恋愛模様

華月雪兎-Yuto Hanatsuki-

文字の大きさ
上 下
13 / 21

お喋りインコ

しおりを挟む
「最近、小鳥を飼う事になって」

 あなたは私にそう教えてくれた。

 カラフルな色をしたセキセイインコ。

 名前は〝ちーちゃん〟なんだって。


「何でちーちゃん?」

「〝チッチッチッ〟て鳴いてるから」

 真面目な顔してあなたは答えた。


「言葉を教えたくて。今練習中」
 

 熊みたいに大きいあなたがインコと話すとこを想像したら何だか無性に可笑しくて。

「似合ってないねー」って言ったら、
「うるせー」って返って来た。


「ちーちゃんに会ってみたいかも」

「えっ、うち来んの?」

「ダメじゃなければ」

「別に良いけど・・・片付いてないよ?」

「それは期待してないから大丈夫」



 親同士が知り合いで、昔はちょくちょく遊んでた。

 あの頃のあなたは私よりも小さくて、転んだだけで泣くような弱虫だったのに。

 高校で会ったらそんな大きな身体になって、声も随分低くなってる。

 これじゃあ昔みたいに揶揄からかえないと思ったら、あなたはちっとも変わってなくて。

 優しい表情かおは当時のあなたのままだった。



 ———久々に行くあなたの家。

 あの頃と変わらない匂いに何だか妙に安心したのを覚えてる。

 唯一、以前と違うのはリビングに小鳥のケージが置かれてた事。


「あれがちーちゃん?」

 あなたは「そう」と短い返事。


 緑に黄色、青い部分もあるみたい。

 カラフルなインコがケージの中を行ったり来たり。

 ちょこまか動くその姿は愛らしくて、まん丸な瞳がとっても可愛い。

 これは・・・あなたの気持ちがちょっと分かってしまったかも。


「この子は何か話せるの?」

「〝こんにちは〟くらいなら言えるかも」

「挨拶できるなんてあんたより優秀じゃん」

「お前は俺をどんな目で見てんだよ・・・」


 そう言いながらあなたは少し苦笑い。

「そう言う目か」と勝手に納得してたけど。


 そんな事より今はちーちゃん。

 近くで見るとモフモフしてて、首を傾げる姿に癒される。


「こんにちは」と私。

「コンニチハ」とちーちゃん。


 本当に返って来た。

 思わず「おー」と拍手する。


「凄いね。めちゃくちゃお利口さん」

「だろ?先生が良いからな」


 鼻高天狗であなたはえへんとしてみせる。

 だから無言で視線を投げたら、

「ごめんなさい」と白旗宣言。


 こう言うノリも含めて、何でも言えるこの関係、悪くないと思ってる。

 あなたはどうだか知らないけれど。


「他にも何か話せるの?」

「色々教えてみたけど、まだ挨拶以外は話せないと思う」


 取り敢えず着替えて来る———あなたはそう言って部屋からそそくさと出て行った。


「ちーちゃん」

「チッチッチッ」

「お話ししようよ」

「チッチッチッ」


 色々話し掛けてみたけどダメみたい。

 覚え立てだし仕方がないか。


 あなたはまだ戻って来ない。

 待ってる間何をしようか考えてたら・・・


「ミサキスキ!ミサキスキ!」

 急にちーちゃんが喋り出すから、思わず持ってたスマホを落とす。


「ツー・・・キアッテ!ツキアッテ!」

 何それ?ってなって、私は思わずプッと吹き出しちゃった。


「鳥の前で告白の練習?ちーちゃんに覚えられてるじゃん」


 これは私が聞いたらいけないやつだけど、あまりに可笑しくて涙が出て来る。


 でも覚えられちゃうくらい、何度も練習したって事だよね。

 それだけ真剣だって事なんだ。


 そしたら向こうで足音がして。

 あなたが戻って来るのが分かった。


「待たせて悪い。美咲、お腹空いてない?」


 あなたは何も気付いてないから、

 私も知らない振りをしておくよ。


「そうだね、お腹空いたかも」


 ———今度はちゃんと、あなたの言葉で聞かせてね?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

処理中です...