ドラゴンスレイヤーズ Zero Fighter

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第2章

ゲームチェンジャー

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 ゲームチェンジャーという言葉はあまり聴き慣れないと思うが、意味としては「それまでの戦い方などのルールを根底から覆すもの」という意味だ。

 航続距離、ほぼ無制限をコンパクトなユニットにまとめてしまった水素核融合発電ユニット(パワーセルユニット)の誕生や、

 敵のレーダー波による索敵をほぼ無力化する新型RAMの登場や、

 高速誘導弾というドローンを超高速で撃ち出す兵器の登場や、それらをまとめて一つの兵器としてしまった零式戦闘機ナナマル型などは正に「ゲームチェンジャー」という名に相応し存在であった。

 また、開発が更に極秘扱いとされたイ400KAIなどは、それまでの潜水艦による戦闘では考えられなかった、「高速・高機動戦術」を海中にまで持ち込んだ点で非常に画期的とされていた。

 それらは日海軍の開発部門のトップとして就任した、川北重工第四開発室の坂本主導によるものであった。

 イ400KAIの開発にも魔理沙等の開発支援AIがフル活用され、コンセプト発案からプリプロ(PP:製造試作)まで驚きの一年という短期間で開発が進められていた。


 日海軍は龍国という巨大な軍事力を誇る国の脅威から身を守る目的で作られたものである。

 当然、龍国軍という極めて多数の兵器や兵力を持つ軍と戦って勝つことを想定しなければならないわけなのだが、その戦いで勝利を得る、というか負けない戦いをするにはいくつかの条件がある。


 まず、「敵を極力戦えない状況に持ち込むこと」だ。

 これに関しては明石大佐率いる情報部が支那から逃げてきた者や、日本で諜報活動を行なっていたものを逆にスパイにすることで、内部情報を引き出したり、影響力工作をしようと活動を行なっている。


 次に、「兵器の質で龍国を常に凌駕し続ける体制を整える」ことだ。

 支那は基本的には近代以降で自分たちだけの力で何か特別な物を発明したり作り上げたことはない。

 文化大革命などでインテリ層を粛清してしまったことが原因だと言われているが、目的を達成する為なら手段を選ばない国民性にも問題があるとも言われている。

 これまではアメリカや日本という先進国から技術を盗んできて自分たちの物として使えば良かったのだが、アメリカも日本も技術の流出を防ぐ為の方策をアレコレし始めたので昔ほど大っぴらに出来なくなってしまった。

 だが、毎年、何兆円もの開発費がコンスタントに投じられ続け、アメリカや日本に出ていた留学生も龍国に戻りつあるので、武器などの開発のペースが増しつつあった。

 いくら新たな発明や開発などが苦手な民族だとは言っても数億人もの人民と、年間数兆円にも及ぶば膨大な開発費を投じ続ければ兵器のレベルは否応なく上がっていくものだ。

 現に最初はあまりに稚拙な運用と装備に笑われた空母も最近は比較的まともな空母が毎年二隻ずつくらいのペースで生み出されているし、

 黒煙を吐き、まともに飛ぶことも出来なかったパクリ全開のステルス戦闘機も、最近では飛行速度も上がり、戦闘力のアップも確認出来るようになってきた。

 その状況を打破するためには、あらゆる手が必要とされるわけだが、魔理沙など開発支援AIが開発のペースを劇的にアップさせていたり、また一般人などからも発明や改善などの案を大量に集めて自動的に審査し、有望なものを次々とピックアップしていくAIも軌道に乗りつつある。

 つまり開発力の圧倒的な差で兵力の差と開発費の差を埋めようというわけだ。


 第三に、「戦術面で龍国軍に負けない体制を整えておくこと」だ。

 これに関しては過去のあらゆる戦争を研究しているシンクタンクが中心となって新たな兵器体系に合わせた戦術や戦略を提言していた。

 これ以外にもシンクタンクは多く作られ、日海軍に対してサポートを行う体制を整えていた。

 このシンクタンクには元軍人なども多数参加しているということは公然の秘密であった。

 こちらは北欧の戦争シミュレーションゲームの会社に協力してもらい、現代の兵科体系に合わせた高精度シミュレーターを作った。

 これには台湾から脱出してきた技術者やアメリカなどからも技術者や大学の研究機関などが多数、参加しており、いろいろなシチュエーションで起こりうるあらゆる戦闘での最適解を求め続けた。


 このような動きが日海軍内で活発に行われていたのだが、その様な中、情報部より新たな情報が川北の元にもたらされた。

 その情報とは、「日本企業になりすましている龍国系企業が、日本の某企業から製品を輸入しようとしている」ということだった。

 その報告だけでは誰も意味がよく分かっていなかったのだが、詳細を説明してもらう内にその報告がいかに重要で深刻な事態なのかを明石大佐を始め、多くの情報部幹部が理解した。

 今回の話の中心になっている日本の某企業製の製品だが、「インパルス電源発生装置」と呼ばれるもので、電気を一時的に貯めることが出来る大容量コンデンサーに蓄積したエネルギーを瞬時に放出し、衝撃大電流を得るものだ。


 難しい単語が並んだので軽く説明しておくと、瞬間的に大電力を必要とする場合があるのだが、そういう時 普通に家庭用の100Vのコンセントに繋いでも、工業用の200Vのコンセントに繋いだとしても実際、大した電力を瞬間的に流すことは出来ない。

 そこで、通常の何十倍、何百倍の電流を得ようとするときは、このインパルス電源発生装置と呼ばれる装置を使い、瞬間的な大電流を得るわけだ。

 肝心な用途だが、

1)核融合反応を目的とする高温プラズマ用電源

2)超電導等の強磁場(パルス磁場)用電源

3)放電形成用電源

4)レーザービーム電源

5)消磁気用電源

 これらに使われるのだ。

 実際、この企業の製品自体は川北重工などでは使っていないのだが、似た機能を持つものは水素核融合炉(パワーセルユニット)の最初の起動時で使っている。
 

 この当時、龍国は核融合に関してはそれほど関心を示していなくて、(実際の処は開発に成功したらまた今まで通りに情報を盗めば良いと思っていた節がある) 支那全土に300箇所にも及ぶ原子力発電所を建造したり、龍国が属国化している国々や、ヨーロッパなどにも積極的に原発を輸出しているので、実質的に原発製造のノウハウも世界一のレベルにまで上がってきている。

(事故が起こっていないとは言っていない)

 また、空母や潜水艦にも原子力が使われているので数多く作られていることは間違いないので、それによる技術やノウハウの蓄積はバカにはならないのだ。

 だが、逆に言うと原子力にある程度満足していたので、核融合への研究開発は遅れていたというか、興味を持っていなかったというのはある。


 で、先ほどのインパルス電源に話を戻すが、龍国がインパルス電源に触手を伸ばしているのは何故か?ということが日海軍内で話題になった。

  「龍国も遂に核融合に興味を持ち始めたのか?」

  「レールガン用か空母の電磁カタパルト用なのでは?」

 などという意見が出たのだが、陸自の元陸将が恐ろしいことを発言した。

  「おそらく彼らはインパルス電源を手に入れたらEMP兵器を作る気なのだろう」

  ・・・この発言で多くの出席者が声を失った。

 EMP兵器とは電磁パルス兵器とも言われるもので、原理的にはパルス状の大電流によって発生させるもので、電磁パルスはケーブルやアンテナ類に高エネルギーのサージ電流を発生させ、それらに接続された電子機器などに流れる過剰な電力によって、半導体や電子回路に損傷を与えたり、一時的な誤動作を発生させるものだ。

 これはアメリカなどでも既に研究が進められていて、イージス艦などにも載せられていて接近するミサイルやドローンなどを堕とす為に使われていたりするが、瞬間的な大電力を得ることはかなり難しいので、現時点ではEMPでミサイルやドローンを堕とす範囲はまだ短いと言われている。

(一般的には100m前後だとの説が強い)


 その日本企業が持つインパルス電源は、今までの物より何十倍もの衝撃大電流を得ることが出来るので、EMP兵器が俄然、実用的な兵器となってくる可能性が高まるということなのだ。

 もし、このインパルス電源を小型化し、ミサイルなどの弾頭に載せてやれば、核爆発などに頼らなくても、敵地の奥深くで一気に電磁パルス攻撃を行うことが出来、半径数キロ内の電子機器などを一気に破壊、場合によればその事によって間接的に住民の多くを死に至らしめることも可能となる。

 また、現時点ではどの軍隊も電磁パルス兵器に対しての防護措置は一部を除いてほとんど取っていないので、仮に自分たちだけが強力なEMP兵器を所有し、敵が全く防護体制が整っていないのであれば、敵の反撃を一切防いだままで、敵を制圧することも可能なわけなのだ。

 実際、龍国が朝鮮半島を制圧した際に、小型戦術核を朝鮮半島上空で数発爆発させ、朝鮮半島全体の電子装置を全て破壊したということはほぼ事実だと分かってきているので、EMP兵器がいかに恐ろしいかということを日海軍も分かっていたわけだ。

 朝鮮半島を制圧するのに、龍国は「核」を本当に使ったとして、どうしても後には放射能が残ってしまう。

 だが、優秀なインパルス電源を彼らが手に入れ、それを効率よく使えるEMP兵器を龍国が開発したとしたらどうなるか?

 仮にトラックの荷台などにそれらが収まるのであれば、これから制圧しようとしている国の全土にそれらを載せたトラックを分散して配置しておいて、時間を合わせて一斉に「バン!」と作動させてしまう。

 そうなるとその国は外部との通信は一斉に遮断されるので、都市機能を失い、移動手段なども失った国をあとからゆっくりと軍隊を侵攻させて制圧してしまえば良いのだ。

 核兵器も使っていないのである意味非常にクリーンなわけだし、占領するのに好都合というわけだ。

 また、軍艦などでそれらを装備されてしまうと、こちらのミサイルやドローン、航空機などもキッチリと電磁パルスに対して防護措置をしていないと簡単に無効化されてしまう。


 開発部門のトップとなった坂本少佐も「こんなとんでもないものが、今まで日本政府は放置していたのか?」と元陸将に聞いたのだが、

  「日本国政府として表立ってその企業を保護しようとしてはいないと思う」とのことだった。


 改めて、日本国政府の国防に対する意識の低さというか、お金をかけないことに徹底していることに呆れるというか、日本という国の限界を痛感させられる日海軍の幹部たちなのであった。


 同じようなことは第二次大戦でも起こっていて、日本の研究者の八木秀次という研究者が開発した「八木アンテナ」の原理を応用したレーダーをアメリカ軍は実戦配置させていたが、肝心の日本軍はせっかく八木博士が日本にいたにも関わらず、レーダーの重要性に気がつかなかったという例もある。

 正直、このインパルス電源で非常に高性能な設備を開発する企業を持つ日本が全く興味を示さず、龍国が先に手を出そうとしていたということは情けないを通り越して恥ずかしいことなのだ。


 とりあえずこのままでは非常にまずいことに間違いがないので、日本本土にいる実行部隊に、龍国へ情報が流れないように「最悪、強引な手を使っても阻止すること」を明石大佐率いる実行部隊に指示した。


 また、龍国が侵攻する際には小型核を敵地の上空の比較的低い高度で爆発させ、局所的に電磁パルス攻撃を行って、都市の機能やその地域の通信機能や移動手段全てを破壊してから地上部隊を投入することは分かってきているので、日本側も例え国が対応しなくても、我々だけでもきちんとした対抗手段を講じねばならないという意思統一が日海軍内部で出来たのだった。
 
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