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期待と不安
1 夜明け前
しおりを挟むしっとりとした白い肌は、アーロンの手に馴染む心地良さ。
───感度がいいな、ハリー。
腰の辺りを撫でるだけで、ハリーの身体がピクリと反応し、艶めく声を漏らす。
ちょっと見つめると、赤い唇を少しだけ開き、誘うようにゆっくりと瞼を閉じる。
「ふ、んむ、ん...」
唇の内側を舌でくすぐり、口内を弄り、舌を絡め、味蕾を擦る。同時に背中を支えながら胸の粒を指の腹で捏ねると、
「んっ、ひぁ、あ...っ!」
とろけていた頬に朱が差し、眉が歪む。アーロンは早々に、張り出したハリーのモノを扱き始める。
「はっ、あ、やっ、あっ!」
ハリーの腰が跳ね、ピンクに染まる肌がアーロンを煽る。もう溢れ始めたたっぷりの先走りを掬い、その指をハリーの後ろにあてる。
「ひあ、ぁ...はぁっ!」
窄まりを指で撫で解し、ヒクつくとすぐに指を押し入れた。
「あっ、んっ、はあ...」
腹圧を逃がす為に、声で息を抜くハリー。それでもソコはアーロンの指を吸うように咥え、押し出そうとする。そこを強引に押し進めながら、関節を柔らかく曲げてナカを捏ねる。
「ひぁ、や、ぁ...あ、あっ!」
ハリーの弱いところをタップすると腰が跳ね、アーロンの指をきゅ、と絞める。
「ごめん、ハリー。オレがもう無理!」
アーロンは指を抜き、張り詰めた自身を押し入れた。
「ああっ、はぁぁん、あーろ...んんっ!」
「愛してる、ハリー!」
まるで拒絶するようにキツくて進まないアーロンのモノが、愛を囁くだけで受け入れるように、飲み込んでいく。アーロンは思い切り広げたハリーの足を抱えて肩に乗せ、体重をかけるように腰を押し付ける。抽挿を繰り返しながら、奥へ奥へと身体を求めた。
「ああっ、や、らめっ、あーろ、ぁあっ」
ハリーは上り詰めようとしながらも、アーロンの激しさに飛びそうになる意識を必死でまだ掴んでいる。
───いこう、ハリー、一緒に...!
アーロンはハリーの手を取り、指を絡め合い、せり上がる愛しさを分かち合うように口づけた。
───ハリー! ハリー! ハリー!
胸の内で何度も呼ぶと、ハリーが大きく腰を反らしふたりで一緒に果てた。
それからアーロンは、タガが外れたようにハリーを激しく抱いた。
ハリーも最初のうちはまだ、激しさを受け入れる怖さの中に楽しみもあった。
「あっ、やっ、そんなカッコ...っ!」
恥じらいも口にできたし、ちょっとは抵抗もしていた。
が、何度も繰り返し責められると、疲労と意識の喪失で、聞き取れたのはアーロンの呼ぶハリーの名前だけ。何度か、いや、何度も呼ばれ、聞き取れるうちはまだ意識を取り戻していたが、嬌声の声も枯れ、
───オレ、今度こそ廃人になる...。
遠のく意識で思ったのが最後だっただろうか。
次に意識が戻った時は、ハリーの髪を優しく撫でるアーロンの手を感じていた。筋肉質の慣れた素肌の中に、ハリーはいた。
アーロンはまだ眠っていないようで、もぞもぞしてると思ううちに、ハリーの下から腕を抜いてベッドを離れた。
───何やってんだ。早く眠ればいいのに。
ハリーは薄っすらとそんな事を思いながら、また意識の底深くへ沈んでいった。
アーロンは後ろ髪を引かれる思いで、ハリーの無防備な寝顔から離れた。
ざっとシャワーを浴び、バスローブのままパソコンを立ち上げる。
コーヒーを自分で淹れ、香りを湯気とともに吸い込むと、頭が覚醒してくる。同時に、マグカップがいつもより重く感じる。
ふと、寝室のドアを振り返る。
───ハリー...。
ついさっきまで、ふたりでベッドにいた。アーロンが起きようとすると、ハリーは甘えるように更に密着してきた。
───もう縮める程の距離はないよ。
肌が触れているのにまだ近付こうとしていたハリー。その可愛さにアーロンは吹き出しそうになって、辛うじて堪えた。
パソコンの画面をスクロールしながら、アーロンはまたニヤニヤしている。
そこから連想されるのは、ハリーのあられもない姿。悶え、跳ね、仰け反る体。白からピンクに染まる肌。赤い唇から溢れる声。枯れるまで呼ぶアーロンの名前。濡れて艶めくアンバーの瞳。大好きな匂い。意識なく誘う舌。
思い出すうちに、アーロン自身が熱くなりそうで、コーヒーを口に含んで落ち着かせる。
しかしなかなか、思考は恋人から離れない。
───いつまで経ってもキレイだな、ハリー。
アーロンが目覚めるといつも、ちゃんと腕に収まっている王子様。至福の瞬間だ。ダークブロンドの艶めく髪の流れと、頬に影を差す長いまつ毛。昼間の仕事中は難しそうな顔をしているが、腕の中では子供のように無垢な表情だった。
───あんなベッドにいつまでもいたら、イタズラしたくなるな。
それで起こしたら当然怒られる。アーロンは身震いしてパソコンに向き直った。
医療の生涯学習を一時間半くらいで済ませた後、カミルの療養の具合を見る。三重のチェックを解除してログインすると、バイタルや投与された薬の事が分かる。
───昨夜はお休みがちょっと遅かったな。
子爵家の件もそうだが、イェルン=リヒターの件も、気にかけてくれている。
ヴァルター=ベルトホールド伯爵が教えてくれた。
「イェルン=リヒターの件の黒幕は、別で調べている件の重要参考人なんです」
今までは法的に踏み込む事が出来なかったが、アーロン───というか、ステファンが暴れてくれた事で、調査がしやすくなったそうだ。
「お役に立てたのであれば、幸いです」
「冗談でしょう? あんなに派手にやられたのでは、警察だけじゃなくて軍からも問い合わせが来てるんですよ、先生」
手榴弾を使った、とステファンは云っていた。火薬や破片を調べればすぐにそれと知れるわけだから、どこの組織の誰が、誰の指示でやらかしたのか、出どころはどこかなど、そーですか、では済まされない事案になっている。
「傭兵でも雇ったんですか?」
「ええ、まあ。そっち方面の、プロです」
「どこの誰かは問いません、今回は。しかし、派手過ぎるのはどうかと思います」
災い転じてなんとやら。アーロンの行動はお咎めなしで済んだ。しかし、役には立ったが別の手間が増えてしまったので、伯爵はちょっとご立腹だった。
「今後は気を付けます」
新聞の記事や軍の提出した写真から目を逸らして、アーロンは云った。
その写真には、サーチライトで照らされたビルが写っている。屋上から、もうもうと立つ煙が夜空をくり抜いていた。
───手榴弾じゃ、音も凄かったんだろうなぁ。
そもそも高さを誇るビルが、夜陰を貫いてあんなことになれば絶好のスクープになる。四方八方から撮られた写真はSNSに載って拡散され、数日間バズった。
───身体で払う代償の請求が、まだだな。
ステファンからの請求がない限り、アーロンの都合で払うわけにもいかないだろう。ハリーがヘンな詮索をしないようにナイショにしているが、ハリーが想像しそうな代償でなければいいが...。
───それにしてもカミルがよく、リヒター家の事を承諾してくれたな。
父親のエッケハルト=リヒターは、フリートウッド公爵家の次男だが、公爵家の名前は継がないと断った。だから一応、一般人だ。本来なら国王の気にかける事案ではない。
───ヴァルターの、話の持っていき方なんだろうな。
伯爵の有能さが伺えた。
イェルンの件で、エッケハルトはアーロンを恨んていた。逆恨みと云える。
イェルンが子爵邸に行ったのも、そこで誘拐されたのも、アーロンにはなんの不備も責任もない。父親に勝手に着いて来たんだし、むしろ責任の所在は父親にあった筈。保護責任者なのに、目を離したのはエッケハルトだ。
しかしこれまで、リヒター家のアレコレをアーロンが手助けしていた。エッケハルトが頼んだ訳でもなく、報酬を出した訳でもない。ただ、いざイェルンの捜索を頼んでも、アーロンは動いてはくれず、警察に任せきりだった。その警察は手掛かりすら掴む事はできず、リヒターの家族全員を無駄に拘束しただけだった。
実際はアーロンはステファンを雇って救出させ、ヴァルターがその後の指揮を取った。イェルンの入院先に家族を連れて行ったのはアーロンではなかった。
エッケハルトからすれば、アーロンさえすぐに動いてくれれば、長男が傷つく事はなかった筈なのに、という訳だ。
ベルトホールド伯爵に問い合わせても、エッケハルトに犯人は明かされず、怒りや恨みを向ける相手が分からない。だからアーロンが恨まれていた。
ただし、イェルンはステファンから聞いたので、アーロンが助けてくれたと知ってはいたが、伯爵に口止めされた。摂政の婚約者を事件の表に出す訳にはいかないから。
なので、見舞いに行ったアーロンを、エッケハルトは受け入れなかった。
「暫くは、あなたとは距離を置く方がいいと思うんです、アーロン卿」
「...そうですか」
アーロンからの花束も、受け取ろうとした妻を下がらせ、エッケハルトは硝子の様な目で、拒否した。かなり頑なになっていた。
後日、エッケハルトの妻から連絡が入った。
『ごめんなさいね、アーロン。あなたにはなんの落ち度もないのに。それどころか、イェルンの事、感謝しているわ。助けてくれてありがとう』
どうも、イェルンは家族に明かしてしまったようだ。
『すみません、先生。それなのに父はまだ、先生を許してくれなくて...。父には内緒で、お礼に伺いたいんですけど...』
イェルンは思っていたよりもずっと、メンタルの沈み込みが浅いように思えた。しかし実際には精神科に通っているそうだから、電話では気丈に振る舞っていたのかも知れない。
アーロンはいつも通りの声で、
「私の事は気にしなくていいよ。君たち家族が仲良くなれない方が心配だよ。思い詰めないで、気長に構えよう」
後に聞いたところでは、次男のロータルもエッケハルトと意見が一致していた。彼にすれば、いや、エッケハルトもそうだが、容姿の美しいイェルンを傷つけられた事が、本人以上にショックだったようだ。
それもその筈で、家の中でイェルンは無意識に、父と弟を避けていた。ロータルはスポーツをしていて、イェルンより体が大きい。父と弟は、イェルンにとっては成人男性だった。ソファに座ったり廊下などですれ違ったりする時、イェルンは緊張して体を強張らせていた。
これが、イェルンと彼らとの間にできてしまった溝だった。拒絶は否定を意味し、否定は容易には受け止められない。結果、エッケハルトとロータルはアーロンを恨む事で、ストレスを回避していた。
それが分かってくると、イェルンは家を出ると云い出した。
───僕が家からいなくなれば、家族は元に戻れる。
「あなたが出て行く事はないのよ。ここはあなたの家なんだから」
と母親は云ってくれたが、現状はちっとも改善しない。アーロンは気長に、と云っていたが、
「アルヌルフが、可哀相だよ」
大人はなんとか取り繕う事もできるが、まだ小さいアルヌルフは、ギクシャクした家族の影響をもろに受けていた。
「留学なら、私にも力になれると思います」
ヴァルターに相談すると、快く聞いてくれた。ただしこれには問題もある。
「父親のエッケハルトは反対してるんです。母親も、大勢の男性がいる環境はまだ早いのでは、と」
イェルンの年代なら、体格は大人と変わらない。家族にさえ怯えるイェルンはまだ、通っていた学校にも戻れていない。
「取り敢えず、適切な対応が可能かどうか、本人と話して決めましょう。エッケハルトの方は感情の問題ですね」
ヴァルターは少し考えていたが、アーロンの思ってもいなかった事を云った。
「陛下に!?」
エッケハルトの説得を頼むと云うのだ。
「ゲルステンビュッテル子爵家の書庫の件が、頓挫してしまっています。摂政殿下とのご成婚に関する物は預かっていたので無事でしたが、あの書庫を放っておくのはもったいないでしょう。あれは国の宝ですからね」
という訳で、エッケハルトの事は、カミルに任せた。
ハリーの外遊からの帰国後は、事務処理や外交関係者との会合がある。
昨日はすぐにアーロンと部屋に籠もってしまったから、今日はゆっくり休んではいられない。
───ダメじゃん、オレ。
昨夜は自分を止められなかったアーロン。受け止めてくれたハリーに甘えていた事を後悔する。
───今度はオレが、甘やかしてあげよかな。
そんな気持ちでパソコンの電源を切った。バスローブを脱いでまた、ハリーの隣に潜り込む。
「......?」
ほとんど開かない目で見上げるハリーの声は、掠れて音にならない。アーロンはしっくりくるポジションを探しながら、
「まだ。もう少し寝ていいよ」
そう囁いた。
ハリーはアーロンの腰に手を回し、肩に顔を埋めてまた、寝息をたて始めた。
───甘えたいのはやっぱりオレかもな。
愛しいひとを抱きながら、この温もりを決して失ってはならないと、アーロンは改めて思う。
義理の父母、ふたりの決別を頭の片隅に想いながら、アーロンは大切にハリーを胸に抱いていた。
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