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あの映画のように
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「学校、サボっちゃおっか」
突然の提案に僕は「えっ?」と足を止めた。
「たまには良いじゃん?こう言う日があっても」
何の冗談かと思ったけど、きみを見るとその顔は至って真剣で。
優等生のきみがそんな事を言うのは珍しいけど、どうやら本気で言っているらしい。
「いや、でも・・・学校サボるのは流石に———」
そう言い掛けたところで、きみは僕の言葉を遮るように腕を掴んだ。
いきなりの事にびっくりしたけど「そんな固い事言わないの」なんて言いながらきみはそのまま学校に背を向け、今来た道を駆け出して行く。
「えっ、ええっ⁉︎ちょ、ちょっと‼︎」
「へへ、これで私達、共犯だからね?」
振り返りながら冗談めかして言うきみのその悪戯っぽい表情に思わずドキッとして。
でも何故だかそれがとても寂しそうに見えたから、これが本当は悪い事だって思いながらも、
・・・僕は生まれて初めて学校をサボる事にした。
◆ ◆ ◆
———あれから散々あちこち連れ回されて、僕達が最後に辿り着いたのは誰も居ない海だった。
穏やかに揺れる波音が心地良い。
堤防の先端に立つきみは潮風に髪を揺らして水平線の向こうに何を見ているんだろうか。
「ねえ、あの映画知ってる?」
視線は遠くを捉えたまま、声だけが風に乗って僕の鼓膜を揺らしていく。
「えっと、何の映画?」
「んー、タイトルど忘れしちゃった。ほら、豪華客船が最後、海に沈んでいっちゃうやつ。主人公がね、ヒロインの目の前で死んじゃうんだよ」
朝もそうだった。
映画の話しの筈なのに、その声は何だか寂しさを含んでいて、顔を見なくてもきみが今どう言う表情をしているのか、想像すると何故だか胸がちくりと痛んだ。
「お父さんが映画好きで。私も小さい頃に良く観てたの。あの映画も古いんだけど、子供の時に一緒に観て。何て悲しい物語だろう・・・って」
何があったんだろう?
でもそれは僕から聞くのはきっと違くて。
僕はただきみの話しに耳を傾ける事しか出来なかった。
「もしさ。もしだけど、私と二人、海で漂流したとして。どっちかしか助からないってなったら・・・どうする?」
不意に振り返ったきみは、やっぱり切ないような悲しいようなそんな表情をしていて、その質問にどんな意味があるのかなんて僕にはさっぱり分からなかったけど、それに意味があっても無くても、真剣に答えなきゃいけない気がして・・・
もし、そんな事が本当に起こったなら、僕はどうするんだろうか。
あの映画みたいに、同じ船できみと二人、色々な話しをして、下らない事も言ってみた。
同じ景色を見て、その感動も喜びも共有して。
でも、それが突然終わりを迎えて、そこできみにもしもの事があったなら————
「・・・うん、うん。やっぱり助ける。非力な僕に何が出来るのか分からないけど、何があっても鮎川さんだけは助けるよ」
僕がこんな真剣に答えるとは思ってなかったのか、きみは驚いたような顔をしていたけど、その答えを聞くと「そっかぁ。藤井くんはあの映画の主人公みたいだね」って返して来た。けどね・・・
「んーん、違う。鮎川さんの事は助ける。でも、僕は死なないよ。そこでお別れなんて悲しいじゃないか。だから僕は何があっても諦めないで、鮎川さんと二人で助かる道を探すと思う」
普段の僕なら恥ずかしがって言わないような事を言ったものだから、きっときみは何て返せば良いのか困っていたよね。
「・・・ありがとう」
不意に何かを言われた気がするけど、寄せては返す波の音にきみの声は掻き消されて。
「えっ、何か言った?」
「んーん、何でもない!」
その声は何かを吹っ切った感じがした。
普段のきみらしく凛としていて、それでいて何処までも澄み渡っている、そんな声だった。
「ねえ、あの映画の有名なシーン、せっかくだから二人でやってみようよ」
「えっ、それは流石に恥ずかしいと言うか・・・」
「えー、大丈夫だよ。私達以外、此処には誰も居ないんだし—————」
良かった。今度はちゃんと笑えてるね。
突然の提案に僕は「えっ?」と足を止めた。
「たまには良いじゃん?こう言う日があっても」
何の冗談かと思ったけど、きみを見るとその顔は至って真剣で。
優等生のきみがそんな事を言うのは珍しいけど、どうやら本気で言っているらしい。
「いや、でも・・・学校サボるのは流石に———」
そう言い掛けたところで、きみは僕の言葉を遮るように腕を掴んだ。
いきなりの事にびっくりしたけど「そんな固い事言わないの」なんて言いながらきみはそのまま学校に背を向け、今来た道を駆け出して行く。
「えっ、ええっ⁉︎ちょ、ちょっと‼︎」
「へへ、これで私達、共犯だからね?」
振り返りながら冗談めかして言うきみのその悪戯っぽい表情に思わずドキッとして。
でも何故だかそれがとても寂しそうに見えたから、これが本当は悪い事だって思いながらも、
・・・僕は生まれて初めて学校をサボる事にした。
◆ ◆ ◆
———あれから散々あちこち連れ回されて、僕達が最後に辿り着いたのは誰も居ない海だった。
穏やかに揺れる波音が心地良い。
堤防の先端に立つきみは潮風に髪を揺らして水平線の向こうに何を見ているんだろうか。
「ねえ、あの映画知ってる?」
視線は遠くを捉えたまま、声だけが風に乗って僕の鼓膜を揺らしていく。
「えっと、何の映画?」
「んー、タイトルど忘れしちゃった。ほら、豪華客船が最後、海に沈んでいっちゃうやつ。主人公がね、ヒロインの目の前で死んじゃうんだよ」
朝もそうだった。
映画の話しの筈なのに、その声は何だか寂しさを含んでいて、顔を見なくてもきみが今どう言う表情をしているのか、想像すると何故だか胸がちくりと痛んだ。
「お父さんが映画好きで。私も小さい頃に良く観てたの。あの映画も古いんだけど、子供の時に一緒に観て。何て悲しい物語だろう・・・って」
何があったんだろう?
でもそれは僕から聞くのはきっと違くて。
僕はただきみの話しに耳を傾ける事しか出来なかった。
「もしさ。もしだけど、私と二人、海で漂流したとして。どっちかしか助からないってなったら・・・どうする?」
不意に振り返ったきみは、やっぱり切ないような悲しいようなそんな表情をしていて、その質問にどんな意味があるのかなんて僕にはさっぱり分からなかったけど、それに意味があっても無くても、真剣に答えなきゃいけない気がして・・・
もし、そんな事が本当に起こったなら、僕はどうするんだろうか。
あの映画みたいに、同じ船できみと二人、色々な話しをして、下らない事も言ってみた。
同じ景色を見て、その感動も喜びも共有して。
でも、それが突然終わりを迎えて、そこできみにもしもの事があったなら————
「・・・うん、うん。やっぱり助ける。非力な僕に何が出来るのか分からないけど、何があっても鮎川さんだけは助けるよ」
僕がこんな真剣に答えるとは思ってなかったのか、きみは驚いたような顔をしていたけど、その答えを聞くと「そっかぁ。藤井くんはあの映画の主人公みたいだね」って返して来た。けどね・・・
「んーん、違う。鮎川さんの事は助ける。でも、僕は死なないよ。そこでお別れなんて悲しいじゃないか。だから僕は何があっても諦めないで、鮎川さんと二人で助かる道を探すと思う」
普段の僕なら恥ずかしがって言わないような事を言ったものだから、きっときみは何て返せば良いのか困っていたよね。
「・・・ありがとう」
不意に何かを言われた気がするけど、寄せては返す波の音にきみの声は掻き消されて。
「えっ、何か言った?」
「んーん、何でもない!」
その声は何かを吹っ切った感じがした。
普段のきみらしく凛としていて、それでいて何処までも澄み渡っている、そんな声だった。
「ねえ、あの映画の有名なシーン、せっかくだから二人でやってみようよ」
「えっ、それは流石に恥ずかしいと言うか・・・」
「えー、大丈夫だよ。私達以外、此処には誰も居ないんだし—————」
良かった。今度はちゃんと笑えてるね。
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