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第1章

空飛ぶコンクリートトーチカ

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  龍国政府から新規のマルチロール戦闘機の開発を命じられた3社のうち1つの上海飛機製造は頭を抱えていた。

  政府関係者との会合で開発目的などは聞かされていたが、要求される性能を1億円以下という政府の要求する調達価格でどうやって実現させるのか、で社内の意見は大きく分かれた。

  「こんなのどうやったって無理だ!辞退する方がいい!」

  「何を言ってるか、お前!やる前から諦めているようなら開発室にいる必要ない!帰れ!」

  「バカなことを言ってないでそれぞれ持ち寄ったアイデアを出せ!まずはお前からだ!」

  「今の練習機に装甲を付けて、ハードポイントを増やしてやればいいだけじゃないか?」

  「それは俺も考えたが、一機あたりの調達価格が2億程度になってしまう、なんらかの工夫が必要だ」

  …3日ほど会議は空転したが、ある研究者がこう発言した。

  「良い案がある。政府が出してきた要求を過去に満たしていたであろう機体は何だ?過去に既に実例があればそれを複製すればいいだろう?」

  「過去に開発された戦闘機や攻撃機でそれらの条件を満たしたものはあるにはあるが、はっきり言ってそれらの生産ラインは残っているわけないし、製造が極めて困難な部品があると思われる」

  「なんだその製造が極めて困難な部品とは?」

  「エンジンです。よく似た性能を持つ戦闘機は主に第二次世界大戦中、生産されたものが多いため、大出力のレシプロエンジンを作る製造技術が我が国や我が社には圧倒的に足りません!」

  「確かに未だ自動車のエンジンもレシプロエンジンは我が国はまともなものが作れてないな。トラック用のゴツいディーゼルエンジンとT社の評判の悪いガソリンエンジンがかろうじて自国内生産されているが、そもそもライセンス生産だし、設計開発は未だに他の国のものがほとんどだな」

  「エンジンは我が国が既に作っているものを流用してみればどうですか?」

  「航空機用のレシプロエンジンで純国産の物など聞いたことないぞ。ターボジェットエンジンなら我が社でも小型化したものを生産してますが?」

  「ジェットエンジンを第二次大戦中のレシプロ機に載せるのか?メッサーシュミットMe262みたいに主翼の下にジェットエンジンを二機吊るすのか?」

  「いや、ジェットエンジンといってもターボジェットではなく、プロペラを回すターボプロップにすればいいのではないか?ターボプロップなら我が国でも民生用も軍用も双方とも作っているので開発は可能だしパワーもそこそこ出て、既に存在しているモデルを貰ってくれば早期に開発が出来るだろう」

  「なるほど、それならレシプロエンジンより遥かに小型に作ることが出来るし、より大きな出力を得ることも可能だな」

  「機体の構造はほぼそのままでエンジンだけレシプロからターボプロップに載せ替えるということですね」

  「では肝心の『どの戦闘機』を模するのか?」

  「私はソ連のイリューシン社が開発したIL-2 Sturmovik(シュトゥルモビク:襲撃機の意味)を使えばいいのではないかと思います!」

  「そのIL-2とやらの特徴はどういうものだ?」

  「はい、IL-2は通称“空飛ぶコンクリートトーチカ”と呼ばれていて、第二次世界大戦中のソ連では最良の攻撃機と呼ばれていました。特徴はとりあえず頑丈なことで、シリーズ通算36000機も生産されています」

  「あぁ、なんだ。世界最多の生産数を誇る軍用機じゃないか。我らの業界にいて知らない奴は流石にいないな」

(一同、笑い)



  「ソ連、つまりロシアの攻撃機ということは設計図や詳細な資料がすぐ手に入るかもな、私の方から政府経由で提供してもらうよう交渉してみよう」

  「我が国内で運用したこともあるので現物もあるかもです。至急 調査してみます」

  「構造が分かるなら開発の手間は大幅に減らすことが出来るな。場合によっては博物館に入ってる奴をバラバラにしてリバースエンジニアリングしてやればいいしな」

  誰も突っ込みを入れないが、リバースエンジニアリングこそ、龍国の世界最高の技術であった。


  …(総員  IL-2の資料を眺めながら)

  「元々は1700馬力程度のエンジンだが、ターボプロップにすれば3000馬力程は出そうですな」

  「強力なエンジンを載れてやれば、運動性も向上するし、その分を装甲や武装の強化、近代化などに使うことが出来るな」

  「練習機やCOIN機で採用している簡易型のパイロットの射出機を付けますか?」

  「あぁ、パイロットの生存性向上には不可欠だからな」

  「それにしても見れば見るほど面白い機体だな。車輪は格納されているが半分タイヤが飛び出していることで車輪が出なくなっての胴体着陸時でもダメージを減らす構造になっているのか」

  「アメリカのA-10サンダーボルト2も同様の構造だが、これはIL-2を真似したのか?」

  「詳しく知りませんが、A-10の設計には当時、ソ連の敵だったドイツ空軍のエース、ルーデル閣下が参画していたといいます。敵方の飛行機だが優位性を認めていたということでしょうか?」

  「いっそのことA-10の構造をそのまま真似してはどうか?」

  「政府の要求は一機当たり1億円程度ですが、A-10のような双発機だとそれだけで調達価格が倍近くに跳ね上がってしまいます」

  「ルーデル閣下?あの鬼の様にソ連の戦車を破壊しまくったという魔王だとかソ連最大の敵と言われた男のことか。ルーデルというならいっそのこと、彼の愛機だったスツーカを真似してはどうか?」

  「流石にスツーカはないでしょう。面白いかもしれませんが固定脚だと空気抵抗が大き過ぎますよ?」

  「たしかにその通りだな、はっはっは…」


  張り詰めていた会議室の中は一瞬だが穏やかな空気が流れたのだった。

  だが、他の会社の開発部では正にその「スツーカ」を真似しようと言う案が採用されようとしていた。
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