恋愛模様

華月雪兎-Yuto Hanatsuki-

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 ————夏の終わり。

 まだ夏の香りが残る黄昏時、窓を開けると季節の移り変わりを告げる風が吹いた。

 突然の強い風にカーテンが揺れる。

 机の上に無造作に置かれた原稿用紙たちが宙に舞い、その身を翻しながら床の上に散らされた。

「あーあ、やっちゃった」

 散らばった原稿用紙を拾い上げる。

 僕もそれに倣って一緒に拾い集めると、ある一文が目に留まった。


〝秘めた想い〟


 キミが執筆している小説のタイトル。

 顔を上げると、こちらに視線を向けるキミと目が合って、僕は思わず目を逸らした。

「えっ、と。今度は恋愛小説なんだ?」

 何か話題を・・・頭に浮かんだ言葉を咄嗟に口にする。

「うん。今度こそ賞狙ってるから」

「そ、そうなんだ。夏目さんならきっと大丈夫だよ!」

「ありがとう。まぁ、前回は落選しましたけどねえ」

 キミは悪戯っぽい表情を浮かべ、戯けた素振りを見せる。

「えっ、あっ・・・なんか、ごめん」

 それを見てキミは声を出して笑い出した。

「秋山、本気にし過ぎ!別に気にしてないって」

「でも!夏目さんの書く小説は面白いよ」

 僕は小説の事は良く分からない。

 それでもキミが書く物語は面白くて。

 普段、本を読まない僕なんかでも惹き込まれてしまう。

 そんなキミが書く小説が面白くない事なんてないと思ったんだ。

「あ・・・ありがとう」

 少し照れたようなキミを見て僕も顔を熱くする。

「今回はね、自信があるの」

 その強い眼差しはキミの自信を物語っているようで。

「最近ずっと放課後は小説を書いていたもんね。恋愛小説かぁ・・・きっと素敵な恋愛模様が描かれているんだろうね」

 キミは伏目がちな様子で自分の書いた小説を捲っていく。

「今まで書いた小説はね、いつも言われてたの。〝リアリティーがない〟って」

 窓の外、ぼんやりと遠くに視線を向ける。

 校庭に植えられた木々が風で騒めいているのが見えた。

「だから今回は私のリアルを書いたんだ」

 急に僕の方に向き直ると先程見せた強い眼差しを向けられた。

 ただそこに居るだけなのに、窓の前に立つキミはとても凛々しくて、綺麗だって思ったんだ。


 そんなキミを見ていたら・・・

 どうしてだろう?

 心臓の音が・・・外に漏れそうなくらい大きく聴こえて、それがキミに聴かれないか心配になる程だった。

「へ、へぇ、そうなんだ!完成したらまた読ませてね!」

 何故だか僕は居た堪れない気持ちになって、急いで教室を出ようとした。


「もう書き終わってるよ」
 背中から掛けられるその言葉に、教室を出るすんでところで足を止める。

「最初は秋山に読んで欲しいの」

 だって・・・キミは言葉を続ける。

「私の気持ちをありったけ込めたから」


 振り返ると、夕陽に照らされ佇むキミは僕と同じ表情でぎこちなく笑っていた。
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