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第2章

海洋国家の国の護り方

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 よく「世界大戦の危機」という言葉を聞くが、報道されていない(あえて報道されない)だけでもうすでに世界規模の大戦は起こっている。

 もし、そう貴方が思わないのであれば、テレビや新聞だけしか見ていないということを自ら証明しているようなものだ。

 以前の話で日海軍の新型潜水艦と海上自衛隊の蒼龍型という最強のディーゼル潜水艦の話をしたのだが、この2つはそれぞれ性質が全く違う。

 よく「原子力潜水艦最強説」などを聞くことがあるのだが、これは用途の違いによっての最強なのであって、日本の国防という観点で考えると、これまでは必ずしも原子力を動力とする必要はないと考えられていた。


 ちなみにだが、日本にも原子力潜水艦を作る技術はあった。

  「あった」と過去形なのは、あえて原子力を使う必要はないと判断されたに過ぎないからだ。

 原子力を動力とする場合のメリットを考えてみればわかるのだが、

1)食品などの補給を除き、航続距離はほぼ無限になる

2)豊富な電力を用いて艦内の空気清浄機や冷暖房を完備し、快適に過ごすことが可能になる

  メリットは主にこの2点なのだが、逆にデメリットはというと、

1)建造費用が割高となる

2)「核」を取り扱うことで国内世論をまず味方につける必要がある

3)日本人に核を取り扱わせることを脅威に思う国からの妨害工作が考えられる

4)原子炉は停まっている時も常に冷却し続けねばならず、冷却用のポンプが発生する音は隠密活動をする上で障害となる場合がある

 これらが考えられることだ。


 ではなぜ原子力潜水艦がアメリカなどでは多く存在しているのかというと、「長距離を無補給で移動し、敵を長期間 追尾し続ける任務が多いから」だ。

 そのような任務を日本の自衛隊がする必要があるのか?と言うと、必ずしもそうとは言い切れない。

 日本近海で、敵性国家の艦船による侵略行為を阻止する目的で潜水艦を運用するのであれば、「敵がかならず通るであろう場所で予め待ち伏せ」しておけばよい。

 例えば、台湾海峡、対馬海峡、津軽海峡、尖閣沖などなどだ。

 海底に着底し、音がするものを全て停止し、じっと耳を澄ませて待ち伏せしておき、敵船が頭の上を通り過ぎる時に下から雷撃する。

 そのような任務をする上では、「完全に無音にすることが可能」なディーゼル潜というのは最強な存在なのだ。


 ただ、先にも言ったように、ディーゼル潜水艦は航続距離無制限で高速潜行し続けることが可能な原子力潜水艦を追尾し続けるというような使い方は不可能だ。

 ディーゼル潜は潜水して航行する場合、基本的にバッテリーの電力で進むのだが、航続距離も短い上に速度も遅くなる。

 一時、換気することが不要なスターリングエンジンというのを載せたこともあったが性能的にイマイチなので後にリチウムバッテリーに切り替えられたという経緯もある。

 そこで、日海軍側は「高速で潜行して逃げ続ける敵を追尾し続けることが可能」な核融合潜水艦を開発したというわけだ。


 防衛力は待ち構えているだけでは得ることは出来ない。

 これは攻める側の敵の立場にたってみればよく分かる。

 仮に私が龍国の軍の司令官だとして日本の沖縄を攻め落としたいとする。

 日本が100%守りに徹して引きこもってしまっていると分かっているので手持ちの軍隊の100%を攻めに注ぎ込む。

 威嚇射撃もしてこなければ、先制攻撃もしないと「分かっている」ので、自衛隊の前面部隊を取り囲み、最初の一撃で殲滅すれば、反撃されることなく敵を全滅させることが出来る。

 自衛隊さえ全滅させてやれば後は防ぐ物がないので住民を絶滅させようが占領しようが望むままというわけだ。


 だが、日本が自国の領海に侵入してきて、防御網を突破して本土や政府中枢部に直接打撃を与えてくる能力があり、それを許す法律が整っているのであれば、「攻め」に使う軍の一部を「守り」に振り替えねばならない。


 当然、本来「100」ある武力のうち「50」ほどしか攻めに使えないので攻め落とせる確率は大幅に落とせる。

 仮に攻め落とせたとしても我が方の損害も大きくなることが容易に予想されるので慎重にならざるを得なくなる。

 これが「防衛力」というか「抑止力」の正体なのだ。


 世界には「専守防衛」などというバカなことを謳う国がいて、「敵を攻める武力は持ちません」などと言っているが、裏返せば「全力で殴ってください」「貴方のもつ戦力の100%をぶつけてください」と言っているようなもので、どれだけお花畑というか、国民をバカにしているのかということがよく分かると思う。


 脱線したので話を戻すが、日海軍は「矛(ほこ)」として「新型ゼロ戦」と「イ400KAI潜水艦」というふたつの兵器を手にしようとしている。

 これらには共通点がある。

 ひとつは「敵の本拠地の奥深くにまで人知れず接近することが可能」という点と、「核を持っている」、「敵の攻撃や索敵を無効化することが出来る」ということだ。

 新型ゼロ戦は核融合を動力とした航続距離がほぼ無制限の行動力を持ち、戦闘機や対空ミサイルなどで撃墜しようとしてもそれらを防ぎきる驚異的な機動性を持ち、逆に接近する敵を高確率で撃墜する高速誘導弾を持ち、ほぼ全てのレーダーを無効化する先進的なステルス技術も持っている。

 イ400KAIは、ゼロ戦と同じく航続距離無制限の核動力を持ち、魚雷攻撃を無効化する驚異的な機動性を持ち、防御網を易々と突破する時速100キロを超える速力を持ち、攻撃しようと寄ってくる対潜ヘリを易々と撃墜可能な対空兵器も備える。

 また高速誘導弾は水上艦艇の弱点、つまり艦橋や戦闘指揮所、主砲などをピンポイントで狙うことも可能。

 威力はハープーンやトマホークの通常弾頭などの物には遠く及ばないが、それでもRPG-7程度の破壊力を持つので当たり方が悪いと一撃で無力化することも十分にありえる。


 静粛性はディーゼル潜水艦には敵わないが、原子力潜水艦並みの静粛性は持つので、どこかの海底に長期着底し、待ち伏せ攻撃や敵国の艦船などを長時間に亘って追跡し続けることも可能なのだ。


 実際の処、イ400KAIには水中発射型の大陸間弾道ミサイル(ISDN)や中距離巡行ミサイル(SLCM)は発射できない。

 だが川北重工で建造中の蒼龍型には水中発射型の射程200km前後の巡行ミサイル発射セルを2門追加で装備されようとしていた。

 これはアメリカ製のトマホークなど巡航ミサイルの発射セルと同じ規格で作られたため、「やろうと思えば核弾頭も載せることが出来る」のだ。

 これなどは資金そのものを川北グループが負担し、日本国政府の上層部や自衛隊の上層部のみが了承していたわけで、トップシークレット扱いとされていた。


 もし、将来的に日本と龍国が武力衝突を起こし、アメリカの後押しが期待出来ない事態に陥った場合、日本国政府は「蒼龍型に水中発射型の巡行ミサイルの発射装置を取り付け、実戦配備させました」と公表することになっていた。

 その頃には日海軍がコンパクトな核融合発電機(パワーセルユニット)を実用化していることが世界中に知れ渡っていることだろうから、

 世界中が勝手に「蒼龍型の巡航ミサイルは核が載っているのでは?」とか「その巡行ミサイルは新型ゼロ戦と同じくレーダーに映らないのでは?」と想像してくれるだろうと思われていた。

 そう「思わせてやる」ことが大切なわけで、これが本当の抑止力に繋がるのだ。


 日海軍と中村内閣との間の話し合いでもこのことは了承されていて、いざ、有事という場合には、蒼龍型に核搭載可能な巡航ミサイルの発射装置が付いたことと、搭載する32式艦隊艦誘導弾は新型ステルス機能が付いているということを公開することになっていた。

 この32式艦隊艦誘導弾は川北重工の開発なのだが、それまでの潜水艦発射型の対艦・対地ミサイルとの違いは、

  「複雑な飛行経路で目標物に向かわせることが出来ること」と、

  「新型ゼロ戦で導入されたステルス性能を持つこと」だ。

 トマホークなどとの大きな違いは誘導方式で、トマホークが主にレーダー誘導なのに対して32式はGPSと視覚誘導のマルチシーカーである。

 視覚誘導の技術は高速誘導弾で開発されたものの応用だ。

 この誘導弾は事前にセットしておいた軌道をトレース出来るのだが、目標まで地上すれすれで飛翔し、目標の直前でポップアップさせたり、複雑な動きをさせることも出来る。

 また、空気密度の低い高高度を飛翔し、航続距離を稼ぐことも出来るが、この場合、やや迎撃される可能性が高くなる。

 あと、レーダーによる索敵をほぼ無効化するステルス技術が使われているが、これなどは龍国だけでなく、世界各国が脅威に感じるだろうと容易に想像出来る。

 実際、アメリカが川北のステルス技術に気が付いた際にはその技術の公開を巡り水面化の争いにまで発展するのだが、これはまた別のところで語りたい。

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