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  こんなの兄貴じゃない!


  叫びそうになる陸の口は、凛の手で覆われている。

  膝から崩れ落ちそうなところを、凛の腕に支えられた。

「凛…」

  しゃがみこむ手前でとどまり、虚ろな目で凛を見上げる。

  凛はそれを無表情で弾き返す。そしてそのままオレを引きずるように扉から離れた


  誰もいない廊下で、パタンと静かな音が響く。

  オレの心も、同じ音を立てて閉じてしまえばいいのに。









  ズルズルと暗い廊下の端に引きずられていく。

  混乱した頭の中で、オレは一筋の希望にすがり付いた。

「あ、兄貴、さ。あんなところで、え、映画でも、見てたん、か…な」

  ハハ…と変な笑いをもらすオレに、呆れたように凛はすかさず言う。

「はぁ!?…陸ってば、セックスも知らないの?」

「ちがっ!!」

「想い合ってる二人が、互いの…」

「…ってか兄貴が…そんな…」

「僕も兄貴なんだけど?」

「お前とは双子だから!関係ねぇよ!!」


  自分よりも兄貴に似ている、陸の双子の兄。髪色以外は、律と凛の横顔はそっくりだ。
陸が事故で入院していたため一学年上になった凛は、兄貴と同じ学校に通っている。
  
  幼い頃は、兄貴の後ろについて回るオレの横にいつも一緒いた。


「ばっっっっかみたい。互いに好き合ってるなら、セックスくらいするでしょ」

「へ?」


どういうことだ?


「兄さんなんて、昔っから、いっっっつもアイツを潤んだ目で見てたじゃん!どう見てもアイツしか見えてなかったよ!アイツだって同じだったよ…」

「…」

「誰がどう見たって、あの二人は両思いだったよ!」

「…!」


  足元からヘナヘナと力が抜けていく。


「そう…なの、か」


  オレはぎゅっと唇を噛み締めた。


いつか兄貴に想いを告げられたら…そう考えていた。
  優しい兄貴。見た目はちょっと怖いけど。真面目で、かっこよくて、物知りで、面倒見のいい兄貴。
そんな兄貴が…あんなこと……しかも、アイツとだなんて。


  邪魔者は、アイツじゃなくて、オレだったのか…







「そうだよ。それに気づかない陸…小さい頃から兄さん一筋、想い続けて何年?なんてばかなんだろうね」


  畳み掛けるような凛に、オレの頭にさっき見た兄貴が次々と浮かんでくる。

  理想とは違う兄貴の姿、そして告げられない自分の想い…ショックを受けつつも、なぜか艶かしい姿が脳裏から離れない。
兄貴をそうさせているのは大嫌いなアイツなのに。

  アイツを呼ぶ、今まで聞いたことがないような兄貴の甘い声が耳に残る。


  アイツの上で、あんな甘えた声を出して、赤くなってよがって…あんな兄貴、オレの知ってる兄貴じゃない…!


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