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第1章
報復を誓う龍国政府上層部
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今回の騒乱で実際に川北の『ゼロ戦』と戦った東部軍区の上層部は、「具体的な対抗策を打ち出すことが出来ない間は川北に軍事的に手を出すべきではない」と考えていたが、メンツを完全に潰された政府の上層部は川北に対して近日中に徹底した攻勢を行うことを東部軍区に対して指示していた。
実世界の状況とは異なり、この世界での“龍国”で各地に分立している軍区の独立性は高くなく、政治的発言は大幅に制限されており、また中央政府からの統治もほぼ完璧に受け入れる状態になっていた。
これは龍国の誕生する原因になった共産党政権を打倒した民主化革命が元々はかつての瀋陽軍区の反乱がベースとなったことに由来していた。
現 龍国政府を立ち上げた旧瀋陽軍区は、他の軍閥が力を持つことをおそれ、2012年の革命以降、徹底して他の軍閥の力を削ぐ政策を実践してきた。
これにより2032年頃には各軍区は中央政府の支配下にほぼ完全に収まっていた。
以前より激化していた長年のライバルでもあるお隣、インドとの紛争に(部分的)勝利を収めた龍国政府では国民の世論が一気に対外進出へと沸き立つことになったことにより、2025年頃からそれまでの「対外協調政策」から一転して「対外強硬政策」、つまり「侵略路線」を露骨に選択するようになった。
先日の日本への侵略もその一貫ではあるのだが、龍国政府としては世界一の国家としてのプライドと、「中華の新たなる支配者」としてのプライドにかけて例え「局地戦」とは言え負けは許されないのであった。
その為、龍国政府は川北重工と日本を叩き潰すため新たな戦略を立てることになる。
まず、東方への侵略を加速させる為に東部軍区への軍事予算の大幅アップ。
次に、一個艦隊を西部軍区から東部軍区へと移籍。
更に、「ゼロ戦」に対抗できる新たな戦闘機の開発。
これは前回の戦闘で龍国が誇る新型戦闘機である殲-31が全くと言っていいほど件のゼロ戦に歯が立たなかったからだ。
殲-31は元々、殲-20のモンキーモデル(海外輸出用)として開発されたもので、殲-20の機能の一部を簡略化させたものであったが、数が多い方が良いという現場からの声を反映して1000機以上が配備され、500機以上が海外へと輸出されている龍国の主力戦闘機と呼べるものだ。
簡略化されている項目はと言うと、「簡易ステルスの採用」「低出力エンジンの採用」「火器管制情報統合ネットワークの不採用」「搭載兵装の簡略化」「ベクターノズルの不採用」などが挙げられた。
つまり、見てくれはいっぱしの最新鋭ステルス機であったのだが、中身は20世紀後半のジェット戦闘機と大差ないレベルのものであったわけだ。
だが、いくら安物と言っても、見た目がほぼ同じの殲-20は西側諸国が持つ最新鋭ステルス戦闘機の技術をふんだんに盛り込んだ一線級の能力と戦闘力をもつことは間違いないので、経済的にそれほど余裕のない発展途上国や数をとりあえず多く揃えたいという国には非常に喜ばれた。
「殲-31とは言っているが、もしかすると殲-20であるかもしれない?」と他国から思われることはそれなりの抑止力を発揮出来るし、見栄を張る上でも重要だからだ。
いくら殲-31が元々、輸出用のモンキーモデルで一機当たりの価格が1千万ドルを切っているとは言っても「1千万ドル弱(日本円にして10億円程度)」はすることは間違いないので、そのような高額な機体を大量にゼロ戦に対して直接ぶつけるのは合理的ではないと判断したわけだ。
龍国政府は国内の戦闘機メーカー3社に対して、新規で開発する戦闘機についてこのような要求を出した。
1:一機当たりの調達価格を100万ドル以下に抑えること
2:空母での運用を可能にすること
3:最高速度500km/h以上
4:上昇能力25m/s 海面高度以上
5:武装は20mm機関砲を4門搭載すること
6:航続距離は2000km以上
7:機体構造はシンプルで量産に適していること
8:防弾性能を高め、乗員の生存性を上げること
9:対地、対艦攻撃力を持たせるため、500kg爆弾、魚雷などを翼下に載せるハードポイントを複数用意すること
このような条件が提示されたのだった。
これらを見てもらっても分かると思うが、はっきり言って第二次大戦中に活躍していた攻撃機などでも十分達成出来る程度の能力しかない。
つまりだ、今回開発する機体は「囮(オトリ」で、それらを多数、低空で飛行させ地上や海上付近の攻撃目標に対して機関砲で攻撃させ、敵機をおびき寄せておいて、それらの撃墜に時間をかけさせている間に、上空に待機している殲31などの最新鋭ジェット戦闘機によって一撃離脱戦法で敵機を排除しようとする作戦に用いるためであった。
各種の防弾設備などの装備は乗員の人権を守るためというより、少しでも長く「ゼロ戦」の足を引き止めるためである。
その為、乗員には数多くの戦闘にも生き残ってもらわねばならないので、防弾性能を上げ、脱出装置も完備し、何度撃墜されても帰還して再度出撃させるように龍国政府上層部は考えていたのだ。
この意向を受け、東部軍区はそれぞれの航空機製造会社に具体的なスペックを用意して試作機の製造を指示した。
これは戦時下の対応ということで民生用の商品の生産より優先として行われた。
これらの戦闘機(マルチファイター?)の開発については別の章にてお話ししたい。
また、龍国政府は各国の工作機関に対しても徹底した「ジャパンディスカウント運動」を展開するよう指示した。
まず彼らが行なったのは川北重工を各国のマスコミを使って徹底した悪者にしたてるニュースを流すことや、川北を制裁出来ない(しない)日本国政府を徹底して非難するニュースを流した。
龍国が影響下に置く国のマスコミは、四六時中、川北のゼロ戦が龍国漁民を「一方的に」虐殺する映像を流し続けた。
もちろん、川北のゼロ戦が龍国の偽装漁民を襲う前に彼らがゼロ戦に対して散々行った発砲は一切報道せずに、だ。
これに対して龍国の国民は国内の日本製品の破壊や不買活動などを行うデモを行った。
中には暴動に発展したものもあったのだが、それは龍国の治安維持隊によって鎮圧された。
また、日本国内へ「デモ隊」を大量に送り込み、各地でデモや暴動、日本人に対する暴行を行った。
これらはもちろんマスコミでは一切報道されることがなく、ツイッティやマイチューブなどでその様子が拡散されても、すぐアカウント自体が閉鎖に追い込まれ、多くの人にその情報が出回ることはなかった。
それら野蛮な行為は徐々にエスカレートしていき、さすがの龍国政府も火消しに走るようになった。
龍国は建前上は民主的な手法で政権トップが選ばれる体制になってはいるのだが、実際のところは「10億人近くの自国の奴隷」と「3億人程度の左派政権を支持する選挙民」によって成り立っている国だ。
人権やら土地や財産の所有など人並みな権利が認められているのはこの3億人だけなので、実質的には旧共産党一党独裁の政権と違いはないのかもしれないが、それでも以前よりは民間の声も政治に反映しやすくなっていて、政府もこれら民間の声を無視出来ないのだった。
龍国は、共産党の一党独裁のような不完全な支配体制ではなく、民意を反映させ、民の叡智を結集させた世界最高の統治体制である、というのが彼らの主張であり、中華こそが世界の中心に君臨し、世界を牽引するに相応しいと考えているので、日本という「仮外の地」の更に一反乱勢力ごときが龍国に逆らい、さらに圧倒することなどはその強烈なプライドをかけて許されない事態だったのだ。
この民意を後押ししたのは、数年前にインドとの国境紛争でほぼ一方的に勝利したことが大きかった。
このようにして龍国は、後戻りが出来ない事態に自らを追い込んでしまうのであった。
実世界の状況とは異なり、この世界での“龍国”で各地に分立している軍区の独立性は高くなく、政治的発言は大幅に制限されており、また中央政府からの統治もほぼ完璧に受け入れる状態になっていた。
これは龍国の誕生する原因になった共産党政権を打倒した民主化革命が元々はかつての瀋陽軍区の反乱がベースとなったことに由来していた。
現 龍国政府を立ち上げた旧瀋陽軍区は、他の軍閥が力を持つことをおそれ、2012年の革命以降、徹底して他の軍閥の力を削ぐ政策を実践してきた。
これにより2032年頃には各軍区は中央政府の支配下にほぼ完全に収まっていた。
以前より激化していた長年のライバルでもあるお隣、インドとの紛争に(部分的)勝利を収めた龍国政府では国民の世論が一気に対外進出へと沸き立つことになったことにより、2025年頃からそれまでの「対外協調政策」から一転して「対外強硬政策」、つまり「侵略路線」を露骨に選択するようになった。
先日の日本への侵略もその一貫ではあるのだが、龍国政府としては世界一の国家としてのプライドと、「中華の新たなる支配者」としてのプライドにかけて例え「局地戦」とは言え負けは許されないのであった。
その為、龍国政府は川北重工と日本を叩き潰すため新たな戦略を立てることになる。
まず、東方への侵略を加速させる為に東部軍区への軍事予算の大幅アップ。
次に、一個艦隊を西部軍区から東部軍区へと移籍。
更に、「ゼロ戦」に対抗できる新たな戦闘機の開発。
これは前回の戦闘で龍国が誇る新型戦闘機である殲-31が全くと言っていいほど件のゼロ戦に歯が立たなかったからだ。
殲-31は元々、殲-20のモンキーモデル(海外輸出用)として開発されたもので、殲-20の機能の一部を簡略化させたものであったが、数が多い方が良いという現場からの声を反映して1000機以上が配備され、500機以上が海外へと輸出されている龍国の主力戦闘機と呼べるものだ。
簡略化されている項目はと言うと、「簡易ステルスの採用」「低出力エンジンの採用」「火器管制情報統合ネットワークの不採用」「搭載兵装の簡略化」「ベクターノズルの不採用」などが挙げられた。
つまり、見てくれはいっぱしの最新鋭ステルス機であったのだが、中身は20世紀後半のジェット戦闘機と大差ないレベルのものであったわけだ。
だが、いくら安物と言っても、見た目がほぼ同じの殲-20は西側諸国が持つ最新鋭ステルス戦闘機の技術をふんだんに盛り込んだ一線級の能力と戦闘力をもつことは間違いないので、経済的にそれほど余裕のない発展途上国や数をとりあえず多く揃えたいという国には非常に喜ばれた。
「殲-31とは言っているが、もしかすると殲-20であるかもしれない?」と他国から思われることはそれなりの抑止力を発揮出来るし、見栄を張る上でも重要だからだ。
いくら殲-31が元々、輸出用のモンキーモデルで一機当たりの価格が1千万ドルを切っているとは言っても「1千万ドル弱(日本円にして10億円程度)」はすることは間違いないので、そのような高額な機体を大量にゼロ戦に対して直接ぶつけるのは合理的ではないと判断したわけだ。
龍国政府は国内の戦闘機メーカー3社に対して、新規で開発する戦闘機についてこのような要求を出した。
1:一機当たりの調達価格を100万ドル以下に抑えること
2:空母での運用を可能にすること
3:最高速度500km/h以上
4:上昇能力25m/s 海面高度以上
5:武装は20mm機関砲を4門搭載すること
6:航続距離は2000km以上
7:機体構造はシンプルで量産に適していること
8:防弾性能を高め、乗員の生存性を上げること
9:対地、対艦攻撃力を持たせるため、500kg爆弾、魚雷などを翼下に載せるハードポイントを複数用意すること
このような条件が提示されたのだった。
これらを見てもらっても分かると思うが、はっきり言って第二次大戦中に活躍していた攻撃機などでも十分達成出来る程度の能力しかない。
つまりだ、今回開発する機体は「囮(オトリ」で、それらを多数、低空で飛行させ地上や海上付近の攻撃目標に対して機関砲で攻撃させ、敵機をおびき寄せておいて、それらの撃墜に時間をかけさせている間に、上空に待機している殲31などの最新鋭ジェット戦闘機によって一撃離脱戦法で敵機を排除しようとする作戦に用いるためであった。
各種の防弾設備などの装備は乗員の人権を守るためというより、少しでも長く「ゼロ戦」の足を引き止めるためである。
その為、乗員には数多くの戦闘にも生き残ってもらわねばならないので、防弾性能を上げ、脱出装置も完備し、何度撃墜されても帰還して再度出撃させるように龍国政府上層部は考えていたのだ。
この意向を受け、東部軍区はそれぞれの航空機製造会社に具体的なスペックを用意して試作機の製造を指示した。
これは戦時下の対応ということで民生用の商品の生産より優先として行われた。
これらの戦闘機(マルチファイター?)の開発については別の章にてお話ししたい。
また、龍国政府は各国の工作機関に対しても徹底した「ジャパンディスカウント運動」を展開するよう指示した。
まず彼らが行なったのは川北重工を各国のマスコミを使って徹底した悪者にしたてるニュースを流すことや、川北を制裁出来ない(しない)日本国政府を徹底して非難するニュースを流した。
龍国が影響下に置く国のマスコミは、四六時中、川北のゼロ戦が龍国漁民を「一方的に」虐殺する映像を流し続けた。
もちろん、川北のゼロ戦が龍国の偽装漁民を襲う前に彼らがゼロ戦に対して散々行った発砲は一切報道せずに、だ。
これに対して龍国の国民は国内の日本製品の破壊や不買活動などを行うデモを行った。
中には暴動に発展したものもあったのだが、それは龍国の治安維持隊によって鎮圧された。
また、日本国内へ「デモ隊」を大量に送り込み、各地でデモや暴動、日本人に対する暴行を行った。
これらはもちろんマスコミでは一切報道されることがなく、ツイッティやマイチューブなどでその様子が拡散されても、すぐアカウント自体が閉鎖に追い込まれ、多くの人にその情報が出回ることはなかった。
それら野蛮な行為は徐々にエスカレートしていき、さすがの龍国政府も火消しに走るようになった。
龍国は建前上は民主的な手法で政権トップが選ばれる体制になってはいるのだが、実際のところは「10億人近くの自国の奴隷」と「3億人程度の左派政権を支持する選挙民」によって成り立っている国だ。
人権やら土地や財産の所有など人並みな権利が認められているのはこの3億人だけなので、実質的には旧共産党一党独裁の政権と違いはないのかもしれないが、それでも以前よりは民間の声も政治に反映しやすくなっていて、政府もこれら民間の声を無視出来ないのだった。
龍国は、共産党の一党独裁のような不完全な支配体制ではなく、民意を反映させ、民の叡智を結集させた世界最高の統治体制である、というのが彼らの主張であり、中華こそが世界の中心に君臨し、世界を牽引するに相応しいと考えているので、日本という「仮外の地」の更に一反乱勢力ごときが龍国に逆らい、さらに圧倒することなどはその強烈なプライドをかけて許されない事態だったのだ。
この民意を後押ししたのは、数年前にインドとの国境紛争でほぼ一方的に勝利したことが大きかった。
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