悪魔も恋をする

月詠世理

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33話

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 キョトンとした表情をして返事をする彼女がいた。

「何?」

「俺が与えたセツナという名前は、お前の本名だ」

「えっ!?」

 目を丸くさせる少女に気を良くした俺。ニヤリと笑う。

「お前の本名は刹那せつなだ。本名は奪ったようで奪っていなかったのさ」

「何それ……」

「唖然としすぎだ。刹那の母親はお前を守ろうとして、愛する姫、愛姫と呼んでいたらしい」

 俺は彼女の頭を優しく撫でる。しかし、俺はその手を叩かれた。俺と向き合う彼女は眉間に皺を寄せていた。

「じゃあ、私はずっとセツに騙されていたということ?」

「嫌味っぽい言い方だなあ。真実だから仕方ないけどさ」

 俺は胸を思いっきり叩かれた後、俺の胸に顔を預けて、再びボロボロと泣き始める彼女。声をかけることはなかった。ただ側にいてじっと待っているだけ。しかし、泣き止みそうにない彼女に俺は痺れを切らした。

「刹那、聞いて欲しい。俺はこれから先もお前と一緒にいたい。だから、俺のものという印をつけてもいいか?」

 泣きすぎて瞼を腫らしている彼女は、小さく頷いてくれた。俺はこれから先も彼女と離れることのないように、魂に印を刻む。永遠に俺から逃れることができない痕。

「私はお母様に守られていたんだね。……それより、セツ。私はセツに告白したのに誤魔化された気がするの。セツは私に愛を紡いではくれないの?」

 手強い。俺、そういうのは苦手なんだけどな。時間が経ってから扉の外にいなくなったやつが現れたし、盗み聞きしているし、余計に言いにくい。
 外に声が漏れ、聞こえることのないように結界を張った。これも一種の魔法。魔女に教えてもらったものだ。

「刹那は二人きりの時だけに呼ぶよ。他の人がいるところではユアって呼ぶ。これは、刹那を守るためでもあるけれど、二人だけの秘密にしたいから。だって、俺は――」

 バキッ! パリンッ!!

 結界が割れた。あいつが部屋に入ってくる。

「セツ、聞こえないようにこんなへんてこな魔法使うなんて卑怯だよ! 男がみっともないことをするな!!」

「うるさい! 気配を最小限まで絶って、感知されないようにしたお前が言うな! さっさと出て行け」

 隣でわなわなしているユア。俺と言い合いをしているやつをプラプラと震える指で差しながら尋ねる。

「まさか、スピリトさん。私がセツに告白していたのを――」

「きいていたな」

「きいていたよ」

 俺たちの返答を聞いて、彼女の頰が朱色に染まっていく。

「セツ、聞いていたのを知っていたなら、教えてください!!」

 彼女はあまりの羞恥心に声を張り上げて怒った。
 泣き顔も怒り顔も笑った顔も全部好きだ。

 俺はユアの耳元に唇を寄せる。スピリトには聞かれないように、結界魔法を俺たちの周りに使う。

「刹那、愛している」

 軽く耳にキスをした。耳を真っ赤になって抑えるユア。俺はそれを見て笑う。
 すぐに破られてしまった結界だが、愛を伝えるのには十分な時間だったようだ。
 ゆでだこのようになり、片耳を抑える彼女を再度見て、俺はニヤリと口角を上げた。


 後に、俺は悪魔の王となる。その俺の隣にはユアがいる。補佐官であるスピリトは時々現れ、俺たちをからかっては去っていく日々。チェサはユアに懐いており、一度彼女にくっつくとなかなか離れないので、困った存在として認識されていた。


 ユアが子を生んで、子が成長するとセツは子どもに悪魔の王を押し付けた。そして、スピリトにその子の面倒を任せる。生まれた子どもの力は強かったので、力のコントロールを身につけさせるのが大変なことであった。
 成長して魔力が暴走することもなくなったから大丈夫だろう。もし、魔力暴走が起こったとしてもスピリトがいるし、なんとかなるさ。あいつは何度も俺たちの子を救ってくれているからな。

 俺とユアは世界旅行へ。いろいろな国や街を見て、ゆっくりしようということになった。誰にも邪魔されない二人きりの時間が欲しくて行動にでた。しかし、転移魔法を使えるスピリトは俺たちの居場所をつかんでは、フラッとやってくる。
 チェサがどうやっているのかは知らないが、俺たちがいる場所を当てているらしい。
 たまに入る邪魔者はこの際無視だ。息子からの連絡を持ってきてくれるし、なにも悪いことばかりではない。

 俺は眠っている刹那を揺らして起こす。目を擦りながら起きた彼女の唇に自分の唇を重ねた。

「刹那、今度はどこに行く?」

「ふふっ、セツとならどこだっていいよ!」

 優しい笑みを浮かべる彼女を俺は抱きしめた。

 生まれ変わっても必ず見つけるからな、刹那。


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