ドラゴンスレイヤーズ Zero Fighter

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第2章

南海企業連合と新型戦闘機

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 龍国とその周辺国は情報統制がされているため、日本本土にいる限り東南アジアでの龍国の侵略はあまり表立って報道されないのであったが、南海新都市の川北の方には現地とビジネス的につながりのあるセクションも多く、数多くの報告がされていた。

 2030年頃になると南海新都市は猛烈な勢いの「建築ラッシュ」を迎えていて、メガフロートの増設作業、工場プラントの建設、道路の整備、メガフロート間を結ぶ橋の建設、発電所の建設、大規模真水濾過施設の建設、バイオマス燃料用のミドリムシ培養プールの建設などが特に急ピッチで進められていた。

 日本本土からも多数の土木業者や重機関係、運送業関係者などが出稼ぎにやってきていて、南海新都市に本拠を移す業者も多々存在していた。

 そうなると俄然活気付くのは夜の観光業で(笑)、こちらは多国籍ということで日本本土とはまた少し違う賑わい方をしていた。

 当然、こうなると「スパイ」が入り込むのが世の常で、当初から川北を筆頭とした南海企業連合がスパイの暗躍に対して目を光らせていた。

 この手の「裏の世界の話」はどこの世界、どこの時代にももちろんある話で、こちらを疎かにする国や民族はほぼ間違いなく凋落していく。

 この規模の街になると当然、日本国からも警察組織や行政組織が移ってくるわけだが、南海新都市自体が「日本の領海外」にあるわけなので、その運営に関しては企業連合側と綿密な連携を組んで行うよう取り決めがなされていた。

 この事は現場だけの話ではなく、川北だけでなく南海企業連合からの団体寄付を受けている地方議員や国会議員を使い、合法的に国に対して働きかけ実現したものだった。

 先程の「夜の観光業」についても、一般的に言うと「や◯ざ」と呼ばれる反社会的勢力も多く入り込んできていたのだが、彼らも全てが全て不法行為で稼いでいるわけではないし、そういう裏の世界とつながりの深い人達も実際には必要とされているものなのだ。

 彼ら「や◯ざ」も日本本土では龍国のマフィア達に牛耳られつつあるということで、こちらの方に喜んで進出してきたという経緯もある。

 南海新都市では龍国を始めとした敵性国家の息のかかったマフィアは「あらゆる意味」で徹底弾圧されているので、彼らジャパニーズマフィア達も住み良い環境ではあるのだった。

 また未曾有の建築ラッシュになっている状態だったので、夜の観光業もとてつもなく賑わっていた。

 こうして不景気に喘ぐ日本本土と、超好景気に沸く南海新都市では明確に勝ち組と負け組の差が出ていた。


 こうした動きを伝え聞いた日本本土のマスコミ等は、南海新都市内での報道の許可を度々申請してきたが、これはガンとして断り続けた。

 そうなるとどうしても中を覗きたくなるのが彼らの習性でもあるので、中には漁船をチャーターして密航しようとする者や、南海新都市に既に入り込んでいる者とのツテを使い、内部の映像や情報を外に持ち出そうとする処も出始めてきたが、外部への情報の持ち出しは厳しく制限され、企業連合が組織した自警組織による警戒活動に度々妨害されるのだった。

 このような動きに対し、マスコミは徹底して攻撃を開始した。

 具体的に言うと、「マスコミに報道させないのはおかしい」「彼らは我々の知る権利を侵害している」「税金を納めていない容疑がある」「国の補助金を受けているのであれば、我らの公正な報道を受ける義務がある!」などなど、本当に好き勝手にテレビや新聞などを使って報道を繰り返した。

 また、当時は自由済民党が政権を摂っていたのだが、野党に落とされていた民共党は「南海新都心では国の転覆を図ろうとする動きが見られる。ぜひ川北の代表を国会に参考人招致して真実を正すべきだ!」というキャンペーンをマスコミと連動して大々的に盛り上げた。

 この動きに対して川北は完全に無視。

 逆に自分たちが持つネットチャンネルを使い、数多くの番組で今のマスコミと民共党議員の異常さを徹底的に糾弾し続けた。

 日本本土に暮らすネットと親和性の高い人達は、当然このことを知っていて川北側の主張に理解を示していたのだが、テレビや新聞しか見ない50代以上の世代の多くはマスコミや民共党側の主張を信じているのであった。


 この頃になると、川北は「独自の防衛力を持つべきだ」という考えを更に強めていた。

 第四開発室の坂本主任などを使って、積極的に「空の防衛力」を整える方向で進んでいるのだが、龍国の急激な領土膨張は無視出来ないレベルにまで危機レベルが上がっていると判断していた。

 これは川北会長だけの判断ではなく、企業連合に参加するほぼ全てのトップも同じ認識を持っていたのだった。

 このまま、自分たちだけ受動的に防衛していたのでは、必ず日本は龍国に飲み込まれてしまう。

 そこで、企業連合は方針を転換する。

 これまでの「受動的防御」から「能動的防御」へと方針を一転させたのだ。

 ここで、川北は初めて「防衛会議(仮名)」を開催し、元自衛隊の将校(あえて将校という名称で呼ぶ)、開発部門の責任者、軍事情報の専門家、各企業のトップなどを招き、今後の防衛戦略を話し合うことになった。

  (実は上記以外にいくつかの人々がお忍びでの参加していたのだが、それはまた後ほどお話しする)


 この会議で川北は初めて「独自の戦闘機の開発を進めている」ということを公表した。

 当然、参加者からは驚きの声が上がったが、非難する者は現れなかった。

 この会議に参加しているメンバーは龍国の侵略に対して非常に大きな危機感と何とかしないといけないという義務感を共用する者ばかりだからだ。

 川北会長から新型戦闘機「開発名:ゼロ戦七◯(ナナマル)型」だと紹介、主任は会議室の巨大モニターを使って、新型ゼロ戦についての性能を説明していく。


 まず、参加者を驚かせたのは「水素核融合による発電で飛ぶ」という点であった。

 たしかに川北エナジーは水素核融合による発電を成功させ、商業化も終わっているということは彼らも知っていたのだが、よもやそれが小型の飛行機に搭載されているということは想像もしていなかった。

  「実はこの水素核融合、『パワーセルユニット』はこの『ゼロ戦』の動力源として開発が進められたもので、こちらが先に完成していて、後に大規模発電所へと転用されたのです」

 という言葉を聞かされたとき、彼らは総じて目を丸くしていた。


  「このパワーセルユニットの発電は、プロペラを回して飛行機を推進させるということだけに使うのではなく、これも現在開発が進んでいるレールガンの使用にも使います。

 レールガンはご存知の方も多いと思いますが、現在、米軍を中心に実用化が進められていますが、その開発目標は『超高速で弾頭を発射し、地平線の彼方の目標物に対して正確に攻撃を加える』というものが多いみたいですが、我らのレールガンは使用目的がやや異なります。
皆さん、これをご覧ください」

 坂本は演壇の下から全長40cmほどの円柱型の物体を取り出した。

 その物体には折りたたみ式の翼が前後に取り付けられており、重さは10kg程度、弾頭部にはレンズが取り付けられていた。

  「こちらは我々は『高速誘導弾』と呼んでいる小型ミサイルです。

 これは『ゼロ戦』の左右の翼下に取り付けられているガンポットから射出され、約10kmほど敵機を追跡して破壊するものですが、この射出に“電力”、つまりレールガンを使用するのです」

 参加者一同から驚きの声が上がる。

  「では、その砲弾?は高速で打ち出された後に敵機を追跡して破壊するのか?レーダー追尾にしては小型だし、推進剤が充填されているにしては小さ過ぎると思われるのだが?」

 などと、軍人達から次々と同様の質問が飛び出してきた。

 これに対して、

  「推進剤はごく少量しか載っていません、方向転換する際に少し使う程度なのでこの弾頭の大半は『炸薬』だと思ってくだされば結構です。

 誘導方法については詳しくはお話出来ませんが、チャフやフレアなどの大半は効果ありません」

 また軍人達から立て続けに質問が飛ぶ。

  「炸薬量はどのくらいか?敵戦闘機を撃墜する能力はあるのか?」

  それに対して坂本は、

  「皆さんはRPGー7という個人携行型のロケットランチャーをご存知だと思います。この砲弾はそれと同等程度の装甲貫通力と破壊力を持っています」

  「それでは一撃で戦闘機程度なら破壊する能力がある、ということか?またそれだけの破壊力を持つのであれば、対戦車戦などにも使えるのではないか?」

  「はい、現在、各国が採用しているMBT(主力戦車)なら砲塔上部の装甲板程度なら十分抜くことが可能です。もちろん戦闘機だけでなく、大型の爆撃機なども当たりどころが悪ければ一撃で機体を真っ二つにするほどの威力はありますね」

 衝撃的な内容で黙り込む参加者一同、特に軍関係の知識の深いメンバーからはため息にも似た声が漏れた。

  「脱着可能なガンポッド内に10発程度、この高速誘導弾を搭載出来ます。その射出にはパワーセルユニットが生み出す豊富な電力が使われ、全弾射出後にはこのガンポッドは投棄して軽量化させることも可能となっています」

 左右で10発ずつということは合計20発、ゼロ戦では搭載が可能というわけだ。

 当然、それより大型の機体なら20発と言わず、100発とか200発も発射が可能で、発射方向も前方だけでなく後方や上方など、自由に変えることも将来的には可能かもしれない。

  「これは・・・自衛隊の戦闘機にもぜひ搭載したいもんだ・・・」と思う軍関係者も当然多くいるのだが、これを実現可能とさせているのは「パワーセルユニット」の存在が不可欠なのであって、通常のターボジェットエンジンやターボファンエンジンなどではとてもではないが発電量を賄うことは無理であった。

(無理やり発電してもいいが、その場合は推力がかなり犠牲になる)

 わざわざ大出力の発電機を載せるくらいなら、従来のミサイルのように大量の推進剤を積めば良いだけの話である。

(続く)
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