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しおりを挟む「「こいつ、好きになってみようと思う!」」
ある日突然、幼馴染みたちが、口を揃えてオレに言った。
学校生活にも慣れ、いつの間にか
目に映るものから新鮮味が薄れた…というか新鮮だったことも忘れた、そんな穏やかな春休みを満喫中。
オレたち幼馴染み三人は、いつものようにオレの家で三人集まっていた。
三人とは…バイトまでの時間を潰す亮、この前貸した本を返しに来た春海、この部屋の主であるオレ。
ここで冒頭に戻る。
オレは、ポカンと口を開ける。
「………は?」
突然告げられた、訳のわからない告白。いや、これは告白なのか?
春海と亮はお互いを指さしながら…春海は齧りつくような勢いでオレに訴えてくる。亮は胡座をかきちょっと猫背だ。
人に指をさすのはダ…いや、突っ込みはそこじゃないやい!
頭にでっかいはてなマークを浮かべたオレは、体感では湯呑みのお茶が冷めるくらい固まっていた気がする。
「…」
で、えーと?好きになってみようと思うって?……なんなんだよ!?!?
状況がよくわからなくて、オレはとりあえずお茶をすする。視界が一瞬で白くなる。眼鏡が曇る、ということは、それほど時間がたっていなかったということだ。
オレは一旦頭を整理しようと、湯呑みの中の緑色に視線を落とした。
春海と亮、オレは幼馴染みだ。いつも元気いっぱい、三人をグイグイ引っ張っていく春海。常に冷静で一番大人っぽい、かと思いきや悪ノリに関しては一番の亮。そんな二人をツッコむオレ。このバランスが心地良い。
小学校から一緒で、気づいたらいつも三人一緒にいた。春海の家は隣、亮の家は歩いて15分くらい。
なんとなくいつも誰かの家に集まって、ゲームしたりしゃべったり、こうしてダラダラと過ごしている。
今日もいつものように、三人でダラダラタイムを消費していた。三月だけどまだコタツをしまうには寒く、暖かいお茶とミカンと煎餅を持ってきてのんびりしていたところだ。
で。本題。
「つーちゃんつーちゃん、つーちゃんってばっ!聞いてるの!?」
机が少し揺れた。春海が机に手を乗せ、上半身を乗り出してきたからだ。お茶はこぼれていない。
亮はこたつで静かに暖を取っている。
もちろん聞いてるとも!聞いてるから!!!
いま頭を整理してるから!!!
捲し立てる春海とは逆に、亮は相変わらず無表情で静かに座っている。
「春海…ちょっと座ってて」
「はぁい」
オレはコトンと湯呑みを置いた。
「えーと、って………どういうことだ!?」
頭を整理した気がするが全く整頓されてない。
「だから!僕、亮を好きになってみようと思うの!!」
再び膝立ちになり、机を揺らす春海。オレを見る目は、ワクワクのキラッキラで。
「そういうことだ、辰巳」
相変わらず静かにお茶をすする亮。しかしその顔は、いたずらを思い付いたときの、なんとも楽しそうな笑顔に変わっていて。バチコンとウインクでも飛ばしてきそうだ。
だからどういうことだ!?!?!?
さすがオレの幼なじみ。声を聞かずとも、オレの表情を読んで…でも、オレの気持ちを知ってこそ、飄々と言う。
「だから、春海を好きになろうと思うんだよ。恋人としてな」
「ね!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
訳のわからない幼馴染みの告白を聞く午後4時過ぎ。
オレの叫び声は、マンガみたいに家から飛び出す吹き出しをイメージしてもらっていい。
そんな中で、聞き逃さなかったのは日頃のツッコミ精神からか。
亮のセリフの最後……そこに、追加されていた、聞き逃してはならないワード。
君たち!
最後の一言は…『恋人として』ってのは……結構…いや、ものすごく重要なのではないかい!?!?!?
その後は、普段のまったりした空気に戻った。
オレ以外は!!
ぐるぐるするオレを他所に、次はどれを借りようかと二人はオレの本棚を物色している。
えと、あの、えーとだな、えーっと…?
「あの、二人とも、あの」
その時、オレを遮るようにスマホがけたたましく鳴った。
「じゃ、そろそろバイト行くから俺帰るわ」
「あ、じゃあ僕もー!」
二人は何事もなかったかのように、いつものように部屋を出ていく。
「あ、え」
ちょっと!?どういうことか説明して!?
「じゃあね~」
「またな」
「ちょ、二人とも待っ…」
痺れた足が、ちょっと待ってと伸ばす手に空気をつかませる。
「二人とも…どういうことか説明くらいしてけよぉぉぉ………」
オレの叫びも虚しく、階段を下りていく二人分の足音が遠くなっていく。
夕食を終え、風呂を済ませ二階の自室に上がった。
こたつ机にまだ熱い急須を置く。
作法もルールも知らんけど、テキトーに入れてるお茶はいつもうまい。
「なんもしてねーのに、つっかれたぁぁー!!」
コタツに下半身を飲まれながらオレはごろんと寝転がる。湯呑みはもちろん机の上だ。
「ホンと。なんだったんだ、今日は」
幼馴染みたちの、突然の告白…告白、の、ようなもの。
昔から三人よくつるんでいたが、実は割とモテていた亮と春海。成績優秀で大人っぽい雰囲気の亮。おまけに高身長。いつも元気いっぱい、誰にでも壁を作らず明るい笑顔の春海。そんな二人のツッコミのオレ。
そんな二人に好きな人はいるのか、と女子はだいたいオレ経由で聞いてくる。羨ましさを持ちつつも、まぁオレはこんなポジションだしな…と、女子の質問に答えていた。答えはいつもだいたいNOだったけど。
なんとなくいつも三人一緒だったけど、なんとなく集まれて、なんとなく同じ場所で時間を過ごす距離が居心地よかった。
亮か春海に彼女がいたこともあったが、その間回数こそ減ったがなんとなく集まるのは変わらなかった。
オレはずっと一人を貫いていた、と言えば言い訳だが、「好きだ」って言ったことも「好きだ」って言われたこともない。よくわからない、が今の気持ちだ。二人を見たり、本の中の主人公たちを見て、まぁそんなもんかと考えていた。
○○が好きです!!ならわかる。もちろん、○○に好きって言われちゃった、も。
告白と言えばこんな感じだろう。
好き、に、なろう……って………
…好きって、なるものなのか!?
オレは天井を見上げ眉間にシワをよせる。寝っ転がりたいけど眼鏡が邪魔だなぁと手を動かしたとき。
後半のインパクトが強すぎて、重要なことを聞き逃していたのに気付いた。
好きになろうとかその前に。
亮は春海、春海は亮を…
これは、どういうことだ!?
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