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  ジャージ姿の陸(リク)は、ルンルン気分で廊下を走る。背負った荷物がリズムを刻んでいる。
  今にもスキップを始めてしまいそうな理由は、この学校に通う兄、律(リツ)に会えるから。

  リズムよく、一段飛ばしで階段を駆け上がる。







  幼い頃から、オレはずっと、二つ上の兄貴だけを見てきた。
  オレが小さい頃は、どこに行くでも子犬のように兄貴について回っていた。いつも不機嫌な顔をしながらも、兄貴はそんなオレの手を引いてくれた。
  草木や昆虫の名前、入ると危ない場所、古い倉庫の秘密基地…それを一つ一つ教えてくれたのは兄貴だ。不機嫌な顔と握る手の優しさは今でも忘れない。
  物知りで頭が良くて優しい兄貴が大好きだ。

  ある日兄貴が髪を金に染めたときは驚いたが、太陽色の髪は、兄貴の勝ち気な目にすごく似合っている。
どんなに見た目が変わっても、兄貴は兄貴だった。

  やんちゃな風貌とは裏腹に、任された事はキッチリとこなす兄貴。実はものすごく真面目な人物なのだ。すごく尊敬してる。
そんな人物像もあってか、少し前に、書記として生徒会に入ってしまった。そのおかけで、忙しい兄貴と会える時間が減る一方だ。


  これも全部ぜーんぶ、アイツのせいだ…!


  小さい頃からそうだ。突然やって来て、兄貴にいつもつきまとう、アイツ。オレと兄貴の時間を邪魔してくる。

  最近では、10センチ以上高いところにあるその顔で、オレを小馬鹿にした笑いを浮かべている。何を考えているかわからない顔をしておきながら、そのくせ、兄貴に近づこうとすると邪魔をしてくるところは変わらない。しかも兄貴に見えないように、だ。

  もちろん、何度も何度も抵抗した。
  しかし…細身に見えてしっかりと鍛えられている身体に、強くはっきりした物言い、頭一つ高い所から浴びせられる正論。

  誰が見ても圧倒的な力の差に、当然勝てるわけもなく。オレは尻尾を巻いて逃げるしかない。

  コイツが、オレ達のイトコ、兼幼馴染みだ。そして、兄貴の学校の生徒会長である。







  もっと兄貴と一緒にいたいのにっ…!


  本当は、オレも兄貴と一緒の学校に通いたかった。
  しかし、願書を提出する少し前…季節外れの台風がやって来た日。学校からの帰り道、オレは駅のホームに向かっていた。寒さに負けないよう、少しだけ身を縮ませ家路を急いでいた。
  後から聞いた話だが、このとき…階段で足を滑らせた、らしい。実はこの前後の記憶が無い。
  気づいたときには包帯を巻かれ白いベッドの上だった。

  地面が濡れて滑りやすいため、かなり気をつけて歩いていた…はずだ。何者かに押されたのでは?と思うこともあるが…受験を一年遅らせたため、暇潰しで見ていたテレビの影響だろう。
  もう自分の不運を呪うしかない。







  今日は、そんなオレにまたとないチャンスが!!
  なんと、来週、兄貴が通う学校で練習試合が行われることになったのだ。

  家ではお互い忙しくすれ違うばかりだが、学校だったらゆっくり話すチャンスはあるはず。さすがに四六時中アイツと一緒ってことはないだろう。
しかも、学校での兄貴の姿を見ることができるんだ。

  あと何日、あと何日…と指折り数える日々を送った。


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