【二度目の異世界、三度目の勇者】魔王となった彼女を討つために

南風

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一章Ⅱ 『二度目の』

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■ ■
 六限が終わった。

「また明日」

 俺はクラスメイトに挨拶をし、重い紙袋を持って教室を出た。
 周りに耳を傾けると、今から買い物に行こうだの、カラオケの約束だの、映画とアニメの話だの。そういった話題が聞こえてくる。

 俺も、転移前は映画とかアニメとかを見まくったり、漫画を読みまくっていたりしたな。その後は勢いのまま、友人とファーストフード店に行って、朝まで語りまくって、オールして登校──なんてこともあった。

 家族には、迷惑をかけた。両親と妹は、二年間も俺を探し続けてくれたらしい。
 妹なんか俺と同じ学年だ。気まずいったらありゃしない。
 でも、当時は喧嘩ばかりだったけど、今じゃ衝突することはなくなった。意外と素直なやつだったんだと、そう思った。
 一年経った今でも、家族は俺の身体を心配してくれている。

 なんだか、俺の中から『なにか』が抜け落ちたみたいだ。
 がらんどう。

 革靴に履き替え、夕暮れに染まった校庭を練り歩く。

 野球部とか陸上部とかの掛け声が聞こえてきて、俺は走り出したくなった。
 持っている荷物と上着をそこらへんに置いて、グラウンドに飛び出す。

 勇者になった頃、騎士バルムンクには鍛えに鍛えられた。あいつからは剣も、身体の動かし方も、飯の食い方までも教えて貰った。

 戦士ゴンザレスからは、動物の狩り方と、サバイバル術を教わった。

 賢者メルルからは、魔術の使い方と魔力の練り方を……あと、異世界の人間は全員、瞳が綺麗だってことも教わった。

 それと、戦姫──彼女には、言葉を教えてもらったんだ。
 もしかしたら、異世界語は忘れていくのかもしれないけれど、彼らの名前は絶対に忘れない。

 野球部と陸上部の連中が、度肝を抜かれたような顔で俺を見てくる。
 またしつこく勧誘されないよう、俺はそそくさと校門に向かった。


「よっ。勇」
「お! よう、龍一」

 校門に背中を預け、きざったらしく片手を上げたのは、かつてのクラスメイトだった親友だ。
 現在は近くの大学に通っているらしい。
 俺が行方不明となった期間の、二年分の漫画を貸してくれている。俺が持っている紙袋はまさにそれだ。
 二年前だったらすぐに読み終えたのだろうけど、何故か最近は読むスピードが落ちている気がする。
 同級生だった頃みたいに、二人で帰路を歩いた。

「おい勇。どこまで読めたよ?」
「あ~、あそこだ。いいトコまでいったぜ? ほら、先生が封印されちゃうところ」
「全然まだまだじゃん……」
「なんか、前より読むのが遅くなっちゃったんだよな……大人になったからかな」
「なんだよ、それ。てかさ、いま俺んちにジャンプ全部移しててさ──マジ、壁みたいになってんぜ? ちょっと忘れ物したから大学戻るけど、後で俺んち来いよ。前みたいに漫画読みながら話そーぜ」

 俺は、表情を作った。人生で一番、真面目を体現したかのような表情を。

「エロいやつある?」

「ねーよ!! 最近はなぁ、エロ表現なんかも規制されててよぉ……過去の時代の余熱に生かされてるのよ、俺たちはよ」

 ねーのか。でも、
「ごめんごめん。冗談だって。いいよ、楽しみにしてる」

 心からそう言った。三年前の自分に戻れると信じて。

「じゃ、飲み物でも買って、持っていくよ」

 気が付いたら、駅に到着していた。

「サンキュー! んじゃ、三十分後にここ待ち合わせでもいいか? 俺んち先行っててもいいぜ。鍵渡すからさ」
「いいや、流石にそれはな……そこら辺で暇でも潰してるよ」
「そう? じゃ、また後でな」

 龍一は駆け足で改札の奥に消えていった。

 さて、どうしたものか。
 帰還してからの一年、放課後は一人で映画館に行ったり、ゲーセンで暇つぶしをしたりしていたが……三十分となるとなかなか中途半端である。周りにゲーセンは無いし、映画を観るには時間が足りなすぎる。

 財布の中身を覗くと、喫茶店に行くには心許ない中身だった。
 散歩でもしながら、人間観察に洒落込むとしよう。

■ ■
 缶コーヒーを片手に、俺は街を練り歩いていた。あと十分ほど。
 そろそろ駅に戻ろうか。

 俺は踵を返す──右脚のほうから、カランと何かが落ちたような音がする。
 音の鳴った方に眼を向けると、そこには缶コーヒーが落ちていた。

 俺が右手に持っていた缶コーヒーが落ちていた。
 右手が、右腕が、俺の身体が、半透明になっている。不透明度がゼロ%に近づいていく。

 ああ、この感覚は、あれだ。

 ──どくんと跳ねる鼓動。

 また、異世界に行くことになるんだ。
 三年前に自分に起こった現象を、再び味わう。
 俺は、この世界から消失した。

□ □

 以前とは少し違う、神様との問答を済ませ、目蓋をゆっくり開ける。

「二度目の、異世界……」

 森だ。初めて転移した場所と同じ────俺はすぐに横へ跳ぶ。

 一人と一匹が飛んできたからだ。
 金と黒の塊は、耳を劈く様な鳴き声と共に木々を薙ぎ倒し、飛んで行く。
 瞬きの瞬間、金色が黒色に叩きつけられ、俺の近くまで吹き飛ばされた。
 その呻き声を、懐かしく思った。
 彼と視線が交差した。

「イサム!?」

 騎士──バルムンクが俺を見て、眼を見開いた。
 眼の奥から湧き上がるモノを我慢する。まずは、状況の確認だ。

 バルムンクが戦っていたと思われる黒色を見る。

 それは……それは、魔物だ。熊を三周りほど大きくしたような見た目。
 強大な魔物なのだろう。竜魔四天王ほどではないが、彼らの眷属と同レベルなのが、魔物の纏う魔力から感じ取れる。

 武器は!?
 左を向き、バルムンクを見た瞬間、眼の前にそれは現れた。
 バルムンクは背中から何かを振り抜き、俺に放ったのだ。

 ──勇者の聖剣ラーハット。

 右手で剣を受けとめ、グリップを握る。
 色褪せていた聖剣が、煌めいた。思わせるは雪原に反射する銀光。

 同時に、反時計回りで身体を捻る。
 その勢いで走り出し、残光を伴った俺は、魔物に向かって聖剣を突き出した。

 ──ああ、この感覚だ。脳細胞が活性化して、視界が拓けるこの感じ。視野狭窄の反対はなんて言うんだろうか? 難しいことは分からない。そんな感じだ。

 剣先が、魔物の心臓に吸い込まれる。
 懐かしいと思ってしまった。
 ぽっかりと空いていた空洞は、埋まる。

 そうだ。俺はこんなにも、この世界が好きだったんだ。

 勇者の剣は、魔物を貫く。
 魔物の身体は燃え盛り、そして灰となって崩れ落ちた。
 手首を使って、剣を勢いよく回転させ、灰を落す。

 後ろから足音がする。ゆっくりと、俺に近づくように。
 それに応えるよう、ゆっくりと振り向く。
 バルムンクの姿が見えた瞬間、我慢できなくて駆け出した。
 かつての相棒を、全身で抱きしめる。

「お前ッ……! 本当にイサムか? 本物なのか!?」
「ああ! バルムンク、一年ぶりだな!」

 バルムンクは恐る恐る、俺に腕を回して、そして俺の存在を確かめるかのように、強く抱きしめた。

「一年……ああ、一年ぶりだ……」
「わはは! 痛いって!」
「────」

 耳を澄ますと、彼は小さく、俺の肩で泣いていた。
 バルムンクの背中を何回か叩く。それが慰めになると信じて。

「……俺も、会いたかったよ」

 俺の眼からも、涙が流れ落ちた。

□ □
 二人で焚き火を囲む。
 そこらに落ちている木枝を投げ込むと、ぱちり、と音がした。

「なんか……まだ一年しか経ってないのに、懐かしく感じるよな」
「オレも同じだ。征伐戦時もこうして、イサムとオレ、ゴンザレスとメルル、……そして姫様の五人で、焚き火を囲った」
「そうそう。でさ、戦士──ゴンザレスが踊り始めるんだよな。『戦士の里』の伝統だとか言ってさ。大体、続いて戦姫も踊り出すんだ」
「懐かしいな」

 会話がそれで途切れて、しばらく沈黙が続いた。
 大きく火が爆ぜる音が何度かしてから、バルムンクが口を開いた。

「なぜ魔物が復活してるか、気にならないのか?」
「大体は、神様から聞いてる」


□ □
 バルムンクと再会する直前。

 視界は、白く塗りつぶされ、耳鳴りのような音が残響して、そして消えた。

「久しぶり」

 と、声がする。
 瞼を開くと、眼の前には神様が居た。

 神様の顔を見ようとすると、白光がその顔を覆い、よく見えなくなる。認識阻害系の魔術だろうか?
 だけど現代人のような格好をしている神様には、なんだか親近感が湧く。
 初めて異世界転移をしたときと同じ状況だ。

「お久しぶりです。三年ぶり? ですかね」
「まあ~、それくらいだろうね。君たちの時間感覚は、私/ワタシにはよく分からないのだけれど」 

 神様は頬を掻く。なんとなく、彼/彼女は頼りがないのだ。

「俺が現代に帰るときにも、顔を見せてくださいよ」
「どうせ見えないでしょ。異界へ行くにはここを通るしかないんだけど、帰りはどちらでもいいのさ。てか、もう二度と会うこともないならいいかと思うじゃん、湿っぽいのもあれだし? あんまり話すこともないし。キミを選んだのだって、八十二億面ダイスを転がしただけだから、特に理由もないし」
「ほら感想戦的なやつとか……いえ、まあ、それもそうですけど」

 冷静に考えてみると、俺は巻き込まれた側じゃないか。
 まあいい。
 俺が今回の転移について切り出そうとすると、

「今回の転移についてだけど」

 先回りをされる。
 神様は、誰かの真似をするように、声を高くして言う。

「なぜか、君を呼ぶ声が俺の頭の中に響いてさ。耳障りなんだよね~。イサム様、イサム様って」
「なんで俺の名前が?」
「さあ……あまり、魔器異世界を見つめることなんてしないからさ。ちょっと現代世界の事で忙しくて──いま、それは関係ないか。でも、君を呼んでおきっぱなしなのはあれだから、説明のためにちょっと覗いたけど、竜魔王が復活してるっぽいね。僕/ボクにとって、それはどうでもいいんだが、人口が減るのは困る」
「竜魔王が?」

 竜魔王は俺たちが倒した。竜魔王が滅びたことにより、魔物はすべて消滅したはずだ。 もちろん、竜魔王の血族である竜魔四天王も。だから、竜魔王を継ぐ存在はいないはずなのに。

「ま、君にはブランクがあるし、当時の身体性能に戻すくらいはしてあげるよ。神様からのギフトだ」

 ありがたいけども。もっと詳しく説明がほしいな。

「ありが──」
「じゃ、あとは頼むね~」

 間髪入れず、俺は再び異世界に堕とされた。

□ □

 神様とのやり取りを思い出す。

「竜魔王が復活したんだろ?」

 遠くの空──赤紫の空を見ると、眷属である魔竜の影が飛び交っている。
 オレたちは火を消して、歩き始めた。

「やれることをやろう。状況はどうだ?」

 俺は、自分の責任──それを果たす。

 バルムンクは俯きながら説明を始めた。

「イサムが消えてから、六ヶ月が経った頃……突如、王国に魔物の軍勢が襲ってきた。オレたち勇者一行が解散し、王国軍も縮小、ようやく落ち着いてきた頃にだ。オレは王の近衛騎士として勤めていた。王城に魔物を寄せ付けまいと戦っていたが、城下街はそうもいかなかった……」

 バルムンクは拳を強く握った。

「縮小した王国軍じゃ抑えきれないほどの数だったのか?」
「ああ」
「メルルたちはどうした?」
「…………」

 バルムンクは突如立ち止まる。
 ──嫌な予感がした。

「まず、襲撃の直前に、戦士ゴンザレスが死んだ。魔物の軍勢は、王城を襲う前に、『戦士の里』を襲ったんだ」

 何言ってんだ? 俺の脳が、理解を拒む。

「冗談言うなよ。俺たちの中で一番頑丈だったのがゴンザレスだぜ? あいつには魔斧もあるし、そこらの魔物に負けるわけがないだろ」

 ゴンザレスの笑った顔が思い浮かぶ。
 あいつは村を護るために、魔斧ヘクトールの試練を受けた。受け入れられなかった、自身の弱い部分を乗り越えたんだ。
 そして、あいつにはあの腕輪がある。

「だが、戦士の里を襲い、先導したのは、竜魔四天王なんだ」
「! 奴らが復活したのか!? だけど、ゴンザレスの遺体を確認したわけじゃないんだろ? だよな?」

 あり得ない。絶対に。
 つまらない冗談を言うな。

「何故オレがいま、王国を防衛せずに、こんな所を彷徨いているのかと思わないか? ゴンザレスの遺体は、現魔王領に持ち去られている。オレは、ゴンザレスを取り返しに行く道中なのだ」

 立ち眩みのように、視界が揺れた。強い耳鳴りがする。
 ──本当に死んだのか? ゴンザレス?

 走馬灯のように、彼との思い出が駆ける。
 彼が開いた宴を、五人で楽しんだ光景だ。あれから一行の結束が強まった。

 俺はその場で崩れ落ちる。

「なんで……なんでだ……」
「すまない……オレが里に到着した頃には、遅かった。四天王が彼を連れ去った直後だった」

 バルムンクは、静かに俯いた。その言葉からは、悔恨を感じる。

「じゃあ、メルルたちはどうしてたんだよ? 襲撃から時間があったんだ、駆けつけてくれるはずだろ?」

 彼女たちまで死んだなんてことはないはずだ。絶対に。そう信じさせてくれ。

「メルルは消息不明となっている。王国が襲撃された日、その日からだ。宰相は、メルルが魔物を先導したんじゃないかと──」

 俺はバルムンクの胸ぐらを掴んで、睨み付けた。
 彼女が魔物を引き連れるなんて、それこそあり得ないだろ。彼女の故郷がどうなったか分かってるよな?

 俺は気がつく。バルムンクの顔はもう、あの頃のように綺麗ではなかった。髭は整っておらず、目の隈は濃い。金色の髪にも、艶がない。

「ごめん」

 俺はすぐにバルムンクを放した。彼がそれを信じているなんて思った、俺が情けなかった。

「大丈夫だ。安心してくれ、俺はそう思っていない。ただ、彼女が何かをしようとしているのは間違いないだろう……昔から、秘密主義だったしな」

「ああ……そう、だな……。あと、彼女は……」

 彼女の名前は──。
 あの時、戦姫は頬を濡らしながら俺を見つめてこう言った。
『イサム……私の名前は──』

「戦姫は──ごめん、彼女の名前を最後まで聞けなかったんだ……」

 バルムンクは立ち止まるのをやめ、歩き出す。俺はそれに付いていく。

「彼女は……リリス様という」
「リリス。リリスはどうした? 彼女も戦姫ヴァルキリーとして騎士団にいるんじゃないのか?」
「彼女は、お前が消えてからひと月が経った後に、二対の魔剣を宝物庫から持ち出して、元魔王領へと消えた。……理由は、不明だ」
「魔剣って、フラガラッハとエイリークか。……本当に、何も言ってなかったのか?」
「ああ、何も……だ。王権を放棄したとはいえ、彼女も元は王族。メルキセデク王によって探索隊が組まれていたが、現状の王国では人手が足りなくてな。今は、オレ一人が彼女の捜索をしている」
「バルムンク……」

 俺は、言葉を飲み込む。
 きっと、バルムンクは何かを隠している。
 それは、その真偽が不明だから言わないだけなのか、それとも、俺を鑑みて言わないだけなのか。

「いまから魔王領に行くんだろ? なら、俺が行くよ。お前は休め」
「! オレも行く、お前を独りにはしない」

 バルムンクは俺を引き止めようと、立ち塞がった。

「大丈夫だって。お前、しばらく休めてないだろ。その身体をカバーできる魔器は無い。そして、俺は神からギフトを貰っている。元気いっぱいだ。危なくなったら逃げられるよ。もしお前を抱えてたら、逃げられない……だろ? それに、お前は自分の責任を果たした。これ以上は、背負いすぎだ」

 バルムンクの胸に付けられた、『結束の紐飾り』に拳を当てる。
 彼は、自身の胸を見ながら言い淀み、小声で呟いた。

「……そう言われたら、任せるしかないだろ」

 バルムンクは、地図に目印を付けて、俺に渡してくれた。

「魔王城までの転送門だ。かつて、オレたちが利用した転送門はすべて潰されていた、ここ以外はな。もしかしたら、オレたちを──お前だけを呼んでいるのかもしれない……気をつけろよ」
「ありがとう。バルムンク」

 俺は地図を受け取って、バルムンクと別れた。地図を睨みながら転送門を目指す。
 心の中に、一つの予感を残して。

□ □
 転送門に乗り込み、魔王城門へと転送される。

 顔を上げた。
 魔竜が鳴き声を上げながら、赤紫の空を滑空している。
 かつては、魔王城に近づく者に向かって襲いかかって来たが、その気配はない。
 まるで、俺を迎え入れているようだ。

 城門を開ける。一年前の竜魔王征伐戦では、城の内部に魔物がこれでもかと言うほど敷き詰められていた。
 屍竜人、単眼族、ドラゴンスケルトン、角人、屍竜、スライム、蝙蝠人、人面花、稼働鎧、ゴースト……。
 俺たちは、数を競うように各個撃破していった。

 そんな魔王城はいま、静寂に包まれ、革靴の足音のみが響く。
 時間も掛からずに、玉座のある扉前へと辿り着いた。
 俺は大扉を蹴破り、聖剣を構える。

 玉座には、■■■が座っていた。
 頭には、美しい両角が。
 尾骨から靭やかに生える尾が。
 だが、それは本来の竜人ではない。

 内側に、入念に鍛え上げられた筋肉を内包し、だが柔肌で覆った美しい身体。
 情欲を掻き立てられるより先に、美術品を見た後のような感覚──心に刻まれる静謐な余韻、あるいは言葉を失うほどの鮮烈な残響──が湧き上がる。そんな身体だ。

 組んだ脚の太腿には、竜鱗が張られている。鱗は微かな月光を反射し、煌めく。
 暗闇の中、冷酷に光る紅き眼と鋭く伸びる牙が、主を戦と竜の化身だと証明する。
 信じたくなかった。

 ──心の底では、君だろうと思っていた。

「お前が竜魔王なんだな──戦姫、リリス」

 玉座から立ち上がった彼女の頬が、紅く染まる。

「ああっ! やっと! やっと……っ!」

 その瞳をしっかりと据え、言葉を待った。

「……やっと、お会いできましたね。イサム様」

 リリスが魔王に成った理由を、探さなければならない。いや、思い返すんだ。



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