恋愛模様

華月雪兎-Yuto Hanatsuki-

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羽化

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 高校一年の夏。

 あなたは二歳上の先輩で、野球部のエースとして甲子園に出場したあの日。

 ホームランを決めれば逆転と言う最終局面。

あなたは相手チームのピッチャーに打ち取られ、見事な三振からのゲームセット。

 引退を賭けた最後の甲子園でチームの念願を果たす事はついぞ叶わなかった。


 試合後の会場裏で、あなたは一人悔し涙で泣き崩れてて、離れた所からこっそり見ていた私も思わず貰い泣きしてた。



 ・・・今思えばあの涙がいけなかったんだ。


 あなたの眼差しが、表情が、あまりに真剣で、真っ直ぐだったから。

 まだ子供だった当時の私にはどんな物よりも輝いて見えて。


 だからあの夏、あなたが引退したと同時に付き合い始めて、気付けばもう十四年。

 あの時高校生だった私も、もうじき三十歳になる。


 結婚して七年。

 子供はまだいないけど、今はそれで良かったと思ってる。



 だってあなたは知らないでしょ?

 あなたが飲みたいって言ったビールを買う為だけに私が何軒も店を回ってた事。


 あなたは知らないもんね?

 あなたに綺麗って言ってもらいたくて、私が普段からダイエットを頑張ってた事。


 あなたは気付いてないんでしょ?

 あなたが好きだって言ってた柔軟剤に変えた事も、あなたが寝た後に私が一人で枕を濡らしていた事も。


 全部ぜんぶ気付いてない。



 あなたは私に興味がないもんね?

 あなたが私に触れなくなって、五年以上経つんだよ。


 あなたが外で遊んでる事、私が知らないとでも思ってた?


 あなたがうちのじゃない匂いを持って帰って来る度に、吐きそうになる気持ちをぐっと堪えて笑ってたんだよ。


 もう良いよね?

 あなたに期待するだけ無駄だから。
 

 もう十分だよね?

 これ以上我慢はしたくないの。



 だから今夜、私は彼の手を取るわ。
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