僕はずっと一緒にいたかっただけなんだ

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水曜日

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 長机が草くんの動きに合わせてギシギシと音を立てる。


「んっ、ぁっ、ア、あぁんっ、そ、う、くん!!」


 ぼくは机の上で仰向けになり、草くんを腰で受け止める。長机が悲鳴を上げるが、今はそんな心配をしている余裕はない。
 ぼくは草くんの首に両手を絡ませ、足を腰にぎゅっと巻き付けた。


「ん、ンあっ!ぁ、草くんっ」


 草くんの腰がだんだんと速くなってくる。ほんの少しだけ乱れた息が、ぼくの首元にかかる。くすぐったいけど、草くんをひとりじめしてるって感じですごく嬉しい。


「ん、ん気持ちっ、いっ!!」


 草くんが、ぐっと腰を押し付けた。身体の中で、草くんがどくどくと脈打ってる。


この時間、この瞬間だけは、草くんは、ぼくだけのものだ!!


 それを感じ、ぼくも草くんの手の中で弾ける。











 心地よい脱力感を味わっていると、絡めていた腕が引っ張られる。ぼくに被さっていた草くんが起き上がろうとしたからだ。


 そろそろ時間かな…


 今週の、デート終了の時間が迫っている。
 明日になってデートの時間になれば、その曜日の担当と肌を合わせるのだろう。そしてまた次の日も。そう考えるだけで、ぼくは胸の辺りがジリジリと燃え上がっていくのを感じる。


 だったら、ぼくだけに見せる顔が、欲しい。


「草くん、行っちゃやだ、もっと……一緒にいたいよ」


 ぼくの腕を引く力はさっきよりも強くなる。けれど草くんから言葉が返ってくることはない。真横にある草くんの顔は、いつもの綺麗な笑顔だ。


……草くんは、何を言っても感情を揺らすことはない。


 ぼくは諦めるように腕と足を解いた。
 それと同時に、ぼくの中にパンパンに詰まっていた草くんが出ていく。ズルリと抜けていく摩擦が、その次に来る一瞬の空洞が、それがすごくさみしくて。諦めたはずなのに、ほんの少しだけ残っていた欲が刺激される。


「や、だ………やだやだやだやだやだァ…」


 それでも、草くんは、やっぱり怒らない。そしていつもの綺麗な笑顔。


 奥には草くんのカケラがある。この時間この瞬間の、この草くんは、ぼくだけのもの…


 そう強く念じ、ぼくは草くんを追うことはなくさみしい空洞に耐えた。









 ぼくは背中を長机にあずけたまま、早口で言った。


「草くんありがとう、また来週も楽しみにしてるね」


 どうせ草くんは、時間になったら、さっさと身支度をして無言でここを出ていってしまうんだ。何を言っても無駄だ。
 草くんが去っていく音を聞きたくなくて、ぼくは耳をぎゅっと抑えて天井を見上げていた。









 背中に冷たさを感じ、そろそろいいだろうと起き上がった。当り前だけど、倉庫の中には誰もいない。
 床に足をつけると、太ももの付け根にべたりとした感触がある。自分自身が放ったものが先に白く溜まったゴム製品だ。
 これは草くんが言い出した。片付けに時間をかけたくない草くんらしい。


 草くんの手に刺激されぼくの身体の中から出されたぼくの気持ちはこうして行き止まりで、草くんのものはぼくの中に…


 一方的な気持ちの押し付けの気がして、ぼくの独占欲は少しだけ満たされる。








 脱ぎ散らかした制服を取ろうと床に片膝をつくと、身体の奥に、草くんの形に痛みが走る。


「んっ…」


 身体はまだ草くんの形を鮮明に覚えていて、ぼくはそれがたまらなく嬉しくなる。
 と同時に、踵にじわりと温かさを感じた。


「…っ!」


 ぼくは反射的に身体に力を入れた。入口を伝う温かさが、草くんがズルリと出ていくときに似ている気がして。


 一日に二回も、あんな寂しさには耐えられないよ……


 しかし体勢が悪いのか、とめどなく溢れてくる。それは踵から足先へどろりと伝わる。


「やっ…」


 大きくなっていく床の水溜りに、熱くなっていくぼくの目。

 
 やだやだやだやだやだァ…!


 ぼくは急いで両手で覆う。けれど粘度を持ったそれは、指の間をすり抜けていく。


 草くん…


 ぼくの体内が空っぽになっていく。本当に何も無い空洞になってしまう。


 ここを埋められるのは草くんしか…ぼくだけの草くんしかいないんだよ。


「うぅぅ…」


 もう全部こぼれてしまったんだろう。離した手からのびる細く白い糸と、身体の奥あるさみしさがそれを教える。
 ぼくはヘナヘナと座り込んだ。


「冷たっ!」


 その瞬間、冷たさが尻から脳天を突き抜ける。ぼくはとっさに腰を浮かせるた。

 あたたかい草くんのカケラでさみしさを感じていた場所に、冷たい草くんのカケラが触れたからだ。



 それは、ワガママを言うんじゃないぞと草くんに叱られたみたいで…ぼくは少しだけ嬉しくなった。










 ぼくは、床に広がる草くんのカケラを両手で掬い取った。
 肌寒い倉庫の中で、小さな窓から入る光に透かす。それは僅かな光でも、キラキラと白く輝いて見えた。


 ぼくはそれを、そっと口に含んだ。


 ぼくの唇にキスして口内を味わい、喉を通り、お腹の中へ、そして血肉となって全身に広がっていく。


 この時間この瞬間の草くんは、ぼくだけのもの。


 誰にも渡さない。



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