上 下
45 / 100
婚約したの?

11 結局ラブラブなん?

しおりを挟む

 アーロンははにかんだ表情で云った。
「オレ、ハリーが好きだったんだ」
 傷つくのが怖いとか、遊びは嫌だとか、つまりそれはハリーの事が好きだから。
 アーロンは体を横向きにして、ハリーに向き直る。いつものイケメンスマイルで、アンバーの瞳を見つめながら。
「順番を間違えてるからハリーが混乱するのかな。ねえ、ハリー、オレ、ハリーが好きなんだ。気付いてると思ってたけど、オレが勝手にそう思ってただけだった。愛してるよ、ハリー」
 今は、目の前にいる青年が、アーロンに幸せな日々をくれる。彼は昔からトラブルに巻き込まれ易く、国王代理の摂政故に周囲も何かとうるさい。決してただ見つめ合うだけの平和な日常ではないが、それでも同じ屋根の下に住むことが今許されている。こんなに近くにいられる。アーロンにとって、これ以上望むものなど何もない。
「なんで夜伽の時に、オレの事見てた、て話しなかったの?」
「いろいろ理由はあるよ」
「話せよ、今度こそ洗いざらい全部」
 アンバーの瞳が、アーロンをまっすぐ見つめる。アーロンは思い出すように、一瞬だけ目を逸らした。病室の壁紙は、最上クラスの部屋なだけに、味気ないが上品だ。
「あの時はまだ、ハリーの事を見てたのを、好きだから、て認めたくなかった。実際、ユリアーネやあの男の子には、ハリーの車で送って貰うから気にしてるんだ、て云ってたし、オレ」
 でもその後、クリスの事を見ていたというエピソードを聞かされたアーロン。それならハリーの事も、認めざるを得ない。
「それにあの時点ではまだ、クリスの事は話せなかったし」
「それは、オレが妬くからか?」
 ハリーの言葉にアーロンはニヤリと笑う。質問はスルーして、
「本当にあの時は色々考えて分析して、あの答えに行き着いたんだよ」
「いいや。お前は考えた結果、本音を云わない事にしたんだ。いつだってお前はそうなんだ、アーロン」
 そりゃあ、時には本音を云わない方がいいと思う事もあるけどね。───アーロンはハリーの顎に指を添える。
「オレ、ハリーの初恋とか、訊かないよ。思い出は美しいものだからね」
「......」
 一瞬ハリーは口をつぐんだ。
 思い出はこれ以上悪くはならない。ハリーはこっ酷くフラレた、と云っていたが、いい思い出も残っているかも知れない。いい思い出は時間が経つと美化されてしまう。今のアーロンには歯が立たなくなっているかも知れない。
「なんだよ、また気障な云い方して」
 さすがにハリーも訊けとは云わない。訊かれても、答えないだろう。それが正しい選択だ。アーロンは負けないように、口角を上げる。
「たぶん今、ハリーはその人を思い出してるだろ?」
 テオが云っていた。ハリーの中に誰かがいる、と。アーロンでないとすれば...。
「ばーか」
 アーロンの首に、ハリーは腕を絡める。その背中に両腕を回し、アーロンは力強く抱きしめる。
「ハリーと別れようなんて1ミリも思わないけど、思い出にだけは勝てないから」
 ヤキモチなんてかっこ悪い。でも、胸に湧くモヤモヤはどうにもならない。
「ばーか」
 ハリーはもう一度云った。
「分かってる。でも、できれば『愛してる』て云って欲しいよ、ハリー」
「愛してるよ、アーロン。嘘偽りなく、愛してる、お前の事だけを」
 ハリーの声は、アーロンの耳に、アーロンに聞こえるだけで充分な音量で、囁かれた。アーロンはクスッと笑う。
「オレまた落ちるよ。何度もハリーを好きになって、恋に落ちる」
 こんな事云ったらまた、気障だ、てハリーに怒られる。───そう思うアーロンに、意外な台詞のハリー。
「受け止めてやるよ、アーロン。頼りないかも知れないけど」
 頭を引いて、アンバーの瞳が見つめている。アーロンの胸をモヤモヤさせるのはハリーだけど、それを解消できるのもハリーだ。
「これでもまだ、オレはハリーの云いなりで、命令されるままに愛してる、て云い張るのか、ハリー?」
 アーロンは、慈しむように指の背をハリーの頬に滑らせる。ハリーは自分の手を重ねアーロンの手を握る。いつものように、温かい手に。
「だいたい、オレの他に誰を愛せるの、ハリー?」
「アーロンしかいないよ」
 ハリーはもう一度アーロンの首に腕を伸ばして、顎の下に美しい顔を埋めた。アーロンは背中をベッドに付ける。腕が開放され、代わりに胸に、重みがかかる。愛しくて確かな重み。
「暴れるオレを止められるのがハリーだけなら、ずっと、オレを見張っててよ。ハリーが止めてくれるなら、たぶんオレはオレでいられるから」
 ダークブロンドの髪に唇を寄せて云うアーロンに、ハリーは何度も頷いた。
 不意に、ハリーの肩を押し上げて、アーロンはニコ、と笑って見せる。
「紅茶、もう一杯飲む?」
 アーロンは内線でコンシェルジュに、新しく紅茶を運んで貰えるよう頼んだ。
「アーロンがカミルと初めて会ったナガノの、夜の事、覚えてるか?」
 ハリーは熱い紅茶を一口飲んで、アーロンに訊いた。
「覚えてるよ、ちゃんと」
「覚えて...」
 ハリーはアーロンの答えにちょっと絶句する。ナガノから帰国して訊いてみた時、アーロンはとぼけていたのか!
「ハリーこそ、思い出したのか?」
「思い出したけど...」
 アーロンになんと云って切り返されるか、怖くて云い出せなかった。しかしアーロンはさら、と云った。
「あの時ハリーが寝ちゃって良かったよ」
 もしも、アーロンとハリーがナガノで結ばれていたら、きっと婚約までは辿り着けなかっただろう、と云うのだ。
「あっさり別れてたんじゃないかな」
 そう云われると、否定できないハリー。ちょっと淋しそうに、
「ダメだったかな、やっぱり...」
「だってあの時、オレ、リゾート気分だったもん。不思議な異国で、全く違う人種ばかりに囲まれて、懐かしい友人に会ったりして、なのにその日ちっとも遊んでなかったから、隣のベッドにハリーみたいなキレイな子がいたら、浮かれるだろ、そりゃ」
 条件反射で赤くなるハリー。そんなハリーだって、ホテルのバーでナンパしてたもんね。成功しなかったけど。
 ティーセットは、病院の所有にしてはお洒落なデザインだった。フリートウッド公爵家縁の病院だからだろうか。
 アーロンはカップのフチを指でなぞりながら、独り言のように云った。
「家に帰れば冷静になって、オレたぶん思い直して別れを切り出してたかもな。日が浅いうちに別れておこう、て勝手に思って」
 リゾラバとは、そんなものだ。日常に戻ってしまうと、あんなにキラキラしていたものがつまらないものに見えてしまう。浮かれて思い出に買った土産の置物が、部屋に置いた時にはミスマッチに思えてしまうとか、よくある。
 ティーカップを置くアーロン。
「瞳が光るとか、オレには見えないけど、...」
 そこでアーロンは止まった。呆然として動かない。
「...アーロン?」
「オレ、たまに意識飛ばす事...あ、る?」
 ベッドの上で!?
「ど...どうだろう...?」
 訊かれるハリーも、時はそれどころじゃない。
「オレ、ハリーの云いなりかな?」
「そう...でもない...気がする」
 イヤ、と云ってもやめないし、優しく、と云っても激しくするし、もう無理、と云ってもまた始めちゃうし...。
 アーロンの瞳ではなく、ハリーの顔色が変わる。手の甲を当てて冷やしたくなるくらい、赤く染まっていく。
「オレの記憶では、まあ、いつものアーロンだよ」
 いやどちらかと云うと、ハリーの云う通りになんてならない。制御不能な事も、あったりなかったり...。
「これは今夜あたり、検証しないといけないな」
 いつの間にかハリーの隣に来て、アーロンが云った。既に戦闘モードのアーロンに、後退るハリー。
「いや...オレ、なんか、具合悪くなってきた。こ、今夜はここに入院するよ」
「具合が悪いならすぐに帰ろう、ハリー! オレが一晩中添い寝しててあげるから」
 やっぱりアーロンは、ハリーの云うことなんて全然聞かない! ちょっとは云う事聞いてくれ! 誰か、こいつを止めてくれー!





 少女のようなほんのりピンクの唇。
「誕生日おめでとう、ヤン」
 唇が、自分の名前を呼んでくれる。ヤンはたまらなくなり、唇にむしゃぶりついた。
「んふ...ぁん...ふぁ...」
 陶器のように白い肌を、一糸まとわぬ姿でヤンの目の前に、無防備に晒している。小柄な体躯はまるで幼い少年のようで、なんだかイケナイ事をしてる錯覚に陥る。なのにどうして、こんなにゾクゾクするんだろう。
 ヤンは生贄のようにベッドに横たわるステファンを、改めてじっくり見下ろした。
「そんなに見ないでよ、ヤン」
 ステファンは頬を染めて、プイと横を向いた。
───美しい...。
 呆然と眺めていると、
「ただ鑑賞してるだけなんて、もったいないぞ、ヤン」
 ゲロルトの声に振り返る。無精髭でクールな目元、そしてちょっと鼻にかかるような低い声。ちょいワルな感じがヤンには羨ましい。
 しかしその手には、女性用の下着。
「ゲロルト、まさかそれ...!」
 ステファンは思い切り眉をしかめる。
「今更抵抗するなよ。何でも云う事聞く約束だろ?」
「ヤンの云う事は聞くけど、それはゲロルトの好みだろ!?」
 ステファンの抗議に妖しく微笑みながら、ゲロルトはヤンに下着の一部を持たせる。
「ヤンが見たい、てさ。なぁ、ヤン」
 ゲロルトがかざして見せたのは、ガーターベルト!
「み、みみ見たいッス!」
「ほぉらな!」
 我が意を得たり! ゲロルトはそんな顔で得意げに笑うと、ステファンを組み敷いて、あっという間に下着を着けてしまった。
「かわいいよ、ステファン!」
 淡いピンクでフリフリたっぷりの下着。コルセットとガーターベルトが一体になっている。さっきは別だったのに。ストッキングまで履いて、でも、肝心なトコロは何も着けてない!
「ほら、悩殺されてるだろ、ヤンのヤツ」
「ちょっと、ヤン! なに撮ってるの!?」
 ヤンはスマホで連写しまくる。
「あーっ、その怒った顔もかわいい! ステファンはホント、何着ても似合うし、あ、動かないで! ここ、僕の好きなトコ」
 ヤンのカメラワークに合わせてゲロルトがステファンを後ろから羽交い締めにする。無防備になるステファンの中心を、ヤンは思う存分にシャッターを切る。
「撮るだけでいいのか、ヤン」
 煽るゲロルトに、ヤンはスマホを投げ出す。
「あ、ヤン、ダメ、いきなり...!」
 ちょっと半勃ちのステファンをパクリと咥えるヤン。そして羽交い締めのゲロルトの手が、ステファンの小さな胸の粒を弄りだす。
「ああっ、やぁ、そんな...二人で」
 啼きながらも、ステファンは足を開き、腰を振る。せつなげに眉を歪め、ゲロルトの胸に半分顔を埋める。半開きの唇から赤い舌先を覗かせ、透明な液体がトロリと溢れる。
「いい顔だ、ステファン」
 見下ろすゲロルトはいやらしく口角を歪めると、ステファンの上体を起こして、
「誕生日なんだから、ヤンにご奉仕してやれよ、ステファン。───」
 そしてヤンに向かって、「ステファンが欲しそうにしてるからしゃぶらせてやれよ、ヤン」
 と云って、ステファンを縦回転させた。巻毛の頭部は、足を投げ出して座るヤンの下腹部に、そしてゲロルトに腰を付き出す。
「あぁ、ステファン、気持ちいよ」
「こっちも気持ちよくしてやるからな、ステファン」
 ゲロルトは小さな卵のようなモノを、ステファンの後ろに入れた。
「ふむぅ、んぁっ、ゲロルトっ、なに、あぁあっ!」
「ご奉仕忘れるなよ、ステファン」
「やぁっ、うご、かさな...ああんっ!」
 ステファンはよがりながらも、ヤンへのご奉仕を忘れず、下半身の刺激につられるように、咥えたヤンを思い切り吸ったり、その顔をヤンに晒したりした。
「あぁ、もうムリっ、ステファン、ごめん!」
 ヤンは叫んで、ステファンの顔に白濁をぶちまけた。
───ステファンのキレイな顔が、僕ので汚れて...ヤバい!
 今出したばかりなのに、ヤンの中心はまた大きくなる。
「ひぁっ、あん、ゲロルト...止めて...あああっ!」
 顔を汚したまま、背をのけぞらせてステファンは果てた。ただし、ドライ。
「まだだろ、ステファン」
「あっ、いやっ」
 後ろからステファンは熱を掴まれて悶える。
「まだまだヤンも満足してないからな。覚悟しろ、ステファン」
 そう云われて、ステファンはヤンを仰ぎ見る。その幼さと艶っぽさに、ヤンは湧き上がる欲情を抑えられず、小さな体に襲いかかった。
 春は、恋の季節だ───。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

処理中です...