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発端
DAY1
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上着を身につけるのが当然となった10月の半ば。木の葉が擦れ合う山の中で、2人の親子が焚き木を囲んでキャンプをしている。初めてのキャンプに騒ぐ6歳の少年と、それを見つめる父親。ハンマーで杭を打ってテントを建てる作業や、ナイフで野菜を切る作業全てに、楽しそうな笑い声が響く。その光景は、心を和ませるものであった。
父親は、久々の休暇を貰い上機嫌で、早速瓶ビールを開けたようだ。それを手元のグラス並々に注ぐと、喉を鳴らして飲み切った。また一杯、また一杯と、喉に流し込む。少年が気づいた頃には、2本目の瓶を投げ捨て、3本目の瓶に手を伸ばしていた。
母親が、酔っ払う父親から酒を奪い取るのを思い出す。
『せめて2本で止めて!』
『んだよ、忙しく働いてる分これくらい必要なんだ……!』
父親に酒を飲ませ過ぎてはいけないのか、と思い立った少年は言う。
「お父さん!」
グラスに口をつけたまま、目だけを少年に向ける。
「3個も飲んじゃだめなんだよ!」
「あぁ?わかってねえなぁ……。父親っつうのはなぁ、いっ……ぱい、お仕事をしてる。だから、3本の酒なんかどうってことないのさ!」
「でも、お母さんはだめっていってたよ?」
父親はため息を吐いた。
「わかんねぇなら黙ってろ。」
暗闇が辺りを覆い、聞こえるのは虫の鳴き声。そして、瓶同士がぶつかる音。少年は椅子の上で既に眠りにつき、膝を抱えて寝息を立てていた。
そんな中、父親が突然立ち上がる。違和感に目を覚ました少年は、父親の手に目を見開いた。
「お父さん……それ……何に使うの……?」
妙に明るく輝く鉄のハンマーをギラつかせ、ゆっくりと近づいてくる。
「お父さん……?」
深く被ったキャップで表情が伺えない。
「ねぇお父さん……、なんで何もしゃべらないの?」
ハンマーを握り直し、グリップに擦れる音が聞こえた。
「お父さん……、怖いよ……!」
少年のどこかが警告している。
「お父さん……!」
右手が上がる。少年は椅子から飛び出した。スニーカーが湿った土を蹴り上げる。すぐ背後で椅子が崩れる。幼い少年にも理解できたのは、戻れば殺されるということだ。心臓を吐き出しそうな感覚に襲われながらも、道を見つけては曲がりくねる。走れ走れ走れ走れ……!
脇腹に激痛が走る。そのまま地に膝をついた。呼吸がままならず、喉も痛い。
「お父……さんっ…!いたいよ……!」
冷たい風が頬を撫で、生暖かい滴が滑り落ちる。
「餓鬼は要らん……!」
ハンマーの釘抜きの部分を少年に向ける。
「やめて……!やめてよ……お父さんっ‼︎」
赤が爆ける。聞いたことのない鈍い音が、首のあたりに残った。
私の書いた小説を読んでくださって、とても嬉しいです。ありがとうございました。まだまだ続く予定ですので、是非待っていて下さい。
父親は、久々の休暇を貰い上機嫌で、早速瓶ビールを開けたようだ。それを手元のグラス並々に注ぐと、喉を鳴らして飲み切った。また一杯、また一杯と、喉に流し込む。少年が気づいた頃には、2本目の瓶を投げ捨て、3本目の瓶に手を伸ばしていた。
母親が、酔っ払う父親から酒を奪い取るのを思い出す。
『せめて2本で止めて!』
『んだよ、忙しく働いてる分これくらい必要なんだ……!』
父親に酒を飲ませ過ぎてはいけないのか、と思い立った少年は言う。
「お父さん!」
グラスに口をつけたまま、目だけを少年に向ける。
「3個も飲んじゃだめなんだよ!」
「あぁ?わかってねえなぁ……。父親っつうのはなぁ、いっ……ぱい、お仕事をしてる。だから、3本の酒なんかどうってことないのさ!」
「でも、お母さんはだめっていってたよ?」
父親はため息を吐いた。
「わかんねぇなら黙ってろ。」
暗闇が辺りを覆い、聞こえるのは虫の鳴き声。そして、瓶同士がぶつかる音。少年は椅子の上で既に眠りにつき、膝を抱えて寝息を立てていた。
そんな中、父親が突然立ち上がる。違和感に目を覚ました少年は、父親の手に目を見開いた。
「お父さん……それ……何に使うの……?」
妙に明るく輝く鉄のハンマーをギラつかせ、ゆっくりと近づいてくる。
「お父さん……?」
深く被ったキャップで表情が伺えない。
「ねぇお父さん……、なんで何もしゃべらないの?」
ハンマーを握り直し、グリップに擦れる音が聞こえた。
「お父さん……、怖いよ……!」
少年のどこかが警告している。
「お父さん……!」
右手が上がる。少年は椅子から飛び出した。スニーカーが湿った土を蹴り上げる。すぐ背後で椅子が崩れる。幼い少年にも理解できたのは、戻れば殺されるということだ。心臓を吐き出しそうな感覚に襲われながらも、道を見つけては曲がりくねる。走れ走れ走れ走れ……!
脇腹に激痛が走る。そのまま地に膝をついた。呼吸がままならず、喉も痛い。
「お父……さんっ…!いたいよ……!」
冷たい風が頬を撫で、生暖かい滴が滑り落ちる。
「餓鬼は要らん……!」
ハンマーの釘抜きの部分を少年に向ける。
「やめて……!やめてよ……お父さんっ‼︎」
赤が爆ける。聞いたことのない鈍い音が、首のあたりに残った。
私の書いた小説を読んでくださって、とても嬉しいです。ありがとうございました。まだまだ続く予定ですので、是非待っていて下さい。
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