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第2章

ドローンウォー

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  「2040年から起こる龍国と日本の一部勢力との長き戦いは、ドローンをぶつけ合った今世紀初の戦争となった」

 このように後の世の歴史家たちの多くはこの紛争をそう表現するようになった。


 まず日本だが、日本本土も少子高齢化が進み、若者自体の数が減ってしまっていた。

 それを越す勢いで少子高齢化が進んでいたのがお隣の龍国で、中国共産党政権時代に行った一人っ子政策の影響、農村部の貧困の放置、都市部に出稼ぎに出た若者たちの労働環境の劣悪さ、富の極端なまでの一極集中などが原因で、龍国の少子高齢化は深刻な社会問題となっていた。

 そこで日本や龍国はそれぞれ独自の「少子高齢化対策」を施すことになった。

 実はコレにもっとも消極的だったのは日本国で、原因の大半は財務省主導の緊縮体制の維持だった。

 国の財政の健全化を最優先する方針に政治家も、他の省庁の官僚も、マスコミなども全く逆らえなかったために当時の税務省はかなりやりたい放題をしていて、その影響で公共投資を始めとした経済振興策はほとんど出来ず、橋や道路、電気などのインフラは老朽化が進み、あちこちで老朽化が原因と思われる事故や停電、災害時の被害の異様な拡大などが頻発するようになっていた。

 また教育費も抑えられていて、子供を産めば産むほど損をするような社会となってしまっていた。

 だが、何もしない日本国政府とは違い、南海新都市の企業連合は独自の対策を施すようになる。

 まず結婚して同居を開始した時点でまとまった金額をドンと渡す。

 旦那の給料が自動的に1.5倍になる。

 日本本土ではなくなった「地域社会」と「女性社会」を復活させ、子供は小規模な地域集団単位で共同して面倒を見る体制を構築する。

 子供を産んだ女性は数年間は基本的に何もしなくてよく、子育て以外のことは近所の女性たちや老人などが任意で、こちらも出来る人が出来るだけ手伝ってくれるようになっていた。

 また、子供の養育費も南海企業連合が全てみていたので、戦争が始まった2040年では2010年頃に比べ子供の出生率が約2倍に跳ね上がり、少子高齢化が極端に進む本土と好対照な状況となっていた。

 もっとも最高の少子高齢化対策は「景気がやたらと良かったこと」であろう。

 そもそも住民の男性の多くは殆ど正社員であり、平均年収が一千万円を超えていたし、バイトの時給も2500円はザラになっていたので、それに応じて消費も非常に活発に行われていたのだ。


 龍国も独自の少子高齢化を行った。

 こちらは「報酬を与える」南海企業連合と正反対に、「子供を産まない者に罰を与える」方式で、独身の者や子供を産まない者には金銭的なものや労働などの罰を与え、逆に子供を産む者には報奨金を与える政策を実施した。

 これは主に10億人以上と言われる農村戸籍を持つ、選挙権もなにもない底辺労働者階級のみの話で、3億人と言われる都市部の上級国民については特に対策は施されなかった。

 農村の人口はたしかに増えるのだったが、逆に農村部の食料自給率の問題が出た。

 そこで中央政府はそれらの農村部の若者を中心に国外へ積極的に送り出す政策をし、特に水資源が豊富な東南アジアなどで農業に従事するようもっていった。

(彼らの多くがそれらの国で工作活動を行なったり有事の際には龍国のために兵士として戦う)

 当時の龍国は、国内の農地が公害で使い物にならなくなっている所が多く、それらの産地で採れた農産物は農村部のみでしか消費されなかったため、都市部の上級国民の大半はアメリカなどからの輸入品に頼っていた。

 これらの流れもあり、日本では北海道や東北など、比較的多くの農産品が採れる場所は次々と龍国資本に買い取られ、またアメリカなどの農家も龍国は非常に良いお得意様であったために、パンダハガーが非常に多い原因となっていた。

 龍国がヨーロッパに至る「一路」を押さえた後に東南アジアに積極的に侵略したのは、このような「食糧事情」と国内で生産される工業品の規模が大きくなってきたことによる、それらの原材料の産地を押さえる目的があったからだった。

 彼らが望んだのは南沙諸島付近やフィリピン、インドネシアの付近の良質な漁場であり、それらにも多数の武装漁船が進出し乱獲を繰り返していた。

 特に彼らが狙って乱獲していたものには鯨があった。


 さらに龍国には日本には無い独自の事情があった。

 それは、「兵士の質の問題」であった。

 とにかく龍国の兵士は士気が低い。

 相手が弱い時は強いのだが、強い敵と戦う場合は逃げる者が多発するので裏切り者を処分する督戦隊が支那の長い歴史には度々登場する。

 兵士の士気が低いというのは単純に臆病者というわけではなく、支那人の気質として「極めて現実主義」「極めて個人主義」というものが徹底していたり、軍の内部で汚職などが横行していたため、上司になっている者が兵器を勝手に横流しして懐を肥えさせていたことで、その部下ぎ真面目に働かないことなどが原因であった。

 それゆえ人数はたしかに多いのだが、まともに戦おうとする人員は日本に比べて割合が少ないのであった。


 このように日本、龍国はそれぞれ深刻な人材不足に陥っていた。

 事情はそれぞれ少し異なり、日本は「経済不況による閉塞感と政府の無策が原因」、龍国は「短期間で手を広げ過ぎたことが原因」であった。

 それを補うため、それぞれの国(もっとも日本は国軍ではなく海賊集団だが)は貴重な人材を保護する目的もあり、人に損害が出ない工夫をしていくことになる。


 その最も大きな対策が「ドローンを活用した戦闘法を発展させること」ことであった。

 自分の身が危ない戦場では逃げ出す龍国兵士も遠隔地からの攻撃なら遺憾無くその凶暴性と残虐性を発揮出来るからだ。

 また、「勝つためなら手段を選ばない」という教育もドローンを使った戦いに於いてはプラスに働いた。


 このような理由から支那では中国共産党政権の時代からドローンについての開発は軍民ともに非常に強力に推し進めていて、龍共内戦も多くのドローンが使われていた。

 その結果、非常に大型の物から手の平サイズの物、空を飛ぶ物から地上を移動する物、水上を移動する物、ミサイルの弾頭に組み込まれていて、発射後 展開する物、グレネードランチャーなどで打ち出されて使われる物、無線誘導だったりAIによる自律行動がある程度可能な物などなど、非常に多種に渡って開発された。


 かたや日本側も米国で開発されていた無人偵察機などを一部導入していたが、自衛隊としてはドローンの活用は非常に遅れていた。

 だが、日海軍はまず対ジェット戦闘機対策として高速誘導弾を開発。

 これは小型のミサイルの様な形状をしていたし固形燃料の推進剤も載せてはいたのだが、画像認識とAIを組み込んだ自律誘導が可能な「自爆型ドローン」であった。

 これはゼロ戦の対航空機用(対ジェット戦闘機用)の徹甲弾として開発されたのだが、対ドローン戦や対人戦などソフトターゲットを対象にした攻撃力を強化する目的で数種類の榴弾が弾頭になったタイプも後に開発される。

 これは火薬の力ではなく、電力を使ったレールガンでマッハ3で撃ち出されるため、同様の武器は龍国は開発していなかった。

(龍国ではレールガンの有用性はあまり認識されておらず、通常の火薬を使った火砲やミサイルのみ使用していた)


 龍国ではドローンを大型にした重装甲、重武装の兵器を作ったり、群として群体で同時に動く小型ドローンなどを非常に得意としており、

 日海軍は従来の戦闘機に乗せる人間の代わりとなる人型ドローンや、先程出た高速誘導弾、周辺自動監視ドローン(AI)や海中行動が可能な小型潜水艇型のドローンなど「海や空で使うことに特化した」ドローンを得意としていた。


  「人が信用出来ないためドローンを発達させた龍国」に対して、「人手不足とレーダー無効化に対応させるためドローンを発展させた日海軍」という違いはあるが、この時期、双方でそれぞれ特色のある戦闘用ドローンが数多く開発されたのは、ちょうど第二次世界大戦期に世界各国で数々のタイプの戦闘機や戦車などが開発され、中には「どうしてこうなった?」と首を傾げたくなるような珍発明などが多く含まれていたのとよく似ている。

  「戦争が科学技術を格段に進歩させる」とはよく聞くことだが、この時代もソレは違いがなかったのだ。


 龍国では、当時、10億人とも言われている「奴隷(選挙権を持っていない農村戸籍の自国民)」を駆使し、製造単価を極限まで下げる方法が使われていたこともあり、世界中で使われていたドローンの約9割は龍国製で占められていた。

 このことによる技術蓄積は大変なもので、実質、龍国がドローンに関しては世界一の製造ノウハウを持っていた。


 製造ノウハウで大きく劣っていた日本の製造業であったが、「基幹技術」や「素材技術」自体は日本は未だ龍国を大きく上回っている上に、日海軍開発部(元 川北重工開発部から発展)の開発した「開発支援AI魔理沙」の登場で開発期間の大幅短縮とコスト減を可能としている点や、そのAIが武器やドローンだけでなく民間用の製品の開発でも使えるなどの点で龍国と比べ優れていた。


 このように、日・龍 双方、お互いの得意な武器で激突するのだ。
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