上 下
64 / 100
期待と不安

1 夜明け前

しおりを挟む

 しっとりとした白い肌は、アーロンの手に馴染む心地良さ。
───感度がいいな、ハリー。
 腰の辺りを撫でるだけで、ハリーの身体がピクリと反応し、艶めく声を漏らす。
 ちょっと見つめると、赤い唇を少しだけ開き、誘うようにゆっくりと瞼を閉じる。
「ふ、んむ、ん...」
 唇の内側を舌でくすぐり、口内を弄り、舌を絡め、味蕾を擦る。同時に背中を支えながら胸の粒を指の腹で捏ねると、
「んっ、ひぁ、あ...っ!」
 とろけていた頬に朱が差し、眉が歪む。アーロンは早々に、張り出したハリーのモノを扱き始める。
「はっ、あ、やっ、あっ!」
 ハリーの腰が跳ね、ピンクに染まる肌がアーロンを煽る。もう溢れ始めたたっぷりの先走りを掬い、その指をハリーの後ろにあてる。
「ひあ、ぁ...はぁっ!」
 窄まりを指で撫で解し、ヒクつくとすぐに指を押し入れた。
「あっ、んっ、はあ...」
 腹圧を逃がす為に、声で息を抜くハリー。それでもソコはアーロンの指を吸うように咥え、押し出そうとする。そこを強引に押し進めながら、関節を柔らかく曲げてナカを捏ねる。
「ひぁ、や、ぁ...あ、あっ!」
 ハリーの弱いところをタップすると腰が跳ね、アーロンの指をきゅ、と絞める。
「ごめん、ハリー。オレがもう無理!」
 アーロンは指を抜き、張り詰めた自身を押し入れた。
「ああっ、はぁぁん、あーろ...んんっ!」
「愛してる、ハリー!」
 まるで拒絶するようにキツくて進まないアーロンのモノが、愛を囁くだけで受け入れるように、飲み込んでいく。アーロンは思い切り広げたハリーの足を抱えて肩に乗せ、体重をかけるように腰を押し付ける。抽挿を繰り返しながら、奥へ奥へと身体を求めた。
「ああっ、や、らめっ、あーろ、ぁあっ」
 ハリーは上り詰めようとしながらも、アーロンの激しさに飛びそうになる意識を必死でまだ掴んでいる。
───いこう、ハリー、一緒に...!
 アーロンはハリーの手を取り、指を絡め合い、せり上がる愛しさを分かち合うように口づけた。
───ハリー! ハリー! ハリー!
 胸の内で何度も呼ぶと、ハリーが大きく腰を反らしふたりで一緒に果てた。



 それからアーロンは、タガが外れたようにハリーを激しく抱いた。
 ハリーも最初のうちはまだ、激しさを受け入れる怖さの中に楽しみもあった。
「あっ、やっ、そんなカッコ...っ!」
 恥じらいも口にできたし、ちょっとは抵抗もしていた。
 が、何度も繰り返し責められると、疲労と意識の喪失で、聞き取れたのはアーロンの呼ぶハリーの名前だけ。何度か、いや、何度も呼ばれ、聞き取れるうちはまだ意識を取り戻していたが、嬌声の声も枯れ、
───オレ、今度こそ廃人になる...。
 遠のく意識で思ったのが最後だっただろうか。
 次に意識が戻った時は、ハリーの髪を優しく撫でるアーロンの手を感じていた。筋肉質の慣れた素肌の中に、ハリーはいた。
 アーロンはまだ眠っていないようで、もぞもぞしてると思ううちに、ハリーの下から腕を抜いてベッドを離れた。
───何やってんだ。早く眠ればいいのに。
 ハリーは薄っすらとそんな事を思いながら、また意識の底深くへ沈んでいった。



 アーロンは後ろ髪を引かれる思いで、ハリーの無防備な寝顔から離れた。
 ざっとシャワーを浴び、バスローブのままパソコンを立ち上げる。
 コーヒーを自分で淹れ、香りを湯気とともに吸い込むと、頭が覚醒してくる。同時に、マグカップがいつもより重く感じる。
 ふと、寝室のドアを振り返る。
───ハリー...。
 ついさっきまで、ふたりでベッドにいた。アーロンが起きようとすると、ハリーは甘えるように更に密着してきた。
───もう縮める程の距離はないよ。
 肌が触れているのにまだ近付こうとしていたハリー。その可愛さにアーロンは吹き出しそうになって、辛うじて堪えた。
 パソコンの画面をスクロールしながら、アーロンはまたニヤニヤしている。
 そこから連想されるのは、ハリーのあられもない姿。悶え、跳ね、仰け反る体。白からピンクに染まる肌。赤い唇から溢れる声。枯れるまで呼ぶアーロンの名前。濡れて艶めくアンバーの瞳。大好きな匂い。意識なく誘う舌。
 思い出すうちに、アーロン自身が熱くなりそうで、コーヒーを口に含んで落ち着かせる。
 しかしなかなか、思考は恋人から離れない。
───いつまで経ってもキレイだな、ハリー。
 アーロンが目覚めるといつも、ちゃんと腕に収まっている王子様。至福の瞬間ときだ。ダークブロンドの艶めく髪の流れと、頬に影を差す長いまつ毛。昼間の仕事中は難しそうな顔をしているが、腕の中では子供のように無垢な表情だった。
───あんなベッドところにいつまでもいたら、イタズラしたくなるな。
 それで起こしたら当然怒られる。アーロンは身震いしてパソコンに向き直った。
 医療の生涯学習を一時間半くらいで済ませた後、カミルの療養の具合を見る。三重のチェックを解除してログインすると、バイタルや投与された薬の事が分かる。
───昨夜はお休みがちょっと遅かったな。
 子爵家の件もそうだが、イェルン=リヒターの件も、気にかけてくれている。
 ヴァルター=ベルトホールド伯爵が教えてくれた。
「イェルン=リヒターの件の黒幕は、別で調べている件の重要参考人なんです」
 今までは法的に踏み込む事が出来なかったが、アーロン───というか、ステファンが暴れてくれた事で、調査がしやすくなったそうだ。
「お役に立てたのであれば、幸いです」
「冗談でしょう? あんなに派手にやられたのでは、警察だけじゃなくて軍からも問い合わせが来てるんですよ、先生」
 手榴弾を使った、とステファンは云っていた。火薬や破片を調べればすぐにそれと知れるわけだから、どこの組織の誰が、誰の指示でやらかしたのか、出どころはどこかなど、そーですか、では済まされない事案になっている。
「傭兵でも雇ったんですか?」
「ええ、まあ。そっち方面の、プロです」
「どこの誰かは問いません、今回は。しかし、派手過ぎるのはどうかと思います」
 災い転じてなんとやら。アーロンの行動はお咎めなしで済んだ。しかし、役には立ったが別の手間が増えてしまったので、伯爵はちょっとご立腹だった。
「今後は気を付けます」
 新聞の記事や軍の提出した写真から目を逸らして、アーロンは云った。
 その写真には、サーチライトで照らされたビルが写っている。屋上から、もうもうと立つ煙が夜空をくり抜いていた。
───手榴弾じゃ、音も凄かったんだろうなぁ。
 そもそも高さを誇るビルが、夜陰を貫いてあんなことになれば絶好のスクープになる。四方八方から撮られた写真はSNSに載って拡散され、数日間バズった。
───身体で払う代償の請求が、まだだな。
 ステファンからの請求がない限り、アーロンの都合で払うわけにもいかないだろう。ハリーがヘンな詮索をしないようにナイショにしているが、ハリーが想像しそうな代償でなければいいが...。
───それにしてもカミルがよく、リヒター家の事を承諾してくれたな。
 父親のエッケハルト=リヒターは、フリートウッド公爵家の次男だが、公爵家の名前は継がないと断った。だから一応、一般人だ。本来なら国王の気にかける事案ではない。
───ヴァルターの、話の持っていき方なんだろうな。
 伯爵の有能さが伺えた。



 イェルンの件で、エッケハルトはアーロンを恨んていた。逆恨みと云える。
 イェルンが子爵邸に行ったのも、そこで誘拐されたのも、アーロンにはなんの不備も責任もない。父親に勝手に着いて来たんだし、むしろ責任の所在は父親にあった筈。保護責任者なのに、目を離したのはエッケハルトだ。
 しかしこれまで、リヒター家のアレコレをアーロンが手助けしていた。エッケハルトが頼んだ訳でもなく、報酬を出した訳でもない。ただ、いざイェルンの捜索を頼んでも、アーロンは動いてはくれず、警察に任せきりだった。その警察は手掛かりすら掴む事はできず、リヒターの家族全員を無駄に拘束しただけだった。
 実際はアーロンはステファンを雇って救出させ、ヴァルターがその後の指揮を取った。イェルンの入院先に家族を連れて行ったのはアーロンではなかった。
 エッケハルトからすれば、アーロンさえすぐに動いてくれれば、長男が傷つく事はなかった筈なのに、という訳だ。
 ベルトホールド伯爵に問い合わせても、エッケハルトに犯人は明かされず、怒りや恨みを向ける相手が分からない。だからアーロンが恨まれていた。
 ただし、イェルンはステファンから聞いたので、アーロンが助けてくれたと知ってはいたが、伯爵に口止めされた。摂政の婚約者を事件の表に出す訳にはいかないから。
 なので、見舞いに行ったアーロンを、エッケハルトは受け入れなかった。
「暫くは、あなたとは距離を置く方がいいと思うんです、アーロン卿」
「...そうですか」
 アーロンからの花束も、受け取ろうとした妻を下がらせ、エッケハルトは硝子の様な目で、拒否した。かなり頑なになっていた。
 後日、エッケハルトの妻から連絡が入った。
『ごめんなさいね、アーロン。あなたにはなんの落ち度もないのに。それどころか、イェルンの事、感謝しているわ。助けてくれてありがとう』
 どうも、イェルンは家族に明かしてしまったようだ。
『すみません、先生。それなのに父はまだ、先生を許してくれなくて...。父には内緒で、お礼に伺いたいんですけど...』
 イェルンは思っていたよりもずっと、メンタルの沈み込みが浅いように思えた。しかし実際には精神科に通っているそうだから、電話では気丈に振る舞っていたのかも知れない。
 アーロンはいつも通りの声で、
「私の事は気にしなくていいよ。君たち家族が仲良くなれない方が心配だよ。思い詰めないで、気長に構えよう」
 後に聞いたところでは、次男のロータルもエッケハルトと意見が一致していた。彼にすれば、いや、エッケハルトもそうだが、容姿の美しいイェルンを傷つけられた事が、本人以上にショックだったようだ。
 それもその筈で、家の中でイェルンは無意識に、父と弟を避けていた。ロータルはスポーツをしていて、イェルンより体が大きい。父と弟は、イェルンにとっては成人男性だった。ソファに座ったり廊下などですれ違ったりする時、イェルンは緊張して体を強張らせていた。
 これが、イェルンと彼らとの間にできてしまった溝だった。拒絶は否定を意味し、否定は容易には受け止められない。結果、エッケハルトとロータルはアーロンを恨む事で、ストレスを回避していた。
 それが分かってくると、イェルンは家を出ると云い出した。
───僕が家からいなくなれば、家族みんなは元に戻れる。
「あなたが出て行く事はないのよ。ここはあなたの家なんだから」
 と母親は云ってくれたが、現状はちっとも改善しない。アーロンは気長に、と云っていたが、
「アルヌルフが、可哀相だよ」
 大人はなんとか取り繕う事もできるが、まだ小さいアルヌルフは、ギクシャクした家族の影響をもろに受けていた。
「留学なら、私にも力になれると思います」
 ヴァルターに相談すると、快く聞いてくれた。ただしこれには問題もある。
「父親のエッケハルトは反対してるんです。母親も、大勢の男性ひとがいる環境はまだ早いのでは、と」
 イェルンの年代なら、体格は大人と変わらない。家族にさえ怯えるイェルンはまだ、通っていた学校にも戻れていない。
「取り敢えず、適切な対応が可能かどうか、本人と話して決めましょう。エッケハルトの方は感情の問題ですね」
 ヴァルターは少し考えていたが、アーロンの思ってもいなかった事を云った。
「陛下に!?」
 エッケハルトの説得を頼むと云うのだ。
「ゲルステンビュッテル子爵家の書庫の件が、頓挫してしまっています。摂政殿下とのご成婚に関する物は預かっていたので無事でしたが、あの書庫を放っておくのはもったいないでしょう。あれは国の宝ですからね」
 という訳で、エッケハルトの事は、カミルに任せた。





 ハリーの外遊からの帰国後は、事務処理や外交関係者との会合がある。
 昨日はすぐにアーロンと部屋に籠もってしまったから、今日はゆっくり休んではいられない。
───ダメじゃん、オレ。
 昨夜は自分を止められなかったアーロン。受け止めてくれたハリーに甘えていた事を後悔する。
───今度はオレが、甘やかしてあげよかな。
 そんな気持ちでパソコンの電源を切った。バスローブを脱いでまた、ハリーの隣に潜り込む。
......もうあさ?」
 ほとんど開かない目で見上げるハリーの声は、掠れて音にならない。アーロンはしっくりくるポジションを探しながら、
「まだ。もう少し寝ていいよ」
 そう囁いた。
 ハリーはアーロンの腰に手を回し、肩に顔を埋めてまた、寝息をたて始めた。
───甘えたいのはやっぱりオレかもな。
 愛しいひとを抱きながら、この温もりを決して失ってはならないと、アーロンは改めて思う。
 義理の父母、ふたりの決別を頭の片隅に想いながら、アーロンは大切にハリーを胸に抱いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...