ちゃんにはお兄、私には亮次郎で、監視体制は同じでしょ? でも亮は、私にごはんなんて作ってくれないもの。そこは初海ちゃんのほうがいいわよ。お兄のロールキャベツは、初海ちゃんの大好物だもんね」
「あれは……美味しかった」
日曜の夕飯もこれまた大好きな鶏の炊き込みごはんと茶碗蒸しだった。なんだかんだ言っても、子供の頃からの積み重ねで、胃袋はがっちりと掴まれてしまっている。
「あ――成瀬さん、睦永さん!」
そこへ、私たちを見つけた七緒さんがやって来た。
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