15 / 21
羽化
しおりを挟む
高校一年の夏。
あなたは二歳上の先輩で、野球部のエースとして甲子園に出場したあの日。
ホームランを決めれば逆転と言う最終局面。
あなたは相手チームのピッチャーに打ち取られ、見事な三振からのゲームセット。
引退を賭けた最後の甲子園でチームの念願を果たす事は終ぞ叶わなかった。
試合後の会場裏で、あなたは一人悔し涙で泣き崩れてて、離れた所からこっそり見ていた私も思わず貰い泣きしてた。
・・・今思えばあの涙がいけなかったんだ。
あなたの眼差しが、表情が、あまりに真剣で、真っ直ぐだったから。
まだ子供だった当時の私にはどんな物よりも輝いて見えて。
だからあの夏、あなたが引退したと同時に付き合い始めて、気付けばもう十四年。
あの時高校生だった私も、もうじき三十歳になる。
結婚して七年。
子供はまだいないけど、今はそれで良かったと思ってる。
だってあなたは知らないでしょ?
あなたが飲みたいって言ったビールを買う為だけに私が何軒も店を回ってた事。
あなたは知らないもんね?
あなたに綺麗って言ってもらいたくて、私が普段からダイエットを頑張ってた事。
あなたは気付いてないんでしょ?
あなたが好きだって言ってた柔軟剤に変えた事も、あなたが寝た後に私が一人で枕を濡らしていた事も。
全部ぜんぶ気付いてない。
あなたは私に興味がないもんね?
あなたが私に触れなくなって、五年以上経つんだよ。
あなたが外で遊んでる事、私が知らないとでも思ってた?
あなたがうちのじゃない匂いを持って帰って来る度に、吐きそうになる気持ちをぐっと堪えて笑ってたんだよ。
もう良いよね?
あなたに期待するだけ無駄だから。
もう十分だよね?
これ以上我慢はしたくないの。
だから今夜、私は彼の手を取るわ。
あなたは二歳上の先輩で、野球部のエースとして甲子園に出場したあの日。
ホームランを決めれば逆転と言う最終局面。
あなたは相手チームのピッチャーに打ち取られ、見事な三振からのゲームセット。
引退を賭けた最後の甲子園でチームの念願を果たす事は終ぞ叶わなかった。
試合後の会場裏で、あなたは一人悔し涙で泣き崩れてて、離れた所からこっそり見ていた私も思わず貰い泣きしてた。
・・・今思えばあの涙がいけなかったんだ。
あなたの眼差しが、表情が、あまりに真剣で、真っ直ぐだったから。
まだ子供だった当時の私にはどんな物よりも輝いて見えて。
だからあの夏、あなたが引退したと同時に付き合い始めて、気付けばもう十四年。
あの時高校生だった私も、もうじき三十歳になる。
結婚して七年。
子供はまだいないけど、今はそれで良かったと思ってる。
だってあなたは知らないでしょ?
あなたが飲みたいって言ったビールを買う為だけに私が何軒も店を回ってた事。
あなたは知らないもんね?
あなたに綺麗って言ってもらいたくて、私が普段からダイエットを頑張ってた事。
あなたは気付いてないんでしょ?
あなたが好きだって言ってた柔軟剤に変えた事も、あなたが寝た後に私が一人で枕を濡らしていた事も。
全部ぜんぶ気付いてない。
あなたは私に興味がないもんね?
あなたが私に触れなくなって、五年以上経つんだよ。
あなたが外で遊んでる事、私が知らないとでも思ってた?
あなたがうちのじゃない匂いを持って帰って来る度に、吐きそうになる気持ちをぐっと堪えて笑ってたんだよ。
もう良いよね?
あなたに期待するだけ無駄だから。
もう十分だよね?
これ以上我慢はしたくないの。
だから今夜、私は彼の手を取るわ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。


あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる