上 下
28 / 119

襲撃③

しおりを挟む
 後発部隊もかなり近づいてきた。こちらは銃撃を再開する。
 あらかた先程までと同じだが一体だけ大きいのがいる。

 ライフル弾を受けてもどこ吹く風といった様子でのっしのっしと近づいてきている。

「‥‥‥あれはオーガだな。ライフル弾じゃ歯がたつまい」
「ど、どうしましょう、エドガー様?」

 アレが間に合えば‥‥‥。

「坊!! 完成したぞ!!」
 キタコレ!!

「ナイスタイミングだ、ロキソ!! イブ、見張り台のフルルの所に持って行ってくれ!!」
「あいよー!」
 
 イブは自分の背丈より大きな銃、いやどっちかっていうと砲に近い。
 いわゆるアンチマテリアルライフルだ。バレル(銃身)だけで1200mmある。弾丸は口径30mm  薬莢長173mmで作ってもらった。本来なら30mm機関砲で使うべき弾薬だ。

「フルル、反動がすごいから気をつけろよ! ジョイ、お前は下りてこい!!」
「了解です!」
「えー?」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 イブが上がってきて渡された対物ライフルの大きさに少し引いてしまうフルルとジョイ。

「設置するところまではアタイがやるね。フルルちゃん、あとは頑張って! ジョイ、下りるよ」
「えー? ここで見たいよー」

「‥‥‥この大きさじゃ反動で怪我するわ。アナタは下におりた方が良いと思う」
 呟きながらボルトハンドルを引いて巨大な弾を込めるフルル。装填数は一発のみ。薬莢はフルルの手首くらいの太さだ。予備の弾薬はもう一本だけ。

「これはフルルちゃん専用だからね。反動が減る様に作ってはあるけど試してないから気をつけてね」
 イブとジョイは見張り台をおりていった。


 オーガは大きいので的としては狙いやすい。
「こんなの撃ったことないけど絶対に外せないわ」
 少し緊張したフルルはエドガーから貰ったポーションを取り出して飲み切った。
 中身は無いが栓をして懐にしまう。エドガーから貰ったものは空き瓶ですら捨てられない、といったところだろう。

(エドガー様のお陰で弓も引けないワタシが生きる価値を見出せた‥‥‥これも絶対に外さない!!)
 集中するフルル、一切の雑音が消える。まるで自分が銃の一部になったみたいに思える。


 そこでオーガが息を大きく吸った。特殊攻撃の予備動作だ。
「やばい!! みんな耳を塞げ!! 物陰に隠れろ!!」
 エドガーの声が響いたほぼ直後にオーガの口が開いた。

「ガァアアアアアッッ!!!!」

 オーガの雄叫び‥‥‥空気が震えた。戦いの勝利が見えて油断していた村人がバタバタと何人も意識を失った。

 エドガーは城壁の陰に隠れて、耳を塞いだにもかかわらず、たまらず膝をつく。鼻血も出てきた。
(隠れて耳を塞いでもこれか!! フルルは!? 大丈夫か?)
 
 何人もの意識を刈り取ったオーガの雄叫びにフルルは動じなかった。耳も塞がずにお構いなしにライフルを構えていた。目と耳から血が流れているにも関わらず‥‥‥。

 フルルの目が照星と照門の合った先にオーガの急所をとらえる。
 引き金に指を当てて‥‥‥引いた。

 ドンッ!!!!

 銃と言うより砲の音である。フルルはあまりの反動で後方に転がってしまい見張り台の柵に軽く頭をぶつけてしまった。

 しかし結果次第ではもう一発撃たねばならない。急いで立ち上がり確認するフルル。

 オーガの頭部は大きく吹き飛んでていた。

 そしてゆっくりと力無く倒れる首無しオーガ、その下敷きになったゴブリンもいた事だろう。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 オーガが倒されたのをみて周りのモンスター達は大きく動揺した。
 その結果モンスター達の取った行動は‥‥‥逃げる事だけだった。

「モンスター達が引き上げて行くぞ! 俺たちの勝ちだ!!!」
 雄叫びにやられなかった住民の一人が声を上げる。

「「「「うおおお!!!!」」」

 住民は誰彼構わずに抱き合って勝利を喜んた。しかし‥‥‥。

「!? 逆方向から何かくるわよ!!」
 新手のモンスターか? と村民に動揺が走る。もう弾薬も残り少ない。

「‥‥‥あれは?」
「モンスターじゃないぞ、ウェストール辺境爵軍だ!!」

 辺境爵軍のお出ましだった。
 辺境爵軍の騎兵隊はこちらを訝しげに見ながらもモンスター達の去った方向に駆けて行った。

「開門! 開門!! 我々はウェストール辺境爵軍である。応援に参った次第である!」

(今頃来やがった‥‥‥)
 誰も口にはしなかったがそう思っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。

蒼井美紗
ファンタジー
魔物に襲われた記憶を最後に、何故か別の世界へ生まれ変わっていた主人公。この世界でも楽しく生きようと覚悟を決めたけど……何この世界、前の世界と比べ物にならないほど酷い環境なんだけど。俺って公爵家嫡男だよね……前の世界の平民より酷い生活だ。 俺の前世の知識があれば、滅亡するんじゃないかと心配になるほどのこの国を救うことが出来る。魔法陣魔法を広めれば、多くの人の命を救うことが出来る……それならやるしかない! 魔法陣魔法と前世の知識を駆使して、この国の救世主となる主人公のお話です。 ※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました! 死んだら私も異世界転生できるかな。 転生してもやっぱり腐女子でいたい。 それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい…… 天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生! 最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。 父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!? ※BL要素ありますが、全年齢対象です。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...